茂山影男   作:ピンチャンよ永遠なれ………

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51話

 12月25日の正午をもってして、超能力結社『爪』の日本転覆が始まった。

 特級術師のそれぞれの配置は以下となる。

 

 乙骨憂太が仙台、九十九由基が名古屋、夏油傑が大阪。五条悟については基本的に東京で動いてもらうことになるが、状況に応じて臨機応変に対応する。

 

 名古屋については加茂家のバックが付き、大阪は禪院家のバックが付く。五条家は福岡のバックに付いた。

 

 ちなみに五条悟の命で駆り出された伏黒も福岡へ向かっている。彼はその後、『超能力者』を「オラオラオラーーッ!!」とブン殴っている髪色の明るい少女と、「退屈すぎて話にならん」と言いながらブン殴った相手を数百メートル吹っ飛ばすゴリラと遭遇することになる。

 

 それだけではない。さすが『修羅の国』と謳われることはある福岡。地元のヤンチャな者たちが一致団結し、「俺たちの福岡(くに)を守るぞォォ!!」と至るところで殴り合いが起きていた。

 

 伏黒は思った。「修羅だな……」と。

 

 雑兵の鎮圧には国の部隊も加わり、政府と高専VS『爪』と彼らの率いる雑兵のたたかいが白熱していった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 雑兵の鎮圧方法としては、捕らえて呪力が使えないように拘束する。彼らはその後、軍の人間に連行されることになる。

 

 ただし雑兵だけが敵ではなく、中には『爪』のメンバーも潜んでいる。こちらは一般人では対処が不可で、呪術師が取り押さえる必要があった。

 

 

「キリがないな……」

 

 影男は空を飛びながら破壊行為を行っている者を見つけ次第、呪力で動きを封じて呪力縛りの効果が付与された縄でぐるぐる巻きにしている。

 やっていることは簡単だが、いかんせん数が多い。

 

『そンだけこの国に失望してるやつが多いってことだよ』

 

「……何かこの人たちにも事情があるかもしれないけど、人に迷惑をかけるのは間違ってるよ」

 

『その通りだ。お前の考えが正しい』

 

 エクボもまた雑兵の頬を殴り気絶させる。

 

『そういや、夏油のヤローは大丈夫なのか? 交流何たらがあった時に、呪霊の操作が原因で頭がショートしたんだろ?』

 

「それなら、今回は条件をいくつか付けるだけでほぼオートだから、全部出しても問題ないって言ってたよ」

 

『……改めて考えると恐ろしいな。数の暴力がある上で、さらに本人までゴリラだからな…』

 

「夏油さんは非術師()じゃないよ?」

 

『その猿じゃねぇよ!』

 

 

 その折、スマホが鳴った。

 もし呪術師で重傷者が出た場合は、連絡されることになっている。

 思わず影男は固まる。願わくば負傷者の連絡でないことを祈りたい。

 

『………』

 

 エクボは電話に出る影男の様子を一瞥してから、また雑兵の頬を殴った。音にしたら、「ポカッ」だった。

 

「えっ?」

 

 影男のスマホを持つ手が震える。

 

『……どうしたんだ、シゲオ?』

 

「………あっ、今すぐ向かいます」

 

 スマホを持った手がだらりと下がる。影男の顔から一滴の汗が流れた。

 

「……ま、真依ちゃんたちの班が、襲撃されたって」

 

『何ィ!!?』

 

 影男以外の一年三人は班を組んでいた。うち一人はメカ丸である。幸吉はメカ丸を操作しつつ、別の絡繰で負傷者を運ぶ後方視線にもまわっている。

 

 一部始終を見ていた者の情報によると、総理を攫った糸目の男が彼らを襲撃したらしい。戦力差は圧倒的。等級は一級だと判断された。

 この際にメカ丸は破損。三輪は中傷等を負うことになった。そして。

 

 

「それで、真依………ちゃんが、攫われたって」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

「ほんとキリがないわねッ!!」

 

 普段は繁華街として賑わう一角。そこで雑兵と戦う三名の姿があった。

 

 メカ丸は次々と拳を入れ、相手を無力化していく。真依については支給されていたテーザー銃を使い相手を痺れさせ、動きを封じていった。

 

 一方で三輪はというと、今のところ抜刀術を使う場面がなく、二人が次々と倒していく雑兵たちの拘束にまわっていた。彼女は内心で思った。「私って役立たずだなぁ!!」と。

 

