ランナーズハイ   作:どんとろりんと言葉が溶けていく

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文体を変えようか変えまいか悩んでいたら時間が経ってました。
あんまり句読点や「…」を使って文章長くするよりも、セリフごとに区切る方法の方がセリフごとの間みたいなのになるかなぁってやってたんですけど、どうでしょう?

それはそれとして最近「チ。」の作者の別作品「ひゃくえむ」に一目ぼれして全巻買いました。「大抵の問題は100mだけ誰よりも速ければ解決する」ってのが、拙作にも近い概念というか…
「どれだけ苦悩しても後悔しても、悩みを抱えてたとしても、積み重ねたものがあったとしても、一番早く走れた奴が勝ち」という基盤概念があるのでドストライクでした。
上手いんですよね。魚豊先生の人間の描き方


さておいて、サイレンススズカ回。それは理想論を貫き通せる才の塊


産声

朝、起きると身体に違和感がありました。

 

ベッドから降りて、微かに感じる引き攣りが頭の先から足の指先まであって、どうにも歯がゆい気持ちだったんです。

 

どうしても気になった私は、朝、先生のもとに向かいました。まだ早朝でしたが、月曜日のいつも会う時間帯だったので、もしかしたら起きてるのではないかと思い、トラックの方に向かいました。

 

果たして先生はトラックで歩いていました。

 

足を一歩ずつ、一歩ずつ、まるで地面を踏み固めるようにゆっくりと。手には松葉杖がありましたが、使ってる様子はありませんでした。怪我をした状態で、歩いていたのです。

 

「先生」

「ん…スズカか。どうした?」

「いえ…先生は大丈夫なのですか?歩いてもいいのですか?」

「あぁ。大体この時期からリハビリをするとちょうどよくなる。休んでいる分筋力や体力は落ちるからな。なるべく落とさないようにしたい」

「足に痛みは…」

「多少。だが許容範囲内だ。それより…朝駆けするんじゃなかったのか?俺のことはいい。好きにトラックを使え」

 

そういって、また一歩ずつ確かめるように歩く姿を見て、心の中に降って湧いた安堵を握りつぶしました。

 

私が、私が招いたんです。

シリウスさんを見ていて、どうしても気持ちが抑えられなかった。

シリウスさんには抱えているものがあって、スペちゃんや他の子だってそうだと思う。

 

それを否定してほしくなかった。

 

それはたぶん、私が私自身の想いについて整理出来てないからで、確固たるものとして提示出来ていないからで、今まで芯にしていたものが途端に砂で作られたものじゃないかと不安になってしまったからで。

 

シリウスさんを否定された以上に、私を否定されたように感じてしまったんです。

 

そんなことはない。そんなことはないんです。寧ろ、先生は私と近いヒトで、走るのが好きで好きでたまらなくて、それでもヒトに生まれたからと自分だけの走りを極めようとしていて、走る時のフォームから筋肉、足と腕の使い方、息のペース、歩幅、負担をどれだけ軽減できるか。そうした一つ一つの磨き上げてきたものが見えて、

 

それがとても輝いているように見えて。

 

私は一番を走りたい。そのために必要なものをすべて持っているように見えて、でもそれが一朝一夕で身に着けられるものではないから、まずは自分自身の身体を知ることから始めて…

 

そうした中で起きたのが、シリウスさんの走りの否定でした。

 

確かに、先生の言うことにも一理あると思いました。先生はシリウスさんの走りを見に来て、シリウスさんじゃない走りを見たのだから、尤もな言い分だと思います。

 

それでも

 

私は先生の走りに私にはない輝きを見たんです。それを真似しようと思うのは、悪い事ではないはずなのです。自分だけの走りというのは、結局のところ誰かとの比較から始まるんではないのですか?上手くなるために誰かの真似をすることは……

 

いえ…、貴方の走りは貴方自身が卑下していいものなのですか?

 

『所詮、ヒト一人が積み上げてきたもの』というにはあまりにも人生が詰まっていました。猿真似というには、とても高度で真似出来たシリウスさんが凄いと感じました。

 

それほどまでに、高みにあるものを、先生自身が否定することに、私自身耐えられませんでした。

 

夜駆けしても整理がつかなくて、どうにも我慢できなくなって…

勝負に挑んで私が勝った。

 

そんな、ただの我儘に付き合わせて、その上、先生の変わってない姿に安堵するなんて

 

殺されても、文句は言えないから。

 

「どうした?」

「…っ、いえ。朝から少し身体に違和感がありまして…その相談に」

 

咄嗟というべきか、元々の話題を出して私の悩みを覆い隠しました。気づいていないといいのですが、幸いにも間が空いたことについて指摘されることはありませんでした。

 

先生は怪我した身体なのに、しゃがみこんで私の足を丁寧に触っていきます。どこに違和感があるのか、何が問題なのかを丁寧に質問しながら触診を続け…結論として

 

「本格化…の予兆か、あるいは本格化だろう。アレだ。スズカはゆっくりと本格化していくタイプらしい。話を聞くに足だけじゃないのだろう?全身が徐々に徐々に変わっていくのなら、今後のプランを変える必要がある」

「…というと」

「どんどん変化し続けるからな。その都度あった練習を行わないと身体に違和感を持ったまま走ることになる。その状態で走るのは…」

「いや…ですね。なんとなく全身が突っ張る感じがして…」

「本格化に合わせて全身の筋肉が引っ張られているんだろう。下手したら、こわばり、痙攣をおこす危険性がある。スズカ、これから先、走る前は入念にストレッチをしろ。でないと怪我の危険性が跳ね上がる」

 

「わ…かりました」

 

私は少しだけ引っかかる想いを抱えながら、この度本格化したウマ娘となりました。レースに出ることができて、念願の一番を目指せるようになりました。

 

とても嬉しい事だと思いますが、今の私には素直に喜べるようなものではなかったので、曖昧に微笑みながら今後のレース出場について話し始めました。

 

ストレッチのことは、少しだけ、面倒くさいなと思いつつ、でもウマ娘の怪我はとても重いものだから気にしなくちゃいけないのは当然で。何も考えずに走ることが出来たなら…なんて思いながら、私の目が、酷く暗く沈んでいくのが他人事のように理解しました。

 

しゃがみこんだまま、今後のプランを考えているようだった先生を上から見下ろしながら、私は静かに声にならない息を吐き出して、心の奥底にしまい込んだ感情を吐き出さないように喉元まで押し込んで

 

静かに、静かに、目を瞑りました。先生に決して言ってはいけないことだから。せめて、この感情だけは、私が閉じ込めておかなくてはいけないから。

 

ゆっくりと目を開けました。早朝の日差しが私を照らしていて、先生が私の影に入る。私だけが照らされてるみたいだ…なんて

 

そんなことを想いながら

 

私は、また




なんか、ほら、サイレンススズカのサイレンスの部分的な…。
才能はいつ花開くかわからない。それが例えば50年後、60年後かもしれないし、なんならとっくのとうに花開いているのかもしれない。でも、花開く時の共通点としていえるのは

本人が最も望まないところで才は花開くのだ。
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