※設定などを改訂、大幅に加筆修正しました
──009──
さらに先へ──樹海の奥へと進んで行くと、戦闘の痕跡を
同時に人間の残骸、かつて
原形を留めている者、損壊した身体の一部のみ確認できる者、おそらく
「(そういうのも折り込み済みな
事前に仮定されていた通り、投入されたリリベル部隊は本当に「全滅」してしまったのだと思われる。
なのに敵対していたはずの米国陸軍らしき兵士の死体は見当たらない。戦死した兵士がいたとしても、拠点まで回収されたのかもしれないが。
「拠点、か」
この樹海内で特殊部隊が何らかの活動をしているのならば、この先に彼等の拠点となる陣地が構築されているはずである。
秘密裏に入国した挙句、差し向けられたリリベル部隊を殲滅しておいて、樹海に来た理由が「単なる訓練」などということは有り得えないだろう。
ならばやはり拠点を探って目的を探るしかない。
すごく嫌だが?
心の底から近付きたくないが?
真濁は頭の中で駄々をこねるイマジナリー自分を説き伏せて、音や気配を極限まで殺して
とはいえ、その足取りは重い。
確認できたリリベル達の中には、例の「
つまり米国陸軍の特殊部隊サマは「そういう兵器」を配備していることになる。
真濁には心当たり……というよりも、前世知識から引き出された単語が嫌な想像を駆り立てていた。
「(……いくら人工心臓を造れちゃう天才がいる世界線でも、さすがに個人携行できるレベルで実用化してたりはしないでしょ。
多分、きっと、めいびー……)」
胸の内で言葉を重ねる度に嫌な想像のディティールが増していく。
とりあえず、その想像は心の収納ボックスに無言で仕舞うことにした。
──010──
「……なんか思ってたのんと違うのが出てきたなあ……」
それを視認した真濁が、僅かなタイムラグの後に思わず口から漏らした言葉が上記のものになる。
あれから警戒しつつ更に1時間ほど森を浸透した先に、それはあった。
長い年月をかけて
深い森の中にある巨大な石室は、強烈な違和感を
しかし
建造物や周囲を覆う大自然の遍歴っぷりもあるが、そもそも重機なしでコレを建造するのは不可能だろう。
かなり以前から存在していたと考えるのが自然だ。
ではいつからあるのか?
石室が
「石の加工具合とか積み上げ方とか、マチュピチュの石壁っぽいけどなあ」
遠目から見ても、整形され積み上げられた石と石の隙間に、紙一枚でも差し込める余地はなさそうだ。驚くべき精巧さだが、だからこそ疑念が湧く。
真濁の知る限り(前世の知識を基準とするならば)そのような様式で建てられた
しかもここは富士の樹海の最深部だ。
造られた推定年代を考えても、こんなものを建造できる文明や技術に思い当たる
ひとまず真濁は巨大なキューブ型のパズルめいた石室の周囲を偵察してみることにする。
すると反対側に出入口らしき穴が、真濁を誘うかのように開いていた。森の暗さも
しかも出入口らしき穴がある草地には、真濁ではない複数の人間が移動した痕跡がある。
「(見張りは立ってないケド……米軍さんが拠点に使ってる可能性は高そうだよにゃあ……)」
見張りがいればソイツをボコして最低限度の情報を引き出させたら、それで任務完了!と撤退することもできたのに……少しは空気を読めよファッキン密入国特殊部隊!──と真濁は無言で仮想敵を罵倒する。
「……行くか」
効果のない呪詛の不毛さなんて最初から
──011──
少年は困惑していた。
しかしその困惑は(彼にとっては迷惑なことに)慣れ親しんだ部類のものでもあった。
森の最深部に誰からも忘れられ鎮座していた巨石の建造物。しかし米軍の特殊部隊は誰に案内されるでもなく、真っ直ぐにこの場所を目指していた。
つまり、当初から部隊の目的は樹海の散歩などではなく、この建造物だったということになる。
なぜ米軍が
しかし少年の困惑は
彼は特殊部隊を追って、既に巨大な立方体の中へと身を投じている。外見と同じく内部も人工的な構造。出入口に扉はなかったというのに、やけに中は清潔で、泥土の侵入も植物の侵食もなく、照明となるものなどないのに不思議と明るい通路が迷路のように入り組むばかり。
案内表示らしき記号や文字(少年の知らない言語だった)は一定間隔で壁に描かれているものの、判読できなければ意味がない。
途中に部屋らしきものも全く見当たらない。
……おおよそ居住性を考慮した造りとは言えなかった。
少年の心に浮かんだ印象は「RPGの
それほどに無機質以上の無機質さで、明るいのに冷たく、それでいて明確で人為的な意図を感じさせる独特の雰囲気だったのだ。
モンスターの代わりに米軍特殊部隊がポップアップしてくるかもしれない物騒な迷宮ではあるが。
「……おかしい」
ついに困惑が言語となって口に出る。
外から見た建造物の
想定していたよりも何十倍も広いのだ。
まるで内部の空間が拡張されているかのよう。
「いや、コイツは
もしくは出入口が異空間と接続されていたか。
手慣れた感じで少年は考察を言葉に表す。
方向感覚には自信があったが、この大型石室に入って進む内に東西南北の感覚が段々と薄まっていくのは自覚できた。方位磁石も(どの方角を向いても)ピクリとも動かないので役に立たない。
「クソッ、厄介な置き土産を残してくれてたモンだぜ……!」
ここでようやく少年は腰のホルスターから自動拳銃を抜き、片手で軽く構えた。他の銃器……予備の拳銃や小銃はおろか、銃弾などから身を守るボディアーマーの類いも身に付けていない。
ホルスターや弾倉を収納するガンベルトは装備している以外の服装はいたって普通、実にカジュアルだ。右手に握る拳銃さえ無視すれば、樹海の奥地で自殺をしに来た未成年が迷い込んだだけに見える。
ただ、その生気に満ちた精悍な瞳は「自殺志願者」のそれとは似ても似つかないが。
少年が拳銃の安全装置を解除した、その瞬間。
言葉では表現できない、心も体も総毛立つ奇妙な感覚が──それはしかし刹那の瞬きで──少年に襲いかかった。
「ッッ!?」
反射的に振り返りながら拳銃を構える。
意識を研ぎ澄ませ、周囲の気配を探り、先ほど感じた瞬間的な異常さの正体を探るため、索敵への集中力を急速に高めていく。
しばらく直進の
光源もなく全体的に明るい通路。
全く意味が分からない壁の文字や記号。
人の気配は一切ない。
自分の息遣いや装備品の音以外、無音の空間。
数メートルほど歩を進め様子を見るが、何も起きない。
「……気のせいか? いや、それにしては──」
周囲への警戒と拳銃の構えを解くことなく
先程まで進んでいた方向。
異変は
何もないはずの通路──その壁際の空間が、無音で小さく「ぐにゃり」と歪む。
歪んだ景色の中から、シンクロナイズド・スイミングのように、
水泳競技のそれとは違って腕は上方向ではなく、横方向に突き出ているが。
その袖口から覗く手首は華奢でも、その内側には見掛けに依らない量の筋肉が圧縮されているのだろう。
何故なら。
その腕の先にはリボルバー式の拳銃が握られていたからだ。
銃口は静かに素早く少年の背中へ狙を定め──
ついに引き金が引かれた。