茂山影男   作:ピンチャンよ永遠なれ………

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里香にビキッってしてた乙骨くんを見ていると、DVの才能がありそうだなって思っ……あ、やめて殴らないで


37話

 急なメンバー変更だったが、練習における京都校のチームワークは悪くない。独断で動く一名を除いて。

 3年も西宮や加茂と上手く息を合わせている。加茂は天然気味なところはあるが、一丸となる場面では真面目な性格もあり、リーダーシップを発揮し頼れる存在となる。

 

 一方で、影男と真依はさすがといったところで、ツーマンセルでも阿吽の呼吸で相手を追い詰める。影男の変幻自在は呪力は、相手が考える『選択肢』を増やす。

 石を操作してぶつけてくるかもしれない。単純に呪力を纏わせ殴り込んでくると見せかけ、別の攻撃を仕込んでいるかもしれない。──とまぁ、こういった具合に。

 そこに真依の射撃が加わる。本番は実弾だ。真依の銃を握る手にも力がこもる。

 

 

 そして各々の準備は進み、いざ当日。

 京都校に、東京校のメンバーが訪れた。

 

 

 

 

 

 ⚪︎⚪︎⚪︎

 

 

 1日目は団体戦。

 ルールは指定された区画内にいる2級呪霊を先に祓った方が勝利になる。

 

 僕らは庵先生や夏油さんが立ち合いのもと、前日に作戦会議を立てていた。ちなみに東堂先輩は高田ちゃんの番組があるため、この場にいない。

 

 まず、気をつけるべきは乙骨くん。彼に取り憑く呪霊が乙骨くんを「特級」たらしめる理由になっている。

 

 

「乙骨憂太が『祈本里香』の完全顕現を制限しているとはいえ、彼の意思とは関係なくその一部が出てくる可能性は十分にある。そして、そのトリガーは彼自身を傷つけるだけで引かれ得る」

 

「要は手を出すだけでアウトかもしれないってこと。ついでに言うと、向こうは勝つためなら力のある乙骨を利用してくるでしょうね。発生するリスクも承知の上で」

 

 乙骨くんに取れる選択はおよそ二つで、一つ目は戦闘を避けること。もう一つは全員で囲い込み、リタイアするように圧力をかけることだった。

 

 戦闘を避ける場合は、迂回しなければならなくなる分、こちらの動きに一定の制限がかけられてしまう。

 もう一つの方も、全員が囲い込んだ圧力で乙骨くんに危険が迫っていると彼の呪霊が判断し、出てきてしまう可能性がある。

 

「乙骨憂太が積極的に攻撃の手を加えてきた場合も、こちらは逃げる選択を取らなければならないのですか?」

 

 手を挙げてそう尋ねたのが加茂先輩だった。

 夏油さんは顎に手を当てて少し考え、「その可能性はかなり低いと思うよ」と言う。

 

「一度乙骨くんとあったことがあるが、彼は進んで攻撃をするタイプじゃない。ただ……」

 

「ただ?」

 

「……そうだね。あのタイプはもしかしたら、仲間に手を出されると一気に感情が昂るかもしれない」

 

 夏油さんがチラリと僕を見た。大丈夫。ちゃんと話は聞いてるよ、夏油さん。

 

 

「思ったけどさぁ、あのゴリラがいる時点で「乙骨憂太に手を出さない」っていうのはムリがあるんじゃない?」

 

「桃の言うとおりよ。まずあのゴリラをどう飼い慣らすかが重要よ」

 

「それだったら、ちょうどいい生徒がいるわよ」

 

 庵先生は、五条さんが乙骨くんと同じように将来を期待しているらしい、2年の『秤金次』という生徒の名前を挙げた。

 庵先生は秤さんに東堂先輩をぶつけて、その間に他のメンバーで呪霊退治を進める案を出す。

 

「五条が注目してるならその強さも一品よ、間違いなく。だから東堂に動きを止めてもらう(アンド)、東堂自身の動きにも制限をかけて一石二鳥になるわ。加茂、アンタは東堂に「乙骨憂太と同様に五条に注目されている()()生徒がいるらしい」って、アイツに匂わせといて」

 

「わかりました」

 

「東堂の性格的にも、より()()()方に食いつくはずよ。慣れない土地で、しかも1年は自分1人。そんな状況なら、乙骨の内情的に最初のうちは緊張するでしょう。彼のマイナスな部分が出るところよ。で、あれば、どちらがより美味そうに見えるか…って話。まぁ、それを丸無視して東堂が乙骨に殴りかかる可能性も否定できない。ここは運次第ね………ハァー…。────それで」

 

 乙骨くんを放置するか、先にリタイアさせるか。

 交流会といっても、中身は想像以上に火花が散っている。

 

 

 というか今更だけど、先生が一人足りない。庵先生に尋ねたら、禪院先生は「乙骨フルボッコ」派だったらしく、この場への参加を見送ったらしい。

 

「戦いの最中で乙骨くんを巻き込んでしまう可能性もあるんじゃない?」

 

