犬吠埼樹「宇宙(ソラ)って、自由ですか?」   作:ほろろぎ

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第四話 サキブレ

「どうだこれ? いい曲だろ」

「う~ん……私はもっと静かな方が好きかなぁ」

 

 

 

 朝、丸亀城にこしらえられた勇者用の教室に入る。

 そこではいつものように、球子さんと杏ちゃんが一緒にいた。

 

 

 

「やっぱ音楽はパンクロックだよ」

「ラブソングのバラードが一番じゃないかな」

 

 

 

 二人は一つのイヤホンを共用して、なにかを聴いているようだった。

 

 

 

「青春の叫び! 情熱の発露! パンクロック!!」

「染み入る曲調! 心揺さぶる恋! ラブソング!!」

 

 

 

 なんか言いあってる……けど

 

 

 

「ケンカしてる、わけじゃなさそう?」

 

 

 

 二人は好きな歌のジャンルで対立してるみたいだけど、それで険悪な雰囲気はない。

 むしろ、それすら楽しんでるような……。

 

 私のことに気づいた球子さんが、手をふって声をかけてくる。

 

 

 

「いいとこきたな。樹はどっちの曲がいいと思う?」

「ジャンルのことですか?」

「そうそう。ロックとラブソン、お前はどっちが好みなんだ?」

「うーん、そうですね」

 

 

 

 元の世界──神世紀で聴いていた歌を思い返す。

 

 

 

「……どっちにも、いい曲はあると思いますよ?」

「なんだよ、優等生てきな回答だなー」

「樹ちゃんらしいけどね」

「というよりも、どちらかといえば、聴くより歌う方が好きなんで」

 

 

 

 二人は意外そうな顔で私の顔を見返す。

 

 

 

「そうなのか? 樹が大勢の前で歌うところ……いまいち想像できないぞ」

「私も。昔からよく歌ってたの?」

「ううん。私、かなりの恥ずかしがりで、人前じゃ全然。でも勇者部の……未来の先輩たちの協力のおかげで、それも今では平気になったよ」

 

 

 

 なんだか、ずいぶん懐かしい思い出になった気がする。

 お姉ちゃんに部のみんなが、私のために色々と──サプリとかα波とか──手をつくしてくれて、そのおかげで悩みだったクラスでの音楽発表ものりきれたんだ。

 

 それで、将来は歌手になりたい、なんて夢も持てた。

 音楽事務所のオーディションに応募なんて、がんばってやってみたけど……結果を知る前にこっちに来ちゃって。

 たぶん、その結果も私が応募したことも、全部起きなかったことになったんだろうな……。

 

 でも元の世界に帰ったら、また再挑戦すればいい。

 それで、お姉ちゃんにもまだ話してなかった、将来の夢のことを教えてあげるんだ。

 

 全部がもどったら……みんなに私の歌を聴いてもらう。

 オーディションのために、自分で作った曲を。

 それが今、私の一番に叶えたい夢だ。

 

 

 

「そういえば二人の一番好きなものって、今話してた音楽なんですか?」

 

 

 

 思えばこっちの勇者のみんなとは、慌ただしくて、プライベートなことはほとんど話したことなかったんだ。

 私は目の前の二人の趣味なんかも知らない。

 

 

 

「私は小説を読むことかな。主に恋愛小説」

「タマはキャンプ! 山に登ってテント張って、空を見ながらごはん食べるんだ。山の上は空気がきれいで、飯も美味いぞ~」

「へぇー。アクティブな球子さんらしい趣味ですね。そういえば、杏ちゃんも教室とか食堂で、よく本読んでるっけ」

「タマっちの部屋すごいんだよ。よくわからないキャンプの道具が壁や床一面に広がって……」

「それを言ったらあんずの部屋もだろ! 壁中本棚で、その棚の中も全部小説ばっかり! いったい何十冊あるんだ?」

「このあいだ百冊を超えたところかな?」

「買いすぎだろ! タマ、あんずの部屋行ったら頭いたくなるぞ」

「タマっちの部屋も足の踏み場が無いくらいなんだから、そろそろ片づけた方がいいよ」

「あれは全部意味があってはいちしてるんだ。それに置き場所はタマ全部わかってるから、動かしちゃ逆にダメなんだよ!」

 

