丸亀城の一室で彼女──犬吠埼樹さんは、ご自身がこの世界へきた理由を明かしました。
同じ部屋には、樹海での戦闘を終えた勇者のみなさんも。
その一人で幼なじみでもある若葉ちゃんが、私に意見を求めます。
「どう思う? ひなた」
「未来からきた勇者……にわかには信じられないお話ですが」
チラとお城の外の風景に視線を向ける。
そこには、
「ジークアクス、でしたか。実際にああしてあそこにある以上、信じないわけにはいかないでしょう」
「大社が、タマたちに秘密でつくってたってことはないのか?」
「私たち勇者に黙ってる理由が無いと思うけど。それに、いくら大社でもあんなおっきなロボット、そう簡単に造れないんじゃないかなぁ」
勇者の支援組織である大社は秘密主義なこともあって、球子さんがそう思うのも無理のない話ですね。
「杏さんの言うように、皆さんにまで秘密にする必要性はないですし、大社の技術力がどの程度かは私にもわかりませんが、あんな大きな二足歩行ロボを建造するのは難しいでしょうね」
「等身大の私たちが身に着けてる勇者専用の武器や服とは、サイズも規格も違いすぎるでしょうしね」
私の言葉に追従するように、千景さんがそう言いました。
「……あの、ジークアクスと私は、今後どうなるんでしょうか」
「樹さんは私や、若葉ちゃんたちとおなじく勇者の一員として、この丸亀城に通ってもらうことになります。一応、私たちもまだ中学生ですから、勉学の方もおろそかにできませんしね」
外で、大勢の大社職員の人たちが動き回っている音が聞こえてきました。
「ジークアクスは、大社の方で調査させて欲しいそうです。異世界の技術が解析できれば、現行の勇者装備にフィードバックできるかもしれませんから」
「おお! そうなったら、私たちもすっごくパワーアップできるかも、だね!」
グッと拳を振り上げて叫ぶ友奈さん。
そんな彼女を樹さんは、なにか……なんとも言えないような表情で見つめています。
「ん? どうしたの、樹ちゃん?」
「あ、いえ、その……」
首をかしげる友奈さんに、樹さんは
「やっぱり、私の知ってる友奈さんにそっくりだな、って」
「結城友奈ちゃん、だっけ?」
「はい。高嶋さんは……」
「友奈でいいよ!」
「友奈さんは、結城の方の友奈さんとは、関係ないんですよね?」
「うん。結城って苗字は親戚にもいないし、なんでだろうね~」
「世の中には同じ顔の人間が三人いる、という話しだから、ただの偶然ではないのか?」
若葉ちゃんのその一言で、この話題はとりあえず終わりました。
名前もおなじ友奈さん、というのは少し引っかかりますが、これ以上は考えても答えはでないですね。
「にしても、だ」
腕を組んで眉間にしわを寄せ、難しそうな顔をする若葉ちゃんも絵になります。
一枚写真に納めたいところですねぇ。
「樹の言うことは信じるが、しかしそうすると……三百年後の未来でも戦いは続いてる、ということになるが」
はっ、とした空気が流れました。
「んじゃあ、あれか? タマたちがどんだけ頑張っても、意味ないってことか……!?」
「まあそりゃ、敵が神様なんて大それたものなら、そんなにすぐに決着がつくわけがないでしょう」
千景さんはむしろ納得、といった感じです。
「三百年も戦いが続いてたら、未来ってどんな世界になってるんだろう……?」
「いえ、戦いは神世紀ではとまってますよ。理由はわかりませんけど、一度この時代で争いが中断したから年号も、西暦から神世紀に改められたものですし」
頭の中では荒廃した未来図を描いている風な表情の友奈さんですが、樹さんが否定しました。
「あ、そうなのか? じゃあタマたちのやろうとしてることも、無駄じゃないってこと、になるのか……?」
「そもそも樹ちゃんのいた未来だと、私たちってどうなってるの?」
杏さんの問いに、樹さんは眉をひそめ言いずらそうな顔を浮かべます。
球子さんはその表情を見て、顔を青ざめさせました。
「ぇ、なんかヤバいことになってる感じか?」
「言ってくれ、樹。私たちも勇者になった時点で、ある程度のことは覚悟している」
「ぅ、それでは言いますけど……」
真剣な顔の若葉ちゃんと、お腹をくくる樹さん。
ゴクリ、と一同がつばを飲み込む音が響きます。
「皆さんは……若葉さんとひなさたさん以外、その……バーテックスとの戦いで、お亡くなりになったと」
