茂山影男   作:ピンチャンよ永遠なれ………

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30話

 茂山影男は幼稚園時代に呪力暴走を起こし、同級生を傷つけた。さらに内向的になってしまった彼は前髪の変な高専生と出会うことがないまま、6歳の頃に両親を失った。

 

 茂山影男は禪院家に引き取られたのち「出来損ない」とされ、冷遇される毎日を送った。暴力は日常茶飯だった。同じ年ごろの双子の少女もいたが、彼女たちが手を差し伸べることもなく。

 彼は孤独の中で自分の力が他人を傷つけることを恐れ、必死に耐え続けた。

 

 そして両親の真相を知ったその日、少年は襲ってきた禪院家の人間を次々と殺し、呪詛師に転じた。

 

 史上最年少の特級呪詛師の誕生だった。

 

 人を殺してしまった自分に少年は絶望を上乗りし続け、生きることを諦めた。罪人だと命を狙われ、逃げ続ける毎日ももうたくさんだった。ただ、苦しかった。

 

 そんな彼に手を差し伸べたのが、同じ特級呪詛師の『夏油傑』という男だった。

 この男は非術師(猿ども)が存在しない世界を作ろうとしているのだという。夏油の側には二人の少女もいた。彼女たちは影男と同い年だった。

 

 

「君が苦しまない世界を私は作りたい。だから、共に来てくれないか?」

 

 

 大きな手が身も心もボロボロになった少年の頭に触れ、やさしく撫でた。少女二人も血や泥で服が汚れるのも気にせず影男を抱きしめる。

 もう枯れたと思っていた涙が途端にあふれ出した。

 

 

 影男とて人を殺したいわけではなかった。しかしやさしい両親を殺した禪院家(アイツら)が許せなかった。身勝手な理由で父と母は殺されたのだ。

 

「菜々子たちといっしょに行こう、影男くん!」

 

「夏油様はすっごく強くてカッコよくて、どんなやつが来ても殺してくれるんだよ!」

 

「もちろん、無理にとは言わない。私は君の意思を尊重するよ」

 

 夏油の手も、双子の体温もひどく温かい。少年はそのとき、封じ込めていた両親との温もりに包まれた日々を思い出した。

 

 

「ぼくは…生きていて、いいの?」

 

「ッ……もちろんいいんだよ」

 

「ほんとうに………ほんとうに?」

 

「…ああ」

 

 

 二人の少女は壊れてしまった少年の瞳を見て、耐えきれず涙を流した。夏油もまた小さな頭を強く抱きしめた。

 

 ここから、茂山影男の人生が再びはじまることになる。

 

 

 

 

 

 彼らの頭上では一匹のカラスが電柱に止まった。その黒いくちばしが開く。

 

 

「『視点が違えば世界は大きく変わる。ここは私が君の記憶を読み取り作り出した領域(世界)なのだよ、茂山影男くん。…と言っても、今の君は自分が何者だったのか覚えていないだろう』」

 

 

「『この世界の登場人物は実際の人間をそのまま再現したものだ。彼らの性格は何も変わっていない。違うのは君が“縁”に恵まれないという点だ。とどのつまり、君はあり得たかもしれない世界線の自分を体験している』」

 

 

「『社会には悪意が蔓延している。君は浅桐みのりの件でそれを改めて実感しただろう』」

 

 

「『君の矛盾は人を助けようと思いながらも、いざその力を使うことになったとき、その人間が悪人だとしても人に向けるのを躊躇してしまうことだ。だから私が小娘の肉体と結合する隙を作ってしまった。その甘さは呪詛師にまで向ける気か?』」

 

 

「『この世には救いようのない人間がいる。非術師だろうと、術師だろうと』」

 

 

 茂山夫妻の死体が積み上がる。

 

 

「『私の母が原因不明の呪いに侵されているとわかったのは、私が高専に入学して間もなくのことだった。治療を受けさせるにはそれなりの金が必要だった』」

 

 

「『懸命に働いたよ。それでも母を治すことはできず、最後は呪いに苦しんだまま死んだ。私は天涯孤独となった。それから間もなくして、私はある単独任務で命を落としそうになった。等級違いの任務で、相手は特級相当だった。この件と、母にかかっていた呪いについて高専を疑問視した私は、呪術師をやめ、呪詛師として母の死の原因を調べることにした』」

 

 

 美々子と菜々子の死体が積み上がる。

 

 

「『そして────やがて私は、一つの仮説にたどり着いた。証拠はないが、確証はあった。これを君に話せないことを残念に思うよ。──ともかく、私はそのとき復讐を誓った。必ず母の死に報いようと』」

