茂山影男   作:ピンチャンよ永遠なれ………

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35話 青春アミーゴ!(白目)

 姉妹校交流会が近づいてきた。この交流会は東京校と京都校で、呪術界が閑散期になってきた頃合いに行われる。開催場所は前年度に勝利した側のホームグラウンド。前年度の勝者は京都校である。すなわち、今年の開催地は京都ということになる。

 

 2日間かけて行われる本交流会は、初日が団体戦、2日目が個人戦となる。

 参加できる学年は2年と3年。場合によっては人数合わせで、生徒の実力を考慮しつつ1年が加えられる。

 活躍すれば、等級を上げることも可能である。

 

 ちなみに東京校の場合、参加しない生徒は居残りになる。1年たちは「行きたい行きたい!」と学長にごねたが、一蹴されてしまった。彼らは作戦を変更し、五条にゴマをすりに向かった。

 

 

(乙骨くんかぁ…)

 

 影男は自分と似ているらしい少年と出会うことが楽しみになっていた。相手はしかも男子生徒。少ない男友だちを増やすまたとない機会である。

 友好を育むなら、やはり京都を案内するのが一番だろう。影男の妄想が膨らんでいった。

 

 

「────!?」

 

 

(……ん?)

 

 

 廊下を歩いていたら影男は、聞こえてきた声に足を止める。声は歌姫のものだった。

 声のする方に向かってみると、歌姫と夏油が何やら話し合っている様子。

 

「人数合わせで乙骨憂太を入れるにせよ、懸念点が多すぎるのよ…」

 

「そこについては私も同意見だ。悟は『完全顕現は制限してるし、万が一でも僕や傑がいるから大丈夫大丈夫』と軽い調子で言っていたよ」

 

「アイツが言いそうな事ね…」

 

「『っま、歌姫は役に立たないけど(笑)』」

 

「………五条ォ〜〜!!!」

 

 歌姫の体が震える。怒り心頭な彼女の様子を夏油は愉快そうに見ていた。

 

(庵先生、大変そうだな…)

 

 影男は内心で歌姫に同情した。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 姉妹交流会の前の合同練習。

 2年と3年同士が戦い、その様子を1年が観察する。2年──特に東堂と加茂の力は凄まじい。もはや東堂一人で3年全員をあしらえてしまうと思えるほどに。そして実際、東堂ならば可能だった。

 

「────つまらん」

 

 3年の一人を打ちのめした東堂はそう言い、ため息をついた。

 心なしか、途中で制服を取っ払われた大胸筋も寂しげである。いや、そもそも脱いだのは東堂自身である。それに加茂でさえジャージを着ているというのに、東堂のみ制服姿だった。

 

「3年には同情するわ…」

 

 影男の隣に座っていた真依が呟く。

 この京都校で誰が一番ヤバいかと問われれば、間違いなく全員が「東堂」と答えるだろう。

 

 

「………」

 

「……影男くん、何であの筋肉ダルマをじっと見つめているの?」

 

「………」

 

「影男くん…!?」

 

 真依が影男の肩を揺さぶる。

 

「(やっぱりすごいな、あの筋肉…)」

 

 あの、部長と並ぶ鍛え上げられた筋肉。影男は風呂の一件以来、東堂を苦手としているが、あの筋肉には憧憬の念を抱いていた。一朝一夕では、あのマッスルは身につかない。

 まるで鍾乳洞にできあがった長大なつららのように、日々の鍛錬を欠かさず、磨き上げられた末に行き着くマッスルの頂。

 自分もあの頂を目指したい。影男の瞳に輝きが生まれた。

 

 

「そう言えば…」

 

 東堂がチラリと影男の方を見た。

 

 

「茂山、等級は1級だったな?」

 

「…? そう、ですけど……」

 

「つまり、等級だけ踏まえて考えれば、オマエはこの場にいる生徒の中で一番の強者ということになる」

 

 周囲は嫌な予感を察知した。肝心の影男はまだ気づいていない。真依はとっさに影男の前に出る。東堂はその光景にフッと笑った。

 

「オマエは愛する女に守られる男でいいのか?」

 

「…いや、その前にこれってどういう状──」

 

「これ以上影男くんに近づかないで! 悪影響が出る!!」

 

「フン、一つ手合わせを願おうか、茂山影男」

 

「…あ、なるほど」

 

 東堂の意図を察した影男は、歌姫に視線を向けた。向こうは「アンタがいいなら構わないわ」と、投げやりな視線を返す。彼女の顔はすでに疲れ切っていた。

 

「……まぁ、別にいいですよ」

 

「影男くん…!!」

 

「やるならば、双方全力で──だ」

 

