茂山影男 作:ピンチャンよ永遠なれ………
12月某日。冥冥からの情報を受け、テロリストグループ『爪』のリーダー、ならびにその真の目的が明るみになった。
鈴木の目的は「術師が非術師を支配する」ことである。その前段階として非術師の価値観を壊し、術師の力を見せつける。
他国もテロの危機があるなんて大変だなぁ、と他人事のように思っていた高専側は第一目標が日本と知り、ひっくり返ることになった。
ただ、この国には国家転覆を可能とする特級術師が二名もいる。他の一名は爆弾持ちなため戦力から外すとして、もう一名はさらに論外である。
テロの決行日は不明。
『爪』側は何らかの方法で五条悟を打開する策を持っている。
その方法は聞く前に冥冥が撤退することになったため、わからない。
事を受け、高専は政府と秘密裏に対策をすることになった。
しかしてすでに国の重鎮の中でも賄賂を受け取ったり、ポストを約束された者がおり、その者たちの妨害も起こり混迷を極めて行った。
「テロかぁ……」
高専生にもテロが起こりうる事態が伝えられた。
彼らもテロが起こった場合、駆り出されることになると。
『すでに怪しい動きは出てるんだろ?』
「うん。若者を中心に、変なメールが送られているみたいなんだ。「日本の改革」を銘打った文面の」
そのメールには謎のマークも書かれている。三角の中に縦書きで描かれた文字を読むと、『シメ』になる。
あからさまな『爪』の犯行だった。この送信元を国が調べている間に、奇妙な文面と共にこのマークがSNS上で加速度的に拡散されている。
その多くは「日本の改革」などふざけていると、嘲笑する者が多い。ただ、中にはこのメールに強く同調する者もいた。そういった人間の多くは、自分が置かれた現状に鬱屈している者が多い。
『このマークはもしかしたら、何らかの呪印かもしれねぇな』
「…これを使って、何をする気なんだろうね?」
『碌でもねぇ事は確かだ。……ちなみによぉ』
「何?」
『まさかよぉ、俺様は来年までこの色で居なきゃいけねぇのか?』
エクボは現在緑ではなく、ビビットなピンク色をしていた。
真人の件を受け、夏油が下した判決の結果だった。影男の手により変えられたのだ。命が残っていたことには感謝したい。しかし、誠に遺憾だった。
◇
初雪である。
テロ対策に追われる中でも、呪霊の事件は起きる。高専生たちの日常はあまり変わらなかった。一方で教師陣や補助監督らは慌ただしかった。
幸吉は『爪』の操作協力のために高専を離れている。
「最近、高専への人の出入りも多いですし……物々しいですね」
三輪が外に降る雪を眺めながらそう言った。
「テロが起こるかもっていうんだから、当然でしょう」
一年は現在、自習タイムだった。影男は任務でエクボと共にいない。
そんな女二人の教室に、もう一人加わった。西宮である。こちらもまた自習だった。
「お邪魔するわ」
西宮は影男の机に勉強道具を置いた。椅子を引いて座った彼女は、自分の腕を置く位置が随分と高いことに舌打ちした。
「幸吉の机の方が低いですよ。……あ、でもこっちは椅子がないか…」
「椅子は茂山のを借りるわ」
女子三人での自習時間。時折話が脱線しながら、カリカリとシャーペンを走らす音が聞こえていた。
◇
任務を終え高専に帰った影男は、ライダースーツの女性と遭遇した。
ヘルメットに雪がうっすらと積もっている彼女は、Uターンして逃げ出した影男をバイクで追う。呆けた顔のエクボはその場に取り残された。
「さて」
建物の隅に追い込まれた影男。ライダースーツの女性は車体を横にし、完全に退路を塞ぐ。
影男はこの女性と一度だけ会ったことがある。小学生の時、帰宅途中に現れたのだ。その際は防犯ブザーを鳴らし、自転車の警官が駆けつけてきてくれたことで事なきを得た。
この髪の色素が薄いお姉さんは、夏油が要注意人物として挙げていた女である。
「茂山影男君、君はどんな女が
影男は前がダメならと上を飛び、そのまま逃走した。
呆然と口を開けた女性は「マジでぇ…?」と呟く。
「本当に変幻自在な呪力だな……興味深い」
◇
「やあ、久しぶりだね夏油君。…おっと、リベンジといこう。君はどん──」
「何用で来た、九十九由基」
「……んもう、つれないねぇ」
