集落につくと、家陰からこちらの様子をうかがう人たちが多くいた。
熊耳の人たちだけでなく、猫耳の人たちもいる。いや、圧倒的に猫耳の人たちが多い。
「すごい、ファンタジーですね。私たちと同じ耳の人はいませんよ。」
三木が佐川に声をかけた。
「・・・・・」
佐川は何も言えなかった。
特別大きな家の前へくると、案内していた熊耳の男は、「ここで待て。」と言って、門を入っていった。門がある家はここだけである。塀はない。
後からついてきていた仮面の男たちは、いつのまにか、いなくなっていた。
かなり大きな集落だ。建物は木造、いたるところに、高床式の倉庫のようなものが見える。
そして、三木は、先ほどから感じていた違和感が何であったか悟った。
人々の様子と建物が不釣り合いなのだ。確かにコンクリートや瓦ではなく、藁ぶきの家々であったが、どの家もしっかりした木造建築。そう、建物の高度な技術がみえるのだ。
それに、この集落を守る土塁のようなものもない。それは、外敵がいないということ。
この異世界に来る前の地球では、考えられないことだ。国までも城壁で囲んでるところもあった。
街や村の囲いがなくなったのは、支配され必要がなくなったか、あるいは、大砲などの兵器で囲いが無意味になったかである。
(それにしても、不思議なところだ。やはり異世界か。)そう三木は思った。
対応の協議でもしていたのであろう、長い間待たされたが、
案内の熊耳の男が出てきて、
「私は、武力長のコリーです。使節の方だけついてきてください。」
そう言った。
警護の使命感か、佐川がついていこうとしたが、さえぎられた。
熊もどきの出現で、彼と同じ服装のものの役割を悟ったのだろう。
「私は?」と三木がたずねると。少し迷って、
「その荷物をおいて、ついて来てください。」と答えた。
使節と同じ服装、そして、最初の接触。それが、許可された理由だろう。
三木は、背広の内ポケットをまさぐり、銃があることを確認すると、
不服そうな佐川に、「大丈夫、私がついているから」と小声で言って、リュックを預けた。
門をくぐって、玄関を通り、家に入る。古いが、立派。まるで、古民家のレストラン。畳ではなく板の間であるが、よく磨かれている。
大きなテーブルの向こうに、猫耳の男が腰かけていた。
我々を見るとすぐに立って、椅子に腰かけるようにうながす。
そして、「ようこそ、私はハリーといいます。ここの長です。」と言って腰かけた。コリーはその横に立った。
(どうして、こんな前近代的な集落に写真がある?しかも、入っている飾りケースは何?)
三木は猫耳の男の後ろに飾られている2枚の写真に驚いた。古いが確かに写真だ。肖像画ではない。
(あのケースの材質は何なんだ。この集落は、おかしい。違和感の連続だ。)
三木はそう思った。
「私は日本の外務副大臣の上原と申します。
ここは何という国の、何という場所ですか。」
「国はありません。場所の名前もありませんが、他の集落の人は守りの地と呼んでいます。」
ハリーの即答に、三木は(国という概念も地名というものも知っているようだ。)と思った。
「日本はどこにあるのか。」「日本に我々のような種族はいるのか。」「日本に奴隷はいるのか。」
ハリーから次々と質問がでる。
(質問は多いが日本を知っている?この人は油断がならない。)三木はそう思った。
上原は国も存在しないことに失望したのか、相手をさげすむような口調で答えていた。
(熊もどきの一件か、帰りたくなっているみたい。まずいな、会談を早く切り上げようとしている。)
そう感じ取った三木は、
「あなたは種族といいましたが、他にも違う種族がいるのですか?」と質問した。
ハリーは質問をした三木を見て驚いた。そして、顔をまじまじと見つめていた。
「あなたと私とでは明らかに体の形状が違うでしょう。他にもいますよ。
近くに集落があと4つありますが、3つは私たちと同じ種族。
あと1つは、全く違います。私たちより、もっと背が低く、体が頑丈で力持ち。
それから・・・・・」と言いかけて何を思ったのか、やめてしまった。
そして、「私が知っているのはそれだけですが、他にもいると思いますよ。」
(何かを隠している。)三木はそう思った。
何を隠しているのか気になったが、それを悟られないように質問した。
「失礼なことを尋ねますが、ここには耳の形が違う人たちが住んでいますね。どちらも同じ種族ということですか。」
