ランナーズハイ 作:どんとろりんと言葉が溶けていく
改めて、感想評価ありがとうございます。これを書いている途中、お気に入りが2,666と悪魔の数字が並んでいて運命を感じました。読者の皆様がタキオンを応援していると信じて(曲解)化物(偏見)に挑むところを楽しみにしてください。
とある物をないとした時、反証主義においては「存在しない」という事に関しては否定することは出来るが「存在する」という事に関しては否定する事が出来ない。これは、証拠の不在は不在の証拠にならないという消極的事実の証明と言われ、しばしば悪魔の証明とも称される。
特段の事情がない限り、私は自分の研究室に籠っていることが多い。外出する理由もないし、息抜きに別の実験に着手することもある。大して苦にならない気質だったからだ。
そんな私が外に、剰え早朝からトラックに出ているのは、その特段の事情があったということになる。うぅ…寒いねぇ…。まだ春半ばの時期で暖かいと言っても早朝の冷たさが顔を刺してチクチクする。こんなことなら研究服でも羽織ってくればよかったよ…。
はふぅー…
吐く息が白んだ。コンディションで言えば可もなく不可もなく、強いて言うなら隣のカフェも同じくジャージを着ていることが気に掛かった。
「別に付いてくる必要はないと思うがねぃ」
「貴女が起きれなかったついでなんですが」
「早朝に走る意味がわからない。そうは思わないかい?」
「早起きは三文の徳って言いますよ」
「二度寝、二度寝、二度寝?」
「三つの徳があるワケではなく、三文程度の徳があるってことですし、そもそも得じゃありませんしそれは一つしかないです」
「二度寝、三度寝、四度寝だねぇ」
「一旦、睡眠から離れましょう」
しょぼしょぼした目を擦り、眠気を引きずっているとずいっと水筒…香るは~…
「珈琲…」
「朝は目が覚めますよ」
「胃が空っぽの状態で飲む珈琲は胃が荒れるからねぇ」
「言うと思って軽食を」
「クッキーだけ頂いておくよ」
差し出されたクッキーのみを取って食べつつ、件のトラックに向かっていた。
(暫定)トレーナー君から理外の提案が成されたのは昨日の事だった。放課後、いつものように研究を進めていた私の元に、サイレンススズカと一緒にやってきた。
あっけにとられる私に彼が言った。
『明日、早朝、俺とスズカで並走トレーニングをする。タキオンもどうだ?』
『……あー済まない、その前に一つ確認しておきたいことがあるんだが』
『急か? ならいいんだが…』
『いや、急なことは百歩譲って良いとしてだ。君、私とスズカくんは言ってしまえば敵同士でむやみやたらと情報を出すものではないとそう思うんだが…間違ったことを言っているかい?』
『何時走っても同じだ』
『……それはどっちの意味でだい? 返答次第じゃあ容赦しないよ』
『逆に聞くがタキオンは未来がわかるか?』
『……ん?』
なんだか思ったのとは違う方向に話が飛んだ。立ち上がり掛けるのをやめ、少しばかり逡巡してから答えが出なかったので再度問う。
『それは本当にどういう意味だい?』
『よく言うだろう。あぁしておけばよかった、こうしておけばよかったと。後悔は後に悔やむと書くように、後からにしか生まれない。結局のところ、未来の出来事ありきの事だ。どっちが勝つか、それでどちらが後悔するかは未来のお前達にしかわからない。ならその違いはその後悔を味わうのが早いか遅いか、大きいか小さいかの問題でしかない』
『結局のところ、重賞レースで負けようが、公園で二人だけでやる並走に負けようがどちらも同じ負けだ。その負けから何を得るかはお前達次第で、それがどう結果につながるかもお前達次第ということになる』
『勝ち負けに括るな。最終的には勝たなくてはいけないだろうが、かといって目的を見失うなよアグネスタキオン。この勝負はお前にとって通過点でしかないハズだ』
…うん、…うん。何度思い出しても、こうイラッとくるような物言いだが言う事自体には一利ある。私の目的はあくまでウマ娘の限界速度、その先への到達だ。実験に言い換えると、その成功失敗に括るのではなくそこから得られた結果を分析しろというのは科学者としては至極真っ当な言い分と言える。
だがねぇ……!