慌ててきた影男に「何だ?」と思った夏油は、そのすぐ後に現れたライダースーツの女を見て笑顔をひきつらせた。
影男の変幻自在な呪力に興味を持ち、一度は夏油伝いに接触を図った女──九十九由基。
しかし、彼女との会話で闇堕ちチケットをゲットしてしまった夏油としては、会わせたくない相手だった。ゆえに断り、その後は夏油が見ていない隙に接触しそうな雰囲気があったため、五条にも手回しを手伝ってもらいガードしていた。
そして、向こうの動向など気にしてはいられないタイミングでちゃっかりとやって来た。
小会議室に通された九十九は、よっこいせ、とソファーに座る。
夏油と影男は彼女の正面のソファーに隣り合うようにして座った。
「なに、日本でテロが起きそうだって話を聞いたから、わざわざこうしてやって来たのさ」
「………」
「しかし、茂山君はもう高専生になっていたのか。以前に出会った時はまだランドセルを背負っていたのに。いやはや、時の流れというのは残酷だ」
「それで、いい加減に本題に入ってもらえますか?」
「せっかちだなぁ、夏油君は。まあ……今回の件には私も少し、思うところがあってね」
九十九は徐に「鈴木統一郎」の名前を出す。
「彼とは昔、協力関係だったんだ」
「協力関係って……何のですか?」
「私の目的のための協力関係だよ、茂山君」
九十九は呪霊の発生を防ぐ『原因療法』の方法を探している。
かつての夏油は彼女と話し合い、「
そして、九十九はその目的のために当時──といっても十数年前であるが、『
「そもそもその、『超能力者の権利向上を目的とする非営利団体』とは何なんですか?」
「夏油君、君は海外の術師の立場を考えたことがあるかい? ──いや、あるか」
「……あの、僕にも分かりやすいようにお願いします」
「君は親よりも可愛げがあるね、茂山君」
まず『呪力』というものは、日本以外だとほとんど確認されない。そういった土台がある事を踏まえて、呪霊や術師の数も海外だと母数が少なくなる。
しかしまったくいないというわけではない。例えば夏油が出会った「ダカカカカ」とビートを刻む男のように。
数が少ないと当然、高専のような彼らを取り纏める組織が生まれない。生まれたとしても少数の意思が反映され、歪んだ方向に走りやすくなる。
そんな、異質な力を持った人間を受け入れ、あるいは支援をするような場所がなければ、周囲と孤立した彼らはどうしても呪詛の道を選ばなければならなくなる。
「鈴木統一郎はそういった人間を支援し、権利を向上させようとしていたんだ」
「……そう、だったんですか」
「ただ、彼自身は強硬策に出かねない男だったよ」
うまくバランスが保たれていたのは、男に妻がいたからだった。九十九が鈴木の協力を得られたのも、この妻が夫を説得したからだった。
「ここで、私の目的が彼の術式と関わってくる」
鈴木は己の呪力を非術師に与え、その者を一時的に術師に変えることが可能だった。
九十九はこの「呪力を与える」点に目をつけたのだ。
「呪力を無くす以外の方法として考えていた、「非術師を術師にする」方法。ついさっきまで呪いも見えなかった非術師が、実際に鈴木に呪力を与えられ、呪霊が見えるようになった」
まだ今よりも若かった彼女は、一番星を見つけたような──歓喜と興奮を抱いた。
この非術師が術師になる方法を解明できれば、全人類を術師にし、呪霊が発生しない世界を作ることができる。
「彼はそっけない態度だったが、握手も交わした……そう、交わしたんだ」
ただ、その協力もすぐに反故になった。
鈴木の妻が、非術師に殺されてしまったことで。
「………ッ」
膝に置かれていた夏油の手に、力がこもった。歯がギシリと音を立てる。
「組織に対し、悪感情を持つ者が犯行に及んだ。見せしめのように、鈴木本人ではなく妻を殺害した。………その時に……」
九十九の表情に影ができる。夏油が接した時にも見たことがない、後悔に満ちた表情である。
「………お腹にいた子どもも、亡くなった」
ヒュッと引きつるような音がした。発生源は影男の喉からだった。
彼は顔を真っ青にし、九十九を見つめる。
「奥方とは鈴木よりも交流があったから、私としてもショックな出来事だった。ああしていれば、救ってあげられたかもしれない。こうしていれば、守ってあげられたかもしれない────本当に人生というのは、後悔の連続だよ」
