──014──
改めて少年の顔を確認してみると、なるほど
前世で大好きだった漫画の主人公フェイスだ。
顔の造形からすると大友版やネトフリ版ではなく、原作版寄りの世界らしい。
思わず女神への文句を
まだワンチャン「同姓同名のそっくりさん」の可能性だってあるのだから。
「……確認するけどさぁ……アーカム財団のS級エージェント、スプリガンの御神苗 優……で間違いない?」
「うげっ、そっちの業界でも俺の名前は知られてんのかよ」
所属組織とS級エージェントの代名詞である役職込みで尋ねてみると、露骨に嫌そうな顔と共に肯定的な反応が返ってきた。
ワンチャンは遥か遠き理想郷で見た幻だったようだ。
──015──
ある意味「有名人」であることは、そのネームバリューどけで有利に働くことがある。それは権威だったり実績だったり信頼・信用だったり、そこに付随する幻想であったり。
しかし全くジャンルが違う裏の世界にまで名が轟いているとなると、少し厄介な方向に働く。そういう業界で名が知れているということは、
つまり「厄介事」が増えるのだ。
優が渋い表情を浮かべたのも、そういう理由からだ。
非公式とはいえ裏で治安維持を担っている国家機関──その暗殺部隊にまで名が知られているとなれば、当然ながら良い気分にはなれないだろう。
優達アーカム財団の活動を治安維持組織は「テロ活動」とカウントしていないのか、これまで接触の機会が巡ってこなかったのは幸運な事なのだろう。
ただしこれには優の思い違いも含まれている。
真濁が『スプリガン』と『御神苗優』いう単語を出せたのは単に前世からの知識からであり、別に「DA」がスプリガンや優について把握しているわけではないのだ。
(上層部や楠木司令クラスの人間であれば、ラジアータ改を通じて情報を
そして真濁は、ここで重要なことに気が付く。
本当はこんな所で勘の鋭さが発揮されなくても良いのだが、この世界が『スプリガン』時空と交わっているということ──この場に「御神苗 優」がいるという意味の重大さを。
「……え、もしかして……この案件って『
「はあ? なんだよ、知らずに介入してきたのか?
ってか『
……いや、治安維持組織なら知ってても別におかしくねェのか……?」
その割には今まで接触なかったよな?と優は首をひねるが、真濁の脳内はそれどころではなかった。
オーパーツとは「場違いな工芸品」を意味する英語「out-of-place artifacts」を略した「OOPARTS」のことであり、発掘された地層や遺跡の年代や文明では作り得ないような技術や工作物などを指す。
いわゆるオカルト分野における「現代よりも発達した科学技術を持った超古代文明の存在」だとか「地球外知的生命体が来訪していた証拠」だとかの眉唾な話の
曰く、建材となる大量の石をどこから調達したのか一切不明な謎の石造都市「マチュ・ピチュ」。
曰く、インドに古代より一切の
曰く、古代の加工・研磨技術では製造不可能とされる石の真球群「コスタリカの石球」。
曰く、斑鳩寺に伝わるソフトボール大の球体「聖徳太子の地球儀」。
曰く、テキサス州で数億年前の時代の地層から発見された「テキサスのハンマー」。
曰く、アッシュール=バニパル王の王宮の壁画に描かれている現代のものとそっくりな「アッシリアの戦車」。
有名所を挙げればキリがない。
真濁の前世において、そのどれもが科学的に解明されていたり贋物だと判明したりしているものだったが(まあ中には「アンティ・キティラ島の機械」や「アンデスのプラチナ加工技術」といったガチでオーバースペックな存在もあるのだが)、この世界に『スプリガン』が絡んでいるとなると話は違ってくる。
なにせスプリガン世界には「宇宙考古学」という学問が(裏の世界に限った話だが)一定の立場を得ており、その研究者がオーパーツ関連で各国の軍に浸透していたりするぐらいである。
そう。
各国の軍隊や諜報機関が、世界中に眠るオーパーツを巡って日夜暗躍し、隠蔽された情報の裏で武力衝突を繰り返しているのだ。
中でもオーパーツ獲得に積極的なのがアメリカだった。
つまり今回のリリベルを全滅させた米国陸軍特殊部隊の目的はオーパーツであるということになる。
「待って待って待って、まさかまさかまさか!」
オーパーツ。
青木ヶ原樹海。
新しい都市伝説。
富士山。
真濁の頭の中で、それらのワードが意味のある線でもって接続され、ひとつの
「
限定的な地震と共に富士山の上空で観測された局所的なオーロラ現象。
写真や映像で見たことがないのに、その情景を知っている気がしていたのは、真濁が前世で
スプリガン単行本・第1巻に収録されている最初のエピソード、それが「炎蛇の章」。
古代日本から伝わる遺跡が再起動したことで、
「日本の秘密公的機関も意外と捨てたモンしゃねーな。
そこの情報も掴んでんのか。
アレをオーロラだとか
「あ、いや、これは」
「まあアレを制御する端末みたいなのは溶岩に飲まれて燃えちまってるし、その親機みたいな制御施設*1は停止してるから安心してたんだが──」
優は忌々しそうに自分達を取り囲む石造りの通路を見渡した。その仕草だけで真濁は『ここ』が何であるのかを察してしまう。
「え゛っ、もしかして」
原作の第1話に登場したKGB*2の工作員・
真濁が自らの名前の通りに濁った声を上げると、優が眉間にシワを寄せながら頷いた。
「地脈を操作して噴火を制御するっていう恐ろしいシステムに、予備……というか
「じゃあ、やっぱり
「ああ」
超古代の技術によって拡張された空間を埋め尽くす石造迷路、その通路を見渡しながら真濁が呟く。
「もうひとつの『火の社』……!」
下手をすると地球を滅ぼしかねない特級の厄ネタ。
そりゃあ米軍も狙いに来わと、少女は嘆きつつも納得してしまうのであった。
『スプリガン』の続編シリーズとか実現しないもんですかねえ……
昨今の「過去作の直接的な続編」ブームに乗っかる形でひとつ……