 

「メカと少女二人の組み合わせですか」

 

 

 そんな折、彼らは不幸にも格上の相手と出会した。その顔は彼らも見覚えがあった。総理を誘拐した糸目の男。今は警備服ではなく、ラフな格好をしていた。

 

「────ッ!!」

 

「遅いですねぇ」

 

 一瞬のうちに間合いが詰められる。メカ丸はとっさに攻撃に転じたが、ギリギリで交わされた。

 男が体勢を崩したその瞬間を、真依がテーザー銃ではなく、使い慣れたリボルバーの銃で狙う。照準は後頭部。手の震えはなかった。

 

「なっ…!!」

 

 しかし相手はまるで()()()()()()()()()()()()()弾丸を避け、一回転してからひらりと着地した。

 いつのまに掴んでいたのか、男の手には石が握られている。

 

「お返しですよ」

 

 真依目がけて、その石が投げられた。その速度に真依は追いつけない。

 ここで役立たずと自分を皮肉っていた三輪の出番がやってきた。

 彼女は真依の前に滑り込み、刀の柄を握りしめ、フゥッ、と息を吐いた直後に飛んできた石を迎撃した。

 

「────簡易領域ですか。厄介ですね」

 

 メカ丸の砲撃が男を襲う。男は空気の震えを如実に感じながら、露悪的な笑みを浮かべた。

 

 

「縛りの開示です」

 

 

 男は砲撃を避けながら、瞳を開ける。そこにはあるべきはずの眼球の代わりに暗闇があった。

 

「私は目を持たない代わりに、別の『目』を持つ」

 

 空気の微細な揺れや、音。人間でも目がない者は視覚の感覚を別の感覚で補強している。

 

 彼は────『島崎』と呼ばれる爪の五強の一人でもある男は、この補強が『天与呪縛』によって異常なまでに高められていることで、相手の動きを先読みすることができる。

 

 これは相手の思考を読むものではないため、メカの動きでも把握できてしまう。

 

 三人の中でも特に三輪の力を厄介に思った島崎は、メカ丸が攻撃に転じた瞬間にむしろ接近して、メカの肩をつかむ。

 

「ちなみに私の術式は、基本的にあらかじめ登録しておいた地点にしか移動できません。しかし──」

 

 島崎の姿がメカ丸ごと移動し、三輪の前に立つ。

 

「この『目』で認知できる範囲には、自由に移動できます」

 

 とっさの状況にメカ丸は攻撃を止めた。霞の体勢も崩れる。すると彼女の足が動き、簡易領域が崩れた。

 

「ガハッ…!」

 

『三輪!!』

 

「霞!!」

 

 腹に蹴りを食らった三輪は吹き飛び、瓦礫に埋もれた。ついでメカ丸が腹に腕を貫かれ破壊される。目の光がフッと消えた。

 

 残されたのは────真依一人。

 

 

「………っ」

 

 それでも彼女は銃を握りしめ、近づいてくる男から視線を逸さなかった。

 

(幸吉がすでに応援を呼んでくれているはずよ…)

 

 しかし、応援が来るまでにこの場を彼女一人で保たせられそうにない。相手が格上だった。

 

 

「安心してください。殺しはしませんから」

 

「……アンタには女をいたぶる趣味があるってわけね」

 

「フフッ──いえ、私には“弱者”を甚振る趣味はありませんよ」

 

「ッ────!!」

 

 真依は歯を軋ませた。その様子を島崎は呼吸の変化、歯の音などから読み取り、「怒り心頭のようだ」と笑う。

 

「私はね、禪院真依さん」

 

「………なっ、んで、私の名前を?」

 

 男の、ぽっかりと空いた瞳が開く。

 

 

 

「──────()()()()()()()()()()んですよ」

 

 

 

 彼女の背後に移動した島崎は、手刀を落とす。

 うなじに衝撃を受けた真依は頭を揺らされ、その場に倒れ込んだ。

 

「さて」

 

 彼女を抱えた男は、その場で姿を消した。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 三輪の治療を終えた影男は、幸吉の電話で謝罪を受けた。

 二人を守れなくて悪かった──と。

 影男はスマホに耳を当てながら首を振る。

 

「与くんは最善を尽くしてくれたよ」

 

 手に力がこもり、スマホから悲鳴が上がる。

 

