三木はミニバイクの組み立てが終わると、ガソリンを満タンにし、その残りのガソリン容器を後部に縛り付けた。それが終わると、社員たちの作業を眺めているコリーのそばに歩み寄って、「久しぶり、侵略されて全滅した集落の場所を教えてくれ。」
三木はコリーがこのあたりの地理に詳しいことを知っていた。この黒い水の池のことも、以前コリーから聞いていたのだ。
「あんた、何者だ」
「またかよ、日本人って言っただろう。」
「そんなこと分かってる、そうじゃなくて。」
「悪いが言えない。今は石油会社の社員だ。」
「・・・・・・」
「ここから一番近いのは、どっちだ。」
コリーは黙ってその方向を指さした。
「あの箱、持ち上げるの手伝って。」
空になった箱をコリーと2人でトラックにかえすと、三木はミニバイクにまたがりエンジンをかけ、コリーの指さした方向に走り出していった。
他の人たちはエンジンの音に振り向き、呆気にとられている。
中川は聞かされていた。
(三木と名乗る男が同行するが、その男は途中で単独行動をとる。気にしないで、調査して帰ってくればいい。その男と一緒に帰ることはない。)
そう聞かされていても、(こんな未知の地で、しかも単独で行動するとは、あの男は何者。)と思った。
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三木は壊滅した集落にいた。白骨寸前の腐敗した遺体が至る所にある。家屋も壊されているが、壊滅前の集落がどうであったかがわかる。人は連れていきやすいが家畜は難しいのであろう。牛、馬、豚、鶏などが野生化している。
三木はトメリア王国の侵略の跡地を見れば、トメリア王国の情報が得られると考え、ここに来た。
(何もないな。しかし、不思議だな。集落のつくりがコリーたちの集落とまったく同じとは。どうなっているんだこの異世界は。)
三木は集落を出て、草原を見渡した。そして、踏みしめられた跡を見つけた。
ここに来たもう1つの目的がこれなのだ。兵の歩いた跡をたどれば目的の王国にたどり着く。障害物のないこの草原、直線以外の行進はありえない。
バイクのエンジンをかけ、走り出した。
やがて、以前モニターでみた野営地の跡にたどり着いた。テントなどはもうないが、怪我でもしていて置き去りにされたのであろう。死体がいくつか転がっていた。
三木は死体から兜、鎧、剣などを剝ぎ取ると、それらを身に着け、再び、バイクで走り出した。
そして、町らしき建造物が見えると、目印を立てバイクを草むらに隠し、歩き始めた。
町は壊れた城壁で囲まれている。修理の跡はない。ただ、町に入る城壁の門だけは修理され、兵が立っている。
三木は、その兵の身なりが自分と同じであるのを確認すると、フラフラとよろけながら門の前まで歩き、そこで倒れた。兵が寄ってきて、体を起こし、「しっかりしろ。どうした?」と言った。
(英語!捕虜の兵と同じ。喋らない方がいい。勝手に誤解してくれ。)
そう思った三木は、歩いてきた方向を指さして震えた。
親切な兵だった。水まで飲ましてくれて、休む宿を教えてくれた。
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難なく町に潜入できた三木は、門番の兵が教えてくれた宿で、持っていた砂金を見せ、宿泊の予約をした。そして、砂金を町の通貨に換え、宿を出て、食堂、酒場などでこの町の情報を探った。
この町の名はテール。以前はカルマイという領主が治めていたがトメリア王国との戦いに敗れ、今ではトメリア王国の貴族か治めている。王国の最北の町という。
町は城壁に囲まれているが、城はない。町の人たちの人種はいろいろであるが、熊耳族、猫耳族、小人族の亜人(彼らはそう呼んでいる)は、人間とみなしていない。言葉をすぐに覚える賢い家畜と思っている。それらの人たちは町で見かけたが、「森の妖精」と思われる人は見かけなかった。
町が戦いに敗れ領主を失っても、単に領主が変わっただけで、町の人たちの生活は変わらなかった。以前は税率が民4、公6と過酷だったのが、民6、公4と楽になったから、大歓迎であった。
町の人たちを見ると、白人、黒人とはっきりわかる人はなく、みんな肌が浅黒く、ほとんど混血という感じであった。そして、三木は、北方を侵略するための兵がたくさんいるだろうと想像していたのだが、皆無であった。
三木は、(この町を攻めるのは簡単。領主の館に砲弾の2・3発でも打ち込めば終わりだ。)と思った。
