ランナーズハイ 作:どんとろりんと言葉が溶けていく
狂人は天然というか、ガチ目に頭スズカです。走る事だけネジがカッ飛ぶ
目が覚める。どうやら保健室に居るらしい。
全身痛ェ。背中で受け止めたのかじんじんする。が、数えきれんほど味わったものでもあるので痛み耐性はバッチリだった。何度転んだと思ってやがる。派手に転び過ぎて足の骨が肉破って突き出したこともあるんだぞ。こんくらいどうってことない。
ストレッチをして体の具合を確かめていると声が掛かった。
「オイ」
「…ん?」
横を見やれば知らないウマ娘がいた。背中まである長い髪、額の上あたりが葦毛になっている。右耳は派手なピアスを付けていて、足を組んで腕を組んで…まぁ濁さず言えば不良だった。
ふと目に映った時計を見ればもうすぐ門限。しばし考え、熟考に熟考を重ね一言
「門限過ぎるぞ。早く帰りなさい」
「あんだけ溜めてそこかよっ!?」
いやいや、一応教師でもあるんだから当たり前だろう。至極普通なことだ。何か間違ってるかと言わんばかりの顔で見てやると、頭をガシガシと掻いて言う。
「てめぇ…マジで頭スズカかよ…」
「…?」
頭スズカ とは?
「チッ…てめぇと並走してたウマ娘の渾名みたいなモンだよ。いつも走ってばっかで門限破りや遅刻の常習犯。外でも走ってっから、いつからか頭スズカ…走ること以外に興味ないヤツのことを言うようになった」
「…ダメだろ。それ」
「そうだよ、ダメだよ。てめぇも似たようなモンだろ」
「俺は一度も遅刻や欠席したことないが」
「走るのは好きなんだろ?」
「好きだが、それで走れなくなるようなことになるのも本末転倒だろ」
至極まっとうなことを言うと渋面で数瞬黙る。
「…クソ、てめぇトレーナーだよな?」
「あぁ。トレーナーでもある。明日から保健・体育の授業も担当するがな」
「あんだけムチャしやがったのに明日授業あんのかよ!?血吐いてただろ?」
「この程度、普通に治ってるが…」
「マジで言ってんのか!?」
「このくらいの怪我でダメになるような鍛え方をしていないからな」
「サイレンススズカの上位互換かよ…」
「俺はサイレンススズカではないが」
「比喩だよ!でもテメェ頭スズカじゃねぇか!」
「頭スズカじゃねぇヤツが走ってるときあんな顔するかよ…」
そういう不良ウマ娘はガッとベッドを蹴った。
「てかテメェ…アレはどういうことだ?」
「アレとは?」
「さっきの走りだよ」
蹴り上げた足でもってベッドを踏みつけこちらを睨みつけるが…わからん。
「普通、トレーナーがウマ娘相手にあんな走りしていいのかよ」
「なにがだ?」
「…あんなクソ危ねぇ走りしていいのかっつってんだよ!」
「普通だろ」
「…はっ?」
「普通だ。さっきのは勝負だったんだぞ。確かに色々ハンデはあった。俺は1時間ほどの体力の消耗、あちらは走り始めだったからか身体が硬直していた。他にもあるが…ベストな状態とはいえないだろう。だが
「…マジで言ってんのかよ」
「大マジだ。勤続一日目にして生徒を怪我させるのは問題だからな。それより、足を降ろしなさい。保健室の備品だ」
「……誰が運んでやったと思ってんだ。サイレンススズカの同室は慌て過ぎて使い物にならなかったし、かといって動けねぇサイレンススズカも居た。サイレンススズカの方はお前が受け止めたから怪我もなく足冷やした後帰っていったがな」
どうやら迷惑をかけたらしい。確かに、仕事中に倒れるような真似をしたのはダメか。そうか…となるとあまり仕事中は無茶な真似は出来ねぇな。
「そうか、助かった。門限の方は俺が付き添おう。帰るぞ」
「待てよ…それだけか?」
ぐっと体を起こしてベッドから出ようとすると押さえつけるように肩に手を置かれた。
「それだけとは?」
「お前はサイレンススズカを怪我させかけたし、お前自身血なんて吐いてた。誰が揉み消したと思ってる」
「…揉み消したのか?」
「たりめぇだろうが!勤務一日目で血吐く教師がどこにいんだよ!生徒会には止めてあるが噂としてはちったぁマシになるだろうよ。」
