ジュラス東空港から空港管理棟の改造Cー2と戦闘機Fー35Bが飛び立った。
空港管理棟の情報管理室のモニターの前で、相原は説明を受けている。改造Cー2には外部を撮影するカメラがあり、地上を撮ることも落下した爆弾を追跡することもできるという。そして、その映像が目の前のモニターに送られてくるという。
説明をしているのは、この空港の管理官速水一等空尉で、空港というよりもまるで航空自衛隊の基地のようである。
「管制塔もあるのですよ。管制官はいませんが。」と笑いながら言った。必要ないのだ。空港ができてから、ここにやってきた航空機は改造Cー2と戦闘機Fー35Bの4機だけである。
2つのモニターにサンパル皇国の首都ガントの街が映り始めた。
「見てみましょう。航空自衛隊で初めての爆撃です。」と速水。
2つのモニターにはそれぞれ違う景色が映し出される。
2機の改造Cー2からの映像だと説明を受ける。
「しばらく街の映像が続きますよ。記憶しています。」と速水。
(えっ、記憶?)と相原は思ったが、黙って観ていた。
しばらくして、1つのモニターの映像が変わる。爆弾の落下の様子が映し出される。そして、施設に命中して爆発する映像になる。もう1つのモニターも同様、違うのは爆弾が命中する施設が違うだけ。
それが、何回か繰り返される。そして、モニターの映像は消えた。
「すべて命中ですか。自信がないと言っていたのにすごいですね。」と相原。
「自信がない?そんなことを言ってたのですか。担がれましたね。」と速水。
続けて、「街の映像がしばらく続いていたでしょう。それは、ターゲットの位置を記憶するためです。そして、飛行速度、高度、風速、向きなどを計算して、自動で爆弾が落下するのですよ。ピンポイントで命中します。
怖いのは、爆弾を落とす人がターゲットにマークしてスイッチを押すだけ。人を殺す葛藤がない。とんでもない被害を与えるのにその感覚がないということです。
現代戦の怖さです。我々もそれをゲーム感覚で眺めるだけ。何人も死んだはずなのに、あの映像に死の匂いがありますか。」
そう言って、速水は帰ってくる改造Cー2と戦闘機Fー35Bの4機を迎えるため、情報管理室から出て行った。
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得体のしれない飛行物体がやってきたかと思うと、突如、陸軍兵舎が爆発。陸軍兵舎にいた50人の兵が死亡。陸軍だけでない。海軍兵舎も爆発。20人死亡。兵舎だけではない。陸軍基地も海軍基地も爆発。あわせて50人死亡。基地だけではない。軍港の港湾事務所も船も爆発。20人死亡。造船所も軍事工場も爆発。60人死亡。兵も民間もない。
その報告を受けたアロル皇帝は、怒りに体を震わせ、挙国体制で二ホンを撃てとトール宰相に命じた。
怒りを覚えたのは皇帝だけではない。兵も民もすべてのサンパル皇国の人々が叫んだ。
「理不尽な殺戮に報復を、正義は我にあり、戦って勝ち取れ。パルコンのご加護を。」
これはサンジー教の経典にある言葉だ。
メリル教皇も信者の前での説教で、必ず、この言葉で締めくくっていた。
「理不尽な殺戮に報復を、正義は我にあり、戦って勝ち取れ。パルコンのご加護を。」
サンジー教の経典には、古の民からサンパル皇国を守ったサンジーの物語がある。その中に、「理不尽な殺戮に報復を、正義は我にあり、戦って勝ち取れ。」というパルコンという神の啓示を受けたサンジーが、奇跡を起こし、古の民を追い払ったとある。
サンパル皇国の人々は、その古の民と二ホンを重ね合わせていた。
サンパル皇国のほとんどの軍事施設を攻撃し、しばらくは侵攻することができないだろうと思っていた日本政府は、改造Cー2と戦闘機Fー35Bの西方大陸東岸基地への帰還とあわせて、護衛艦かが、護衛艦たかなみ、輸送艦くにさき、そして使節団、水陸機動団にも日本への帰還を命じていた。速水一尉もジュラス東空港の警備を12式地対艦誘導弾の使用法を学んだジュラス都市国家の兵に任せて、改造Cー2に乗り込んでいた。
二ホンが攻撃した軍事施設は哨戒ヘリが撮影した時にあった施設だけだった。その後にできた造船所と砲を替えるためにそこに来ていたガント号などの軍艦は健在であった。そのそばにできた新しい大砲を造る工場と自走砲の工場も稼働していた。
二ホンの攻撃によって100人以上の兵を失ったが、300人以上が兵に補強され、兵の数は増えていた。そして、報復のための準備をサンパル皇国は着々と進めていた。
亡命した伝道師、実は戻ってきた伝道師から、北西の方向にアルミ港という二ホンの港があることを聞いており、そこもジュラス都市国家と合わせて攻撃の計画に入っていた。ジュラス都市国家とは陸続きなので、すでに自走砲が進むことのできる道をジャングルを分け入ってつくり、あと十数キロでジュラス都市国家の南東側に達する位置まで進んでいた。
日本ではサンパル皇国との紛争をどう収めるか、議論していた。実質は戦争だが戦争と言わない。戦争は憲法違反だからだ。そして、憲法では、紛争は話し合い以外に解決の方法はない。
「戦争は始めるのは易しいが、終えるのは難しい。」というのは、紛争の多かった地球での名言だが、この異世界でも同じである。地球では停戦会議を開いても双方の合意は難しく、たとえ合意したとしても、停戦期間は短く、戦争を終えるにはどちらかが壊滅的被害を受ける以外にはなかった。
勝者と敗者のいない戦争の終結は、侵攻するものが何らかの事情で侵攻をあきらめた場合だけであった。
アルミ港にサンパル皇国が侵攻し、あっという間に占領され、日本人の犠牲者が出たときは、自衛隊の派遣を叫ぶ者が多かった。しかし今は、バーキー王国のアルミ港もジュラス都市国家も日本の侵攻した場所であり、紛争を終結するために手を引くべきだという主張が国会内で多数を占めていた。
政府がジュラス都市国家から自衛隊を引き上げさせたのは、国会内での主張のせいではない。政府は、バーキー王国もジュラス都市国家も孤立した日本が滅ばないための必要な友好国であることを知っており、サンパル皇国の侵攻から守るつもりでいた。
引き揚げさせたのは、新たな脅威に対応するためである。自衛隊も人手不足なのだ。
日本列島の西の海を西方海、西方大陸との間の海を新日本海と呼び、東側の旧太平洋にあたる海を東方海と名付けていた。哨戒機で東方海を何度も偵察したが、大陸のようなものは発見できず、旧太平洋のような大洋であろうと推定していた。そんな東方海にある小笠原諸島の沖で、日本の領海に侵入してきたものがあったのだ。しかも、潜水艦で。
それを発見したのは日本の潜水艦であった。浮上していたのなら警告ということも考えられるが、潜水したまま進行してきたのである。当然攻撃。その潜水艦は深海に沈み、所属は不明。
その報告を受けた政府は、東方の警戒を強化。JAXAにこの惑星の全容を知るために軍事衛星の打ち上げを催促。未だ、この惑星には1基の人工衛星しかない。
日本国憲法前文に「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」とある。しかし、政府は、平和を愛する国民は日本人と亜人の人たちだけだと思っており、他は公正と信義に信頼できないと考えている。
そう考えないとこの惑星で、国を国民を守ることはできない。望むと望まないとにかかわらず、戦いの明日が迫ってきているのである。
第3章 (完)
東方の未知の国とは