徴兵は強制でなく募集であり、町のあちこちに張り紙があった。誰もが入隊したがるような好条件で、どうも、南の島国と戦争で兵が欲しいようである。
そして、応募兵をトメリア王国の都カバンナまで運ぶ馬車が、明日出発するという情報を得た三木は、宿にもどった。
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三木はトメリア王国の都カバンナに向かう馬車の中にいた。馬車は何台もあり、途中のいくつかの村や町で応募兵を乗せていた。応募兵たちの話では、南の島国との戦いは楽勝で、報酬だけを受け取る安全な仕事ということだった。都会へ出稼ぎに行く雰囲気であった。
馬車がカバンナについたのだろう。大勢の応募兵たちが降り始めた。1人ぐらい抜け出してもわからない。三木はその集団から抜け出し、街の方へ走っていった。
街に城壁などはない。中央に重厚感のある壮大な城がそびえている。
(テールの町にはまわりに城壁があった。外敵から守る必要があったからだろう。この街にそんなものはない。その必要がなかったということだ。)
三木は、そんなことを考えながら、テールで換金した貨幣がこの街でも使えることを確認して、宿を探した。街の人たちはテールと同じで、熊耳族、猫耳族、小人族の亜人は見かけたが、「森の妖精」と呼ばれる人は見かけなかった。
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ヨーデン3世は、カバンナ城の執政の間の王座に腰かけていた。
軍務大臣ケインと外務大臣カインを呼びつけていたのだ。
「ケイン、北方平定の件はどうなっている。逃げ帰った兵の立て直しはできているのか?」
「それが、亜人だけでなく攻撃魔法を使う魔人がいると恐れており、陸軍が出兵を躊躇しています。」
「魔法?魔人?何を馬鹿なことを。すぐに出兵させよ。」
「カイン、バーキー王国の件、どうなっている。」
「ケニー外交官の報告によりますと、我が国の温情を無視、すべて拒否しています。」
「何、島国の野蛮人のくせに。ケイン、こちらの準備はできているのか。」
「はい、海軍は士気も高く、いつでも出航できます。」
「そうか、討伐を命じよ。」
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陸軍は北へ、海軍は南へ、慌ただしく兵が動くのを、三木は察知していた。
そして、この国には良質の鉄鉱石が産出されるアニオン鉱山があり、そこで熊耳の人たちが奴隷として働かされているという情報とあわせて、兵の動きを日本に報告していた。
応募兵は主に上陸兵として海軍に振り分けられ、海軍の士気もさらに上がっていた。
三木は北へ侵攻する陸軍に紛れ込み、西方大陸東岸地区へ帰るつもりであった。陸軍は先の敗北を經驗した者から魔法攻撃を聞いており、士気は低かった。
騎兵100、歩兵600の部隊であったが、すさまじい攻撃魔法を使う魔人と戦うと、勝ち目はないと、死にに行くものだと、そう聞かされていて、部隊の進行は極めて遅かった。それだけでなく、1人、2人と歩兵が逃げ出していた。
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外務省の井上事務官は、西方大陸東岸地区の公事館の玄関前で、下野外交官を待っていた。
トメリア王国との国交のため、下野が全権大使に任命されたのである。
井上は、下野が出てくると、「皆さん、かがで待っています。詳しい資料はそちらで。」と言って、港に停泊している護衛艦かがへ案内した。
桟橋には2人の男が立っていた。かがの艦長橋本と警護隊長の佐川である。下野は2人と握手を交わし、橋本艦長に案内されて乗艦した。
護衛艦かがによる使節団の派遣になったのは、前のいずもと同じくたまたまである。そして、どちらも空母型護衛艦だったのもたまたまである。
佐川は、「また、何で自分が。」と妻にさんざん愚痴をこぼしたが、「それが仕事でしょ。」と返され、諦めの境地になるしかなかった。自衛官は、命に従うしかないのである。
下野も、(何でまた、自分が)と思っていた。
公事館での快適な勤務に未練たっぷりであった。しかし、西方大陸東岸地区の港湾地帯が外国ではなく日本なので公事館が外務省管轄はおかしいということになり、経済産業省から後任がくることも決まっていた。下野はもう戻ることはないと知っていた。
下野は、ため息をつきながら、英文で書かれている交渉の条件などの書類に目を通していた。
トメリア王国との交渉は?