ランナーズハイ   作:どんとろりんと言葉が溶けていく

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ちょっとおふざけタイトル




ようやく仕事納めしたので先週の話としてここは一つ…


パーチョキグー二連

「ウマ娘の耳の良さをナメてんのか」

「いやぁ…でもこういうのってオフレコみたいな扱いしない?」

「…チッ」

 

「おーっけ、シリウスの寛大な措置に感謝しよう」

 

 律儀に耳をペタンと伏せたシリウスに向けて何故か十字架を切るシービーがこちらに向き直る。

 

「んー…オフレコとは言えね? ちょっと言葉を選ぶけれども…。シリウスはどうするつもりなのさっ」

「どうもしないな。アイツは軌道に乗ったんだ。走りと同じ…一度エンジンが掛かればどうとでもなる。しいて言えば肉体スペックギリギリを攻めるやり方さえ学べばいいだろう。今のままだと怪我は絶えないだろうからな」

「ふーんっ、でも相手はシンボリルドルフだよ? 勝t「勝つ」…おっと」

 

「シリウスが勝つ。後は大差で勝てるかどうかだ」

 

 これは確実。いや前提と言って良い。シンボリルドルフの模擬レースや練習に目を通したがどうやってもシリウスが勝つだろう。

 

 なぜならルドルフは未だシリウスのように軛を断っていないのだから。

 

 実力はある。流石はシンボリルドルフなのだろう。才能に胡坐を欠かない努力の痕が伺える。膝関節に微かな痛みを抱えている。

 

 時間がある。きっとシリウスに勝つために入念な準備をするだろう。先行…シリウスと競り合う。足の力の伸びが良い。…が、無理を通さず理詰めで来る。だが悪手だ。本気のシリウスと競り合いながら…それは足に大きな負荷をかける。

 

 環境も整っている。トレーナーがついたと聞いた。きっと優秀なトレーナーなんだろう。シンボリ家であることも含めて考えるならきっと走る前に治療が出来る。

 だが、ルドルフはそれを伝えない。もしくはトレーナーから伝えられたとしても治療を断る。それはルドルフが「大人」の領域に足を踏み入れてしまったからだ。

 

 生徒会長という役職、全てのウマ娘を幸福にするという目標への負荷、シリウスに対する不安、それら全てが「自分がなんとかしなければ」という思想に囚われる。

 

 未だ子供、未成年であるはずのウマ娘がそうなってしまっている。それは誰が悪いのか? と問われればきっと「環境」が悪いのだろう。

 

 シリウスとは別ベクトルで、しかしシリウスと同じように抱えたもの、環境や持っているものによって自分を殺そうとしている。シリウスは俺がそうならないようにしたが、ルドルフがどうなるかはわからない。

 

「だから勝つのは前提だ。血筋なのかシリウスと同じように無茶な言い方や無理を通さない限りアレは治らない。一度失敗すれば気づくだろうがその一度の失敗が致命的になる。そうなってしまえば二度と追いつけない。一度転んだ者と転ばなかった者、追いつくには相応の時間と才と運が必要になる」

 

「えぇ…」

 

「もちろん、今気づけば相応に仕上がるだろう。勝つのも難しくなるかもしれない」

 

「オイ」

 

 耳を閉じて聞こえていないフリをしていたシリウスがこちらににじり寄り、肩に手を置いた。ウマ娘の膂力なのかじりじりと力が入っていく。なんだ?

 

「なんでそれを早く言わなかった?」

「別に言わんでもいいだろう。敵だ。教えてやる義理もない」

「……チッ、教えた場合どうなる?」

「教えるつもりか?」

「あァ」

「なぜだ?」

 

 言ってしまえばシリウスは勝つことさえ難しくなる。今回の秋川理事長の話、無理を通せなくなるだろう。それでもか?

 

 シリウスはガシガシと頭を掻いて、苛立たし気に地面を掻いた。数瞬、ため込んだものを一息に飲み込んでから ぽつり 呟いた。

 

「……アンタに響くように言ってやる。

 

 

 気持ちよく走れねぇだろうが」

 

 ……なるほど、なるほど。

 俺はトラック端に置いていたカバンから手帳を取り出し、目当てのページを千切る。それをシリウスに渡した。

 

「ルドルフが抱えている問題をリストアップしたものだ。教えるかどうかはお前に任せる」

「…膝関節、太もも…腕? 腕も抱えてやがるのか…」

「あぁ。日頃の業務によるものだろう。負担を掛けないようにしているが…それでもダメージは蓄積する。腕の振りは痛みが走れば鈍くなるもそうだが思ったより気が散る。手首の尺骨側は痺れや腫れると特に痛む」

「ふぅン…」

「もう一度言う。伝えるかどうかはお前次第だ。ルドルフもシリウスが言えば聞くだろう」

「根拠は?」

「お前自身だ」

 

 少し頭をひねったシリウスだが、それはきっとシリウス自身が自覚していないものだ。ずっと、挑み続けたシリウスだからこその理由。

 

「お前は皇帝を、シンボリルドルフを超えると言い続け、積み重ねてきた。だからこそ、中途半端なルドルフを相手にしたくないという想いがルドルフに伝わるはずだ。だから聞く。他でもないお前が伝えたという事がルドルフにとって重いことだと受け止められる」

 

「…ケッ、そうかよ」

 

「あぁ。それと…」

 

 頭を下げる。誠心誠意の謝罪だ。

 

「すまなかった。お前が勝つことに意識が向き過ぎた。気持ちよく走れることを考えられなかった。俺自身が見失ってはいけないものを見失っていた。本当に済まない」

「んなっ」

「俺はシリウスの走りに自信を持つあまり、シリウスの心情を無視した。不安にさせるようなことも言ったな。勝つことすら難しくなると。そうならないようにするのが俺の仕事だろうに」