 

 

「『ようやく、ようやく真実のすぐ側まで近づいた。私には己の力を100パーセント扱える器が必要だった。その器こそが君なのだ、茂山影男くん』」

 

 

「『呪霊に転じてから私の力は変化した。本来の『呪霊操術』とは少し異なる。取り込んだ呪霊の力をそのまま我が物にできる力。この力はしかし、この娘のような貧弱な器では無意味なのだ』」

 

 

 夏油が、五条によって殺された。

 

 影男の体は積み上がった死体の血で真っ赤に染まる。全身余すことなく染まって、そのくせ目だけは爛々と輝いていた。

 

 

「『憎いだろう? 大切な者を奪った奴らが。復讐したいだろう?』」

 

 

「『君の理解者は私だけだ。さぁ、私の手を取れ』」

 

 

「『────さぁ』」

 

 

 バラバラと、少年の心が壊れていく。

 

 影男の視界に映るのは、どこまでも真っ赤な空だった。

 

 

 

 

 

 

 

 壊れた少年の中から出てきたのは。

 

 

 

 どこまでも真っ黒な、『???(人の姿をしたナニカ)』。

 

 

 

 その瞬間最上の表情がこわばり、冷や汗が流れた。

 

 

「『あぁ………私があの時感じたのは、これだったのか』」

 

 

 夏油夫妻と茂山影男を襲ったとき、最上は一瞬だが鳥肌が立つほどの悪寒を感じた。

 その正体が今、微笑む。実際にそれが笑ったわけではないのだが。

 

 

「『…ハハ、わかった、呪い合おうじゃないか。お互いの死力をかけて。だが見くびるな。この世界すべてが私の取り込んだ呪霊の呪力でできあがっている』」

 

 

 言うなればここは最上啓示の生得領域と言ってもいい。

 すべてのものが歪んでいき、禍々しいバケモノとなり『???』に襲いかかる。

 世界が唸り声を上げ、呪力同士が激しく衝突していく。

 

 それはまさしく、世界の終わりのような光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 今回の結末………というか、僕は浅桐さんの体に入った後のことを覚えていない。気づいたらあの件から一か月以上経っていて、僕は病院のベッドで寝ていた。

 

 あの後最上がどうなったのか、浅桐さんは無事なのか夏油さんから聞いた。

 

 最上については僕がちゃんと浅桐さんの中から追い出せていたようで、浅桐さんはケガはしていたけど、精神の方は無事だったらしい。

 

 問題の最上は現場にさっそうと現れた五条さんが祓ったそうだ。僕が入院するハメになったのは、幽体離脱をして浅桐さんの体に入ったのが原因じゃなくて、五条さんが領域展開を使ったせいだった。それほど事態は深刻だったということ。いや……五条さんの領域展開がどんなものか知らないけど、とにかくすごいんだろう。僕以外に巻き込まれた人たちに後遺症はないそうだ。夏油さんと浅桐さんの方は五条さんが触れ? ……ていたから無事だったらしい。

 

 ひとまず事が丸くおさまってよかった。

 

 真依ちゃんは五条さんにプンスコしつつも僕の退院を喜んでくれた。他にも真希ちゃんや狗巻くんたちから退院祝いをもらっている。友だちってやっぱりいいなぁ。

 

 

「茂山ァ!! 事故に遭ったと聞いたが大丈夫かァァ!!!!」

 

「二か月のうちにせっかくの筋肉が衰えちまったな……」

 

「また一から頑張って行こうぜ!!」

 

「ちょっと!! そんなむさ苦しい筋肉で退院したばかりの影男くんに近づかないでください!!!」

 

「ム……せっかくだし胴上げをしようと思ったんだが……」

 

「絶対にやめなさい!!!」

 

 しょぼんとした部長たちはトレーニング器具に戻っていった。

 筋肉が落ちてしまったのは本当だし、また頑張って鍛えないといけない。

 

 それと、浅桐さんはまた転校することになったみたいで、結局あれから顔を合わせないまま終わった。

 一応事情を知った彼女から手紙はもらっていて、そこには感謝の内容と謝罪の言葉が連ねられていた。

 

 

「『まっすぐ生きられる人間になりたい』……か」

 

 

 今後どうなるかは浅桐さん次第だろう。“最低”の彼女のままかもしれないし、更生して真っ当な人間になるかもしれない。

『茂山くんは本当はカッコいいんだね』とも書いてあったけど、どうせこれは「狙ってる」発言の時のように冗談だろう。僕は二度と騙されないぞ。

 

 

「……あ、もう桜が咲いてる」

 

