サンパル皇国にもどったトマス司令は、敵艦の追撃に失敗、10隻近くの軍艦が撃沈したことを、アイン海軍大将に報告していた。そこへ、アレルテ軍務大臣がやってきた。海軍が戻ったことを知り、どうだったか聞きに来たのだ。
アインは軍務大臣に知らせるべきか迷っていたが、報告を受けてるところにやってきてはしょうがない。一緒に報告を受けるしかない。
「で、のこのこ帰ってきたわけかね。」アインの口調がアレルテを意識して、急に高飛車になる。
「申し訳ありません。でも、力が違いすぎます。とても敵いません。」
「1隻を30隻で追ったのですよ。」
「敵は逃げるふりをして、逃げていません。味方のいるところへ誘導していたのです。」
「どういうことかね。」
「敵がジュラス港の近くに、もう1隻いました。」
「もう1隻いたって、30対2ですよ。敵わないなんて。」
「はるか遠くから爆弾が飛んできて艦に命中するのですよ。」彼らはミサイルを知らない。
「それに逃げていた敵艦も砲撃。連続して命中。我々の砲の射程外から。」
「攻撃できない、的になるだけ、というわけかね。」
「そうです。士気や兵の能力の問題ではありません。兵器の違いです。」
アインは護衛艦かがを見ていたので、トマスの話に納得していた。
ここで、黙って聞いていたアレルテが口を開く。
「我が国の進んだ軍艦や大砲が劣ると言うのかね。そんな国は聞いたことがない。」
「聞いたことがなくても、あるんですよ。二ホンも聞いたことがないでしょう。」とアイン。
トマスに助け船を出したアインがさらに聞く。
「ジュラス港の近くと言ったね。そこには我が国の軍隊がいるだろう。海軍もいる。援護は?」
「全くありません。二ホンに占領されたとしか思えません。」
「大臣、ジュラスから連絡は?」とアイン。
「何もない。攻撃を受けたら、救援の連絡ぐらいあるはずだ。」
「おかしいですね。ジュラスの陸軍と海軍はチャコ提督がいて優秀だと聞いてたが。」
結局、ジュラスの様子も不明なままで敗退をアロル皇帝にどう説明したらいいかの議論になり、結論もでないで悩んでいると、皇帝からの呼び出しがあった。
アロル皇帝はミドロ外交官の報告を受けたミステル外務大臣から敗退を聞いていたのだ。
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サンパル皇国の執務室にトマス司令官も呼ばれていた。初めて執務室に入ったトマスはカチカチに緊張していた。
「この度の失態、申し訳ありません。」とアイン海軍大将が口を開く。
「お前のせいではない。」とアロル皇帝。トマスはますます緊張する。
それを察したアインが「司令官のせいではありません。」と言うと、
「それも分かっておる。」と皇帝。
皇帝はミステル外務大臣から兵器の違いを聞いていたのだ。
「アレルテ、軍備局長に射程距離が今の倍、無理か、とりあえず20パーセントアップの大砲を造るように指示しろ。」
「はっ。」
「ところで、アイン。相手の艦は少ないそうではないか。数で押し切れないのか。」
「残念ながら無理でございます。相手の懐に入る前に全滅します。」
「そんなわけなかろう。相手の砲弾が無限にあるはずもないのだから。」と言って、
「アレルテ、もう1つ、造船局長に軍艦を増産するよう命ぜよ。」
「はっ。」
「ミステル、二ホンとやらの位置は分かったのか。」
「申し訳ありません。いまだ不明です。」
「迎え撃って、乗組員を捕まえる以外にないな。アイン、数で押し切る作戦を検討しろ。早急に。」
「はっ。」
「ちょっといいですか。」
いままでのやり取りを震えながら聞いていたトマスが口を開いた。
「ずっと気になっていたのですが、あれほどの兵器がありながら、なぜ攻撃してこなかったのかと。」
「それは、味方のいるところへおびき寄せるためだと。」とアレルテ。
「そんな必要なんかないはずです。1艦で十分。」と言って続けた。
「ひょっとしたら、こちらが攻撃するまで攻撃できないのではないか、なんらかの制約があって。」
「そんな制約、あるはずがない。」とアイン。
「二ホンというあるはずもない国があるのだ。」と言って、皇帝は続けた。
「軍規でそうなってるのかもしれないな。続けよトマス。」
