ランナーズハイ   作:どんとろりんと言葉が溶けていく

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久しぶりにピンポンというアニメを見たので復活です。

血ヘド吐くまで走り込め。血便出るまで素振りしろ。ちったァ今よか楽になれんぜ…ヒーローさんよ。
 ピンポン―佐久間学(アクマ)より

こうしたスポーツを描く根底にアクマがいたり


ブリンカーで覆って

あと、どれだけの事が出来る?

 

私は、あとどれだけの努力を重ねられる?

 

 近所の小高い山、その上にある神社まで続く長い長い階段を重りを入れたリュックを背負って駆けていく。上り終えてから握りしめていたストップウォッチを押した。タイムは1分24秒。足りない。足りないのだ。最低でも1分切り。肉体はボロボロだけど、心はまだ折れていない。まだ走れるだろう。膝が笑って、肌を伝う汗が嫌に障る。頭を振って、服で汗をぬぐい去ってから前を見る。

 

「こんなところに居たんだ」

 

「あ゛?」

 

「声がっらがらじゃん。休みなよ。 はい、これ」

 

真横から差し出されたソレ…市販のスポドリを手に取りながら振り返る。軽いアウターを羽織ったミスターシービー。手にはビニール袋、隙間からはお菓子と…タオルか?

 

「ん、わりぃな。シービー」

 

「はいはい、あとこれ。まだ肌寒いんだから汗かき過ぎると風邪ひくよー」

 

「別にこのくらい大丈夫だろ」

 

 そう言いながらタオルを取って汗を拭きとる。いつの間に居たんだ。…いや、私が注意散漫になってただけか。これじゃあダメだな。自嘲気味に笑う。走ってる時も周りの奴らに意識を巡らせなきゃいけねぇのに。

 

 寝る時間すら惜しいからひたすらに基礎体力付けを行っていた。それが今できる唯一のことだと思った。努力は裏切らないなんて言うつもりはねぇが、それでも積み重ねた努力がものをいう世界。才能という下駄は在れど、只一歩でも多く動けた奴が勝ちというのがレースってもんだ。走ることをスポーツに据えたものの単純(シンプル)さだけがそこにある。どれだけあがいても、ただ前に行ったものが強いというそれだけのもの。そのための努力を、練習を、足を進めるだけの気力を、どこまで積み重ねられるか。

 

 生憎、私には才能があった。あってしまった。ウマ娘としての才能もあるが、()()()()()()()()()()()()()()だ。生来の切符を握らされている。そこに胡坐をかくつもりはねぇし、なにより

 

あと一歩でも多く走っていればよかった

 

 なんて、口が裂けても言いたくねぇ。後悔はきっと私を殺す。そう思った時点で私は敗北だ。負けなんだよ。シリウスシンボリが終わる。そんな後悔するくらいなら死んでも走っていた方が良い。

 

そんな折に訪ねてきたのはミスターシービーだった。

 渡されたスポーツドリンクを勢いよく飲み干す。零れた液体が喉を伝って冷たさだけが流れていった。気力は十分。

 

「ん、はぁっ。あと2、…いや4セットか」

 

「いや休みなって」

 

「休んでる暇なんかねぇよ。あと2日…もないか。もう日付が過ぎてやがる」

 

「こんな夜遅くまでトレーニングとかオーバーワークにもほどがあるでしょ」

 

「そういうアンタも遅くまで起きてんのはどうなんだよ」

 

「そりゃ大切な友達の為ですし?あと伝言もね」

 

「伝言だぁ?」

 

「そ、先生…や、トレーナーか。伝えるかは好きにしろって言われたけど」

 

「……なんだよ」

 

 正直な話、頭が冷えた今怒るつもりはないし、なんなら謝罪するべきとも思っている。色々言いたいことはある。あるが、まぁ…私の視野が狭いだけだった。端的に言えばそこだ。それをどうこう言い繕ったところで恥をさらすだけだから、特に言葉を並べる必要もない。そう思ってるだけだ。

 

 説教か、謝罪は…ないだろうな。そんな感じで事の沙汰を待っていたのだがシービーは苦笑いしながら言った。

 

「『もし、お前がまだ足りないというのなら、本当にやるべきは他にある』だってさ。ほんとにぶきっちょだよね」

 

そして、アウターのポケットから少しだけ皺がついた紙きれを渡してくる。そこには

 

―――――

シンジョウスズメ 中距離・追込

スタリオンミライ 長距離・差し

メビウスセイウン 中距離・先行

………

……

―――――

 

「ウマ娘…の名前か?」

 

「オーバーワーク気味だからそれ調べて考えろってことじゃない?ちらっと調べてみただけだけど、()()()()()()()()()()だったよ。」

 

「…そうかよ」

 

 皮肉か、あるいは警告か。一息吐いて、境内の隅に置かれた荷物からスマホを取り出し、名前を打ち込めばヒットするのは怪我、膝の故障等々でやめたといったニュースばかり。2、3人掘り下げてみればレース中に怪我をしたウマ娘が多い…か。

