茂山影男 作:ピンチャンよ永遠なれ………
学長や教師陣が集まる一室。
京都校側は楽巌寺学長をはじめとした歌姫、直哉。
東京校側は夜蛾学長と五条、この部屋にはいないが家入もいる。家入は反転術式が使える影男が団体戦に参加することになったため、派遣されることになった。
ちなみに、夏油や直哉は教師ではあるが、非正規雇用な立場である。
「おたくってさ、毎年似たような内容ばっっかり出すよねぇ。競技名を変えてるだけじゃん」
広々としたソファーを一人で占領する五条に、楽巌寺はこめかみをピキらせた。
例年ならばこの場に監視役として同席する冥冥は、別件のため海外に出向している。
そのため、監視役として選ばれたのが夏油だった。冥冥と比べれば精度は落ちるが、呪霊を用いた監視が可能である。
この監視については、『縛り』を用いて呪霊から得られる情報の解像度を上げている。本来“操作する”呪霊を、自由に動けるようにしたのだ。監視用として使う呪霊は、団体戦が終わるまでは操作下に戻せない。緊急事態の時は、それとは別の呪霊を出す必要がある。
もちろんここには「①人間と競技用の呪霊を攻撃しないこと」「②
この“自由性”が、縛りを補強する材料になっている。
リタイア後の運搬については、もしその生徒での移動が不可だと判断した場合に、呪霊に渡せば運んでもらえる。
これらの作業には集中力が必須だ。呪霊からフィードバックされる情報量も多いため、脳自体にも大きな負荷がかかる。
監視を行う呪霊については、祓う呪霊と見分けが付きやすいように、祭りの屋台で売っているようなキャラクターの面をそれぞれが身につけている。この案は五条が出したものだった。
先に述べたとおり、冥冥と比べれば監視の精度は落ちる。
また、カラスの視界を映し出した映像を、今回は他者が見ることができない。夏油から直接伝達されることになるため、情報のタイムラグが起こりうる。
『祈本里香』という懸念点があるこの場で、少しの情報の遅れが最悪の事態を招くかもしれない。すなわちそれは、生徒の死。
乙骨が転入当時と比べ、彼女を制御できるようになったのは事実である。だが、絶対に大丈夫、とは言いきれない。「かもしれない」運転と同じだ。
そのため、夏油にかかる心労は重い。それこそ養子に心配をかけさせてしまうくらいには。
空を悠々と泳ぐ呪霊の上であぐらをかく夏油は、眉間の皺を揉んだ。手元には空になったエナジードリンクがある。成人してからというもの、酒を飲んだ回数よりエナジードリンクをチャージした回数の方が圧倒的に多い身である。
場所は団体戦が行われる結界の内部だ。
一応は生徒同士の交流を目的としているため、教師陣があえて離れた位置にいる中──。
そんな中でも夏油がこの場にいるのは、結界という“壁”の影響で、呪霊から受け取る情報の精度が落ちるおそれがあったからだ。
あらかじめ、結界内部は外と通話ができるように調整してあるので、有事の際の『伝達』は問題なく行える。
ふと、前髪が微風を受けて揺れる。
うなる彼の隣に立った五条は、転がっている数本の空き缶を見て、「伊地知も飲んでるやつだ」と思った。
「無理すんなよ。僕と違って新鮮な脳みそはご提供できねぇんだから」
「…この時期に高専の依頼で冥さんが海外か」
高専に入った外国からの依頼。
それは、近年の自国で秘密裏に術師が集められているという噂があり、それを裏づける証拠がいくつか発見されたため、この調査に人手を借りたい──というものだった。募集している術師の対象は、呪術師・呪詛師を問わないらしい。裏にテロリストグループが関わっている可能性もあるとのこと。
冥冥はこの募集に潜入し、裏にいる組織を探るよう高専に依頼されたのだ。フリー呪術師の彼女は海外でも活動している。そこの立ち回りも、日の本の呪術師より慣れている。適材適所だった。
「国の裏でンなことができるなら、バックには莫大な金が動いているだろうな」
「におうかい?」
「怪しいっちゃあ怪しいが、お前の件と直接関わってる感じはしねぇんだよな」
「…ただまぁ」
「怪しいわな」
もう、「高専」という言葉だけで怪しさを感じるようになっている特級術師の二人である。
「はい」
「あ?」
