ランナーズハイ   作:どんとろりんと言葉が溶けていく

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駄洒落ですけど、これしか思いつかなかった

気になった感想返し
「本人が望んだところで才が開いたなら…」
それはそれであると思いますし、きっとライバルや“敵”はそうなるかもしれません。ただまぁ…作者がひたすらにボロボロになりながら才ある人も才がない人も何かを掴もうとする姿が好きなので…
そこには肉がある。骨があって、神経が通っていて、血が通っている。意味があるというのはつまるところ、そう言う事だと思います。


勝った者は、勝負する前には戻れない。その事実が問うのだ、それで満足するのか?と


勝ちの価値

休日、いつものように遠出している。今日は住んでる所からそこそこ離れた自然公園の中、陸上競技場に来ていた。申請とかもしないでフリーで使えるところなのでリピート率は……まぁ2,3回くらい。

そんなところに着いて、ふぅ…と息をついていたところに見知った顔を発見…したのは良いけどちょっと気まずいな。でも、話しかけないわけにはいかないので声を掛ける。

 

「…先生じゃん」

「…ミスターシービーか。こんなところでどうした?」

「いや、アタシのセリフ…ンまぁアタシはちょっくら走ってここまでね。此処休日は自由に使えるし…先生は?」

「同じく走りに来た。いつもなら同じく走ってくるんだが…生憎この足だ。今日は車でな」

「えぇ…、走っていいの?」

「ジョギングくらいなら出来る程度には治っている」

「ウマ娘でもそんな治癒力してないと思うんだケド…」

「知らん。俺はこんなものだ」

「先生も大概化け物だよなぁ…あぃて」

 

すこん、と頭をチョップされる。失礼しましたよーっと。ぶすくれながらも半目で平謝りすると、呆れたように溜息を吐いてから近くに置いてた荷物を取り出し始めた。

背中越しに覗く。スポーツドリンクに、タオルに、分厚い…本?いやこれノートだ。分厚くなってるノートが数冊、三脚カメラ、色々持ってきているらしい。

 

その中でもひときわ気になったものがあった。それは見間違いじゃなければ…

 

「メダル?」

「…これか」

「うぁっと、いきなり投げてきて…てかこれ、金メダルじゃん」

「…高校の時の全国大会のな。ヒト種別…100m短距離走…俺が初めて取ったメダルだ」

「おぉ~」

 

正直、先生のことはあんまり気にしていない。そういう人というか…口下手に近いんだろうなぁってのはわかっている。そう考えるとホントにスズカちゃんが二人居るみたいな感じなんだけど…。まぁそれはいいとして

 

テキトーに反応したけど、ちらっと見えた先生の顔は、それを見る先生の顔は、なんというか、間違ってるかもしれないけど

 

まるで人生の汚点を見つけたような顔をしていた。

こんな人間味のある顔、シリウスのことを話した時の笑顔くらいだなぁって思いながら、ちょっと気になって踏み込んでみることにした。

 

「なんか、嫌な思い出でもある?」

「…大したことじゃない」

「ンー、なら 聞いてもいい?」

「………わかった。俺の言葉に多少なりとも悩んでいるだろうシービーにも通じるものだしな」

「…別に悩んでなんか…」

「いる。お前はそういうウマ娘だ。悩みに答えを出したがる」

 

取り繕うとして、何も言葉が出なかった。だってまぁ…事実、答えなんか出せてないし。ただ意固地になってるだけなんてわかってるし…

 

「これは、俺の敗北の証だ」

「敗北…1位で勝ったんでしょ?」

「勝った。だがな。もう無理だった。耐えられなかった」

「………何に?」

「…」

 

嫌な沈黙が降りた。息苦しい感じの、溺れてる人が喘いでいるような…そういう息苦しさ。あんまり、聞いてほしくないんだろうなと思いつつ、言葉を待った。ここで終わらないでほしい。

 

「…比べられることだ」

「俺は、今日にいたるまで、ずっと、ずっと走り続けた。走って、走って、走り続けて、運動会でも、地域の大会も、県大会も、全国も勝って…それでもずっと、ある言葉が耳に残り続けている」

「『ウマ娘に勝てないのによくやるよ』『ヒトの中で1番になってどうするのさ』『ウマ娘に勝てないならやる意味ないでしょ』そういう言葉達だ」

「実際、非公式のヒトとウマ娘が混ざった大会で、俺はウマ娘に負けていたから、余計にその言葉が刺さった」

「それでも、全国で1位に成れば、何か変わると、そう思っていた。もしくは、ただ、褒められたかっただけかもしれない。ここまで費やしてきた事に意味があったんだぞと。認めてほしかっただけかもしれない。…だが」

 

 

「結局のところ、何も変わらなかった。」

 

 

「もう、わかり切っていた。世界を目指そうと、俺はずっと言われ続けるだろう。俺の走りに意味はあるのかと。ウマ娘じゃない俺のやる意味を、ずっと知らない誰かに問われ続けるだろうと」

「実際、陸上競技はヒトよりもウマ娘の方が強い。競技として分けられてはいるものの、比較対象になるのは避けられなかった」

 

「必死に、死に物狂いで、100m10秒切りを目標にしている横で、悠々と6秒を切る様を見せられて、俺は心を殺せなかった」

 

