護衛艦かがはサンパル皇国の首都ガントの港の沖に停泊し、ヘリでタケル通訳の声で日本の国交使節団の訪問を伝え、小艇で使節団と警護隊を運んだ。
桟橋に降り立つと武装兵がやってきて、港湾事務所の一室に案内される。警護隊は事務所の前で足止め。いつものとおりであった。
部屋には軍服を着た初老の男が座っていたが、使節団が入るのを見ると立ち上がり敬礼をして、席に着くよう促した。初老の男はアイン海軍大将だと自己紹介をして、外交官が来るまで待つように言った。
アインの両側には武装兵が立っていた。長い沈黙の時が流れた。
部屋のドアが開いた。アインが席を立って敬礼。日本の使節団も席を立つ。部下を2人引き連れた男がアインのそばまで行くと、立っていた武力兵が椅子を引く。入ってきた3人が席に着くと、アインは日本の使節団に座るよう促し、部屋から出て行った。
互いに自己紹介をして、サンパル皇国のミドロ外交官が口を開いた。
タケルが通訳する。
「貴国は我が国に何を望む。」
「国交と交易です。」と下野大使。
「二ホンとか言ったが、国教は?」
「ありません。信教は自由です。」
「ない?自由?それでは困るんだが・・・。」と言って、部下に目配せをした。
1人の部下が1冊の書物を下野の前に置く。タケルが耳打ちをする。
「経典です。」
「それを持ち帰って、パルコンの神の教えを広めるように。そして、公用語はポルトガル語にするように。」
「本は遠慮なくいただきますが、国民への宗教の押しつけは禁じられております。それに、貴国との交渉はポルトガル語でいいですが、国の国語は変えられません。」
「それでは困ると言っているんだ。我が国はサンジー教を広め、言語を統一することを国策としている。」
「お互いの違いを認め、国交を結べないんでしょうか。」
「無理だ。とにかく、こちらの要求を持ち帰り出直しなさい。よき返事を期待している。」
そう言って、ミドロが席を立つ。部下2人も席を立つ。
「ちょっと、待ってください。我々は貴国の捕虜を連れてきてるんです。」
「捕虜?」と言ってミドロは席に戻る。
「どういう事だ?」と問う。
日本が租借しているアルミ港湾を攻撃占領したこと、軍艦2隻、輸送船1隻で侵攻してきたことなどを話した。そして、それらを撃退したことなどを話したとき、突如、ミドロ外交官が大きな声で言った。
「アロル号とメリル号を撃退したのか!」
「はい、2隻とも沈没しました。」
「・・・・・・この者らを拘束せよ!」
両脇にいた武装兵が日本側の席にやってくる。
バン。相原が上向いて銃を撃つ。驚いて、武装兵が止まる。
相原は2人の武装兵に右に、左にと銃を向ける。
使節団がドアのところまで退いたとき、1人の兵が突っ込んでくる。
バン。兵が倒れる。
ダダダダダ。ドアの外で自動小銃の打撃音がする。
相原の合図で警護隊が入ってきたのだ。
使節団が部屋を出ると警護隊が周りを囲んだ。
そして、あたりに銃を向けながら、港湾事務所を出て、桟橋へ向かう。
・・・・・・・・・・・
小艇で護衛艦かがにもどった下野大使は、政府の方針を受け取る。
「どうでした?」と相原一尉。
「とどまれ。攻撃されれば反撃もよし、すこし後退するもよし、援軍を送るだって。」
「えっ、帰還せよではないんですか?」と橋本艦長。
「大丈夫なんですか、世論と国会?」と相原。
「憲法改正、国会で審議中だって。我々の心配することではない。」と下野。
「で、アロル号とメリル号の沈没、全く知らなかったみたいですね。」と相原。
「そうですか。あれからもう何日も経っているんですよ。どうなってるのでしょう。」と橋本。
「チャコ副総領でしたっけ。あの人の反逆は確実ということです。」と下野。
「そうですね。捕虜はこちらに返さない方がいいですね。渡せば拷問を受け殺されますよ。」と相原。
「でしょうね。捕虜たちには私から説明しましょう。向こうでのトラブルを避けるためにも。通訳よろしく。」と下野。
・・・・・・・・・・・・
サンパル皇国の執務室でアロル皇帝がトール宰相に尋ねていた。
「二ホンという国が訪ねてきたそうだが、どうなった?」
「ミドロ外交官が、いつものように経典を渡し、パルコンの神の教えを広めるよう要求し、あわせて、公用語はポルトガル語にするように申し付けました。ところが、わが海軍のアロル号とメリル号を沈没させたと言ったので、捕えて詳細を白状させようとしたところ、銃を発砲し逃げ去ったそうです。」
「で、国へ逃げ帰ったのか。」
「いえ、沖に停泊したままだそうです。」
「攻撃はしたのかね。」
「いえ、海軍は、逃げれば追撃し、来れば反撃すると言ってます。」
「軍務大臣と海軍大将を呼びたまえ。外務大臣も。」
しばらくして、ミステル外務大臣、アレルテ軍務大臣、アイン海軍大将が執務室に入ってきた。
「ミステル、すぐに二ホンとやらに宣戦布告文をつくりなさい。」
「はっ。」
「アレルテ、なぜ攻撃せぬ?」
アレルテはアインの顔を見る。
「アイン海軍大将が相手の力が分からないというから。」
「相手の力などしれている。すぐに攻撃せよ。」
「はっ。」「はっ。」
「そうだ、敵の何人かは救助して取り調べよ。」
「はっ。」「はっ。」
・・・・・・・・・・・
サンパル皇国の軍艦が動き出したのを見た橋本艦長は、すぐに偵察ドローンを飛ばした。
指令室のモニターの前で、相原が言った。
「ものすごい数ですね。30隻以上いる。どうします?」
「逃げます。」と橋本。
「砲弾が足りないのですか?」と下野。
「十分ありますが、逃げます。」
「橋本艦長は砲撃苦手なんですね。前も他の船に攻撃を命じたし。」と笑いながら相原。
橋本も笑いながら答えた。
「はい、私は防大のときから大の苦手で。教官に叱られてばかりでした。」
サンパル皇国交渉ならず