カラフル・リコイル!(仮題)   作:砂上八湖

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連続投稿6つ目です。
以降は書き上がり次第投稿いたします。

※設定などを改訂、加筆修正しました


第5話

 

──012──

 

 バカンッ

 

 サプレッサーを付けていないため、射撃音が通路に反響し、耳の奥を打つほど大きな音が轟いた。

 しかし音は長く響かず、すぐに元の静寂が一時的に戻る。

 通路を形作っている石が音を吸収しているのだろうか。

 

 そんな疑問など目標と定める少年の命と共に砕いてやると言わんばかりに、黒い弾丸が空気を(えぐ)りながら突き進む。

 

 ボディアーマーを装備していない少年の背中に、このまま突き刺さるかと思われたが──

 

 プンッ

 

 そんな音が生じたと勘違いするほど、少年が素早く動いた。攻撃してきた方向を振り向きもせず、回避する前の上半身が残像となって見えるほどの速度。 

 

 弾丸は残像の少年を貫き、やや離れた位置の床に着弾する。石には傷ひとつ付かず、そのまま跳弾して更に向こうへと飛んでいった。

 

「ッンの野郎ッ!」

 

 その速度を維持したまま少年は振り返り、悪態を()きながら拳銃を連続で発砲した。

 SIG Sauer P226 TACOPSから乾いた音と共に放たれた9mm弾は、()()()()()()()()()()()()()()()腕の付近を通過していくが、腕そのものには当たらなかった。

 狙いもつけずに牽制で撃った攻撃なので、さすがにそう都合良くヒットしたりはしないようだ。

 

「うわわっ!?」

 

 だが相手の至近を射撃したことで動揺は誘えたらしい。予想外に可愛らしく響いた悲鳴を巻き込むように、何もなかったはずの空間から中学生くらいの背格好をした黒髪ブレザー少女が倒れ込んできた。

 身に付けている翠色の学生服は、少年のカジュアルな格好以上に場違いさが強い。

 

「──は?」

 

 しかし動揺したのは少年も同じだ。

 まさか富士樹海の奥地にある謎建築物の通路から制服女子が(まろ)び出るなんて想像できるはずもない。

 

「いやいやウッソだろアンタっ!

 いまのタイミングでコッチ()ずに回避()けるか普通(フツー)っ!」

 

 しかも不意打ちの一撃を回避されたのが余程納得いかなかったのか、理不尽だとばかりに非難してくるではないか。

 少年の顔に「えぇ……」という何とも言えない色が浮かぶが、この少女が自分を撃ってきたという事実を思い出し、湯沸かし器のように腹の奥からイラッとしたものが込み上げてきた。

 

「……ざっけんなッ!

 テメーこそ、いきなり撃ってきやがっただろうがッ!

 死ぬかと思ったわっ!?」

 

 尻餅をついている格好の少女に銃口を定め、その挙動に警戒しつつも「理不尽なのはそっちだ」と言い返す。

 

「はーっ!? はーっ!?

 大事な情報源をモンドームヨーで射殺するわけないでしょーッ!?

 硬質ゴム弾で脊髄狙って昏倒させて、ふん縛って拷問(インタビュー)してから始末するつもりだったんですぅー!

 そこまで素人じゃないですぅー!」

 

「出てくる単語がいちいち物騒すぎるッ!?」

 

 どうなってんだ最近の中学生!と思わなくはないが、そもそも普通の中学生は拳銃を撃たないのだ。

 いや、それより気になるのは……

 

「つか……オメー、さっき空中から出てこなかったか……?」

 

「……パ、パイセンの見間違いじゃないッスかねー……?」

 

 露骨に目をそらし、ヘタクソな口笛を吹き始めた。

 

「最近の漫画でもやんねぇぞ、そんな誤魔化し方……」

 

 相変わらず銃口は向けられたままだが、少年の身体から心底呆れたような空気が漏れだした。

 

 一方の少女──真濁は困惑していた。

 女神から授けられた『能力』による不意打ちを避けられたから……というのもあるが、それよりも()()()()()()()()()()()()()気がしているからだ。

 

「(うーん、なんだこれ……?)」

 

 思い出せない単語が喉元まで出掛かっているのに出てこない系の困惑である。

 前世関係か?と思ったが、こんな高校生ぐらいの少年に知り合いはいない。

 死因は爆弾だったが、少年と拳銃で撃ち合うようなハードな人生でもなかったのだ。

 

「(でも、どっかで見たことあるような気がするんだよなー?)」

 

 富士山に起きた奇跡の現象についても感じた同じ種類のモヤモヤを、胃の中で味わい始める真濁。

 急に胃を押さえて悩み始めた少女の脈絡のなさに一種の恐怖を感じたが、少年は尋問を続行することにした。

 

「で、オメーはナニもんだ?

