「すごい騒ぎになってますねぇ」
丸亀城の教室に入れば、杏ちゃんの感心したような声が耳に飛び込んできた。
球子さんと一緒に、ワイワイとにぎやかになにかを読んでいる様子。
近寄ってみれば、机の一面に広げられた新聞に雑誌の数々が。
そのどれもが、先日の樹海での勇者とバーテックスとの戦いを報道したもの。
私、犬吠埼樹がガンダムクアックスことジークアクスと一緒に、この西暦の時代へタイムスリップしてきた日のできごとです。
「まるで勇者フィーバーだな!」
自分たちの活躍が注目されていることに嬉しそうな球子さん。
「へぇー、勇者ってこんなに人気だったんですね」
勇者という肩書の特別感を目の当たりにし、私は初めてそのスゴさみたいなものを実感した気がしました。
球子さんは、そんな私に疑問を投げかけます。
「ん? 未来じゃ勇者って、あんま注目されてなかったのか?」
「あんまり、というか……勇者という存在は秘密にされてたんですよ。バーテックスのことも、ウイルスから進化した生き物って説明されてましたし」
「ああ、そーいやそうだっけ。んじゃあカッコよく活躍しても、誰も褒めてくれないのか……そいつはちょい残念だな」
「あれ、そういえば」
杏ちゃんが、パラパラと広げられている新聞や雑誌の記事をめくっていく。
「これ……どれも樹ちゃんとジークアクスのことが書かれてない。私たち西暦の勇者のことだけだ」
「それについては、大社の方針だそうです」
背後から、ひなたさんの声が。
「未来から来た勇者に異世界から来た巨大ロボットなんて、さすがに突拍子も無さ過ぎて民衆に受け入れられるか……というのと、
なるほど。
確かに私も、私の時代にそんな人たちが突然現れたと言われても、とても信じられないだろう。
なにも知らない一般の人ならよけいに、ね。
それに勇者っていうものを特別視しているのは、未来の大赦の人たちも、大元のこの時代の大社も同じってことか。
ひなたさんは言葉を続ける。
「もう一つ。樹さんのおっしゃる未来がもしも事実となるのなら、この先も人類はバーテックスに脅かされる日々が続いていく……これは絶対に隠し通さなければなりません」
「人々に余計な不安を抱かせないためにもな。ただでさえ、生き延びた人たちも天恐に苦しめられているというのに」
ひなたさんの横に立つ若葉さんの言葉に、初耳のものが混じっていた。
「てんきょう……って、なんですか?」
「天空恐怖症。星屑に襲われた人たちが
「タマと杏を勇者として見出してくれた巫女の家族も、天恐にかかってるんだよな……」
そんな身近な人にも……なんだかショックな話だ。
「おはようございまーす! 友奈、来ましたー」
暗くなった教室内に友奈さん──高嶋さんのほうの明るい声が響く。
それだけで、パッと明かりが灯ったように感じた。
「おはようございます。おそかったですね」
「ごめんごめん。郡ちゃんを見送ってたから、遅刻ギリギリになっちゃった」
「送った? そういえば、千景さんの姿が見えませんね。どこかへお出かけなんですか?」
「うん、実家のある高知にね。郡ちゃんのお母さんが病気で、大社に特別休暇を出してもらって、お見舞いに行くんだって」
「病気……もしかして、さっきの天恐ってやつですか?」
「ずっと寝たきりだって」
また身近に……。
私は内心で、顔も知らない千景さんのお母さんの回復を祈った。
きっと他の五人も同じく。
そういえば、と友奈さんが気遣いからか話題を変える。
「ジークアクスの研究ってどうなってるの? 大社の人たちがやってるんだよね?」
「ああ、システムの解析がすめば、私たちの勇者装備にも反映させて強化が可能と言っていたが……どうなんだ、ひなた?」
「それが……やはり異世界のメカはこちらの技術がまったく通じず、ほとんどなにも進んでいないそうで」
「なんだよ、期待させといてそりゃないだろぉ」
球子さんは、これみよがしにガッカリと肩を落として見せた。
「樹ちゃんにもわからないの?」
「私も乗ってきただけで、機械的なことはなにも。そもそも操縦の仕方もよくわかってなくて……」
杏ちゃんに、そう申し訳なく返す。
私自身は今から三百年後の人間だけど、ただの一般的な中学生な訳で、特別な知識はなにも持っていないのです……。
「ただ、一つだけわかったことがあるそうです」
みんなの視線が、ひなたさんに向けられる。
「システムの中枢にブラックボックスがあり、それは完全に未解明の『オーパーツ』のようなもので、人間由来の技術ではないそうです」
「人間が造ったものじゃない……ってことはなにか? 宇宙人が造ったのか!?」
「それもわかりません。ですがブラックボックスは、文字通り未解明の機能。それが明るみに出た時……」
みんな、ひなたさんの言葉の続きを息をのんで待つ。
「ジークアクスの、
隠された力……そもそも私たちはまだ、ジークアクスの実力の片鱗も見ていない。
いったい異世界のロボットは、どれほどのパワーを秘めているんだろう……?
