私──犬吠埼樹の西暦への来訪を祝って、この時代の勇者と巫女の六人が、歓迎のパーティーを開いてくれた。
その日から
「神樹様から神託がおりました。……近々、バーテックスの総攻撃がおこなわれます」
あまりにも唐突なひなたさんからの一言で、教室内に集まった私たち勇者の間に、深刻な影が落ちる。
「総攻撃って……バーテックスが襲ってきたのは、まだ数回ですよね!? そこまでするほど、こちら側の反撃力は見せてないんじゃないですか!?」
「たしかにそうです。バーテックスは星屑と、進化体をいくらか生み出した程度。樹さんがおっしゃっていた『完成体』も、発生する兆候は未だありません」
「じゃあ、なんで……!?」
大社の予測では、本来なら敵にもまだ、総攻撃なんておこなう戦力を整える時間もないはず。
この段階じゃバーテックスの進化のスピードも遅いはずなのに……。
ひなたさんは、不自然に私から視線を逸らした。
それで、私は答えに気づいた。気づいてしまった。
「私が……私とジークアクスが、この時代に来たから……?」
ガンダムっていう過剰な戦力を持ち込んだ影響で、この時代のバーテックスの進化速度を上げてしまったんだ……!
体中から血の気が引いてくのが実感できる。
私はただ、私の世界の勇者部のみんなを、お姉ちゃんを助けたいだけだったのに。
それなのに……そのためにこの西暦の時代を、さらなる危険に晒してしまった。
「ご、ごめんなさ……わたし、そんなつもりじゃ……」
きっと青ざめているだろう顔で、私は涙ながらに謝罪の言葉を口にしようとする。
それもノドがひきつって、うまく声に出せない。
「落ち着いて、大丈夫。樹ちゃんのせいなんかじゃないよ」
友奈さんが背中をさすってくれる。
「現在大社が、急ピッチで勇者服のアップデートをはじめているそうです」
「我々も、通常の授業はいったん取りやめ、勇者としての訓練に努めることにする」
ひなたさんと若葉さんが言った。
勇者服の強化……確か精霊の力を借りるパワーアップ方があるとか。
その威力をさらに高めるんだろうか?
「樹も、我々の訓練に加わってくれ。ガンダムの操縦法は、もう理解したんだろう?」
「ぁ、はい」
「ジークアクスの力は大きな頼りになるが、それだけに依存していては、いざという時になにが起きるかわからんからな」
「わ、わかり、ました」
私は後悔からくる涙をぬぐって、みんなと一緒に訓練場へ向かった。
嘆いても、もう私のしたことはやり直せない。
もう一度時を戻ってやり直そうにも、そのキーになるジークアクスが一緒にあっては、同じようにバーテックスは進化して対応しようとするだろうから。
「みんなを守って、ぜったい総攻撃を乗り越える……!」
決意を確実にするため、私は小さく言葉に出して、意志を固めた。
◇ ◆ ◇ ◆
・勇者御記 記録者:伊予島杏
結果を先に書きます。
今回のバーテックスの総攻撃は、なんとか乗り越えることができました。
死亡者、および致命的な重傷者はなし。
戦いの中で敵は進化体を経由し、「完成体」と呼ばれる形態を発現させました。
これの存在は未来から来た勇者、犬吠埼樹ちゃんからの情報で知らされていました。
しかし大社の予測では、今回の侵攻で完成体が誕生する可能性はゼロ。
にもかかわらず今回、完成体が生まれたのは──樹ちゃんと彼女が乗ってきた巨大ロボ「ガンダムジークアクス」の存在によるところが大きい。
これは樹ちゃん自身の発言です。
彼女とガンダムの登場で私たち勇者サイドは力を増し、それに対抗するためバーテックス側の戦闘力も引き上げられることになった……。
この事実で樹ちゃんは大きなショックを受けています。
そして完成体バーテックス──「蠍座型 スコーピオン」との対面で、私と土居球子先輩は非常に危険な状態に陥りました。