「いや」

「今回シービーに時間を振ろうとも思ったがやめにしよう。それをするならシリウスを優先すべきだ。きっとルドルフは強敵になる。今まで以上にキツくなるだろうが…シリウスならやれるだろう。これは信用じゃない前提だ。いくつかプランを練り直す、お前が望むように組み替える。お前がそうするように俺もしよう。名誉挽回だ。まず…」

 

「ちょちょちょ…ちょっと」

 

 そこまで肩を揺らさなくていいぞシービー。ガクンガクンと肩を掴んでくるのを止めつつ、

 

「なんだ?」

 

「アタシをほっぽるような言い草はこの際いいよ。フツーにムカついたけどね。でもストップストップ、シリウスが…」

 

 シリウスは蹲り耳を押さえていた。ふむ…

 

「アレは?」

「えっ嘘でしょ? マジで言ってるならアタシは先生をグーで行かなくちゃいけないけど」

「冗談だ。だが事実だ。シリウスが望むならそうしなくちゃいけない。俺とアイツは一蓮托生だ。そのことを忘れ、アイツを心配にさせた俺が悪いだろう。許してくれとは言わない。行動で示す」

「ごめん、女の敵かもしれないからパーでいくね」

 

 パーでのされた。

 

「ふぅ…、いやぁ…おーっけ。わかったわかった。シリウスを見るのはいいよ。てか見てもらわないとダメ。…んで、アタシ等はどうするのさ? アタシはモチベがアレだし…スズカちゃんはほら…」

 

「あ、あの私は大丈夫…です」

 

「って言ってるけどさ。大丈夫じゃない子って大抵大丈夫って言うじゃん?」

「本当に大丈夫な者も大丈夫というがな」

「そこはほら…フィーリングで」

「言わんとすることはわかる」

 

 しょうがない。俺はいくつか用意していたカードを切った。それぞれを担当するとなった日に用意していた策をここで切るのは痛いが…背に腹は代えられない。

 

「まずシービー。お前がこのレースで勝てば報酬がある」

「へぇ? 何? 前みたいに良い感じのコース? それなら教えてもらったあそこで結構満足できるんだけど」

「いや違う。もしもの時の為にあるウマ娘に一つ並走を頼んでいた」

「…誰?」

 

「メジロラモーヌ」

 

「―ッ! 嘘でしょ!? メジロ家のトップみたいな人になん「伝手がある」

 

「…此処で切るのは痛いが、シービーが望むならな」

 

 正直切りたくないカードだが、逆に切ってしまいたいカードでもあった。いつまでも抱えておくと面倒なことになる。次を求められることになるだろうが…そうも言ってられない。

 

「えぇー…すごっ。メジロ家と親交あるんだ…」

「……妹のことで少しな」

「妹…あっ、あの子…」

 

「兎角…報酬はメジロラモーヌとの並走だ。どうする?」

 

 問うてみれば鼻を掻いてからふっと笑う。

 

「良いね。イイ先生を持った。アタシのテンションわかってるじゃん…いいよ。乗ってあげる」

「…言わずとも乗ってほしかったがな…」

「先生だってわかってるんでしょ? アタシがそういう面倒なしがらみが嫌いって」

「あぁ、わかっている。俺も嫌いだ。だが必要なことだからな。逃げてばかりじゃいられない」

「それは…そう。ま、面倒なことは大人にぜーんぶ、投げるに限るかな」

 

 はぁ…シービーはこれでいい。どうにかなった。あとは…

 

「スズカ」

 

「はい」

 

 今の今まで大人しくしていたサイレンスズカは平静を装っているが、声が微妙に震えていた。正直なところ、おれと同じタイプだから何を引き合いに出してもやる気は十分だろう。走ること自体が目的なのだから…。

 

 ただ不安を抱えていることは如実に感じられた。一体何を抱えているのか…踏み入るべきか否か。迷うところだが……

 

 そうだな。俺もそう望むように、スズカにもそうしよう。俺は口を開いた。

 

「何が欲しい」

 

「…ぁっ」

 

「正直な話、スズカは言われずともやる気がある。俺と同じ走ることに喜びを見出すタイプだからな。それ以上がない。…だから聞こう。何が欲しい?」

 

 瞬間、世界が冷え切った。

 

 それはスズカから漏れだした酷く湿った空気もそうなのだが、蹲っていたはずのシリウスからも酷く冷たい空気が漂っている。シービーは…こちらを半目で睨んでいた。どうした?

 

「いや、チョキも必要かなって」

「チョキ?」

 

 考えて、考えて、ようやく声に出したのだろう。幼子が貰ってもいいのだろうかと不安を帯びながら聞くように、か細く答えた。

 

「トレーナーさんと…走りたい…です」

「なんだ。そんなことか。月曜だけが不満なら月~金でもいい」

「い、いえっ。その休日に出来れば…遠出をと」

「わかった。レースに勝ったらという前置きはあるが…スズカなら勝つだろう。日程は組んでおく」

「は、はいっ」

「別に報酬じゃなくてもいいんだがな。俺とスズカだ。特に気負う必要もないだろう。蹄鉄でも見に行くか?」

「あ、は、はい!」

 

「ごめん先生、ちょっとグーとチョキでも行くね」

 

「アンタ…良い度胸してるよな」

 

 なぜかシリウスとシービーにグーとチョキでのされた。




 走り馬鹿がメジロラモーヌと相性悪い訳ないよねっていう。ただラモーヌをメインに据えるかどうかは…。初期案だと他の方のメジロラモーヌ曇り概念が強すぎて「書かなくていいか…」ってなったんですよね。相性面で言えば最高なんですけど。噛み合い過ぎる。
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