──001──
死因は爆死らしい。
住んでいたアパートは木っ端微塵だったそうである。
爆弾による大量殺害を画策したサイコパス青年が隣室に住んでおり、彼にとって記念となるはずだった爆弾1号が「うっかりミス」という名の誤作動で炸裂したのだ。
つまり真濁は理不尽な不幸に巻き込まれたわけである。
不幸中の幸いといえば、爆発した時間帯に粉々となったアパートにはサイコパス青年と真濁しかおらず、周辺住民には死者や重傷者はいなかったことか。
逆に言うと、その日に限って会社を病欠して寝込んでいた真濁が不幸すぎるのだが。
まあ、とにかく真濁は死んだ。
テロと呼ぶには色々とアレな感じだが、結果だけを見れば立派な自爆テロだ。巻き込まれた側としては到底許せるものではない。
出来ることなら、うっかり属性持ちの爆弾魔(未満)をこの手でボコボコにしてやりたかったが……
死んでしまってはどうにもならない。
順当に相応の地獄へ落とされて、苛烈な罰を受けているのを期待するしかない。
そうやって真濁は折り合いをつけた。
つけるしかなかった。
目の前にいる「女神」から、死亡した前後の状況を説明されてしまっては。
上下の感覚も定かでない、重力も仕事をしてなさそうな真っ白い空間に女神も真濁も浮かんでいる。こんな状況で「……そうした経緯でで貴方は死にました」と説明を受けてしまえば納得せざるを得ないだろう。
ウェブ小説や漫画で見掛ける「神様のミス」で死んだのかと真濁が問うと、女神は苦笑いと共に否定した。
そもそも、人間を含めた生命体の運命なんて細かく(それこそ生き死にの内容まで)管理してないらしい。
宇宙全体に生命体がどれだけいると思ってるんですか、と冗談めかして言われてしまった。
なので真濁の死は純然たる「運の悪さ」によるものだったのである。
女神のミスでないのなら、なぜ自分は女神の前に呼ばれたのか?
真濁は自分のアンラッキーっぷりに軽く絶望しつつ、続けて浮かぶ疑問を投げかけた。
「丁度おもし……不憫な死に方をした魂を見付けたもので」
神の口から不穏な単語が飛び出しかけた気もするが、真濁は気のせいだろうと思うことにした。
女神も気にした様子もなく説明を続けるようだ。
神様の仕事は多次元宇宙と平行世界の調律と運用(息抜きとして生命体が生んだ文化に触れたり)なのだが、とある特殊な平行世界に歪みが生じたらしい。
歪みを修正するには、ある程度『神の影響』を受けた
「なので『神の影響』の中でも最大値ともいえる【加護】を刻んだ魂を
それに必要な魂を探していたら、たまたま不憫な死に方をした人間を目にしたので「善良そうな魂だし、ちょうど良いのでは?」という感じで選んだそうだ。
ちなみに拒否権はないとのこと。
まさかタイパが理由で転生させられるとは。
死んでも社会の歯車かあ、と真濁は嘆息する。
だが拒否権がない代わりに【加護】には色を付けてくれるという。
アメコミに登場するキャラみたいなスーパーパワーでも持たせてくれるのかと尋ねると、
「どんな能力が良いですか?」
と来たもんである。
マジかよ、と提案した側の真濁がドン引いた。
ふと脳裏に「ブロリー」だとか「サノス」だとか「裸エプロン先輩」だといった不穏なワードが浮かぶ。
さすがに【加護】の密度が強すぎると、逆に平行世界の歪みを強めてしまうので「数や内容は要相談ですね」と補足という名の忠告はされたが。
「うーん……じゃあ……」
悩みながら真濁は思いつきを提案、女神と相談の末に【加護】の中身が幾つか決定し──
──002──
「そういえば『どんな世界に転生するのか?』って根本的な質問をし忘れてたなあ……」
──003──
公的秘密機関である治安維持組織「Direct Attack」の本部は、都心から離れた国有山地の中にある。
