日本では、無線によるインターネットの速度が遅いので、低軌道の人工衛星をどんどん打ち上げて、高速インターネットを提供するように、企業やマスコミから要望が上がっていた。以前の地球では、アメリカの民間企業が競って低軌道上の人工衛星を打ち上げていて、それらが光の帯(スターリンク)となり、UFOと間違えられることもあった。低軌道上に毎年8000以上の人工衛星が打ち上げられていたのだ。UFOと間違えられる騒動を避けるために、太陽光を反射しない素材の使用が研究されたりしたこともあった。
問題はそんなことではない。毎年8000基が大気圏で燃え尽きて、アルミニウム硫化物の微粒子になり、オゾン層を破壊していたことだ。それを指摘した学者もいたが、フロンの様に中止にはならなかった。フロンは人畜無害。夢の流体ともてはやされて冷蔵庫やエアコンに使用されたが、オゾン層の破壊物質として生産中止になっていたのに、人工衛星を打ち上げ競争は終わらなかった。
ともかく政府は、それよりも偵察衛星、この惑星の全容を知ることの方が先だと考えていた。日本列島は以前の地球の時と同じ緯度なのにかなり暖かい。日本海側は豪雪地帯だったのに、雪が降らない。それどころか、富士山にも雪がない。
防衛上もさることながら、この惑星を知らなければ政策の立てようもない。日本だけでは生きていけないのだ。
国内でも手は打っていた。
深刻な食糧不足は西方大陸東岸地区やトメリア王国やバーキー王国との交易でなんとかなったが、食料自給率の低さは改善すべき課題であり、耕作放棄の土地や所有者不明の土地を無償で貸し出すだけでなく、耕作するものに補助金を出すことによって、失業した人たちが農業に活路を見出すようにした。
空き家を無償で借り受け、日本に取り残された外国人だけでなく、住居を持たない人たちに無償で貸し付け、空き家問題の解決と、住民税の増加をもくろんだ。
どちらも強引だとマスコミの批判を受けたが、確実に成果をあげている。
・・・・・・・・・・・・
西方大陸東岸の自治保護地区の集落は、電気ガスのない生活のままであり、変化がなかったが、壊滅した3つの集落に、自治保護地区に逃げていた人たちやトメリア王国に捕えられていた人たちがもどり、集落が再建されていた。猫耳、熊耳の人たちは寿命は短いが、人口は増加傾向にある。この惑星に適応した人たちであるといえる。日本人の人口は1億1千万と減っていた。
トメリア王国では、奴隷の解放に四苦八苦していたが、下野大使の強い要望で、強制的に開放、故郷に帰るかこの国で働くか自由に選択させ、国が補助するようになった。
バーキー王国では、首都とアルミ港湾地区すべての電力を賄う発電所とジャングルを抜ける舗装道路が完成し、自動車が行き交うようになったが、ジャングルの破壊が深刻になり、国内のガソリン車はすべて日本が引き取り、電気自動車と交換していた。
ジュラス都市国家では、チャコ総領の管理体制が整い、弾圧こそしなかったが、サンジー教の聖堂は軍の備品倉庫や兵舎に変わり、サンジー教の信者も少なくなっていた。
ジュラス東港の護衛艦かがは修理点検が終わり、日本に帰還していた。入れ替わるように、帰還していた相原一尉と水陸機動団のほか、ナナヨン戦車、コガタという愛称のトラック、高機動車、輸送防護車などと一緒に陸自の隊員たちが来ていた。
サンパル皇国とジュラス都市国家を結ぶ一直線の道路を監視していたジュラス都市国家の兵が、サンパル皇国の軍の進行を見つけた。すぐに、チャコ総領に連絡が届き、相原一尉の耳に入った。
相原は2台のナナヨン戦車と水陸機動団の隊員を引き連れて、現場に急いでやってきた。ジュラス都市国家の軍を率いているのはサミー補佐官、政治の補佐と軍のトップを兼務しているのだ。
サミーは、やってきた相原に言った。
「後方で観ていてください。わが軍の力を試したいのです。」
「敵は自爆覚悟で突っ込んできますよ。」
「分かっています。来る前に叩く、そう指示しています。」
「わかりました。城壁にある建物を越えるまでは攻撃しません。町まで来ると厄介ですから、越えたら攻撃します。」
「ありがとうございます。」
ドカーン。79式誘導弾がサンパル皇国の自走砲に命中する。
バカーン、バカーン。
自走砲の側にいた自爆兵が爆発する。
自爆兵が突進してくる。
建物の2階からジュラスの兵が自動小銃で狙撃する。
ダダダダダ。バカーン、バカーン。
自爆兵の数が多い。倒しても倒してもやってくる。パルコンの神に導かれて。
ついに、城壁にある建物を越えて、ジュラスの兵を巻き添えにして自爆している。
ダダダダダ。バカーン、バカーン。
日本は攻撃できない。ジュラスの兵とサンパル皇国の兵が入り乱れているからだ。
