ランナーズハイ   作:どんとろりんと言葉が溶けていく

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「Níveis de beta-endorfina em resposta ao exercício e no sobretreinamento」を参考にしますた。ポルトガル語は前知識があっても翻訳必須ですわね…


頭スズカ×2

走る、走る、走る。

 

風を切る。疲労がたまる。あと少しだ。

 

ランナーズハイ。人間は継続的運動を続けると、ある一定地点までは疲労や苦しさを感じるが、その一定地点を超えると快感・恍惚感を感じ始める。この感情状態のことを指す。

脳内のα波とβ-エンドルフィン、内在性カンナビノイドが分泌され、疲労や痛みの鈍麻によって楽に走ることができる。

 

最も、それだけじゃない。鎮痛作用や多幸感に加え、乳酸耐性の向上、疲労耐性ともいうべき効果等、様々だ。正確には前述した内在性カンナビノイドが主な影響で…端的に言うなら、大麻草に含まれる成分の内在性…ようは脳内麻薬によるものだが。

 

しかし、過度な運動はそれらが逆転し、抑うつの発症可能性といったデメリットもある。無理が来たら休むべきなのだが…

 

休めない理由がある。

 

走り始めて1時間経つか経たないか。ウォーミングアップがてらの軽めのものから徐々にギアを上げていったとき、そのウマ娘は現れた。

 

栗毛色の髪、細長くすらっとした体型、そんな細い身体のどこにそんな力があるんだと言わんばかりの脚力で、俺の横を走るウマ娘がいる。

 

名をば、サイレンススズカ。俺が月曜の朝にいつも勝負を挑み、負ける化け物が並走する。

 

何故いるのか?なぜ並走するのか?許可は取ったのか?色々疑問はあるが、そんなの今はどうだっていい。

 

朝のように、並走するならやることは一つ。

 

頭をグンと下げた。本気の姿勢。次は何も考えず、ただ、前に。走って、走って、その先へ。

 

来た。来た来た来た来た。脳の裏が縮みあがる。内在性カンナビノイドの分泌が始まったと感じた。多幸感、痛みはなくなる。息は上がっても、前へ。

 

足を踏み込んで、ペースを上げた。いつもの合図だった。

 

痛み?負荷耐性の低下?そんなのどうだっていい。走った後のことなんか考えるな。

 

走れ。走れ。一歩前へ。この先へ。

 

死ぬまで、走れ。

 

―――――

 

「ス、スズカさんが走っていっちゃった…どうしよう…」

 

「オイ」

「え、ひゃい!」

 

「アレは誰だ?」

 

「あ、え、わからないです。急にスズカさんがふらふらって歩いた後に走り出して…」

「チッ、マジでどういうことだよ…」

 

呆然と立っていたおそらく同室だろう奴に声をかける。おそらく同室だ。噂には聞いていたしちょくちょく見もしたがナマで見るとやっぱ頭おかしいな。

 

いっそ暴力的なまでの一番への渇望。先頭の景色が好きと聞くが、ありゃ好きどころじゃない。偏愛とか執着とかその規模だ。

 

男の方も歯をむき出しにして笑いながら走ってやがる。ウマ娘相手に無謀なことと思うが、それでも事実、並走している。あの()()()()()()()()に。

 

「えっと…あ、あの」

 

「あ?あー、シリウスシンボリだ。高等部」

「先輩なんですね…!えっとスペシャルウィークです!中等部で…スズカさんと同室で…スズカさんのこと知ってるんですか?」

「当たり前だ。あんなランニングジャンキー話題にならねぇはずがねぇ。いつもいつも走ってばっかと聞いていたが…なんだって」

「あはは…私も何が何だか…あの走ってる男の人も知らない人ですし…」

 

どうやら本当に関係性がないらしい。新人トレーナーだ。サイレンススズカの話なんて聞いたことないだろう。それはウマ娘も同様だ。私だって後輩に言われなきゃ気づかなかった。

 

つまり初邂逅でアレってことかよ。

全力疾走で走る男とスズカを眺めながら、ヒリついた感触が心を撫ぜた。

 

どこまでも独善的で、どこまでも自分の為に走るような姿が瞬きしても瞼に張り付く。妙な苛立ちを吐き出すようにいらぬ御託を並べた。

 

「それに、あのトレーナー、アイツもアイツでおかしい」

 

「お、おかしいですか?」

「…あのランニングジャンキーはまだ本格化が始まってねぇはずだ。始まってたらとっくのとうにスカウトされてる。それに、走りが甘ェ」

 

フォームは最適化されていってるが足りねぇものがまだまだある。その一つが本格化だ。本格化したウマ娘は個人差はあれど高い能力を発揮し始める。確かに何年か掛けてゆるーく本格化するウマ娘も居るだろうが…基本的にウマ娘ってのは本格化してからデビューする。サイレンススズカはまだデビューしてねぇ。アレでまだ雛だ。

 

「甘い…スズカさんがですか?」

 

「甘い。なんせヒトと並走してんだ。本格化したウマ娘ならヒトがガチったところで追いつきゃしねぇ。手を抜いてもだ」

「うーん、でもスズカさんは練習レースでもトップで…」

「そこだ。本格化が始まってねぇのにぶっちぎりで走るほどのフィジカルを持ってる。アレでまだ次がある」

 

「すごい…」

 

「おかしいと思わねぇのか?」

 

どこか、疼く。焦燥感にも似たナニカ。私の目標、世界の頂点に手を掛ける為に色々模索していたが足りなかった。何かが欠けていた。その欠けたナニカに手の先が掠ったような気がした。

 

自分勝手に走る姿。ただ自分の走りにしか興味がねぇって顔した男の顔。トレーナーとしてどうなんだって思うその顔が。

 

「えっ?」

 

「…そんな、本格化も始まってねぇのに他の奴等に大差をつけられる奴と並走してるのがあの男だ。」

 

「えっ、あ、あー!!えっ!?じゃあ…!」

 

「ヒトとウマ娘は根本的な肉体の差がある。それなのにそれを補うほどのものがアイツにある。化け物だ」

 

一息に吐き出した苛立ちの代わりに胸に滞留するは、興味と奇妙な高揚。そう、それを一言で表すなら

 

 

「見つけた」

 

 

ス、スズカさんが二人ってこと…?あのス、スズカさんが…二人!?

 

小さく聞こえた声によって沈火する。改めてみた。どっちも同じような、端的に言えば走るのが好き好きでたまらないという顔をしている。ふっと生徒会長をしている幼馴染の顔が浮かんだ。

 

頭スズカが二人居る……か。

 

 

眉間を摘む。一考。ふうっ、息を吐いた。

 

間違えたかもしれねぇ。

 

自分の思考を若干後悔すると同時に、少しだけ生徒会室にちょっかい掛けるのは控えてやるかと、そう思った。別にこれから起こるであろう苦労とか降りかかる問題がよぎったわけじゃない。よぎったわけじゃないが…

 

夕焼けが近くなった空を見上げた。

 

微かに映った幼馴染が苦笑いしていた。




シリウスシンボリ…君はツッコミ役として選ばれました…なるべく耐えてくださいね(|)
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