ランナーズハイ   作:どんとろりんと言葉が溶けていく

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ガチャ石を溶かしたので投稿です。

注意 トレーナーが割と酷い事を言いますがあしからず


天狼の走り

「準備はいいか?」

 

「聞くまでもねぇ。さっさと合図しろ」

 

「わかった」

 

放課後、トラックにて。俺が管理しているといっても申請があれば練習場として使えてしまうので無理を言って最初の30分だけ貸し切らせてもらった。なぜか見物人たるウマ娘が多いが…大したものじゃないだろう。

 

俺は今までのシリウスシンボリが記載されている書類をぱらぱらとめくる。

バ場は芝、距離は中距離が主戦場。マイル、長距離も出来なくもないが中距離には及ばない。おそらく、エンジンのかかり具合と持久力の兼ね合いだろう。マイルではエンジンをフルにするまでに時間がかかり過ぎ、長距離は逆にガス欠になる。短距離はエンジンが掛かる前に終わるから論外。

 

脚質は先行、無理すれば差しも行けるが…気質的にあわないな。自立心が高いというより、自分のことは自分でやるべきという強烈な自負がある。周りを自分に合わせるタイプだ。先行向きだろう。

 

「先生トレーナーでもあったんだ~」

「アレ、シービーがいるなんて珍し」

「まぁね。エースこそなんで?」

「そりゃシリウスがガチで走るって聞いたからな。あとあんだけ走った先生がどんなトレーニングするのか興味あるだろ」

「あの、お二人とも、トレーナーさんは…」

「あ、サイレンススズカ。アタシは居ないよ?良いトレーナーに巡り合わないんだよねぇ~」

「…シービーは我が強いだけだろ…。まぁあたしもだが」

「そうだったんですね。私は今日、先生に…」

「ふーん…アタシも頼んだらOKもらえるかな?」

「あたしは…やめとく。あの超長距離マラソンに付いていけねぇ」

「えー…、まぁ?エースにはー…無理だろうね?エースには」

「はぁ!?無理なわけないだろ!おう!先生、トレーナー契約してくれ!シービーより先に!」

「先生ー!アタシが先でー!」

「二人とも、シリウスさんの大事な走りで…」

 

「うっせぇ外野共!」

 

にわかに騒ぎ始めた見学者を一喝したシリウスは不機嫌な顔でギロリ、睨んだ。

 

「テメェ、あいつらも契約するのか?」

「…今のところはない…というより出来ない。」

「…出来ない?」

「あぁ。俺は新人だ。本来1人を担当するところを2人で始めている。きっとこれ以上は他のトレーナーのこともあって無理だろうな」

「他のトレーナーって…なんだ?やっかみでもあるのか?トレーナー業界も真っ黒ってか?」

「いや心配だ。昔、新人で複数の担当を持ったトレーナーが、担当との付き合い方を間違え、酷い目に遭ったらしい」

「……酷い目ってのは」

「ウマ娘のパワーで左右から引っ張られた結果…だそうだ」

 

「おう…なんだ。…わりぃ」

 

一転、気まずそうに顔をそらす。まぁ思い当たる節はあるだろう。俺だってトレーナー試験受かってから配属されるまでの研修で、そういう被害にあったという講習ビデオを見たが…アレを見て気が引き締まらんトレーナーは居ないだろう。

 

「気にしなくていい。兎角、そういうことから新人は1人から多くても2人までと暗黙の了解があると聞いた」

「2人でも駄目じゃねぇか?話を聞く限りな」

「2人だと互いに牽制して結果としてよくなるらしい。3人以上だと2人が結託するか出し抜こうとする1人が出るそうだ。つまり、お前はスズカを牽制しろ」

「なんで私がてめぇの為に牽制しなくちゃいけねぇんだよ!」

「いいのか?放っておいたら俺もスズカも走り続けるぞ」

「トレーナーで止める側のお前が言うのかよ!?脅しじゃねぇか!?」

「担当とトレーナーは支えあいだと聞く。つまりはそういうことだ」

「地獄に道連れをオブラートに包むんじゃねぇよてめぇも努力しろ」

「善処する」

 