 

 

 そんなにスゴイことになってるんだ、球子さんの部屋。

 そういえば私も、元の部屋はけっこうな散らかりっぷりだったっけ……。

 こっちに来てからは一人だから、気をつけて汚れないようにしてるけど。

 

 元の時代じゃ、お姉ちゃんに甘えっぱなしで、部屋の片付けもお姉ちゃんまかせだったっけ……。

 目の前の二人のやり取りを見てると、なんだか本当の姉妹みたいで……つい私とお姉ちゃんのことを思い出してしまう。

 

 ──会いたい。お姉ちゃんに、勇者部のみんなにも。

 これ以上元の世界のことを考えると、涙が出そうになる。

 

 私は意識を()らそうと、別の話題を出す。

 

 

 

「二人は特別に仲がいいけど、昔からの知り合いとかなんですか?」

「いんや? タマとあんずが出会ったのは、バーテックスが現れて、勇者に選ばれた時が初めてだったよな?」

「そうそう。あの時のタマっちはカッコよかったなぁ~」

 

 

 

 しばらく二人の馴れ初めが語られる。

 

 杏ちゃんは病気がちで他人との距離を感じ、球子さんも男の子っぽい性格で、周りとの違いを気にしていた。

 勇者に選ばれてもバーテックスに怯える杏ちゃんを、一人で救いに現れたのが球子さん。

 

 そこで二人は、互いにないものをお互いが持っていることを感じ、それを求めるように仲を深めていった……と。

 

 

 

「なんだか、物語のお話しみたいですね」

「って、黙って聞いてれば全部話す奴があるかーっ」

 

 

 

 私はドラマチックな展開に感心し、包み隠さずさらけ出した杏ちゃんに球子さんは、ウガーッと可愛らしい怒りを見せた。

 

 そういえば、と私は元の時代で残されていた()()()宿()()を思い出す。

 

 

 

「勇者部で、子どもたちへ演劇を見せるのに、まだ物語の展開が決まってなかったんだっけ……今の二人のお話し、そのままストーリーになりますね」

「未来に恥ずかしい思い出をバラまこうとするなッ!!」

 

 

 

 球子さんの抗議で、舞台化はあえなく断念となった。

 けっこう感動的な、いいお話しになると思ったんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 ここ数日のあいだ、なんだかみんながよそよそしくなった……気がする。

 みんなというのは西暦勇者の杏ちゃん、球子さん、高嶋の友奈さんに千景さん、若葉さんと巫女のひなたさんの六人のことだ。

 

 

 

「もしかして、私嫌われてる……?」

 

 

 

 未来から来た部外者で、ジークアクスなんてズルみたいな力を持っていて……よく考えたら、うとまれる方が普通かもしれない。

 

 

 

「そう考えたら、なんか……みんなと顔をあわせずらいなぁ」

 

 

 

 といっても今日は通学日だから、どうしても教室で会わないわけにはいかない。

 クラスのドアの前で少し戸惑う。

 

 でも、

 

 

 

「嫌われてたとしても、逃げるのはダメだ」

 

 

 

 意を決して、扉を開ける。

 私はなるべく明るい声で、みんなに挨拶をしようと声を上げた。

 

 

 

「おはようござ……」

『おはよう、そしてようこそ!』

「へぇっ!?」

 

 

 

 いつもの六人の声が重なって、私の耳を打つ。

 パンパンと破裂音と共に、私の前には紙吹雪のようなものが舞った。

 

 

 

「クラッカー……? っていうか、え? なんですか、これ」

 