「ウマ娘という存在が、俺のすべてを陳腐なものに…いや、すまない。言い過ぎだな。兎角、俺の走りは『ヒトの中では速い方』の範疇でしかなかった」

 

「自覚した。自覚せざるを得なかった。金メダルを貰った俺がまるでピエロみたいだった。たかだか6秒で終わらせられる距離に、命を懸けている自分が心底滑稽に思えた」

 

「そんなこと、ないはずなのに」

 

「…これは、俺の弱い心、邪念が生んだ、敗北の証だ」

「ただ走り続けられたら、満足だったはずなのに。俺はそれ以外を求めるようになった」

「あの時の敗北を、俺のメダル(勝ち)を、ただ誇れるものにしたいと、そう思ってしまった」

「それに、欲が出たんだ。全国を取れて、世界を目指す前に」

 

「ウマ娘に、勝ちたくなった。俺の走りに価値を求めたくなった」

「勝負の価値を決めるのは本人自身だ。少なくとも、今の俺には、このメダルは誇れない。俺の走りは誇れない」

 

 

「まだ、()()出来ていないんだ。()()出来なきゃ、俺はずっと邪念を抱え続けて、走ることになる。そんなの走りに失礼だ。不誠実なんだよ…」

 

 

重い重い感情だけがそこにあった。息が止まってしまって、数瞬、息の仕方を忘れてしまうくらいに。先生が勝ち負けを邪念と切って捨てる理由は、妄執染みた…呪いのような…

 

「…っ、先生はさ。なんで、そんなに走り続けられるの?」

「…変なことを聞く」

 

「此処が俺の居場所だからだ。そこに生きると決めた以上、何があろうと諦めず、どこであろうと全力で、相手が誰であろうと、死ぬ気で

 

『走れ』 そう決めている」

 

「競走の世界じゃあ、遅い奴に価値はない。居場所がない。レースもそうだ。入賞しなければ意味がない。どれだけ努力しようと、どれだけ()()に走ろうと、価値がなければそれはただの個性だ。実力が伴わないからな。結果のない努力はただの悲劇だ。そして、大概の競技というものは1位が重要視される。」

 

「走ることそれ自体に満足するのもいい。俺だって、走ることが好きだから走っているというのもある…だが」

 

「お前が自由に走りたいなら、お前のことをごたごた抜かす奴を黙らせる唯一の方法は勝つことだ」

「世界は案外単純(シンプル)だ。テッペン取った奴はそれ以下を黙らせることができる」

「俺は1位を取ったぞ文句あるかってな。そして、ヒトよりも速いウマ娘ならそれは猶更だ。誰よりも速いってことだからな。俺とお前の違うところはそこだ」

 

「どうせ競走()るなら1位を取りに行け。」

 

「まぁ、なんだ。あくまで参考程度だが…そういう考えもあるってだけだ。その悩みは自分で答えを見つけた方が良いものだ。存分に悩んで、答えを出せ。…話は終わりだ」

 

そう言って、それ以降黙々と作業し始めた先生を見ながら、アタシはひとまず息を吐いた。色々、本当に色々言いたいことはあるけど

 

「いいね、嫌いじゃない」

 

アタシは自由に走りたい。そのためにテッペンを取って他を黙らせる。それも多分自由の一つだ。強者の自由とでもいうものか。先生はそれに近いことを求めている。先生が求めているのは納得だけど。先生は自由を納得といったのはそれだ。先生は先生で囚われていて、そこから自由になりたいんだなって。

 

アタシは走っていたい。自由気ままに走っていたい。正直他人がどうのって言われても知らないし、興味ない。

 

でも、競走()るならテッペンって考えには賛同できる。

 

アタシの自由がなんなのか。アタシは納得できるのか。未だにわからないけど。

 

とりあえず、目指すべき方向みたいなのは見えたと思う。

 

「先生」

「なんだ?」

「トレーナー契約書ってある?」

 

羞恥と苦悩と後なんか色々混ざった渋面を浮かべながら、一冊の書類ボードから紙を渡してきた。休日なのに持ってるんだなぁなんて思いながらさらさらッと名前を書く。

 

よし

 

「改めて、ミスターシービー。今後ともよろしく」

 

先生は口下手であんまり人付き合いが上手いとは言えないけど…()()()ヒトであることがわかった。少なくとも、アタシに、勝つ方法でもダービー賞を取る方法でもなく、自由になる方法を教えてくれるくらいには。

 

「先生は…なんていうか、生きるのがへたくそだよね」

「……自覚している」

「いや、先生が思ってるよりへったくそだと思う」

「……むぅ」

「何も言わないあたり心当たりがあるっぽいね。まぁそうじゃなかったらシリウスともぶつかってないし」

「アレはアイツがアホなことをしたからだぞ」

「その物言いがさぁ…まぁいいや」

 

「アタシもアタシで頑張るからさ…あぁいや」

 

 

「アタシに勝ってみなよ、先生。絶対負けないから」

 

 

先生はすごい苦虫を100匹くらい噛み潰したような顔をしていた。面白かったので写真取っておいた。




どれだけ速くても「それってウマ娘より速いの?」って言われたらそりゃあ嫌になるよね。

走るのは好きだ。好きだが、好きを誇れるようにしたい。そのために勝ちを目指す。勝ちの価値は人それぞれ。勝つために走るのではなく、走るために勝つのだと。
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