「そうなるとやっぱり、先にリタイアさせた方がいいんじゃないですかね…?」

 

 議論は続き、結果的に乙骨くんを最初のうちにリタイアさせる案が通った。

 

 誘導役は庵先生の提案で、まさかの僕になった。

 曰く、近づいてもアンタが一番警戒されにくいだろうから──らしい。

 

「女じゃ嫉妬されるかもしれないしね。『祈本里香』と乙骨憂太の関係性を考えたら」

 

「関係性?」

 

 首を傾げた三輪ちゃんに、庵先生は片目を瞑り、小指を出して「これよ、これ」と言う。

 女子たちは一様に「あぁ〜……」という反応をした。僕と加茂先輩、それと3年の先輩だけが取り残されている。

 加茂先輩は同じように小指を出し、「これとは?」と聞き返した。半目になった庵先生は、「スマホを使え、スマホを」と言い放った。

 

 

「歌姫先生、ちょっといいかな」

 

「生徒がいる前だと都合よく「先生」呼びするわね、夏油」

 

「影男くんはあまり乙骨くんと接触させたくないんだ。誘導役に選ぶなら加茂くんに任せたい」

 

「加茂だと余計なひと言を放って、向こうの気を著しく害しかねないわ。こういうのは影男くんの方がいいわよ」

 

「モブくんも空気が読めない時はあるよ、そこそこ」

 

「加茂ほどではないって私は言ってんの」

 

 ……夏油さんって、ナチュラルに人の心をえぐる言葉を言ってくることがあるんだよなぁ…。

 

 

 それからしばらく先生同士で話し合いが続き、夏油さんが折れたようだった。

 

 作戦会議もこうして終わり、一同部屋に戻ることになる。

 立ちあがろうとした僕は長時間正座をしていたせいで、そのまま畳の上に倒れた。真依ちゃんは「あっ」という顔をしたけど、大丈夫の意味を込めて手を振る。真依ちゃんは眉を下げて三輪ちゃんたちと場を後にした。

 僕も足のしびれが治まったところで立ち上がる。部屋にはすでに、僕以外にもう一人を残して誰もいなかった。

 

 

「どうしたんですか、夏油さん?」

 

「…いや、心配でね。君のことが」

 

「僕ももう16歳なんですから、大丈夫ですよ」

 

 隣り合って廊下を歩く。こうして夏油さんと並んで歩くのは久しぶりだった。

 改めて見ると、少し見上げる位置に塩顔がある。昔はもっと、首を垂直にさせて夏油さんのことを見ていたのに。

 

「歌姫は私と違って乙骨くんや『祈本里香』を実際に見たわけではないから、想定が甘くなってしまう節がある。そこは仕方がない」

 

「夏油さんが心配しているのは、乙骨くんの呪霊が暴走したらってことですよね?」

 

「…あぁ。けれど、もしその暴走を受けて君や、君の仲間が傷ついてしまった時────その時の、影男くんが心配なんだ」

 

「………僕が感情に任せて、暴走してしまうんじゃないかって…ことですか?」

 

「……いや、君ならきっと良い方向に己の感情を昇華できるよ。影男くんが成長する姿を、この目で見てきたからね。そこは信じている」

 

「じゃあ…」

 

「君の心が傷つくことが、恐ろしいんだ」

 

 夏油さんは顔を上げ、差し込む月明かりを見つめた。

 その顔は見えない。どこか遠い場所を眺めている。そして、頭を押さえた。

 

「間近で見た七海は、この比ではなかっただろうな…」

 

 ひとり言のように呟いて、僕の方を向く頃には、きっと月に向けていた表情を取り替えて、笑みを作る。少し無理のある笑みだった。

 

 

「僕は、大丈夫ですよ。もし大丈夫じゃない時は、真依ちゃんや与くん、三輪ちゃんを頼ります。……夏油さんは今、「大丈夫」ですか?」

 

「……大丈夫じゃないように見えるかな?」

 

「それはもう、ものすごく」

 

「ハハッ……どうもね。私が頼れる存在が、東京の方に集中しているせいかな」

 

 電話だけだと、補えないものもある──とこれは夏油さん。

 実際に会って、飲んだり食べながらでしか吐けないものがあるんだと。

 

「もちろん、君のことも頼りにしているよ。1級術師くん」

 

「……任せてください」

 

 僕が両方の拳を握ると、目を丸くした夏油さんは「何でファイティングポーズを?」と笑った。

 

 

 その夜は久しぶりに家族で夕食を食べた。

 食べたのは、カツ丼だ。

 

 

 明日の団体戦は、僕らが勝ってみせる。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「私たちも京都に行きてェ〜!!」

 

 時は少し遡る。

 1年の教室では、嘆く者たちの姿があった。現在、ミミナナとパンダのチームは任務で出ており、部屋には乙骨と真依、そして狗巻の3人しかいない。

 

「京都校には真希さんの妹がいるんだよね」

 

「そうだよ」

 