『……無理はするな、茂山』

 

「………わかった」

 

 

 その直後だった。再び連絡が入ったのは。非通知からの電話番号だった。

 影男は数秒見つめ、電話を取る。側ではエクボが息を殺すように見つめていた。

 

 

「僕の真依を返せ」

 

 

 ただ彼は淡々と告げる。

 電話越しであるはずなのに、電話相手は茂山影男の周囲を揺らす空気の圧を感じ、生唾を飲み込んだ。

 

『今から、君一人で指定の場所まで来てもらいたい』

 

「………」

 

『禪院真依は無事ですよ。……ほら』

 

 うっ、と痛みにうめくような声が聞こえた。

 

「……わかった。僕一人で行く」

 

『「縛り」もしておきましょう』

 

 

 指定された場所に、影男一人で行く。その際には人だろうと呪霊だろうとメカであろうと、同行は不可。絶対に一人で来なければならない。それらを破った場合、相手は真依を殺す。また、指定場所も他人に教えてはならない。これは、いかなる伝達方法にも適用されることとする。

 

 

「その代わりもし彼女が死んだり、少しでも傷ついたら、その時はお前を殺す」

 

『────っ、えぇ、分かりました』

 

 

 影男が着くまでは何人たろうと、真依には一切の手出しを許さない。

 その条件が加えられ、電話が終わった。

 

 エクボは歩き出した影男の袖をつかむ。影男の手にあるスマホは今にも握りつぶされ、壊れてしまいそうだった。

 

『し、シゲオ……冷静になれ! コイツは100パー罠だ!!』

 

「うん、分かってる」

 

『分かってんだったら、尚更……』

 

「でも、相手の要求を飲む以外で真依ちゃんを確実に助けられる方法はないでしょ?」

 

『……いいか。絶っテェーにこの件はお前と夏油を狙った過去の事件に関係している。俺様はな、これでもお前に倒されるまでは高専からもバレずに生きてたんだ。わかるんだよ。俺様の危機察知能力が嵐を吹いてんだ! マジでやめとけ、ってな』

 

「………縛りは向こうと僕で結んだものだから、お前は自由に動ける。夏油さんたちに伝えるのは任せた」

 

『ッ………シゲオ!!!』

 

 影男はエクボにスマホを託し、指定された場所へと向かった。

 

 

 エクボは離れていく姿をじっと見つめる。それから「だぁ〜!!」と頭をかき、夏油へ連絡した。

 二、三秒経ってから「どうしたんだい影男くん!?」と大声が聞こえた。スピーカーがキィンと音を立てる

 

『シゲオは無事だ、夏油』

 

『………エクボ?』

 

『真依が瞬間移動の術式を持つ術師に攫われた。そんで、シゲオがソイツの元に一人で向かっている』

 

『……モブくんに変われるか?』

 

『ダメだ。相手と縛っちまった。目的の場所へは一人で行かにゃあならねぇ。「同行」って定義を考えると、十分後に後を追うのがOKになるかもしれねぇし、二十分後にOKになるかもしれねぇ。その「同行」の認識がシゲオと向こうで相違も出てくるだろうし……一番安全なのは、アイツが高専に着いてから動くことだ』

 

『──────クソッ! ……わかった。場所は?』

 

 エクボは一泊の間を置く。

 

 

『……京都校だ』

 

 

 

 

 

 一方、赤いタワーの展望デッキにて。

 夕暮れがでこぼことした地平線から覗いている。天上には紫のカーテンがかかっていた。

 

 

「まさか………さぁ。隠れるどころか、悠々と下界を見下ろしてるなんて思わねぇじゃん」

 

 

 五条悟は、椅子に座りオムライスを食べている男の机を蹴り飛ばした。

 

「……行儀がなっていないようだな、五条悟」

 

「おあいにく様。こちとら甘やかされて育ったもんでね」

 

 


 

 ・島崎

「サスケェ!」の声をしている。モブサイだと花沢(メカ丸の声)と因縁がある。

 かな〜り加茂と似ている。血縁関係は無し。

 

 術式は場所だけでなく特定の人間にもマークできる。『目』が感知できる範囲は、意識の集中によって異なる。小規模の千里眼も可能だがその場合、周囲の認知が疎かになる。

 術式や縛りの開示によって補強することで、『目』の感知範囲や移動できる範囲が強化され、より彼の力の悪辣さが増す。

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