ランナーズハイ   作:どんとろりんと言葉が溶けていく

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取材がてら久しぶりに走ったら驚くほど体力が落ちていて絶望しました


ウマ娘のほうが曇らせ強めなだけであって曇らないわけではない


茨の道に頬を当て

「おはようございます、トレーナーさん」

「時間通りだな」

「楽しみにしていたので」

 

早朝、やはり聞いていた話通りだったサイレンススズカが予定時刻に現れる。

 

俺は準備万端だった。入念なストレッチとアップによって体は出来ている。そして、念のためにと理事長に連絡をしておいた。サイレンススズカと勝負をすることになった為、もしかしたら怪我をするかもしれないと。

理事長はこんな朝でも元気よく、快く対応してくれると言ってくれた。安心して、走ることができる。

 

俺は、静かに怪物(サイレンススズカ)を見据えた。この勝負は、月曜のいつもの勝負ではない。勝ち負けにこだわらない俺の譲れない、俺の信念が掛かった勝負なのだから。

 

サイレンススズカがストレッチを終えるのを見届け、誰も居ないトラックで静かに二人、引かれた線の上に立つ。

 

周囲の音が消える。心がフラットになる。力を溜めに溜めたその状態、空気を切り裂くスマホのタイマーが、開始の合図を告げた。

 

 

 

サイレンススズカ、あの後約束を大幅に破り6周した愛すべき同類は、送っていった最後、寮の前にて勝負の約束を取り付けてきた。

明日の早朝、トラックでもう一度直線の勝負がしたい。もし勝ったら一つ叶えてほしい願いがあると。

寮長であるフジキセキというウマ娘に苦笑いを含んだ注意を受けた為、一応の罰として断っても良かった。同類だからお説教をするよりもこうした方が効くという経験則だ。

 

だが…

 

何が目的かはわからない、それでも受けるべきと思った。この怪物(サイレンススズカ)は負けず嫌いなのだ。俺は別に負けたところで気にしないが、いつものように月曜の朝でいいはずの勝負をすぐに要求してきた。どうせ、叶えてほしい願いというのは建前で、ホントは俺に勝ちたいのだろうと。

 

そう思っていたところ、想定外の言葉が飛んできた。

 

「私が勝ったら、シリウスシンボリさんの走りに限らず、謝ってあげてください」

 

「…何だと?」

 

「私は勝ちの対価にシリウスシンボリさんへの謝罪を願い出ます」

「…何故だ?」

「…私達はウマ娘です。走りの個性に限らず、それぞれが抱える想いを胸に走っています。非科学的と思いますが、私達は想いで強くなれます」

「…努力、友情、勝利的なニュアンスか?」

「ふふっ、それに近いかもしれません。でもちょっと違います。本当に私達は勝負服を着て、それぞれの想いを力に走ることができます。トレーナーさんなら…本当はわかっているんでしょう?」

 

「…あぁ。統計的…というには具体性がありすぎる現象としてな」

 

俺は苦虫を嚙み潰す。俺がこの世界に絶望する理由でもあり、長らく解明出来なかったものだからだ。

ウマ娘は、個人差があるものの、特定条件を満たすとおかしな現象を引き起こす。一定のフォームであるはずの状態で不自然に加速したり、何故か特定のレース場のみ速度を上げるウマ娘もいる。彼女らの走りを見ても、それに確固たる理由を付けることは出来なかった。…原因は明確に炙り出せたが。

 

どれだけ差を補おうとしても、原理不明の現象が俺を突き放す。共通点はただ一つ。俺はヒトで、相手はウマ娘であること。

 

俺はそれを知るまで夢物語のよう信じていた。走り続ければウマ娘に勝てるようになると。体力、フォーム、技術、観察眼、全てを磨き上げれば俺はきっと走りで一番に成れると。そうバカ正直に思っていた。

 

だから俺はそれを知った時、酷く絶望し、走ることを止めようとして…失敗した。

 

生来のものもあった。シービーに語ったように、俺は俺である事を止められなかった。

やめるのが遅すぎた。止めるにはあまりにも積み重ねたものが多かった。俺は今までの人生の大半を注いできたから、今更それを捨てることができなかった。

 

俺はもう、走るしかなかったのだ。

 

だから好きの方向性を変えようとした。自分以外にも興味を向け、自分と同じように走るヒト・ウマ娘の支援ができるようにと勉強もした。最も、自分の為でもあった。やはり俺は自分で走る事が一番好きだったからな。

 

トレーナー資格も教員免許も、運動生理学も医学的知識も栄養学さえ取り込んだ。出来ることはしておきたかった。もしかしたらウマ娘との差を埋められる何かがあると、微かな未練がそうさせた。

 

それでも、差は埋まらず

 

そして、俺は走る立場から走りを指導する立場になってしまった。努力の甲斐あってか、俺は他者の走りに興味を持つことができたが…それが果たして良いことなのか、悪いことなのか、誰も教えてくれなかった。

 

「私達にとって、抱える想いというのは捨て去っていいと言えるものではありません」

「だが、自らの信念で勝負に勝てるのなら、きっと誰もが勝っている。いや、もはや誰も練習などしないだろう。やるのは瞑想、渇望だ。 ただ我武者羅に願い続けて、そして勝てば、負けた者達の想いは“足りないもの”だったことになる。それこそ無情だろう」

「それでも、私達は最後に想いを力にします」

「…っ、それが…!」

 

「それが許されていいはずないだろうが…!」

「許されるんです」

 

俺の想いは弱かったのか?俺に足りないものはたったそれだけのものなのか?俺は磨いてきた。ずっと、ずっとやってきた。走って、走って、走り続けて

 

フォームを矯正して、肉体管理を怠らず、研究に研究を重ね、たとえ一片でも利用できるものがあるのならと手を伸ばした。試行錯誤し、初心に立ち返って目的を修正し、自分の中で完璧に消化できるまでひたすらに続けてきた。

 

たった、たった想いの強さで俺のすべては“足りないもの”になるのか?

 

共通点、差異、比較検証の果て、結論は最初に言った通りたった一つ。

 

 

俺はヒトだった。

 

 

「だから、これは私の我儘です。断られても何も言えません」

「その話を聞いて俺が断ると?」

「いいえ、断らないと思いました。だから話しました」

 

「先生が、私と同じならきっと同じことを思うから。いえ、私は先生以上にその事実を憎むだろうから」

 

「……ふぅ、済まない大きな声を上げた」

「…いえ」

「その勝負、受けよう。明日の早朝、トラックを開けておく。時間は月曜の並走と同じ時間だ」

「わかりました」

 

「死ぬ気で勝たせてもらう」

「今度は、負けません」




勝てないのは想いの差ですなんて言われて納得できるわけねぇだろ。想いで勝てるならとっくのとうに勝ててんだよ。 なんで俺は なんで
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