「すじこ、ツナマヨ」

 

「そう、モブのやつもいる」

 

「茂山…影男君だよね」

 

 乙骨は真希たちから自分と似ているらしい男の存在を、よく聞かされていた。

 話によると、真希とは超遠縁の関係らしい。また、妹の彼氏であることも知らされている。

 

「アイツはなぁ、真依のために京都に行っちまうような男なんだよ」

 

「しゃけ…」

 

「茂山君かぁ…」

 

 乙骨は実際の茂山影男がどんな人物なのだろうかと、気になっていた。

 

 

 それから、土壇場で京都校のメンバーの入れ替えが知らされ、抜けた3年の穴に1年生が加えられた。

 メンバーは茂山影男と禪院真依。それを知らされた真希は驚いた様子だった。

 

「真依のやつ…()ってェー自分から進んで出たな」

 

「………」

 

「憂太クンさぁ…」

 

「はっ、はい?」

 

「くれぐれも……さぁ? よろしく頼むわ…」

 

 真希の手が乙骨の肩に置かれ、ミシッと骨を軋ませた。

 

『祈本里香』の危険性は周囲も把握している。乙骨を射抜く真希の眼力には、仮に妹に傷ひとつ付けようものなら、私がお前をボロ雑巾にしてやるぜ──な、スゴ味があった。

 

 乙骨は首を赤べこにして、ウンウンと上下に動かした。

 

 

 

 そして、当日。

 お土産を同級生に頼まれつつ、京都に来た乙骨は団体戦の場に立った。

 

 事前の作戦では、乙骨を中心に動かす立ち回りが考えられた。いくつか出た案で、京都側が取ってくるであろう戦法を考え採用されたのは、乙骨を囮にするものだった。

 京都側もまた、『祈本里香』の脅威を把握している。ゆえに積極的な攻撃を避けつつ、乙骨をリタイアに追い込む手立てを取ってくるだろうと考えられた。

 東京側はその裏を突き、乙骨にひた走ってもらう間に呪霊を退治してしまおうという魂胆である。

 

 注意人物として挙げられたのは二名。

 まず、その変人っぷりの噂が東京にまで伝わっている東堂葵。

 そしてもう一人が茂山影男。等級は京都校の中でも一番高い1級。その変幻自在の呪力は大きな脅威になる──と、五条が説明した。

 

「例えばフィールドが森である点を踏まえて、植物を操り手足を拘束することが可能だ」

 

 変幻自在な呪力といったが、その最たる脅威は《現実への干渉》と、本人の《自由な思考》である。

 

 これらを可能にする膨大な呪力や呪力操作も、茂山影男の強みだった。

 

「ただ、戦闘センスなんかは壊滅的だ。今の憂太でも近接戦に持ち込めれば簡単に御せるよ」

 

 もし茂山影男とぶつかった際は、いかにして自分の間合いに持っていくかが要求される。

 

 五条は「っま、みんな明日は頑張ってね〜」と軽い調子で話を終えた。

 

 

 

(緊張するなぁ…)

 

 東京側からの1年は乙骨のみ。2年の秤や綺羅羅との交流はあまりないが、秤が強いこと、また綺羅羅の能力の癖が強いことは合同練習で実感した。3年とは言わずもがな。

 

 結果、孤独をより感じることになる。

 

(あの髷頭の人が東堂さん…)

 

 一瞬東堂と目が合った乙骨は、肩を跳ねさせる。おずおずと会釈すると、向こうは見定めるように乙骨を見つめた後、秤へ視線を移した。相変わらず秤と綺羅羅の距離感が近い。

 

(それで……うわっ真希さんにそっくり!!)

 

 真希の妹である真依は、腰近くまである長い黒髪を下ろしている。その姿が、髪を下ろした時の真希とそっくりだった。若干毛先が巻くところが、姉との違いだ。

 胸も同じくらい大き……と考えた乙骨は、自分の両頬を手で挟んだ。幻聴か、あるいは彼の精神に直接語りかけているのか、里香の「ゆう、た…?」な声が聞こえた。乙骨は「違うんだ里香ちゃん…!」と、内心で否定する。続けて、「憂太は、胸が大きいほうが好きなの…?」と里香の声が聞こえた。「小さくても僕は好きだよ!!」と乙骨は念じた。試合が始まる前から、彼のこめかみには玉粒の汗が浮かんでいた。

 

 

(………そして、真依さんの隣にいるのが…)

 

 

 真依に腕を絡め取られている青年が、茂山影男だろう。

 彼は顔から汗を流しており、何度も深呼吸している。

 

(茂山君も、緊張してるんだ…)

 

 

「「!」」

 

 

 その時、乙骨と影男の目が合った。

 数秒見つめ合ったのち、乙骨が軽く会釈すると、向こうもぎこちない会釈を返した。その隣で真希の妹は乙骨を見ながら、口もとを手で隠しニヤついている。

 

(団体戦の前に、二人とゆっくり話してみたかったな…)

 

 1日目の団体戦が幕を切った。

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