 

 

 早朝にも関わらず……よく遅刻しそうなぎりぎりの時間に駆け込んでくる友奈さんも、みんながそろって私を出迎えた。

 

 

 

「ほらほら、樹ちゃん。こっちに座って」

「あ、はい」

「これも被って」

 

 

 

 友奈さんに手を引かれ、招かれたのは教室の真ん中に()えられた……会議なんかで使われるような、大きなテーブルの前。

 そこの中心に、玉座のように置かれているイスに私は腰かける。

 

 木造りの椅子の上には、柔らかなクッションが置かれていて、まさに王様扱いだ。

 友奈さんにこれも、と頭に乗せられたのは三角コーンのような形の帽子で、赤い下地に銀色の星柄の模様が輝いている。

 

 周りを見渡せば、教室内には色紙や画用紙の細工で、色とりどりのにぎやかな様相を(てい)していた。

 

 

 

「えっと、これはいったい……?」

 

 

 

 コホン、と若葉さんが中心となって、この(もよお)し?の意味を教えてくれる。

 

 

 

「実は、今更のことなんだが……樹の西暦への来訪を記念して、パーティーを開こうということになってな」

「……私のために?」

「友奈さんの発案なんです。せっかく樹さんが来てくれたのに、まだ歓迎会も開いてなかったから、と」

「遅くなっちゃったけど、そのままなにもしないよりはね」

 

 

 

 呆気にとられる私に、ひなたさんと友奈さんが言った。

 

 そっか……このことを私から隠すために……驚かせようと。

 みんなウソつくのが苦手だから、それで態度が不自然になってたんだ。

 それを私は勘違いして……。

 

 

 

「ぁ、ありがとう、ございます」

 

 

 

 それだけ言うのが精いっぱいだった。

 うれしくて、うれしすぎて泣きそうになっちゃう。

 

 そうだよ。勇者に選ばれるようなこの人たちが、誰かを嫌ってのけ者にするなんてこと、やるはずがない。

 私は自分の考えを恥じて、わき上がるよろこびを笑顔に乗せて、みんなに送った。

 

 

 

「今日は一日、授業は休みだ。この日のために、私とひなたと友奈で料理もつくっておいたんだ」

「高知の名物のカツオを取り寄せました。お刺身にタタキに、カツオのカツもありますよ」

「愛媛ミカンを混ぜたケーキもあるよ! 遠慮せず、いっぱい食べてね」

 

 

 

 広いテーブルの上は、三人のお手製のパーティーメニューが埋め尽くした。

 どれもすっごい美味しそう。

 私は無意識に、ノドをごくりと鳴らした。

 

 

 

「タマたちからはプレゼントだ。これは登山用のシューズ。いつかこいつを履いて、山登りに連れてってやるよ」

「私からは、おすすめの小説。初心者でも読みやすい内容のものを選んだよ」

「……これ、私の好きなゲーム。チームプレイもできるから、よかったら教えてあげるわ」

 

 

 

 わざわざ用意してくれたプレゼントを抱えて、私は感謝とともに頭を下げた。

 

 そうしてみんなで席について、料理に箸を伸ばす。

 

 

 

「わぁっ。これ、どれも絶品です! プロレベルですよ!」

「まあな、柄にもなく腕によりをかけた」

「カツオなんて、久しぶりに食べるわね……」

「ケーキとミカンの組み合わせもいいですね~」

 

 

 

 自慢げな若葉さん。

 千景さんと杏ちゃんも、他のみんなも……食べて飲んでお喋りして、大いにパーティーを楽しみつくした。

 

 そして──先触れは予告なく起こる。

 

 

 

「……神託が降りました。総攻撃がはじまります」

 

 

 

 (とき)は、未来に進んだ。




スランプです…悩んでAIに相談しても解消されず、モチベーションの維持もきついので、急ですが話をまとめる方向でいきます。
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