 修学旅行で迷子になった中学生なワケねーよな?」

 

 中学生はマテバで人を撃たないもんな?と釘を刺す。

 そのセリフで、真濁は僅かながら情報を得る。

 

「この格好を見てそのセリフが飛び出すってことは、やっぱりパイセンはリリベルじゃないんすね?」

 

「リリベル……?」

 

 リコリスは世間に溶け込むための擬態として制服姿で活動しているが、その姿である間は殺人許可(マーダーライセンス)が下りる仕組みになっている。

 樹海に入るのに真濁が制服姿でいるのもそのためだ。

 同じ組織に属しているリリベルであれば、真濁の姿を見ただけで所属が分かったはずである。

 外見年齢は当てはまるが、彼はリリベルの生き残りではないのだ。

 装備品からも米軍関係でもないと推測できる。

 

 ……ここにいる時点で只の高校生(推定)ではないだろうが。

 

「……いや待て、聞いたことあるぞ」

 

 そんな少年が、自ら『只の高校生』であることを否定する情報を「思い出す」という行動で示していく。

 

「日本には昔から裏で治安維持組織が動いてて、花の名前を付けた実働部隊があるから気を付けろって山本さんが言ってたな……」

 

 その山本さんが一体どこの誰なのか分からないが、DAのことを知っているからには裏を知る側の人間なのだろうと真濁は情報を拾いながら判断する。

 

「たしか少年だけで構成された攻撃部隊と、少女だけで構成された暗殺部隊で分かれてるとかいう胸糞悪い組織で……」

 

「(そうっすよね、客観的に見ると糞みたいな組織っすよね『DA』さん。

 つうか情報ダダ漏れじゃねぇかよ、どうなってんだ諜報部)」

 

「女の子の部隊は、全員が都市迷彩服代わりに学生服を着用してるって更に胸糞わる……い、はな……し……」

 

 語尾の調子が弱くなると共に、少年の視線が真濁の服を上から下へ、下から上へと舐めるように動いていく。

 

「……セクハラで訴えますよ、パイセン」

 

「お前──リコリスか」

 

 男性を一方的にぶん殴れる棍棒で威嚇してみるが、返ってくるのは射抜くように険しい視線だけだった。

 

「……ピタリ賞は美少女アサシンと1日デート権とかでどうっすかね、パイセン?」

 

 ダメ?と小悪魔なポーズで可愛くウインクして見せたが、少年の視線は厳しいままだった。

 

 ダメみたい。

 

──013──

 

 とりあえず銃口は下げてもらえたので、真濁はマテバを制服の下に装着していたホルスターに仕舞いがら立ち上がった。

 

「で、なんでリコリスが富士の樹海に来てるんだよ?

 オメーらは基本的に都市部で活動する暗殺部隊だって話だろ」

 

「それが聞いてくださいよパイセン!

 酷いんすよウチの職場と上司!」

 

「いや、ソコは聞いてないし求めてねーんだよ」

 

 ここぞとばかりに愚痴を聞いてもらおうとした真濁だったが、そっけない少年の正論にカウンターを食らう。

 しかし自分の不意打ちを避けた、あの驚異的な動きからして彼は只者ではないことは明らかだ。

 ここで改めて敵対するのは良くないと、協力関係を築いておきたかった。

 

 距離感を図る意味合いもかねて「器が小さいぞー」と文句を垂れながら、真濁は樹海に来ることとなった経緯を簡単に説明する。

 さすがに転生や特典能力、ここがアニメの世界だという説明は省略したが。話したところで「頭のおかしい暗殺ガール」と危険視されて処分されかねない。

 

「というわけで富士の樹海に出張してきた、ファーストリコリス・水火月(みかづき)真濁(まだく)です」

 

 使用漢字を空中に(えが)きながら自己紹介を終える。

 そこで少年は初めて身分を明かしてないことに気が付いたようだった。

 

「そういや自己紹介がまだだったな。

 ここ最近は俺のこと知ってる前提のヤツばっかと戦ってきたから忘れてたぜ」

 

「え、パイセンそんなに有名人なん? サインいいッスか?」

 

 急に距離感縮めてきやかったなオメーと(かす)かにたじろぎながら、少年は鼻で溜め息を吐いてみせる。

 

「アーカム財団のエージェント、御神苗(おみなえ)(ゆう)だ。

 よろしくな、真濁」

 

「──は?」

 

 真濁自身もビックリするぐらい低い声が出た。

 

「おみなえ、ゆう?」

 

「お、おう?」

 

「ナルホド-、コンゴトモ ヨロシク ネ!」

 

「いや何で急にカタコトになってんだオメー」

 

 パイセンの訝しげな言葉など、いまの真濁には聞こえていなかった。それどころではない動揺が彼女の脳内を突き抜けて心臓をバックンバックンに跳ね上げさせ、胃をギリギリと締め上げていく。

 

 

「(おいいいいいいいいいいいいっ!?

 この世界って『リコリス・リコイル』だけじゃなくて『SPRIGGAN(スプリガン)』とクロスオーバーしてるのかよ、裏社会の治安悪すぎだろ女神様あああああっ!?)」

 

 

 頭の中で絶叫して元凶に呪詛(テレパス)を送るものの、真顔で親指を立ててくる女神の幻想しか思い浮かんでこなかった。

 

 

 

 

 

   




連続投稿はここまで。
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