挿絵は、海面上昇シミュレータ、ペイント、ChatGPTを使用して描いています。
佐川一尉は護衛艦いずもに、国交使節の警護として乗艦していた。
(なぜ私が)と不満であったが、佐世保の海上自衛隊の基地に隣接する崎辺分屯地は、彼の勤務する相浦駐屯地の管轄であった。
護衛艦いずもは、たまたま佐世保に停泊していただけである。
国交使節団、といっても、2人だけだが、団長は上原外務副大臣。
そして、その部下として下野外交官。
佐川は艦長室にいた。渡辺艦長とは、以前、災害救助で一緒に活動したことがあり、海上自衛隊の数少ない知人であった。
渡辺艦長は神棚にお神酒をささげ、「出航の際には、いつも部下の安全をお祈りしているのですよ。あなたも、あなたの部下の安全を祈るといいですよ。」と祈願をすすめた。
この神棚には、出雲大社のご神体の分体が祭られ、そのお守りの購入は毎年艦長の自腹だという。
コミック版 1
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佐川は不安であった。全く未知の土地に出向くのである。そもそも、この世界そのものが未知なのである。そして、結局、「何で私が」となるのであった。
そんなとき、船室のドアをノックする音がした。
「どなた?」
「ナイチョウのものですが。」
(ナイチョウ?、そういえば、困ったときには、ナイチョウの人に相談せよ、彼があなたの上官だと思え、と上司に言われていた。)
「どうぞ」
コミック版 2
背広姿の男が入ってきて、口を開いた。
「失礼、佐川一等陸尉で間違いないですね。」
(失礼な奴だ、しかもサングラス。)
「そうですが、どなたでしょう。」
「名前は・・・規則で教えるわけには・・・。三木とでも呼んでください。で、相談なんですが・・・」
そう言って、続けた。
「ご存じかと思いますが、外務省は大変なことになっているんです。人がいない。
有能な外交官は各国大使館勤務で、地球に置き去り。
下野外交官ですか、親の七光りで外交官になった能無し、外交経験ゼロ。報告書を書くことも、まともにできるかどうか。
自衛隊は、海外派遣の隊員がすべて日本にもどったあとの異変でしたから、人材は豊富。
人が少ないのは否めないですが。」
コミック版 3
(やはり、失礼な奴だ。)
そんな佐川の思いをよそに、ナイチョウの男は続けた。
「上原外務副大臣はダメですね。危機感が全くない。この交渉が日本の明暗を分けることを理解していない。
なぜ全権大使になったのかも分かっていない。
通信衛星も使えないということは、交渉の過程の連絡ができないということなのに。
とにかく、日本という国は、何にもないのです。
食料しかり、エネルギーしかり、資源しかり。
他国なしでは生きていけない、
異世界にくる前から、1億2千万の人が住む寄生虫の国なのです。
どこで、どう間違えたのか分からないが。
まあ、そんなことを言ってる場合でもないがね。」
そう言って、自嘲ぎみに笑い、
「上原は議員さんなのだから、選挙のことしか関心がないのは、無理のないことだけど。」
と言って、さらに続けた。
「その点、渡辺艦長は優秀。GPSもないのに、どうやって進むのか尋ねたら。
方位磁石が正常にはたらくことを、佐世保の街で確認したんだって。
大航海時代の羅針盤だよ。ロマンだね。
それに、海底の様子も分かっていないから、小艇で海底調査をしながら進むそうだよ。
余計なことを言い過ぎたようだね。本論に入ろう。
これは、哨戒機が撮影したものだ。」
そう言って、数枚の航空写真を広げた。
「砂浜が全くない。崖ばかりの海岸線だ。
ボートで乗り付けても、崖をよじ登らなければ上陸できない。で、どうする?」
「ヘリしかないですね。ヘリを飛ばして、着陸できる場所を探す。
写真では、地面の状態はわからない。」
「そうだね。で、相談だが、銃撃の腕のいい自衛官を3人つけて欲しい。
武器は、自動小銃と狙撃用ライフル。使節団の2人とあなたと部下3人。
私は、表向き通訳。以上7人で上陸。」
「通訳・・・?」
「そう、通訳。異世界の言語は全く不明。私は、不明な言語の中で生きてきた。
異変の前はイスラエルにいたんだ。日本に帰っていて、ラッキーだった。
もし、地球に残されていたら、国のない民。これは悲劇だよ。
私はそんな民をいくつも見てきた。
いや、正確には国があっても、国に守られていない民が不幸なんだ。
我々は国を守っていると勘違いしているけど、実は国に守られているんだよ。
日本に残っている異国の民をサポートする体制も必要だと思うよ。
そんな余裕もないことも確かだけどね。」
ナイチョウの男が佐川の船室から出る直前に、
「そうそう、上陸する自衛官は躊躇なく人を殺せる者がいいですね。」
と言ったので、
「そんな人はいません。」と答えた。
「そうですよね。」と笑いながらナイチョウの男は出ていった。
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佐川は、ベッドに横になりながら、考えていた。
佐川に使節団の警護の命を、直接口頭で指示した上司が、同行するナイチョウの人を上官だと思えと言った時から、ナイチョウは内庁だと思っていた。
内庁の人とは通称背広組、防衛省の官僚、防衛参事官のことである。
(どうも、あの男の正体がわからなくなった。背広組の人ではないようだ。
通訳?言葉の通じない世界で生きてきた?イスラエルにいた?)
