ランナーズハイ 作:どんとろりんと言葉が溶けていく
息抜き回
水曜日分とカウントしてください。残業ゆるすまじ
「先生おは…!?な、え、どうしたの?!」
保健の授業、教室に入るとミスターシービーが驚きの声を上げた。まぁそうだろう。なにせ、手や足に包帯を巻き、扉の近くに松葉杖を置いた姿だ。教卓に教科書や書類を置いて、一言
「怪我をした。少し無理をしたが歩く分には問題ない。それに…この程度は1週間と掛からず治る」
「めちゃくちゃグルグル巻きにされてるのに?」
「いつものことだ」
「えぇ~……」
ドン引いた顔をされるもすげなく返す。俺自身、走るために治し方、リハビリといった知識や実際の怪我からの回復という経験が多量にあるからこそできるものだ。何度も怪我ばかりしていたから、怪我をした時点でどの程度で治るか把握できるようになったというのもある。
「今回の授業は、君達ウマ娘においても重要になる運動に関わる負担や怪我について触れる。ちょうど俺という実例も存在する。寝ずに聞け」
「なぁ…」
「言わないでよエース。アタシもうすうす思ってるけど…」
「はぁ…。大丈夫か…?…ってかシリウス居ないな」
「あぁシリウス?シリウスなら」
「休みだってさ。実家の方に籠ってやることあるんだって」
「へぇ…授業とかちゃんと出るシリウスにしては珍しいな」
「風邪とか病気じゃないから心配すんなってさ」
「そこは変わりねぇのな」
………
「……チャイムが鳴ったな。席に着け。授業を始める」
「初めに、前提となる人体の構造についてだ」
どうやらアイツは籠って何かをしているようだ。授業を休むのは朝一で把握済でいただけないことだが…諸先生方に聞いたところ成績は問題ないというお言葉を頂いたので一言いうだけでいいだろう。
「ウマ娘とヒトの大きな差異は耳と尻尾が挙げられるが、足…内部の筋肉や骨にも差異が見られている。筋肉がヒトよりも肥大である分、骨が占める領域を圧迫している。つまり、ヒトよりもウマ娘の骨折は重いものである為、注意をしなければならない。筋肉量の低下も問題だが筋肉量増加でも骨への負担は掛かっており…」
朝を思い出す。俺は負けた。全霊を賭し、久しぶりに走れなくなる状態になってまでつぎ込んで…負けた。振り返ると生徒であり担当でもある相手にぶつけていい感情ではなかったと反省するが、それでも問題点はいくつか把握できた。
「ウマ娘もヒトも根本は変わらん。怪我をしやすいしにくいというのは先天性のものでも存在し、それゆえに一つの怪我が致命的になる君達にとっては、その体質をカバーする走りを意識しなければならないだろう。ヒトで言えば反張膝や土踏まずがない偏平足、O脚なんかが当たる。ウマ娘で言えばOCD…離断性骨軟骨症等が…」
サイレンススズカとの走りにおいて最も気になったのが酸素供給量だ。呼吸のペース、量を増加を中心にもっと肉体を鍛えていく必要がある。
確かにアレは許せるものでもない。理不尽な差として突きつけられ絶望もした。だが、逆にこうとも考えられた。確かにスズカの言葉で立ち上がったのもある。だが、それ以上に
なんだ、理不尽な差というのは二バ身…約5mしかないのかと。
なら簡単だ。あと5mを踏み越えればいい。明確な目標が見えた。俺がその想いの力とやらを踏み越えるには今よりも5.1m速くゴールに着ければいいということ。今まで目的すら見えない走りをずっと続けてきたのだから、目標が見えただけ楽というもの。
幾らかプランはあるしトレセン学園という設備が充実した場所を利用できる。なら
やってやれないことはない。
「ウマ娘でも致命的なのはアキレス腱の断裂だ。経験則だが、アキレス腱や筋肉の断裂は、三段階ほど音がある。ギチギチが1段階、ブチっとした音が2段階、バツッという破裂音に近い音がしたら3段階だ。3段階目は治すのに時間がかかる。今の俺の状態だな」
サイレンススズカには感謝しよう。明確な指標を出してくれたのだから。最も、スズカにそうした意図はなかったように見えるが…まぁ一言二言話してやれば理解するだろう。
「過度な運動は怪我を招きやすいが、適度な怪我であれば人体に通常備わる回復力により強靭に治癒するだろう。いつの時代からか超回復と呼ばれたりするがアレとはなんら関係はない。アレはグリコーゲンというエネルギーを大きく減少させることで筋肉におけるグリコーゲン貯蔵量を増やすことを言う。勘違いしないように」
「先生が強靭なのって適度な怪我ばっかし続けたからですかー?」
「手を挙げてから発言しなさいミスターシービー。俺の場合、
「治し方やリハビリの仕方、摂取する栄養を気にしつつ、マッサージやストレッチの徹底…そうした技術を磨くしかなかった。ヒトもウマ娘も必要に駆られると必死で動くようになる。当たり前の話だが、いざ問題に直面しないと分からないことが多い」
「俺は下手すれば歩けなくなる可能性だってあった。だからこそ今の身体がある」
「へ、へー……」
…やはり、ドン引くような顔のミスターシービー。周りも静まり返り異様な空気だった。結構役に立つ話だと思うんだが…
ふむ…
「オマケだが、足の負担を減らすには、下半身の筋肉に目がいきがちだが、姿勢…背中も有効だ。背筋の筋トレ、正しい姿勢で走ることでかなり負担は減らせる。ウマ娘は前傾姿勢で走る分より実感しやすいだろう。身体を一定の状態で保つことを走る時に意識するだけでもだいぶ変わる。ただ、状態としては腹筋で支えるものだから…腹筋の筋トレも必要だな」
ふと時計を見やる。時間か
「今日の授業はこれで終わりだ。次回の最初に小テストを行う。内容は今日触れた身体の負担について。復習しておいて損にならない内容だからしっかりとするよう……以上。」
たったの5mか…ってなるのどうかと思う。