『え、えぇーっ!?』
室内に、樹さん以外の六人の悲鳴じみた叫びが轟きました。
「どどど、どういうことだそれは!?」
「あんずとタマって死んじゃうのか!?」
「高嶋さんも私も死ぬって、本当なの……!?」
若葉ちゃん、球子さん、千景さんが動揺をあらわに、樹さんを問い詰めます。
わたしと杏さん、友奈さんは、ショックのあまり声も上げられませんでした。
「く、詳しいことは私も知りません。大赦の検閲で、記録のほとんどは消されていて……」
「……まさか、そんなことになっていたなんて」
杏さんは相当ショックだったようで、周囲に影が落ちているのが見てとれます。
それはご自身のことより、親友の球子さんの結末の方が、より心にきているようです。
「杏ちゃんたちの受けた悲しみや絶望の感情が、未来の私の感情とつながって、世界をまたいだ共鳴で起きたゼクノヴァで、私はこっちの世界に来れたんだ」
「ぜくのば?」
「私にもぜんぜんわからないんだけど、感情の高まりで起こる共鳴現象で、次元を超える力がある……って、ガンダムが言っているの」
続けざまに発された未知の単語に、私たちは首をひねりました。
「がんだむ、とは?」
「ジークアクスのもう一つの名前です。『ガンダム クアックス』とも呼ばれているみたいでして」
「……なんでロボットに二つ名前があるんだ?」
「さあ。異世界のものだから、そういうものなんじゃないですかね?」
球子さんの素朴な疑問は、樹さんの推測でなんとなく
「とにかく、過去と未来の悲劇が時間を越えてつながって、私はここにいる。そして私は、この時代の皆さんの悲劇も、事前に食い止めるつもりです!」
「そっか、樹ちゃんはそのためにも来てくれたんだね」
「もう、誰かが死ぬところは見たくないですから……」
私たちのことも守ると力強く宣言する樹さん。
まだ中学一年生で年下だというのに、これも勇者のなせる心意気なんでしょうか……。
いえ。これはきっと、彼女の持ち前の心の強さによるものでしょう。
お姉さんやお仲間を目の前で亡くし、それでもなお戦い続けると決意して……きっと想像できないほどにツラいでしょうに。
友奈さんも見かねて、樹さんの頭を撫ではじめました。
「あの……」
と、千景さんが挙手を。
「なんでしょう?」
「思ったのだけれど、どうせ過去に戻るのなら、もっと前の時間に戻ればよかったんじゃないかしら」
ガンダムの力で、天の神やバーテックスが襲来する前にまで戻り、そこで大本を断てば私たちのみならず、すべての人々が救われたのではないか。
千景さんのおっしゃることも、もっともですね。
ですが、樹さんは首を横にふります。
「地球上に住むすべての人たちを救うのは、いくらジークアクスの力でも不可能です。バーテックスに天の神の力も、彼一体だけで相手をするのは難しいと」
「まあ、星屑なんて名前通りの星の数ほどいるもんなぁ」
相づちをうつ球子さん。
「それに、そこまで大がかりな歴史の改変を行うと、未来にもたらす影響も大きくなるそうです。もしかしたら本来のものより、もっと悪い方向に進んでいくかも」
「それもガンダムが言っているのね」
「はい。最小限の改編で歴史をいい状況に修正できるのが、このタイミングだそうです」
「ゲームみたいに、その辺はシビアなのね」
千景さんはそれで納得したようでした。
と、話し込んでいる間に外での喧騒が収まっています。
ガンダム……ジークアクスも、大社の人たちが急きょ立てたプレハブ倉庫に収められ、外からは確認できなくなりました。
ぐぅう~。と、なにやら可愛らしい音が。
「ぁ……ごめん、お腹すいちゃって」
照れくさそうに友奈さんが、お腹をさすりそう言いました。
時刻は夕方遅くになっています。
「そろそろお夕飯の時間ですね」
「では、食堂に行くか」
「はい。樹さんも、一緒に行きましょう」
若葉ちゃんが席を立ち、他のみなさんもそれに続きます。
丸亀城にあとから
全員席について、それぞれの前には各自が好みのうどんを置いています。
「この時代でも、ご飯の主食はうどんなんですね」
樹さんは、なんとなく安心したような風に言いました。
「未来でも、うどんは食べられているんですか?」
「はい。四国民の主食は、何百年経ってもうどんですよ」
樹さんの言葉で、時がどれだけ流れても、私たちは一つのつながりを持って存在しているんだな、と思う私でした。