そして、そのナイチョウの男の、
「我々は国を守っていると勘違いをしている。国に守られているのだ。」
という言葉が脳裏を渦巻きながら、深い眠りについた。
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2週間前のこと。
佐川が自宅で遅い夕食をとっていると、テーブルのコップがカタカタ揺れ始めた。
「地震!」佐川は、隣の妻と顔を見合わせた。
カタカタ、ガタガタ、カタカタ。
それは30秒ほど続いた。30秒は長い、不安が増す。
でも、不思議なことに、ユサユサ揺れる横揺れがなかった。
震度3、室内にいるほとんどの人が感知できる程度の揺れ。
(P波だけ?地下での核実験ではあるまいし。)佐川は、そう思った。
P波とは、地震波の最初にやってくる波のことで、カタカタ揺れる微動の波である。
佐川の妻が、テレビのスイッチを入れた。
ドラマの時間帯なのに報道番組、先ほどの地震を報道している。
次々と情報が画面に映し出される。沖縄から北海道まですべて震度3。震源地不明。
そして、今夜は満月なのに、突如月が消えたという驚きの声。
海外との通信がすべて途絶えたと悲壮感を漂わせて語るアナウンサーの姿。
佐川は窓を開けて外を眺めた。確かに明るかった月明かりがなくなっていた。
でも、それだけだった。平和な日常と何も変わらなかった。
実は、星座も突如変わっていたのだが、その時佐川が、それに気づくはずもなかった。
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外務省では、各国の大使館からの自国と連絡がとれないと問い合わせが殺到。
それだけでなく、各国の日本大使館への連絡も不通で大混乱。
混乱は外務省だけだはない。
経済産業省も海外に工場や店舗を持つ企業からの情報確認。
分からないのだから答えようもない。
文部科学省には筑波宇宙センターから、人工衛星が1基もないと連絡。
地球の周りには2万基以上の人工衛星が飛び回っていたのに。
総務省も・・・・・。
とにかく、どの省もどの庁も情報収集でおおわらわ。
急遽開かれた緊急閣僚会議でも、混乱する情報が飛び交うだけで、
信じられない状況に戸惑うだけだった。
ただ、1部の在日外国人による略奪事件の報告から、
これ以上略奪や暴動が起きないよう警戒を強めること、
そして、今現状を発表すると、混乱をあおるだけだから、
状況が明らかになるまで正式発表を控えることが決定された。
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日本全土が震度3の奇妙な地震を体験してから、1週間たった。
その間、日本が他の惑星に転移したとか、時空を超えたとか、いろいろな説が囁かれた。しかし、政府の正式発表もなく、戸惑いと混乱はあったが、人々は平穏な日常を送っていた。
何もわからなかったのだ。
明らかなこと、それは日本が孤立したということだった。
政府が何もしなかったというわけではない。
各国の大使館からの問い合わせ、海外に支店や工場を持つ企業との会議、地方自治体との打ち合わせなど、極めて多忙な中、自衛隊に出動を命じて、周辺の警戒と調査にあたっていた。
国会の承認を得るような時間的な余裕がない。
このまま孤立すれば1年以内に滅ぶ危機的な状態であることを知っていたのだ。
韓国の釜山に向けて、偵察の命を受けていた哨戒機から、朝鮮半島がないこと、大陸らしき陸地はあるが、街のようなものは存在しないことが、報告されていた。
そして、その陸地に5つの集落があることも。
次は上陸