「……貴女も、人間なんですね」
「そりゃあ当然さ。『完全』な人間がいたとしても、『完璧』な人間はいない。夏油君は私が完璧超人だと思っていたのかな?」
「私生活が壊滅的なタイプには見えますね」
「…………そんなこと、ないもん」
九十九は唇を尖らせたまま出されていた茶を飲み、そっと置いた。
それから、自分を見つめる二人に「本当にそんなことないもん」と呟いた。
「──まあ、鈴木統一郎がなぜ今のような過激な思想に至ったのかは分かっただろう。一応、今回の件は私も政府側に一枚噛もうと思っているんだ。高専はどうせどの面下げて来てんだ、って拒否りそうだし」
「………鈴木の術式が「呪力を与える」ことだと仰いましたが、もっと具体的に分かりますか? おそらく出回っている『呪印』は、呪力を与えるトリガーになるのだろうとは思いましたが…」
「彼の術式の本質は、『エネルギー操作』だ。呪力を与える以外にも、奪うことができる。さらに一番厄介なのは────際限のない、呪力の“貯蓄”だよ」
普通の術師なら呪力量には限度がある。しかし鈴木にはこの限度がなく、どこまでも溜め続けることができる。
夏油は思わず口を手で覆った。
「ただし、溜められはするけれど、それを使うとなると話が変わる。肉体の限界を超えた量の呪力を出力すれば、たちまち体は爆発するだろう」
「ばくっ……」
「もしかしたら、関東圏が一気に吹き飛ぶぐらいの惨劇が起こるかもしれない」
「ッ………」
「そこは鈴木がどれだけ呪力を溜め込んでいるかにも依る。計画を実行に移したのだから、本当に日本の地方の一部を吹き飛ばしてしまうほどの呪力があるのかもしれない」
「………」
「五条君ならそんな中でも生き残れるだろうが、周囲の人間は違う。鈴木が万が一、計画に自爆も織り込んでいるなら、日本はどこに超特大の地雷が潜んでいるかわからない状態になるんだよ」
夏油は顔を手で覆った。高専や政府間で想定された鈴木統一郎への脅威が甘すぎたと言える。
しかし、こうして九十九から情報を得られたのは行幸だった。
「鈴木によって作られる無数の民間人の兵隊化と、超特大の爆弾……」
「ついでに鈴木は茂山君ほどじゃないが、呪力を操作して現実への介入ができる。飛んだり、電撃を放ったりはまずできる」
旧来のものから変化しつつある、呪力の在り方。
その例が茂山影男や、鈴木統一郎のような存在だった。
「……鈴木はどのくらいの人間へ呪力を同時供給することが可能ですか?」
「ここの人数は私も把握しきれていない。かつての実験では、数百人同時に呪力を与えながら、本人はケロッとしていた。少なく見積もって数千……多くて数万は覚悟しておいた方がいい。呪力を与えられた人間のほとんどは四級以下だろう。ただしその者に呪力を操る才能がある場合、等級は四級より上がるはずだ」
「……………ハァ」
「まぁまぁ、夏油君。雑兵自体は鈴木を追い詰めれば与えた呪力を戻そうとするだろうから、それで無力化できる。
「……2173」
「そんなに細かくわかるんだ…」
「数万の桁を出されると正直自信がなくなりますね」
今までパンピーだった人間に呪力が与えられれば、何が起こるかわからない。
茶菓子の包装をとき、もそもそと食べる九十九は「つぶあんか…」と呟く。
この間、影男は無量空処が起こり、先ほどまでの話を何とか理解しようとしていた。
「ただ、『呪印』をトリガーにするとして、書いた時点で縛りは起こるように設定するんじゃないかな」
「……消費した分の呪力を、別の形で補わせる…?」
「あり得る。命を呪力に変換させる術はあるからね。例えば……『絶命の縛り』とか。あれも命を対価に術式の効果を高める。術式の効果を高めるということはつまり、術式を使うのに必須な呪力も高められるということだ。すなわちこれは、命を消費して呪力に変換したってことになる。
『呪印』を刻んだ側は、そもそも“購入者”なんだ。それに対し販売側が代金の形で縛りを要求するのは等価交換でも成り立つ。そしてこれらを成し遂げる力が鈴木にはある」
パサついた喉を潤そうとした九十九は茶がもうないことに気づき、急須を持ってポットに向かった。
「ポットは使えるんですね」
「……むう」
頬を膨らませた九十九は、湯呑みにトプトプと茶を注いだ。
