ランナーズハイ 作:どんとろりんと言葉が溶けていく
頭の中を先生の言葉がリフレインする。
私の身体は不自由であるらしい…と言うのも語弊があるので変えて…
私は自由にしか走れない身体らしい。
肺活量を鍛える訓練として、走りながら歌うという頭おかしい練習に付き合いながら深く考える。ちなみに選曲はウマぴょい伝説だった。まぁ走った後に歌うから別にいいんだけどさ。
横に走るはスズカちゃん。ちょっと辛そうに見えるのは多分走りながら他のことをやるっていうのが苦手なんだと思う。それでも真面目にやっているのは走れているからか…トレーナーに納得しているからなのか。
そう、納得だ。確かに先生は自由を納得といった。つまり
私は納得に囚われているともいえる。
確かに私は自由に走るのが好きで、良く頑固だって言われる。でも自分の走りたいように走るのはそんなに悪いことだろうか?みんながみんな、真面目に考えて走るわけじゃないし、そんなのずっとやってたら息苦しくてしょうがない。
走りたいから走るのだ。そこに戦略がどうのと考えるのはナンセンスだと思う。
ただ先生の言う事も一理あると思った。
もしレース中に前を防がれたら、避ける走りをする。言われてみて自覚したけど、そっちの方が気が楽だし足にもあっているからだった。ただ、全面で防がれたら…間に割って入るタイプじゃないと言われれば…そうだなって。
私は私の走りで良いと思っている。それが私らしさなんだろうなとも。
でも
果たして私はそれに納得できるのだろうか?先生の前の言葉を思い出す。
『負けたヤツは勝ち方にすらこだわれない』
私はもし負けた時、負けた理由を私の走りのせいにするんだろうか。
私は私が信じた理由で負けるのをよしとできるのだろうか。
あの時、私が言った言葉…言い換えるのであれば『私らしさ』を信じ切ることができるのだろうか。
取り留めない思考をぐるぐると巻いてから、もっとシンプルに、一つ考えてみることにした。
私は走りが好きか?
答えはYESだ。休日は放浪の旅に出るくらい好きだ。何も考えずに駆けだすあの感覚が好きだ。
私は私の走りに満足しているか?
答えはNOだ。私は私自身が全然なことぐらいわかってる。まだこの先があるって思うとわくわくだってしている。
私は不自由であるか?
答えはNOだ。私の生き方は自由そのものだ。私自身そう思っている。
私の考えが間違えだと思うか?
答えは…保留。私は間違いないと思うがここで間違いないと言うのは違うと思う。なぜか、
「何か…はっはっはっ…考え事…ですか?」
「えっ?あー…まぁ…ねっ!」
ふとスズカちゃんに声を掛けられて我に返る。それに合わせてヨレかける身体を真っ直ぐに。踏み込む足に力を入れる。
「ちょっと、自分自身の走りについて…ね」
「トレーナーさんに…何か?」
「まぁ…ね。大した事じゃ…ないよ。」
こうして考えてもまったくもって纏まらない。大前提、私がそんなに考えるのが好きじゃないというのもあるけど。
「聞いて…ふっふっ…良い話ですか?」
「いいっよ!っと。大したことじゃないけどさ。アタシは負けた時に自分のことを信じてやれんのかなって」
「負けた時…ですか?」
「そ。アタシは多分負けず嫌いでさ。まぁ大なり小なり…ウマ娘って負けず嫌いだけど…さ。私自身、負けた時……まぁちょっとはへこむなって」
「それだけで済ませるのは…すごいと思いますけど…」
「そうかな…?まぁ……気質かな。それでも、そのちょっとへこむのってどうなんだろうって…」
「走って後悔するのは……まだまだ次を求めてるってことだと…思いますよ」
「まぁ…ねっ。でもさ。先生が言ってたんだよね。『負けたヤツは勝ち方すらこだわれない』って。そうだな~って」
「アタシがもし負けた時、何か理由を付けても……それは全部、一切合切負け犬の遠吠えだ」
「もし、その時アタシがアタシの走りを口にしたらって思うと…怖いなって」
「…ふっふっふっふっ…全員が全員、ベストコンディションで、走れるわけじゃないと思います。バ場不良とか…調子が悪いとか…ベストコンディションで、自分に合った天気で…なにもかもがベストな状態で走れるわけじゃない…と思います」
「だから、どれだけ体調が悪くとも、天気が悪くとも、自分の力を出し尽くせるように…走りましょう」
そう言うスズカちゃんはどこまでも真っ直ぐ前を見ていて、それはまるで後悔というものを本当に怖がってるように見えて。
私自身、ちょーっと求めてた言葉と違うけど。言いたい言葉は伝わった。負けた時、私の走りだけが理由じゃない。もっと複合的で…もっと複雑な理由があるのだと。
勝ちに理由がない時はあるが、負けた時は必ず理由がある。
そんな言葉が頭をよぎった。確かにその通りだ。
私は負けた時、天気のせいにするのだろうか?
私は負けた時、バ場のせいにするのだろうか?
私は負けた時、私の努力不足のせいにするのだろうか?
私は負けた時…
私の走りに納得できるのだろうか?
考えても、考えてもわからない。それでもなんとか一つ、思うことは
きっと、私は私自身を汚すような真似はしないということだった。
『不自由な身体をしている』
ちょっとだけわかった気がした。私は私自身を信じることしかできなくて、私はきっと折り合いをつけることができない。
それでも
「それが、私なんだからさ。とりあえず、負けた時のことは負けた時に考えればいい」
今は、ただ、走っていたい。
ミスターシービーは強い子だと思います。だからこそ、抱え込んでしまうのが可愛い点でもあり、困った点でもあると思います。