スコーピオンは毒をもっており、毒の尾が私の肌をかすり、それだけで私の片腕は麻痺し動かせなくなる。
そしてタマっち先輩は、動けない私を庇って両足の骨にダメージを負う。
他の勇者は分散して、敵を各個撃破の最中で、救援は望めない。
私とタマっち二人ともが身動き取れないまま、蠍座の必殺の尾針に狙われていた時──あわやというタイミングで、樹ちゃんの操縦するジークアクスが駆けつけてくれました。
ジークアクスは私たちを襲おうとする蠍座の尾を両腕で止め、引きちぎり、そのまま頭部に備えられているバルカン砲で完成体を破壊しました。
私とタマっちは救われ、他の勇者──若葉さん、友奈さん、千景さんも各箇所の防衛から敵を掃討。
こうして総攻撃は終了しました。
ただ、心配なことが二つ。
スコーピオンの攻撃を防いだ際、ガンダムが毒の作用を受けた模様。
敵の毒は人体だけでなく、機械に対してもウイルスのような悪影響をもたらすようで、接触によりクアックスの回路が機能を停止。
大社が機体を回収し解析した結果、ガンダムの制御プログラムに未知のコンピュータウイルスが感染していることがわかりました。
現在、大社が総力を挙げて、ジークアクス内部のウイルス除去作業を行っています。
もう一つは、樹ちゃんのこと。
今回の総攻撃を切り抜けたことで、彼女が私たちの時代にやってきた理由である、歴史のマイナス面が修正された模様。
樹ちゃんは未来で死亡した彼女のお姉さんや仲間の勇者を救うため、西暦の歴史を修正することが目的です。
その歴史に対して、彼女と因果の強い──理由はわからないけど──私とタマっちの命が助かったことで、樹ちゃんはこれ以上この時代に留まる理由がなくなり、未来に帰れることになった。
これは彼女の乗っているガンダムが言ったことだそうです。
けれど樹ちゃんは上記の、自分の存在と行動で西暦の時代が危ぶまれていることを気にしている。
私もタマっちも、若葉さんたちもみんな、樹ちゃんのせいじゃないということは理解しています。
それにこの時代は、私たちこの時代の勇者が戦って、守らないといけない。
樹ちゃんには、本来の自分の生きる時代で幸せになって欲しい。
そうなれるのなら、そうすべきだと私は思います。
◇
追記
御記を書いてから後日、樹ちゃんに、街に暮らす市民の案内を頼まれました。
島根から若葉さんに先導され四国まで逃げ延びた人や、天恐を患いながらも勇者の活躍を聞いて、回復のために懸命に努力している人など。
彼女は──樹ちゃんは、私たち勇者に救われた街の人たちを見て、なにを感じたんでしょうか……。
◇ ◆ ◇ ◆
四国を守る神樹の結界の外に、類を見ない巨大なバーテックスが形成されつつある。
事態を察知した大社は急きょ、犬吠埼樹をのぞく私たち五人の勇者に、偵察を命じた。
樹は搭乗機のガンダムが起動不能であり、また彼女自身未来への帰還に揺れているため、不安定な精神状態では戦力として心配、ということで外されている。
巨大バーテックス──樹の情報によれば「獅子座 レオ」が四国に攻め込んで来れば、私たち西暦の勇者だけでは対応することは不可能であると断言された。
未来においても、樹をふくめた五人の勇者──装備も私たちのものより、数十倍の性能をもっている──の力を総動員しても、獅子座に対して成すすべがなかったらしい……。
唯一可能性があるとすれば、完成体の内部に存在する「御霊」と呼ばれる部位を破壊すること。
これは生き物でいう心臓に値するものである。
「おいおいおい……今度の完成体はデカすぎるだろ」
「まだつくられてる最中だけど……百メートルくらいはありそうだね……」
私──乃木若葉を先頭に、勇者たちは結界の外に出た。
壁の上からは、目視で敵バーテックスの姿が確認できる。