ふいに、五条の手に100円硬貨2枚が載せられた。
目隠しの下で胡乱な目をした五条は、硬貨を弾いてから空中でつかみ直す。
「最強を顎で使うのはお前くらいだよ」
「手数料はあげるよ」
「いらねーわッ」
自販機にあったお目当ての飲み物は180円。
20円の手数料のうち、一つはなんと、ギザ十だった。
◇◇◇
秤&綺羅羅の前に現れた東堂が「お前はどんな女が
始まって早々に走り出した乙骨の前にも、一人の少年が姿を現した。
「君が…乙骨憂太くん、だね」
「そう言う君は、茂山君だね」
「「……よ、よろしく」」
一連の光景を見ていた真依は思わずズッコケそうになる。
彼女は現在、木の上で息を殺し潜んでいた。場には乙骨に警戒されないようにと、影男と彼女しかいない。
ここから加茂らがいる場所まで影男に誘導させる。場所は木の上にいる真依からなら簡単に見える。頭上で西宮が目印となっているからだ。
西宮とアイコンタクトを交えつつ、真依は必要な時に援護射撃をして、さらに追い込みやすくする。
「茂山君は僕をねらいに来たってことで、いいんだよね?」
「うん。人に暴力は……使いたくないんだけど」
影男が腕を交差させるように手のひらを前に出す。
すると吹き出した呪力の流れに当てられ、一帯に風が吹いた。
「ッ……!」
周囲の葉をさらい、あたりが木の葉の渦に包まれる。土ぼこりも相まって不明瞭な視界の中で、乙骨は渦を逸れるように走り出した。
囮役な以上、立ち止まっているわけにはいかない。合間合間で地面が隆起したり、木がなぎ倒されてくる。
(これってもはや、自然現象を操っているようなものじゃないか!!)
規格外な力に翻弄されつつ、乙骨は倒れてきた木を一刀両断して駆け出す。
時折飛んでくる銃弾も厄介だった。真希の情報が正しければ、銃を扱う禪院真依によるものだろう。
(いったいどこから……!)
視界不良なのは乙骨も敵も同じ。どうやってターゲットを捕捉しているのか。乙骨は視線を巡らせ、暴風の中で台風の目のように、一か所だけ不自然に遠くの景色が見えることに気づく。
その先は木々の頭上。そこに真依の姿をとらえた。
真依が使っている銃はリボルバー型で、一般的に拳銃の有効射程距離は50メートルとされる。また、最大射程距離は数百メートルに達する。
およそ50メートルの距離が二者の間にあるとして、一般人なら足の速い人間でも6〜7秒はかかる。
しかして呪術師ならば、あっという間に近づける。真希に普段からしごかれ、鍛えられている乙骨ならば、ことさら。
「!!」
乙骨は真依が逃げる前に追いつき、手首に掌底を当て、拳銃を奪った。彼は手首を押さえる真依に両手を合わせ、「ごめんね…!」と言い、去って行った。
「真依ちゃん!!」
影男が慌てて飛んできた。
「ちょっと痺れてるだけよ。骨も折れてないわ」
「そう。よかった…」
「……ダメじゃない影男くん、誘導網を解いちゃ」
「………あ゛っ」
加茂たちが潜んでいる場所まであともう少しだった。乙骨は逆方向へ木々を伝いながら逃げて行ってしまった。
真依は上で旋回している西宮に手でばつ印を作り、作戦の失敗を伝えた。
乙骨を取り逃がしてしまった場合は、なるべく彼との戦闘を避けながら呪霊を狩る作戦へシフトする。
「ふふっ…でも、ありがと。私のこと、心配で仕方がなかったんでしょ?」
「……うん」
「許してあげるわよ」
ピンクな空気にいる二人を遠くから見ていた西宮は、呆れた様子で「イチャついてる場合じゃないでしょ…」とため息をついた。
それから、京都校のメンバーは二つのチームに別れて呪霊を退治しに向かった。
彼らが東京校に遅れを取ったと焦る中、ひとつの戦いが決着する。
言うなれば今日は、秤にとって
「退屈しない相手だった。──しかし、まだまだ粗さが目立つな」
両者ボロボロではあったが、東堂の尋常ならざるタフネスと、秤の運が二人勝敗を分けた。秤が
そこもまた、ギャンブルの魅力である。
「しかし……」
秤は「お前はどんな女が
「オマエが乙骨憂太だな」
そして────飢えたゴリラは、新たなエモノを捕獲する。
【チャート疾走者K】
「────だからここで、冥冥も抜いておく必要があったんですね」(メガトン脳みそ)