◇ ◆ ◇ ◆
数日後──私にとっては何度目かの、この世界では二度目の樹海化警報が鳴った。
神樹様のつくりだした戦いの場所である樹海は未来のものより不完全で、木の根の一部に元の世界にあったビルや家屋などの建築物が残っている。
「樹には説明するまでもないだろうが、この空間でのダメージは」
「世界が戻った時、現実で被害を及ぼすんですよね」
若葉さんの忠告に、私は理解していることをしめす。
「あ、郡ちゃんだ! おかえり~!」
「……高嶋さん、ただいま」
私もふくめ、全員が勇者服に着替えて待機していたところに、武器の鎌を抱えた千景さんが合流した。
休暇が終わって実家から帰って来たんだ。
この時代の勇者服は自力で着替えないといけないもので、千景さんもどこかで服をかえ終わっている。
私の──未来の勇者服はデータの状態でスマートフォンに収められ、タップ一つで衣装が交換されるので、それを知ったみなさんには「ズルい!」と
「敵の数、前より増えてないか?」
「二~三倍、くらいかな?」
球子さんと杏ちゃんが、スマートフォンの地図に映された敵の表示を見て言う。
三百年後だと、星座型っていう大型のバーテックスが一体から数体でやってきた。
この時代は星屑って小型の──それでも人を丸呑みできるサイズだけど──ものが大勢で攻めてくるんだ。
「今回は……三百体くらいはいるか……?」
若葉さんが目視で敵の数を把握する。
突然、千景さんが鎌を構えて飛び出した。
「敵が何体いようが、全部私が倒す……ッ」
「あっ、郡ちゃん!?」
隣の友奈さんの声も気に留めず、千景さんの背中が遠くなる。
「我らもいくぞ! 千景に続けー!!」
若葉さんの号令で、みんな飛び出していく。
前回は変身することもできなかった杏ちゃんも、今は果敢に敵に向かっていった。
「私も……来て、ガンダム!!」
スマートフォンに呼びかける。
この機種はガンダムクアックスの通信とリンクしていて、私の声に応えて上空からジークアクスが飛来した。
勇者になっていた私は、ひと飛びで十メートル以上あるガンダムの胸の操縦席へ飛び込む。
「操縦の仕方は、大社の人たちのレクチャーでなんとなくはわかったけど……」
プログラムやなにかの部分では、理解の及ばなかった大社の研究員。
コクピットの方は、現存するいろいろな乗り物のそれと照らし合わせておおまかに把握したみたいで、操縦法の説明書を書いてくれた。
それは私も事前に目を通している。
「えっと、これが腕で、これが足まわりで、こうすれば進んで……」
歩行用のレバーを倒すと、ガンダムがゆっくりと歩き始めた。
「わわわっ、動いた! まだ完全にはわかってないけど……これなら、やれる!」
すぐに前線で戦う五人の所にたどり着く。
ジークアクスのカメラには、中型のバーテックス──進化体というやつだ──に狙われている千景さんが!
操縦席のモニターには、進化体の口に見える場所に、強いエネルギーが集まっているのが観測されている。
きっと、ビームかなにかを撃ちだして攻撃するんだ。
「危ないッ」
私はとっさに、進化体と千景さんの間にジークアクスを割り込ませた。
ガキンッ!
と大きな金属音が響く。
進化体はビームじゃなくて、実体の矢を放ったんだ。
矢はガンダムの装甲にはじかれて、地面に落ちた。
コクピットにアラームが響く。
続けざまに進化体が矢の次弾を撃ってくる。
今度の標的は、私の乗っているジークアクスだった。
でも
「効かないよ! そんなもの!」
進化体の矢はいくら撃っても、ガンダムの特殊な装甲に傷一つ付けることはできなかった。
「やめなさい!!」
ジークアクスのアームを操作して、私は進化体に平手打ちを食らわせた。
それは平手打ちというより、上から小さな羽虫を叩き潰すような一撃。
そのたった一発で進化体は、文字通り羽虫のようにぺしゃんこに潰れてしまうのだった。
『うそ……進化体を、そんな簡単に……』
外部カメラの音声に、呆然としたような千景さんの小さな声が拾われた。
そのあいだにも若葉さんたち四人は戦いを続けており、残りの星屑はみんな彼女らの手によってたおされた。
こうして西暦で二回目となるバーテックスとの戦いは、危うげもなく終わるのでした。