「それやらねぇ奴の言葉じゃねぇか…チッ、やるぞ」

 

そういってまた力を溜め始める。先と変わりシンと静まり返るターフの上、どうやら今回は大丈夫そうだ。

 

俺は静かに手を上げ、そして合図の掛け声とともに振り下ろした。

 

「始めっ!」

 

―――――

 

全身が掛け声に合わせて沸騰する。爆発的な加速が横に居たトレーナーを遥か後ろに置き去った。練習でもあまりしねぇ全力、今の私が出来るすべてをぶつける走りをしてやる…!

 

脳裏にアイツの姿が浮かぶ。アイツは足を踏み出す時、つま先から踏み込んで、かかとで蹴っていた。フォアフット走法というもの。長距離を走る用の走法で足への負担が軽い。

 

だが、たまに逆の状態。つまりかかとから踏み込んで足先で蹴りだす走りをしていた。おそらくは癖。元々そういう走りだったのをフォアフット走法にしたが、たまに出てしまう癖になっている。

 

だが、それがアイツのおかしさだ。その走りは膝への負担が強く、スピード面に向かないが、アキレス腱の負担が少ない。アイツは文字通り死ぬまで走ろうとするから、それだけアキレス腱を酷使する。その負担を、悪癖が軽減している。

 

もちろん、たかが走ってる最中に走法を変えるなんざ危なくてメリットも少ねぇことをやるなんてバ鹿げてる。…が

 

アイツはそれを無意識に一番アキレス腱に負担が掛かるタイミングでやっているという事だ。

 

ウマ娘は特に顕著だ。走ってる最中、ふと嫌な予感がした瞬間に足を負傷する、あるいは負傷したと感じる時がある。アイツはそのタイミングで一瞬その悪癖の走法に変えて、負担を握りつぶしている。

 

そんな事できんのかとか、出来てもただ走り続けやすいだけで速度は落ちる。

 

デメリットに対してメリットが少ねぇ。

 

だが、やってみる価値はある…!あの自身の肉体に対する危機察知能力と対処能力は私にとって絶対に必要になる時が来る。

 

それは皇帝サマとの勝負。今の私じゃ勝ち目は薄い。ねぇわけじゃねぇ。薄い。その勝ち目を掴もうと必ず無理をする。私ならそうするはずだ。

 

そのとき、絶対に役に立つ。サイレンススズカを庇った時のような一瞬で対応する察知と反射は、世界でも通用する武器になると考えている。

 

私はアレが欲しい…!そのためには…!

 

「多少の無理は踏み倒せェ!」

 

力強く地面をたたく。変調、割れたと思うほどの衝撃。足の痛みに笑えてくる。だが嫌な予感を踏みつぶせた。そういう感覚があった。ギラリと笑って、前へ。前へ…!

 

ウマ娘は基本超前傾姿勢で走る。転びそうなほどに前のめりだ。転ばずにバランスを取れるのは尻尾があるからで、ヒトができる走りじゃない。

 

走る、走る、走る。

 

ふくらはぎからふともも、腰にかけて痺れるような感覚が溜まっていく。

 

先、ゴール。野次ウマ共が見える。

 

心臓が熱い。爆発しそうだ。肺の空気をすべて吐き出して、余力をすべて振り絞る。

 

苦しい。足りねぇ。何もかも。

 

それでも私は走り切った。ゴールを踏み越す。軽く先に進んで、力が抜けてしまって転がり止まった。それでもガバリ、起き上がってアイツを見る。

 

「どうだ…?!これが…!シリウスシンボリの走りだ…!」

 

だが、ふっと嫌な予感がした。脳の奥が少しピリっとして、何故だか奥歯を噛み締める。自分自身に違和感を持った直後、耳に入る言葉を疑った。

 

「そんなものかよシリウスシンボリ」

 

トレーナーは、冷めた目をしていた。




ウマ娘がヒト耳の走りと技術パクってベストなわけねぇだろ
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