西暦二〇十五年、私たちの暮らす世界は、滅んだ。
生き残った人々は最後の砦である四国へと逃れたけれど、滅びの手はそこにまでも伸びてきた。
敵は「天の神」を名乗る存在と、その先兵の怪物「バーテックス」。
人類の護り手は、神樹と呼ばれる守り神に見染められた私──伊予島杏をふくめる、たった五人の少女だけ。
私たち五人は「勇者」という名称で、人類の敵バーテックスと戦うことをさだめられた。
でも……
私は「樹海」という戦いのためにつくられた場にありながら、はるか後方で独り、生身のまま震えていた。
敵である怪物──バーテックスの種類の一つ「星屑」を目にした恐怖で、体が凍り付いたように動けない。
「あんずはうしろに下がってろ。化け物はタマたちがなんとかしてやる!」
勇者としての力をつかえない不甲斐ない私に対し、友人の土居球子──タマっちはそう言って、他の四人と前線へと向かって行った。
「私も戦わないといけないのに……わかってるのに……!」
遠方で戦いを繰り広げるタマっちたちが見える。
みんなも私と同じ初めての戦いなのに、まったく臆する様子が無い。
自分自身を情けなく思って、けれどそれでも私は、一歩を踏み出せないでいた。
「ぁッ」
四人はそれぞれ距離を置いて戦っていたけれど、タマっちだけが複数の敵に取り囲まれ、劣勢に立たされているのが視界に映る。
このままでは、彼女がやられてしまうのも時間の問題だ。
タマっちは、過去に独りでおびえていた私に救いの手を差し伸べてくれた恩人だ。
そんな彼女のピンチを、このままなにもしないで見過ごせるはずがない。
私は意を決して、勇者に変身するため、スマートフォンのアプリを起動した。
「な、なに!?」
本来なら私が持つ勇者専用のスマートフォンは、インストールされているアプリを動かすことで、戦闘のための衣服と装備が体に実装されるはず。
けれど今──タップされたアプリは不可解な動作を起こし、画面からは強烈な光を放ち始めた。
「ま、まぶしい……!」
目を開けていられない。
光は爆発的な閃光となって、辺りに放射される。
そして、広がった光のベールの向こうに、一つの大きな人影が姿を見せた。
それは人間というには、あまりにも大きすぎた。
二十メートル近い、金属の外殻を持つそれは
「きょ、巨大ロボット……?」
私は呆然と、目の前に出現した人型ロボを見上げる。
青と白と赤からなるカラーリング。
頭部には瞳に当たる部分が見当たらず、両目の位置にはゴーグルのように赤いパーツがはめ込まれていた。
それは
「おぉ~い、あんずー!!」
前線からタマっちが引き返してきた。
巨大ロボ出現の余波で、周囲に放射された光のエネルギーによって、彼女を追い詰めていた怪物が一掃されたためだ。
「なんなのだ、これは!?」
「人型ロボット……? 大社が造ったのかしら」
「よくわかんないけど、カッコいいね~」
さらに、残る星屑を排除した他の仲間たち──乃木若葉さん、郡千景さん、高嶋友奈さんも駆け寄ってきた。
私たちの前で、ロボは視線をあわせるように、膝を立ててしゃがみこんだ。
それは私たちに与える、巨体からくる威圧感を少しでも和らげよう、という気づかいに思えた。
「おい、見ろ! 胸んとこが開いたぞ!」
「誰か出てくるわね……人が操縦してたのかしら」
タマっちと千景さんが、興奮したように言う。
ロボットの中からは、黄緑色の百合の花を思わせる衣装をまとった、小柄な少女が顔を覗かせた。
少女は眼下の私たち五人を見回して、声を上げる。
「……みなさんは西暦の勇者、ですか?」
「そうだ! 君は何者だ!?」
少女の問いに、五人を代表して若葉さんが答える。
若葉さんからの問いに、少女は自分の素性と目的を明かした。
「私は、犬吠埼樹。未来を救うため、この時代を救うため、三百年後の世界からきました」
◇ ◆ ◇ ◆
私──犬吠埼樹はこの時代、西暦から三百年後の未来……神世紀という時代の人間です。
三百年後といっても、西暦と大きく変わったところはありません。
車が空を飛んだりなんて文明の発達もなくて、逆に文化なんかは過去の情報が失われて、新しいものが生み出されづらくなっています。
人が暮らせるのも四国のせまい範囲だけで、外の世界は大昔にウイルスによって滅んだ、と伝えられていました。
でも実際は、西暦の勇者であるみなさんが体験したように、ウイルスではなくバーテックスという怪物によって滅ぼされた。