「私だってそんなことはわかってるけどだからといって君が言うかい!!」
「タキオンさん!?」
「あっ、すまない。ちょっと突発性な激怒が…」
「激情ってそんなコンスタントに出せるものだったんですか」
「外的要因を理由とするなら思い出し笑いと同じものさ」
「アンガーマネジメント……」
「カフェ?」
「すみません、お友だちがそう囁いた気がしたので」
「随分社会派な幽霊だねぃ。でも6秒経って怒りが持続するならそれは純然な殺意とは思わないかい?」
「怒りの濾過…いえ殺意の抽出ということですか。珈琲と一緒ですね」
「カフェも大概おかしいよねぇ」
「タキオンさんほどではないですし、これはただのボケです。拾ってください」
「会話のドッジボールをお求めかい?」
「タキオンさんは顔面に当てないと気付いてくれないので」
「顔面セーフはそういう意味じゃないと思うよ」
「では内臓に響くよう鳩尾に…」
「内臓に響く会話は果たして会話と言えるのか…」
「
「何をやっている…?」
ぬっと顔を突き出してきたのは先生で、その背後にはサイレンスズカが立っていた。並走を誘われたときもそうだったんだが…
なんというか私を見る目が妖しいのがねぇ…。どうにも、不安な気持ちになる。地雷…は踏んでいるからしょうがないと言えばしょうがないんだが…それでも居心地の悪さが体の裏側をそわだてる。
「タキオンさんを連れてきました」
「助かった…マンハッタンカフェも参加していくか?」
「はい、せっかく早起きしたので。あとカフェでいいです」
「わかった。いやなに、話が終わるまで待っていたんだが一向に終わる気配がなくてな。割らせてもらった」
「タキオンさんはあぁ言えばこう言うの典型ですから」
「注意する必要がある……か」
「ちょっとぉ!?」
いつの間にかスケープゴートに仕立て上げられていたので割って止める。っていうか君達なんでそんな仲良さげなんだい!? おかしくないかい!? スズカはまだしも行くとしたら私の方じゃないかねぇ!?
「なんですかタキオンさん」
「君達そんな仲良かったかなぁ!?」
「やっていることはともかくとして、先生として信頼できますから」
「授業もしっかり聞いて質問してくれるからな。自然と熱も入る」
「いつも丁寧に教えてくれるのとはっきり言ってくれるので聞きやすく」
「俺は別に秘匿主義でもない。担当は出来ないだけで請われれば教えるスタンスだ」
「あ、次のテストと、並走後に足を見てもらっていいですか? 左足に違和感があるので」
「今でもいいだろう。走った後に違和感が悪化されても困るからな」
「よろしくお願いします」
「ねぇ!?」
流れるように触診に入ったカフェに歯噛みする。ほら見ろ後ろに居たサイレンススズカを! なんかもう目がブラックホールみたいになってるんだぞ! アレを見てそんな事できるのかい!?
「ふむ…足ではないな。蹄鉄だ。蹄鉄が少しへたってきている。本当に小さなものだが…走りづらいか?」
「そうですね。はずみが弱く感じるのでいまいち地面を蹴れていない感じがして…」
「わかった。この程度なら俺でも治せる。ハンマーを持ってくるから待っていてくれ」
「お願いします」
「カーフェー!」
「なんですか
「今変なルビ振ってたよねぇ!? 何か申し開きはあるかな? 返答次第じゃあ君の水筒にカフェ対策用すべての珈琲が紅茶味になる薬を混ぜる」
「なんて恐ろしいことを…。でも正直な話になりますが担当してもらえなくても先生なんですから聞けば教えてくれると思いますよ。私は別に担当にこだわりはないので」
「ぐぬぬ……じゃあ君ぃ! 背後のスズカを見ても同じことがいえるかなぁ!?」
「なん………っ!」
振り返ると情念が高まりすぎて可視化されたような真っ黒いオーラがスズカから放出されていた。まるで悪魔みたいだった。背後に翼が見えて、頭から角が生えている気がした。いや、幻覚、幻覚だとは思うんだが…本当に出ていそうな凄みがあった。じっとりと湿った黒い空気が当たりに広がって私達の息を重くした。
こくり、飲み損ねた息が脳の血管を収縮させる。
口の端に髪の毛が入っているのも厭わず、静かにお辞儀した。
「よろしく、お願いしますね」
ひゅっ 二人そろって喉が締まった。
別に化物ではないんですよね。スズカ
ただ、分類がアメリカに個人で相手にされる範馬勇次郎とか一時期将棋の八冠を同じ年齢で統一した藤井聡太とかと同じなだけで。
それはそれとして人間、それもちゃんと思春期の女の子なのでそれはそれとして嫉妬はする。
タキオンが担当にこだわっているからってのもあるけど、先生は別に請われたら特段の理由がない限り断らないよ。だから割と先生に質問したり、アドバイスもらおうとする生徒はいる。これは先生がオープンにしているというわけではなく、ただ単に無頓着なだけ。
カフェってこんな感じで良いんですかね?
書いては消して書いては消しての繰り返しですよ…。インターネットの印象が強くてシュールにボケるイメージなんですよね。かつ丼だしたり(存在しない記憶)珈琲を何杯も用意してストロー刺して一気飲みしたり(ネタの記憶)パン屋でトングをカチカチしてパンに対して威嚇を行ったり(存在しないネタの記憶)