距離は離れているはずだが、敵の巨大さで遠近感が狂いそうだ。
それほどに敵、獅子座のバーテックスの体は大きい。
敵の巨大さは、そのまま奴の力の強大さを表しているように思えてならない。
球子と杏は、これまで対してきたバーテックスとは桁違いの大きさに──球子流にいうところの──タマげていた。
私をふくめた他三人も冷や汗を浮かべている。
私はネコではなく、文字通り獅子を前にしたネズミのような気分だった。
他のみんなも同じ気持ちだろう。
「……こんなバカげた相手に、勝ち目なんてあるの?」
青ざめた顔で千景がこぼした。
「大丈夫だよ、郡ちゃん。相手は完成体だけど、まだ本当には完成してない」
「友奈の言う通りだ。奴が動き出す前の今なら、御霊とやらを破壊して止められる」
今回の任務は偵察だけだが、可能なら敵の討伐もとは大社に言われている。
言われずともやらなければ、四国は終わりだ。
そして今ならそれが出来る。
「チャンスは今しかない! いくぞみんな!」
空中に浮かぶ星屑を足場としてジャンプ、ジャンプ。
接近すると、レオ・バーテックスの構成はいまだ不完全で、体のあちこちに空洞が見て取れた。
まるで虫食いか、穴の開いたチーズのようだ。
「よし、このまま体内に侵入して……」
敵の目前、私たちの目の前で、ふいにレオの体が震えだす。
「ちょっと、こいつ動き出したわよ!?」
「郡ちゃん、止まっちゃダメ!!」
レオの体から二つの火球が射出され、動揺した千景と友奈に向かっていく。
さらに三つ四つと続けて火の玉が撃ちだされると、それらは私と球子、杏を目がけて飛んできた。
「なんだ、こんなもん! タマの盾で防いで……」
「それより私の矢で撃ち落とせば……」
盾を構えて火球をくい止めるようとする球子と、武器のボウガンで相殺を狙う杏。
しかし両者の狙いは外れた。
火球の威力はあまりにも高く、神の力を宿した球子の盾も杏の弓矢も押し負けてしまう。
「うわぁあああ!?」
「きゃあああッ!?」
二人は炎に焼かれながら、海の上に落ちていった。
同じく攻撃を受けた千景と友奈も、あとを追うように炎に包まれた体が海中へ没する。
「みんな!? くッ」
一人残された私は、防御も反撃も不可能と知り回避をとるが
「なんだこの火の玉は!? あとを追跡してくるのか!?」
火球は空中を自在に動き、逃げようとする私の背中を執拗に追いかけてくる。
レオは次々と火を噴いて、私を追尾する火炎弾は数を増す。
そしてついには、四方を取り囲まれてしまった。
逃げ場のない状況で、頭の中を「死」の一文字が
私の認識では、スローモーションで火球が迫るのを感じていた。
幼馴染で親友の上里ひなたの顔が浮かぶ。
(ひなた……もう会えないのか……)
今生の別れを覚悟した私の眼前で、レオの放った火球は──すべてが私の体に達する前に爆発した。
「……えっ」
『若葉さん、無事ですか!』
スピーカー越しに聞こえた声は
「樹、か……?」
この場にいない犬吠埼樹。
戦力から外され、未来に帰るものだと思っていた彼女が、今ここにいる。
足場を失って落下する前の私の体をキャッチしたのは、彼女の動かすガンダム ジークアクスの右腕だった。
さらにガンダムの左手の中には、先に海中へと落ちていった杏に球子、友奈と千景の姿も。
四人とも怪我をして血を流してはいるものの、命には別条ないのが見てとれた。
『よかった、全員とりあえずは無事みたいですね』
ジークアクスの外部スピーカーから、操縦席の樹の安堵した声が流れた。
あと2話で終了、というところでそれすらスランプで書けない…となり、プロットを作り直して1話分にまとめて今回で終わらすつもりだったんですが、結局書いてるうちに2話にまたがってるという…。
再構成の意味 どこへ!?