 

 季節は気づけば春になっていた。僕はいよいよ三年生になる。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 ある報告書に目を通す一人の少女。

 それを読み終わった彼女は紙の束を机の上に置いた。

 

「状況証拠を合わせて、五条悟と夏油傑は上手く誤魔化したか」

 

 浅桐正志の屋敷は全壊したものの、夏油が機転をきかし呪霊でその場にいた者を守らせたことで死者は出なかった。この自称霊能力者たちは最上にぶちのめされた段階で気絶していた。

 

 次に少女はもう一つの報告書に目を通す。五条が関わった特級の件だ。建物など派手にぶっ壊したようだが人的被害は出さずに終わらせ、その足で夏油の元へ直行したようだ。

 

「最後は茂山影男の手によって消滅したが、君は十分に働いてくれたよ」

 

 最上啓示が母の復讐を企んでいることはわかっていた。それを隠し、「世直し」だと称して自分に迎合したように見せかけていたのも。すべて少女は知っている。その上でコマを進めてきた。

 

 

「………くくっ、ははは! いやぁ、彼は最後にとんでもない置き土産を残してくれたね」

 

 

 努力・友情・勝利を掲げても今回はきついと思っていたが、面白いモノを見つけた。精神世界で最上啓示を打ち倒し、現実に吹き出した『???(アンノウン)』。呪力暴走を起こした時の力が100%とするなら、『???』はそれをはるかに超えていた。

 五条はアレを押さえるため『無量空処』を使い、無理やり本体の少年ごと強制的にシャットダウンさせたのだ。

 

 

「まだ可能性はある。やはりこのコピーの術式ではムラがあるからなぁ」

 

 

 少女は無意識に額の傷を指でなぞり、笑った。

 

 


 

 

 ・影男

 口元の傷は家入の反転術式で治したけど傷痕は残っちゃった。

 ちょっと落ち込んだけど、真依は「傷のある顔もかわいい」と言うので、そこはカッコイイじゃないんか…? と思った。

 

 ・五と夏

 無事に脳破壊。なんでそんなピンポイントに同じ場所に傷ができるんですか?

 

 ・エクボ

 影男の事件に巻き込まれ率を体感し始めてる。描写がないだけで宇宙人と遭遇したり、密かに元カッコワライの信者たちに神として捜索されてる。団体の名前は『サイコヘルメット教』。

 

 ・少女

「夏油! 君に決めた!!」

 血を摂取することでコピーできる術式持ち。夏油の血はすでに入手済み。(随分前の夏油が連続で任務を入れられてケガをした時に)

 ただしコピーした術式は劣化版。この術式でチャートを走るのはかなりむつかしい。

 

 

 ・主人公『史上最年少特級呪詛師』√

 夏油と出会わず、禪院姉妹と親交度を深めなかったことで生まれる√。

 両親が禪院家の手の者によって殺されたと知り、『殺意』が暴走する。この際に騒音に気づいた真依と真希が向かってみると、今まさに扇の頭を握りつぶす影男を目撃することになる。

 影男は二人の目にある恐怖の感情を、自分が最初に傷つけた少女と重ねて我にかえる。

 あたり一面の血の海。自分の手にこびりついた肉や皮。直後発狂して、逃げ出す。

 直毘人は駆けつける前に事が終わっていたので生存。直哉はそもそも不在。

 十数名の死者。ならびに、当主候補は直哉以外死ぬことになる。(ヤッタネ直哉!ライバルが減ったよ!)

 

 仮に夏油と出会っていた場合は、向こうが呪詛師堕ちしないため、禪院家から逃げ出した後に死ぬことになる。

 

 夏油に拾われようが拾われまいが、術師の攻撃を受けて(特に報復のために動く禪院家)体の至るところが傷だらけで、体の一部も失う。

 

 呪詛師夏油に拾われたあとは夏油一派に。ただしこの際も「人を殺す」ことはできずにいる。また、夏油のやり方も容認できずにいる。ただこの人は自分を拾ってくれた人で、「生きていてもいい」と許してくれた人。

 相反する感情が余計に影男の精神を磨耗させる。夏油も影男に「人を殺す」仕事は任せない。

 美々子と菜々子、一方はそんな中途半端な甘さを持つ上に、夏油に特別視されている影男を嫌うようになり、一方は逆に、夏油に特別視されていることも相まって恋愛感情に発展する。

 

(甚爾似の顔が露見して夏油に殺されかけるイベント有り)

 

 そして最後に夏油が死んだ時、彼の心は完全に崩壊して『???』が現れ、ワルプルギスの夜が始まる。

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