ランナーズハイ   作:どんとろりんと言葉が溶けていく

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ウマ娘世界ってヒト側の足を使う競争系は下火そうだなって思って書きました。根本的にウマ娘の方が足が速いですからね。速さ競うならウマ娘でよくない?と言われそう。


きっと、生まれる世界を間違えた

生まれた世界が悪かった。

 

俺が初めて息をした時からとっくのとうに負けていた。自我なんて薄かった幼少期にうっすらと気づいていたのか俺は泣くことが多かったらしい。

 

俺は生来走るのが好きで、物心つく前から妙に立つまでから歩く動作が早く、逆に言葉を覚えるのはとても遅かったらしい。言葉をちゃんと覚えるよりも前に俺は散歩ばかりして走っていたという。走っていたといってもよちよち歩きくらいのペースだったのだが。

 

物心ついてからはずっとだった。走って、走って、人生の大半を走っているといってもよかったほどだ。

 

足が沈み込む感触、地面を蹴った時の一瞬の浮遊感、息が上がって、擦り切れそうな命を自覚するのが好きだった。

 

ただ、薄っすらと思うのは

 

好きになるものを間違えたということ。

 

―――――

 

「ふっふっふっふっ…」

 

明朝、いつもと変わらず走っている。ランナーウェアとタオルと、腰に備え付けたホルダーと水筒を一定間隔で揺らしながら近所の広い公園を走っている。

 

今日はトレセン学園の配属日だが、毎日のルーティーンを変える理由にはならなかった。

いつものコースを走っていると、いつも見るウマ娘と合流する。

 

栗毛色のロング髪をたなびかせて右耳にアクセサリーを揺らすジャージ姿の少女。

ある時から毎回のように出会う…コース仲間だろうか?

 

お互い会話もせず、ひたすらに並走するだけ。俺から話しかけたら事案になるし、相手から話しかけられることもなかったから、妙な関係性が構築された。いつものように、公園の池のコーナーを曲がる直前、グンと頭を下げる。本気の姿勢だ。

 

俺はそこから少しだけ足に力を入れてペースを上げた。すると負けじとあちらもペースを上げた。ジョギングにしては早いペース、いつもの合図だった。

 

腹に力を入れる。すべての空気を体から抜くように。短く一気に吐いて身体を引き締める。

 

足裏を意識した。足元を見る。自身の最適なルートを測り、足を壊さないギリギリを攻める。踏み込めた。地球全てを後ろに蹴るように。自分だけが前に行くように。

 

タオルを握り締めて降ろした。本気で走るなら邪魔になるだけだ。腕を振る。空気を裂いた。それくらい力強く。

 

歯はむき出しに。一般男性が凡そしていいはずがない表情で笑った。顔に当たる空気が嬉しい。今、自分は命を削っている、それが如実に感じられた。

 

それは果たしてライバルも同じだった。

 

軽めの運動のように見えたソレが徐々に徐々にアスリートとしての顔をのぞかせる。俺は相手を少女なんて軽く見るつもりはない。花も恥じらう少女に思う事ではないが、仮想化け物として見ていた。俺はこの化け物に勝たなくてはいけない。そういう焦燥感だけがあった。負けたら、食われると。

 

化け物の踏み込む足は俺よりも強かった。華奢に見えるだけの足に全身全霊を込めていた。覚悟があった。自分以外が前に行くことを許さないと。

 

振り上げる腕は同じく空気を裂いていた。俺よりも回転数がある。それだけ前に行く推進力は変わってくる。負けじと腕を振るも、見てわかるほどに遅かった。こんなんじゃ足りない。こんなんじゃ横の化け物は倒せない。

 

横目で見た。目と目が合った。それが間違いだった。少し、ほんの少し、踏み込む足がズレた。転ぶわけでもなく、ただ想定していた位置に足が届かなかった。それだけだったのに。そのほんの少しが致命的だった。

 

食われた

 

すっ、と前に出られた。風にたなびいた髪が視界に移る。化け物は風を切って俺を抜かしていく。あぁ今日も。

 

栗毛色のウマ娘はそのまま走り去っていった。俺は不意に力が抜けてしまって、無様に地面に転がる。怪我なんて構いゃしなかった。ただ悔しかった。それ以上の絶望に耐えていた。

 

仰向け、照らし始めた太陽が眩しい。息を切らしながら、片腕で太陽を遮った。

 

ぽつりと、辛うじてつぶやいた。

 

「俺も、ウマ娘だったらな」

 

今日も、負けた。

 

―――――

 

「スズカさん!えーっと、早朝ランニングはもう終わりで良いんですか?」

 

「…あ、おはよ。スぺちゃん。そうね、今日は終わり」

 

ルームメイトのスペちゃんに声を掛けられてようやく我に返った。慌てて返事をすると不思議そうな顔をする。

 

「月曜日はいつも、早く終わりますよね。それにいつもより上の空になりますし…何かあるんですか?」

 

「うーん…、ちょっと、ね」

 

「あ、別に言いたくなかったら言わなくていいんですよ!?全然大丈夫ですので!」

 

「いえ、別に隠してるわけでもないから…。そうね…」

 

別に、隠してるわけでは…と口に出してから自分が隠していたことに気づいた。あまり、言いたくなかったと自覚してしまう。いつも、微かに聞こえる最後の言葉が正しければ…言うべきではないと思った。でも…

 

「きっと私でも、そうするだろうなって人を見るから。いつも勝負に乗るんだけど…まるでズルしてるみたいに感じちゃって」

 

私は自覚してしまった。自分が恵まれていることに。そして、いつも会う人はこの先ずっと恵まれないことに。まるで、私だけスタートラインが前にされているような、そんな罪悪感を吐き出したかった。だって、もし私なら…

 

耐えられない

 

「…?えっと…並走相手が居るんですか?お知り合いで…?」

 

「いいえ、知らない人ね。でも…」

 

 

「きっと、仲良くはなれなさそうだから、今の関係のままでいいかなって」

 

 

私ならきっと気づいてしまう。あの人が私と同類なら、このほんの少しの安堵が相手を殺すことに。




もしの姿を見せつけられたススズは可愛いですね(|)
その姿を見て、自分はそうならなくてよかったと安堵してしまうことに曇るススズはもっと可愛いですね(|)
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