後方で戦況を見ていたサンパル皇国のマルト司令は、自走砲と自爆兵の全滅を確認すると、退却を命じた。
ジュラス軍のサミーも攻撃を停止させ、けが人などの救助を命じた。
相原の心境は複雑であった。
(最初から日本が参加していれば、ジュラスの兵の命が救えたはず。サミーに従ったのは正解だったのかどうか。街に被害はなかったが、城壁にある建物を越えてきたら、攻撃できないことを予想しなかったミス。)
そんなことを考えていると、サミーが声をかけた。
「ありがとうございます。助かりました。」
「いえ、何もできなくて。」
「いえいえ、後ろにいてくださるだけで。それに、わが軍だけで防いだことは大きいことです。自信になります。ありがとうございました。」
・・・・・・・・・・・・・・
東方の未知の国に侵入していた三木は、この国の名がリベルテで、この街が首都でカンナといい、大きな川の名もカンナ川ということを教えてもらっていた。
(どうもこの世界は、川の名を街の名前にすることが多いようだ。リベルテか、自由の国という意味だが。この国の科学技術のレベルは第2次世界大戦直後といったところか、核兵器もあるかも。)
そんなことを思いながら街を散策していると、「ボンジュール」と声をかけられた。案内の兵ニコルであった。一生懸命説明してくれるのだか、三木にはよく分からない。宮殿で何かの会があってそれに呼ばれているようだった。中に港がある城のような建物をトスリン宮殿と言うらしい。
よく分からないが、ニコルについて行くことにした。身の安全のために、黒い長方形のリュックをもって。ニコルはリュックの中身を調べたが、それらが何か理解できなかったらしい。もちろん、弾薬や砲弾は下着で包んで隠していたが。三木は、ニコルが自分の監視役であることを知っていた。
トスリン宮殿の中に入り、宴会場のような大きな部屋に案内された。テーブルには料理が並んでおり、多くの人たちがいた。三木は、見覚えのある男の所へ案内された。先日の浅黒い顔の外交官である。名前の紹介があったかも分からないが、言葉も分からず、名前を知らない。ニコルはその男に敬礼をして去っていった。
その外交官は、鉄道会社の社長を呼んで、三木が日本人であることを紹介した。次々と人を呼んで、三木を紹介する。三木は察した。自分が珍しい見世物になっていることを。
ここに集まっているのは、この国の実業家たちである。占領した植民地の利権を掌握している人たちで、次の利権を貪りに来ているのである。このような人たちが軍事政権を支えているのだ。そして、次のターゲットがプロリ帝国と二ホンであった。
三木は言葉が分からないものの、会話の雰囲気で、彼らは自分たちの国が最強であると思っていると感じていた。
見世物から解放された三木は、豪華な料理を食べることに専念した。周りの人たちは、その食べっぷりを、貧しい国の蛮人を見るような目で見ていた。
アパートに帰った三木は、1日の調査を整理していた。
(この国の豊かさは、占領した植民地からの搾取によるもののようだ。植民地へ行ってみる必要があるな。明日、ニコルに尋ねてみよう。)
そんなことを思っていると、外が騒がしくなる。窓を開けてみると、提灯の明かりが溢れている。提灯行列の群れだ。何事かと、アパートの管理人に聞いてみる。身振り手振りでも理解できる。戦勝祝いの行列だ。
(似たような映像を見たことがある。南京陥落のときの日本の提灯行列だ。)そう思った三木は、なぜか暗い気持ちになった。
・・・・・・・・・・・・・
翌日、ニコルがやってきて、いつものことだが、一生懸命説明する。三木は、リベルテ領スパンに用があるから、ついてこいと理解した。監視役、目の届くところにいて欲しいらしい。三木にとっては願ったり叶ったり。黒い長方形のリュックを背負って、ついていく。
宮殿内にある港から戦闘艇のような船に乗って、水路を出る。カンナ川を下り海に出て、西進する。そして、日本の使節団が最初にたどり着いた港に入る。
桟橋に降りると、ニコルが教えてくれた。この街はマドラと言って、元スパン帝国の首都だったと。
そして、食堂らしいところに連れてきて、身振りを交えて説明。昼時にここに戻れ、連れて帰る、と三木は理解した。ニコルは近くの領事館に入っていった。
三木は、古い石畳の道を歩いていた。家は石造りか、レンガ造り、木造の家はない。
(占領してからかなり時を経ているのだろう、街が落ち着いている。戦災孤児のような子供も見受けられるが、人々は穏やかだ。占領下の統治、うまくいっているようだ。リベルテに反撃、難しいな。)
三木がそう思ったのも無理もない。人々は、スパン帝国の圧政から、戦争による重税から、解放されたのだ。反リベルテの勢力など見つけようもなかった。