「そうですよ。どちらの耳の子が生まれても、自分の子供でしょう。」
上原が(何をくだらないことを聞いているんだ)という顔で、三木を睨む。
(肝心なことを尋ねてくださいよ、あなたしか聞けないことなんだから。)と目で返す。
何を察したのか、下野が上原に耳打ちをする。
「食料を輸出できますか?」
唐突に上原が口を開く。
「輸出?」
「そう、食料を売ってくれますか?」
「売れと言われても」
「あるんですか、ないんですか?」
「・・・・・」
三木は高床式の倉庫を見たとき、小麦かとうもとこしか、作物は不明だが、農作物が豊富なことを感じ取っていた。
交渉の会話が止まったのは、上原の性急な問いのせいではなく、ひょっとしたら、通貨の概念がないのではと、考えていた。
(お金のやり取りのない世界か、それにあの建築技術、やはりいびつで変な世界だ。)
「ここでは、どんな作物がとれるのですか?」と三木が口をはさんだ。
「主に小麦、季節によっていろいろ。」
「それらと日本のもの、たとえば、あとでお見せしますが、草を刈る機械とか、そんなものと交換できますか。」
「交換、それならできますよ。」
「ありがとうございます。ついでですが、海岸を細工したり、海岸からここまで道をつくったりしても、よろしいですか?」
「・・・・・、いいのでは?集落の家とまわりの畑以外は誰のものでもないですから。新たに開墾した畑も、開墾した人のものになるのがしきたりです。」
上原が、もういいだろうとばかり席をたった。
「ちょっと、お待ちください。」とそれを制止したハリーは、その後、とんでもないことを言った。
「この地を、日本の国にしてもらいたいのですが。残りの集落も一緒に。他の集落は説得します。」
そばに立っていたコリーが大声で「お願いします。」と頭を下げた。
驚いたのは三木だけではない。下野も、上原などはうろたえてあたりを見渡している。
・・・・・・・・・・
「どうでした?」外で待っていた佐川が声をかける。
3人の無事を確認してなのか、声が軽やかであった。
「どうもこうも、すぐに日本へ帰るぞ。」渋い顔の上原が答える。
リュックを受け取った三木は、笑いながら、受信機を取り出し、護衛艦いずもと連絡。
「渡辺艦長、例の件、どうでした?OK いいですね。ついでにお願いですが、港岸工事の専門の隊員、乗ってたですよね。そうそう、ボートかなんかで調査して、港に適した海岸を見つけておいて欲しいのですけど。
はい、はい、中型、小型でもいいですよ。
コンテナの積める貨物船が停泊できるような。そうです、よろしくお願いします。
すぐに使節団の方がそちらに向かいますから、例の件、よろしく。」
通信を終えた三木は、上原に
「いずもへ帰って、そこから、先ほどのことを政府に報告、指示を受けてください。」
と言った。
上原は怪訝な顔をする。
佐川が「遠くて通信できないのでは?」と尋ねたので、
「それができるようになったんです。」と答えた。
「どうやって?」
「それを説明すると長くなるから、いえ、後で説明しますから。
とにかく急いでください。自衛隊の方はヘリまで、そのあとの警護はいりませんから、
そこで待機していてください。」
「あなたは?」
「ここで待機しています。私に警護はいりません。」と言って笑った。
「そうそう、多分必要ないと思いますが、このリュックを持って行ってください。
あと1発、ロケット弾が残ってます。それから、その草刈り機は置いて行ってください。」
三木は使節団がもと来た森の方へ歩いていくのを見送ると、
(さあて、これからが、私の本職の仕事か。とにかく大変なところだ。)と、
あたりを見渡した。
門からコリーが出てきて急ぎ足でどこかへ行った。
しばらくして、猫耳の男がその門に入った。1人、2人、3人・・・・4人。
やがて。コリーが戻ってきて門をくぐった。
そして、猫耳の4人の男たちが出てきて、一斉に異なる方向へ走っていった。
(何かある。)そう思っていると、コリーが出てきたので声をかけた。
(私に気づくと、驚いていたようだが、カマかけてみるか。)
「何を企んでいるんだ。」
「えっ、何も。」平静を装っている。
「そうだ、お茶でも飲んで、話をしないか。俺の家はすぐそこだ。」
(今日初めて出会った人を家に呼ぶか、しかも異邦人。怪しすぎる。でも、探るチャンスかも・・・)
三木はついていった。
異世界の集落は謎だらけ、この集落は何を隠している?