 

「やなもん渡してくれる」

 

「いやぁ…ただ不器用なだけだと思うよ。忠告もあるんだろうけど、何かしら得るものがあるんじゃないかな?それを具体的に言わないところがホント…って感じだけど」

 

「…まったくだな。はぁ…わかった。わーったよ。基礎連は続けるが今日はもう終わりだ。」

 

「やった 荷物持ってあげるから帰ろ?家の人も心配してると思うよ~?」

 

「…んなのわかってるよ。それでもやんなきゃどうにもなんねぇだろ」

 

「必死だねー…あぁ、“必死”か。」

 

「なんだ?」

 

「いや、トレーナーが言ってたなぁって。シリウスは全力になることはあっても必死になることはなかったって。シリウスの周りにあるものがそれを許さなかったーみたいなことをね」

 

「私が?」

 

 少し腑に落ちるところはあった。会長サマとレースする時も、競い合う時も、真面目な時も、全力を尽くしていた。が、必死になることはあったかと聞かれると、どれも今ほど必死ではなかったと思う。

 どうして私はこんなに必死なんだ?ルドルフと走るときも、それこそミスターシービーとやり合う時も必死ではあったはずだ。ヒリつくようなレースで、一瞬一瞬が武器を持って刺し合ってるんじゃないかというほど緊迫する。

 

 それなのに、どうして私はただアイツとの二回目の勝負にこんなにも熱くなっている?アイツの頑張りを知ったからか?それもある。自分自身が許せなかったから?それもある。

 

 私はどうしてここまで必死になれる?そう考えて数瞬、ストンと何かが落ちて理解した。

 

「楽しい」

 

「え、何が?」

 

「…なんでもねぇ」

 

 楽しい。純粋に楽しいと思った。今までのモンが楽しくなかったかと言われたらそりゃ違う。ただ、楽しさのベクトルが違うだけだ。今、私は初めての楽しさを享受している。

 足りねぇんだ。何もかも。目標は遠く、足取りは遅く、それでも一歩ずつ、確かめるように歩を進めているこの状況。時間がねぇと必死に追い込んで、転んだりこけたりしても、倒れたりしても、それでもと立ち上がって、歯を食いしばっている。誰かと競うでもなく、ただ自分との勝負をしている。

 

 足りないものが埋まっていく。ひと欠片でも足りないものを埋めていく。それだけに終始する。それでも、飢えは満たされない。だから、もっと、もっとと手を伸ばす。

 

そうか。私は。

 頭を振る。滲む汗を拭いて、スポドリにまた口を付ける。少し残った水滴まで口に入れて、ぐしゃり 潰した。

 シービーは楽しいのか楽しくないのかよくわからない表情でポケットに手を突っ込んでいた。まだ肌寒い夜で、吐いた息が白く暗い夜に溶けていった。

 

「帰るか。帰ったらシャワーだな」

 

「汗だくだもんね。もうびっちょびちょ…あ、私さぁ。先生と契約したから。つまりは同期。よろしく~」

 

「はぁ?あ、オイ待て!アイツ…!私とスズカ以外にシービーも取りやがったな!」

 

「いーや、シリウスはへっぽこな走りを見せたので仮契約とかでしょ?つまり私の方がセ ン パ イ」

 

「チッ、上等だ。鳥居の前に並べ。この階段どっちが早く降りれるか勝負だ。」

 

「マジ?いや危ないでしょ。けっこー急だよ?此処」

 

「じゃあ負けってことで良いな?」

 

「なわけ…合図は?」

 

「タイマー鳴らすが口でも言う。その方が分かりやすい。怪我しても恨むなよ…」

 

「そっちこそ。オーバーワークを言い訳にしないでよ?」

 

「当たり前だ…5秒、4」

 

「いいじゃん。…あ、そのままシリウスの家までダッシュね」

 

「ロングじゃねーか…!…2、1」

 

「「ゼロ」」

 

風を切る。心臓が縮み上がる。細胞が狂喜して、加速せよと全身に命令する。噛みしめる冷たい空気を肺に放り込んで、身体を爆発させるように。

 

「シリウスはさぁ!…いま!どうなのよ!?」

 

「あぁ!?要領得ねぇ質問だなァ!…私は!今!」

 

最高に最低だ!

 

「なにそれぇ!」

 

「伸びしろしかねぇってことだ…よッ!」




ブリンカー(blinkers)
 ブラインダーとも呼ばれるそれは競馬および乗馬や馬車などにおいて、馬の視野を制限する為の馬具である。遮眼革、遮眼帯ともいう。
 馬の両目の外側部分に革やプラスチックを原料としたカップ状のものを被せることで馬の広い視野(およそ350度)を狭め、前方への進行に集中できるように考えられた馬具である。日本の競馬ではマスク状のものに「メンコ」と呼ばれる耳覆いを付したものが広く用いられている。
 Wikipedia参照・抜粋
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