「…噂か」
「当たり前だろ。本格化前とはいえ、ウマ娘と並走するヤツが噂にならねぇとでも?」
「…それもそうか」
「チッ…マジでコイツは…」
頭が痛いというように頭を押さえる姿にふと思い当たることを言った。
「俺に何かしてほしいのか?」
「……はぁ。そうだよ。お前、一応トレーナーなんだろ?」
「あぁ。トレーナー試験でトップだったな」
「それでお前トップなのかよ!?…マジで上位互換っつーか…いやいい」
「お前、私のトレーナーになれ」
「トレー…ナー…?」
「お前マジでトレーナーなんだよな!?そこ疑問に思っちゃいけねぇだろ!仕事だろうが…!」
「いや、理由がねぇ…ないからな」
「理由、理由か…」
肩に置かれた手が胸ぐらへと移動する。ぐいと乱暴に引かれたがそれ以上に真剣な目でもってこちらを見つめ、問うた。
「お前、走ること以外興味ねぇだろ」
「あぁ」
「それも、自分の走りしか…他のヤツなんざどうだっていい…だろ?」
「多少は気にする。勝負を挑まれたら乗るくらいにはな」
「それでもアンタは自分の走りが最優先だ。違うか?」
「…違わないな」
「私は世界の頂点を目指している。日本で終わるなんざ死んでも嫌だ。いずれ海外に、世界の頂点に立つ。だが…」
「足りねぇモンが山ほどある」
「フォーム、仕掛けるポイント、単純なフィジカル…どれを取っても“まだ”なんだよ」
「実績はさっき聞いた。トレーナー試験でトップ。身体能力も十分、ウマ娘と並走出来るくらいにな。それになにより…」
「お前が死ぬほど走りにしか興味ねぇってのが良い」
「てめぇを助けた理由はこれでいいか? もう一度言う。私のトレーナーになれ」
真剣だった。何処までも真剣な目をしていた。先の言葉、きっと嘘は一つもないだろう。なら
「死ぬほど走る用意は出来ているか?」
「あ?」
「
「…あぁ、問題ねぇ」
「俺は走る事しか興味がない。トレーナーとして教えることはあれど、基本的にフォームや体力面が重点になる」
「それでいい。ウマ娘と並走できるフィジカルの正体が知りたい」
「付いて行けなくっても俺は置いていく」
「ハッ、トレーナーが言う事かよ…。でもいいぜ、その大言壮語が本物かどうか、乗ってやるよ」
「最後、覚悟はいいか?」
最後は覚悟を問うだけだ。
「とっくのとうに」
どうやら聞くだけ無駄のようだ。
「…わかった。明日、書類を持ってくる。今日は帰るぞ」
「あぁ、頼むぜ。
「…れいびー…?」
「渾名だよ渾名。アンタにゃぴったりの渾名だ。どうせ走ってる時トレーナーっつっても反応しねぇ。なら呼ぶだけ無駄だし、はたいた方が気づく…だろ?なら好きに呼んだってかまわねぇよな?」
「…呼ばれたら気づくとは思うぞ」
「今日の走りで信用できるわけねぇだろ…」
「むぅ…」
「むぅじゃねぇよったく…。ホントにコイツトレーナーか?」
「試験トップなんだがな…」
「マジでなんでお前取れたんだよ…他の試験受けたヤツに失礼まであるぞ…」
「教職免許もあるんだがな…」
「ホントにお前なんなんだよ…」
心底疲れたという顔して立ち上がるウマ娘に、はたと気づいて声を掛けた。
「本当に最後の質問だ」
「あっ?まだなんかあんのかよ?」
「…お名前は?」
「テメェ今までの問答名前も知らねぇでやってたのかよ!?」
なんなんだよテメェはよォ!という叫びと共に立ち上がる俺は腰に蹴りを食らった。ちょっとふら付いた。
契約するこの不良ウマ娘はシリウスシンボリと言うらしい。
レイビー 英語にすると「rabie」 意:狂犬病 語源はラテン語で狂気、憤怒を意味する「rabies」
語源の方の意味合いでもあり、絶対コイツをシリウスはパピーと呼ばないだろうなと言うところから。
ちなみにシリウスシンボリはずっと引けてないので割とふんわりで書いています。引きてぇ~~~
追記
タグの曇らせはウマ娘の方が強めです。このアホは基本 走る>その他すべて なので(大事なことなので)