その正確な位置は関係者しか知らされていないが、住み込みで本部に勤めている真濁にとっては「都心とのアクセスが激烈に悪くて不便なだけの秘密基地」でしかない。
そんな不便極まる我が家に真濁は戻ってきた。
本部には様々な部署に専門技術を修めたリコリスや大人の職員(相当数が元リコリスだ)が従事している他、研修生……いわゆるリコリス見習いや、本部所属のファーストからサードまでの
秘密施設という割に、意外と人口密度は高いのだ。
赤や紺やベージュの制服達が
そんな彼女と通路ですれ違った数人のリコリス──セカンド1人にサードが4人なので、実動部隊の中でも下部の
「……先輩、翠色の制服なんて階級ありましたっけ?」
ベージュの制服に身を包んだリコリスの疑問に、紺色の制服を装備したチームリーダーは「あー……」と心当たりがあるようなリアクションを返した。
「そっか、まだ貴女達には教えてなかったわね」
任務で一緒になることなんて無いだろうから失念してた、とセカンドの少女は誰に言い訳するでもなく言葉をこぼす。
既に廊下の先で遠い背中となった翠の少女へ再び向けた視線は、自分達と同じ組織に属していながら違うステージに立っている人間を見るものだった。
「あまり大っぴらには知られてないけど、特殊な事案に対処する司令直属の部署があってね。
名前はえーと……『ウェルウィッチア』……だったかな?」
それは分類が特殊な植物の名前でもあるのだが、説明している本人は由来や意味を理解していないようだった。
「まあ、長いから『ウィッチ部隊』って略されて、そこから『魔女部隊』なんて呼ばれてることが多いけどね。
あの子はソコに所属してる。
ファーストだけで構成されてて、所属の違いを分かりやすくするために赤じゃなくて緑の制服が支給されてるのよ」
「へー!」
「すごーい!」
「エリートの中のエリートってヤツですね!」
「憧れちゃうであります!」
「……エリートねえ」
サードの少女達は驚嘆と羨望が混じった声をあげるが、セカンドリコリスの反応は微妙なものだった。
「基本的に単独任務らしいし、長期連続任務は当たり前、そのせいで殉職率が他の部署と比べて異様に高いって噂なのよねぇ……」
「ひえええ~……」
一転してサードリコリス達から小さい悲鳴が上がる。
治安を維持するための汚れ仕事を文字通り命を懸けて遂行する「DA」の活動と信念には誇りを持っているが、だからといって自分や同僚の命を軽く扱っているわけではないし、死ぬのは普通に怖い。
命令されれば従うけれど、それでも自ら進んで死地に飛び込むのを是とするほどリコリスは
「でも彼女は生きてるから……そういう意味では確かにエリートかもしれないわね」
本部にいるということは、仕事を終えて次の任務を受けに来たということだろうか。
同じエリートでも『電波塔の英雄』の自由奔放さ(と、それによって巻き起こされる数々のトラブル)を比べてしまうが、あまりにも両極端な事例だと気が付いて
「ま、同じエリートでも私達は春川先輩のようなファーストを目指しましょう?」
「……そうですね」
「ガンバルゾー」
その両極端の一翼である英雄の相棒を務めたこともある、リコリス内では一番の常識人と名高い人物を目標に掲げる。
とりあえず同意はしたものの、目指す側としては「えー……あのリコリスで一番の苦労人を……?」という感想を
新人からもそんな印象を持たれている当人の苦労も偲ばれるというものだ。
──004──
「ふぇ、っっくしょっ!」
「およよー? フキったら風邪? だらしないなあ、腹まる出して寝てるからだよー? それともポッコリ太ったから自然と腹が出ちゃうのカナー?」
「ぜんぶ違うわぁっ! こんのぉ……リハビリ目的の軽い模擬戦だからって遠慮してやってりゃ調子にノリやがって……! ここで引導渡してやるっ!」
「わー! 落ち着いてくださいっす、フキ先輩ーっ!?」