「…いえ、僕は全力を出しません。出したら、あなたを過剰に傷つけてしまうことになる」

 

 影男の優しさから出た言葉だった。しかしこれは別の解釈をすれば、東堂が自分よりも格下であるから全力を出さない、と言っているに等しい。

 東堂の場合、「茂山が全力を出すのに、己は相応しくない相手である」ととらえた。

 彼は獰猛な笑みを浮かべる。

 

 

「ならば茂山、俺はオマエに全力を出させてやろう」

 

 

 東堂と影男の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 東堂葵の能力は手を叩くことで、術式範囲内にある「一定以上の呪力を持ったもの」の位置を入れ替えることができる。これは生物・非生物を問わない。術式名は『不義遊戯(プギウギ)』である。

 

「手を叩くことで入れ替わる」──と、東堂は影男に術式の開示を行った。

 この術式の開示はデメリットもあるが、術式の増強などメリットも大きい。

 

「────ッ!」

 

 パァンと、手が叩かれた。先ほどまで影男がいた位置に東堂が。東堂がいた位置に影男が移動する。

 

「ぐっ…!」

 

「なかなかイイ反応速度だ!」

 

 東堂の拳をかろうじて両腕に呪力をまとわせて防ぐ。だが威力は殺しきれず、後ろに転がった。白Tが土で汚れる。

 

(本気の時の真希ちゃんと比べれば、目で追えない速度じゃない。……それでも、速いッ…!!)

 

 入れ替わりが生じる都度、影男は守りに転じた。攻撃に移ることができない。

 そう思っていた直後、また手が叩かれた。東堂がどこから襲ってくるのかと、思考が切り替わりかけたところで、彼は気づく。

 目の前から、東堂が消えていないことに。

 

「なっ……がっ!!」

 

「影男くん!!!」

 

 今にも飛び込もうとする真依を、西宮が止めた。「飢えたゴリラがいるのに行かせられるわけないでしょ!」と西宮は声を荒げる。

 

「それにもうちょっと、自分の彼氏を信じてあげたらどうなのよ。見た目はひ弱そうだけど」

 

「……わかっ、たわ」

 

 真依は一旦体の力を抜き、試合を見守った。

 

 

 拳を叩き込まれた影男は、森の方に吹き飛び木に背中を打ちつけた。肺の酸素が一気に吐き出される。やはり風呂の時の一撃のように、東堂の拳は速いだけでなく、重い。しかし、さっきのはさらに重かった。あの筋肉から織りなされる打撃は呪力を纏わせると、とてつもない威力になる。

 

(痛ッ……)

 

 ボタ、と鼻血が地面に落ちる。靴が砂利を踏む音も聞こえた。地面に手を付いていた影男は、東堂へ視線を向ける。

 

「フム、その目……まだ、オマエの中に闘志は生まれないか」

 

「闘志って…これはあくまで、練習じゃないですか」

 

「練習だからと、オマエは手を抜くのか?」

 

「違う。だからッ、僕の全力は東堂先輩を必要以上に傷つけてしまうから──」

 

「そんなもの、やってみなければわからないだろう」

 

「……ッ、僕はアンタのことを傷つけたくないって言ってるんだ!」

 

「2回だ。真依は先ほどだけでも2回、オマエの前に立った。あるいは、立とうとした」

 

「………」

 

「そのオマエの()さがいつか、取り返しのつかない事態を引き起こすと、想像したことはないのか?」

 

 

 影男の弱さ。呪霊はともかく、人を傷つけてしまうことを極端に恐れる点。他害を恐れるあまり押し込み癖がついてしまった感情が、何らかの形で爆発する可能性。

 その100パーセントは仲間を守る盾にも、あるいは仲間を傷つける矛にもなりうる。

 

 東堂は問う。影男の弱さを。

 その弱さはいずれ、影男が大切にしている人間を失う事態を招くかもしれない。

 

 

「俺に全力を向けろ。己の弱さを乗り越える一歩を踏み出してみせろ!」

 

「…………それでも、できないよ」

 

「…そうか。残念だ」

 

 東堂はため息をつき、失望──に近い感情を浮かばせる。

 人にはそれぞれ、譲れない根幹がある。影男にとっては人間に自分の力を向けることが、一番避けたいことなのだ。

 

 

「それに、東堂先輩はちょっと……色々すごいところがあるけれど、僕らの仲間だ。

 

 仲間を傷つけたくないって思うのは、当たり前のことでしょ?」

 

 

 影男は、幸吉の時は相手が所望したことと体がメカだったこともあり、全力を出すことを引き受けた。

 しかし東堂は違う。体は当然メカではない、生身の人間だ。全力を所望されている点は同じだが、ボディの点で二者は大きな違いがある。

 

 