それを私たち勇者部──私の姉の風がつくった部活です──もまた、西暦のみなさんと同じく体験によって知りました。
勇者部は「人のためになることを勇んでやる部」という、ボランティア活動のようなことをおこなうものです。
でも本当は、お姉ちゃんが大赦の人たちの要請で、「勇者の素質を持ちバーテックスと戦える女の子」を集めるために設置されたもの。
私とお姉ちゃん、結城友奈さん、東郷美森さん、三好夏凛さんの五人が勇者になって、戦いはなんの前触れもなく始まりました。
それでも私たちは、戦いの合間にも穏やかに、これまでと変わらない楽しい日々を過ごしていたんです。
部活で、里親のない子猫の貰い手を探したり、海岸や川のゴミ拾いをしたり、幼稚園で園児に演劇を見せてあげたり……。
いろいろな依頼をこなして、みんなから感謝されて、本当に楽しかった……。
けれど、それもすべてが終わる日がやってきたんです。
あれは数度目のバーテックスとの戦い。
敵は全部で十二体いて、それを何回かにわけて私たちにブツけてきた。
その最後の戦いのことです。
敵が、これまでの戦いで残った七体をすべて送り込んできた総力戦。
そこで……思いだしたくもない……お姉ちゃんは、みずがめ座のバーテックスが放った水の球に閉じこめられ……そのまま、
私はショックで動けず、友奈さんと東郷先輩、夏凛さんが向かっていったけれど……。
お姉ちゃんがいなくなったことで、私たちのなかでなにかが崩れたのか……先輩たちもみんな、敵の力の前に散っていきました。
もしかしたらそれは、「満開」の影響もあったのかもしれません。
満開というのは、私たちの時代の勇者服に備わっている、パワーアップ装置の名前です。
満開を使えば、神樹様のお力を受けて何倍、何十倍もの力を発揮できるようになる。
でも……
知らされてしまっていたんです、満開の真実を。
満開を使うと、その代償として使用者は、身体の一部を供物として神様に捧げなければならない……。
現に東郷先輩は、私たちと関わる以前にも勇者として戦い、すでにいくつかの代償を払っていたんです。
大赦の人たちは私たちを案じて、この事実を
そのことが逆に、私たちが満開を使うことにためらいを覚え、結果的にみんなの死という残酷な結果を招くことになるなんて……。
とにかく、あの場で生き残ったのは私一人だけ。
その私も、みんながいなくなってただ呆然自失とするだけ。
迫るバーテックスを前に、世界は滅びを待つだけとなりました。
そのときです。
この子が──私が乗ってきた巨大ロボ、『ジークアクス』が現れたのは。
私と七体のバーテックスの間の時空がとつぜんねじれたように歪み、その空間の中から姿を見せたジークアクス。
彼は──ロボットに性別はおかしいかもしれないけれど──私を手のひらにすくい上げると、外敵から守るように胸のコクピットに招き入れてくれました。
コクピットで私は、「ジークアクスの声」を聞いたんです。
機械的な無機質なものじゃありません。
青年と大人の中間のような若々しい声色ですが、みずみずしさはなく、そのトーンからはひどく疲れきった消耗感を私は覚えました。
彼は言いました。
自分は私たちの住む世界とは、まったく別の時空にある別の世界から流れ着いてきたものである、と。
そこでは人間同士の争いが昔から繰り返し起こされ、それを見続けてきたジークアクスは悲しみのあまり、元の世界を捨てた。
独りきりで無限の時空をさ迷う内に、いつしか私たちの世界へ迷い込み、そこで私と仲間たちの惨状を見て救援にきてくれた、とも。
私はジークアクスにたずねました。
「世界を超えて移動できるようなすごい力を持ったあなたなら、お姉ちゃんたちを生き返らせることができるんじゃないですか? もしそれができるなら、私の命をあげてもいい」
答えはこうです。
『時を戻せば、それは可能だ。けれど
私は決意しました。
お姉ちゃんを、勇者部のみんなを生き返らせるために、すべての運命の起こり──起点であるこの西暦の時代に飛ぶことを。
そうして私はやって来ました。
ジークアクスと一緒に、敵であるバーテックス……そして天の神をたおし、運命を変えることが、私たちの目的です。
樹ちゃんとマチュの声優さんが同じ、というただ一点のみで思いついた組み合わせです。
ネタのような作品ですが、内容は真面目に考えました。