「はっ。そうだとしたら、策があります。攻撃しないで、できるだけ近づくのです。偽りの白旗を挙げてでも。攻撃できる位置に入れば勝機があります。」
「そうだな。アイン、それも念頭に入れて作戦を検討しろ。」
「はっ。」
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ジュラスの街は、チャコ総領を国家代表とするジュラス都市国家になっていた。防衛のため領海、領空を主張するには、国になる必要があるという日本のアドバイスからであった。
ジュラスのずっと東の海岸が日本によって大きな港に変わっており、その近くに空港もできあがっていた。それぞれジュラス東港、ジュラス東空港と呼び、ジュラス東港に油船YG、YOが停泊して、護衛艦たかなみ、護衛艦かが、輸送艦くにさきに補給をしていた。
日本国内の憲法改正の議論は議論だけに終わり、改正には至らなかった。政府は攻めてくる国に対して、防衛のため、その国の軍事施設を攻撃することは可能と法解釈していた。
そして、爆撃機がないため、輸送機Cー2を爆弾を搭載し落下することができるように改造していた。航空自衛隊ではそれを改造Cー2と呼び、西方大陸東岸地区基地でその訓練を実施していた。
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サンパル皇国がジュラスの偵察にくると思っていた日本は、いつまで待ってもやって来ないので、護衛艦かがをサンパル皇国の偵察に出航させていた。
首都ガントの港が目視できるところまで来ると、サンパル皇国の軍艦が多数かがに向かってやって来る。かがは偵察ドローンを飛ばす。
かがの指令室でモニターを見ながら相原一尉が嬉しそうに言った。
「わんさかいますね。今度は50ですか。あれ、白旗をあげていますよ。降伏ですか。」
「白旗上げて大勢で来るわけがない。偽装ですよ。」と橋本艦長。
「ですよね。でどうします。いつものとおり逃げますか。」
「あたりまえです。」
かがから哨戒ヘリが飛び立った。
軍艦ガント号にいるトマス司令は、敵艦が動かないのを確認すると作戦がうまくいっていると思った。
(やはり、攻撃してこない。もう少しで射程距離だ。)
トマスは各艦に広がるように指示した。
(取り囲んで一斉砲撃すれば、50対1だ、勝てる。)そう思った。
「あれ、逃げないんですか。」相原は、かがが後退しないのを不思議に思った。
「逃げますよ。見てください。艦が広がって囲もうとしてます。完全に偽装です。」と橋本。
「囲まれてしまいますよ。とにかく、数が多い。」
「大丈夫です。後しばらく。」
かがは哨戒ヘリが戻ってくるのを待っていたのだ。
軍艦が囲みだしたということは、砲の射程距離に入ったということ。かがは少し後退した。
哨戒ヘリが戻ってきた。かがが後退し始める。あっという間に砲の射程外に達すると、今度は誘う様にゆっくりと後退していく。
トマスはこちらが攻撃をしないかぎり、敵が攻撃をしてこないことに確信をもった。かがの思惑に気づきもせず、かがを追っていった。
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かがからヘリが飛び立ち、ポルトガル語の大音量でサンパル皇国の艦隊に警告する。
「ここは、ジュラス都市国家の領海である。すぐに領海から出なさい。さもないと、攻撃する。」
トマス司令は混乱した。
(都市国家?ジュラスはサンパル皇国の領土であったはず。)
退却の指示も出さず進んで行く。
ドーン、ドーン、ドーン。
トマスは悟った。攻撃しなくても領地に侵攻すれば攻撃されることを。
ドーン、ドーン、ドーン。
「退艦した乗組員を救助して引き返せ。しばらく、攻撃はしない。」
(前の攻撃の時と同じだ。しかも同じ場所で。)そう思ったトマスは、救助の指令を出した。
そして、このまま帰るわけにいかず、指示されていた宣戦布告文を相手に渡すべく、白旗をあげて軍艦ガント号1隻で進んで行った。敵艦のそばまで行っても攻撃されない。
そのとき、トマスはこの宣戦布告文が脅しにもならず、日本の攻撃の口実になることに気づきもしなかった。
宣戦布告、どうする日本