「────なるほどな、茂山影男。オマエは俺の仲間(バディ)だと申すか」

 

「……バディとは言ってないけど」

 

「なればこそ! 俺に()()仲間(バディ)だと認められたいならば────全力を出せッ!!」

 

 なぜだか、話が飛躍している。しかしてヒートアップする東堂の耳に影男の「ちょ、ちょっと…」の声は届かない。

 

「僕の話を聞いてください!!」

 

「さあ、構え直せ!!」

 

「東堂先ぱ……」

 

「どうした? ではこちらから行くぞ!!!」

 

 

 影男はこの時思った。

 まったくもって、話が通じない。

 

「嫌だ」と断っているのに執拗に強要され、あまつさえ飛躍した話に待ったをかけようとしているにも関わらず、東堂は一切話を聞かず殴り込んでくる。

 普段、東堂や加茂、夏油や直哉に声を荒げている歌姫はきっと、このような気持ちなのだ。

 

 影男の中で芽生え、蓄積された感情。

 

 それは、『不快感』だった。

 

 

 

「いい加減にしてくれッ!!!」

 

 

「────!!」

 

 

 呪力の本流が、東堂にぶつけられる。波動のように放たれたそれに対し、手を叩く間もなかった。

 東堂の体は校舎の方へ勢いよく吹き飛び、派手な音を立ててぶつかった。

 観戦者は一部始終に呆気に取られていた。歌姫は無意識にガッツポーズをしている。

 

「っね、言ったでしょ、真依」

 

「かっ、影男くん……」

 

「すっかり乙女の顔ね、アンタ…………って、え?」

 

 西宮は影男の方を見て、目をこする。それから真依の方を見て、もう一度影男を見た。

 同様な反応を三輪もしていた。彼女の場合、影男がメカ丸に本気を出した時に、目に砂が入ったせいでその顔を見ていなかった。

 

「こ、幸吉………あれは、モブくんですよね?」

 

「…まぁ、最初はそんな反応になるよな」

 

 幸吉の場合はメカが破損したため一度目は影男の顔を見れず、二度目の時にその顔を見ることになった。

 

(茂山君のあの顔の変化は、呪力が関わっているのか…?)

 

 若干一名、真面目に考察している者もいた。

 

 

 

 一方、荒い息を吐いていた影男は、我に返った。

 東堂がぶつかった場所は大きく壊れ、瓦礫と土埃が舞っている。

 顔を真っ青にした彼は、慌てて東堂の元へ向かった。

 人を傷つけてしまった。それも、暴走した力で。

 過去のトラウマが沸々と思い出される。歯がガチッと音を立てて軋んだ。

 

「……! 東堂先輩!!」

 

 土埃の中から立ち上がるシルエットが見えた。少しずつ視界が明瞭になる中、男──東堂葵は頭や体など、ところどころから血を流しながらも、影男の本気の一撃を食らってなお、立ち上がって見せた。

 

「────フフッ」

 

 東堂は高笑いする。その行動に影男の歩が止まった。彼は困惑の表情を浮かべる。

 

 

「面白い。実に面白いぞッ、茂山影男!! よもやこの俺を、あのように吹き飛ばすとはなァ!!!」

 

 

 東堂は今にも食い殺さんばかりの狂笑を浮かべる。そのあまりの剣幕に、影男は後ろへ後退した。

 

「認めよう、茂山。オマエは俺の仲間(バディ)であると。そして同時に、オマエは俺の好敵手(ライバル)となった」

 

「えっ……?」

 

好敵手(ライバル)よ。交流会までの間、俺の特訓に付き合ってもらうぞッッ!!」

 

「えっ────?」

 

 

 こうして、影男の楽しい(意訳)東堂との青春が始まることになったのだった。

 

 


 

最上の格がどうしても下がってしまうように感じたので補足。

 

せっせと1000万体以上の呪霊を集めていたヤベェ人や、五条悟というチートがいる中で、「呪霊を集める(力の増強)」「高専に自分の存在がバレないように動く」「母を殺した黒幕への復讐」という鬼畜ゲーをしていた最上。

自殺の目的は体を奪わせない&呪霊になるため。(ここで黒幕の人の体奪取が失敗に終わる)

高専がそもそも信じられないから頼れる人間もいない。

ひとえに呪術の世界と物語の黒幕に転がされてなお、孤軍奮闘&隠れながら手に入る呪霊が少ない中で、一つの目的を遂行しようとした人だと伝えたい。

多分、死ぬ前の母親に「お前のせいで」とは言われている。周囲には視えないものが視えるお前のせいで私は呪われて……な意味の「お前のせいで」。

 

モブサイコの原作ではマジで得体が知れん相手なのでぜひ見てね(露骨な布教)

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