「しかし────あれだな。夏油君と鈴木は本当に似た思想を掲げている。あるいは、掲げていた」
「……鈴木統一郎はなぜ「支配」を選んだんでしょうか? 私ならば、きっと──」
「それはね、実に単純な理由だよ、夏油君」
妻が、『非術師』だったから。
「………」
「もうすっかり冷めてしまったようだし、新しい茶を入れてあげよう、二人とも」
「あっ……ありがとうございます」
「………どうも」
お湯の入った急須が傾けられ、茶が出てくる。
夏油は茶碗を片手でつかみ、グッと飲んだ。一方で影男は両手でつかみ、しばし息を吹きかける。
九十九は二人の様子を、微笑ましげに見つめた。
今からやく約十年前に、非術師を皆殺しにする選択を出した夏油傑。
それがよく変わったものだと、九十九は思った。
そしてその彼を変えたのが────今必死に息を吹きかけている少年なのだろう。
「ちなみにぃ、茂山君が『構築術式』の使い手に呪力を渡してぇ、夏油君の右腕を創生治療したって聞いたんだけどぉー……」
「さぁ? 何のことでしょう」
「しげやまくん〜〜」
九十九はわざとらしく胸を強調して見せる。だが、保護者に頭をつかまれ後ろに押し込まれた。
「狙いはやはり結局影男くんか! この
「イダタッ……ここまで情報を与えたんだよ!? 少しくらい構わないじゃないか!!」
ほんの、ほんの先っちょだけ!! ──と叫ぶ九十九。
騒がしくなった室内で、影男は回転する茶柱を見つめていた。
・エネルギー操作の術式
この場合、呪力操作そのものが術式になっているわけではなく、呪力を一つのエネルギーとして認識することで、|パスを繋いだ相手の呪力の譲渡・奪取を可能にしている。
呪印でパスを繋ぐ方法以外に、対象に手で触れている際に使える。鈴木自身の手にも赤い呪印が刻印されている。見た目だけだとあからさまに令呪。
〈現実への干渉〉というよりは、正確に言えば現実世界のエネルギーを選択して操っている。
無下限などは呪力を用いた無限の「状態」なため、選択不可。
折り紙でイメージした時に、まだ何も手を付けられていない折り紙なら自由に何かを作ることができるけど、すでに鶴という「状態」になっているものは手を付けられない感じ。
ただ蒼といった、呪力が大量に乗せられている攻撃に関しては操作可。吸収は可能だけど体がぶっ壊れて爆発するかもしれない。
赫以降は仮に吸収したら爆発するし、操作する時間もない。
・国際TEL
何やら思い当たる節があったらしく、慌ただしくどこかへ電話をかけた夏油。
傍で九十九は「茂山君はカノジョいるの? ……へー、禪院家の子ねぇ」と話し込んでいる。
「ちなみにカノジョちゃんのどこが好きなの? ふーん、なるほど。……ん? 『私と似た質問をしてくる男がこの京都校にいる』? 東堂葵────彼は私の弟子みたいなものだよ。ついでだから彼の顔も見ようと思ったが、いないようだね。…そうか、修行の旅に出たのか」
夏油が電話している間に初耳な情報ばかり出てくる。
電話が繋がる。久しぶりだねーな会話。ん、SUZUKI? 知ってる知ってる。恩義があって今回の件に協力を求められ……。そこで待ったをかける夏油。この塩顔に免じてちょっと今回は不参加にしてくれねぇかい。
「そう言えば茂山君、ちょっといいかい? いや、髪にゴミが付いているから取ってあげようと思ってね。何、変なことはしないよ。………うわっすごっ、そっくり!!」
夏油の顔に免じたのと日本観光に付き合うので承諾が取れた。
電話が終わって早々、うちの子に何してんですかの厄介モンペアが生まれる。
(ケニア出身じゃない方のミゲルがいた場に、ケニア出身の方のミゲルがいないとは言っていない)
・チャートが大きく変化していた可能性
秤&キララVS東堂→東堂の術式とキララの術式と相性の悪さ。綺羅羅のサポートもあり秤側の勝利になる。東堂がリタイアしたことで乙骨との接触が起こらず、里香の暴走が無くなる。脳みその意図として、里香とぶつけてアンノウンの戦力を測る意図があった。ついでに夏油が脳死してくれたらこの時点で体を奪えるのでラッキー✌︎里香を暴走させるのも今後の布石に繋がる。結果として、
✔︎里香の暴走
✖︎アンノウンの戦力計測
△夏油の脳破壊
となった。
黒縄withミゲルが参戦した場合も、チャートが大きく崩れる可能性があった。