国交使節団がリベルテから帰還してから、2週間がたった。リベルテの要求を承服できるわけもなく、すべて拒否をどう穏やかに伝えるかを思案していた時、小笠原諸島のはるか東を航行している船団を発見した。戦艦2隻、軍艦2隻、輸送船1隻の艦隊である。
日本の最東端は小笠原村南鳥島。日本列島との間にある海溝はなくなったのに、島は残っている。住民はいないが、海自、関東地方整備局、気象庁の人たちが常駐していて、近海にレアアースを豊富に含む泥があり、それを採取する船が来ている。
日本政府は、人的被害を避けるため、南鳥島および周辺からの撤退を命じていた。実は、リベルテの要求を受け入れない場合は、攻撃すると、宣戦布告文を要求の最後につけていたのだ。返答もしていないのに、やってくるとは思わなかったが。
東方のリベルテの軍隊が、日本の領土南鳥島を占領。西南地域のサンパル皇国も宣戦布告。存立危機事態による集団的自衛権の行使で自衛隊の出動が可能であるが、国会が混乱するだけで埒があかない。政府は、法の解釈で議論するよりも、国民感情は憲法の改正だと強行提案をし、宣戦布告の脅威から賛同する野党も出てきて、3分の2を確保。国会が発議して、国民投票を実施。過半数の賛同を得て、初の憲法改正となった。
第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は 武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。 ②ただし、日本国及び日本国民を攻撃する勢力に対しては、国の交戦権を認める。
第9条の国際平和を誠実に希求する姿勢は残されたが、②が劇的に改正された。改正か改悪かは分からないが、それは歴史が証明するだろう。とにかく、やっと戦えるようになったのだ。
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一方、サンパル皇国では、陸軍の自爆兵の数が多く、死に報いる報酬が払いきれない事態になっていた。それでも、パルコンの神に対する忠誠から志願する兵はいたが、数は少なくなっていた。
戦いに敗れたという情報が占領して支配していた地域に流れると、いたるところで反乱の兆しが見え始めていた。反乱を抑えるために、兵を派遣する必要があり、ジュラス都市国家を再度攻撃するどころではなくなっていたのだ。
メリル教皇は、占領したナガア王国の民に強引にサンジー教を押しつけ、そのお布施から膨大な利益を得ていた。その地域の人々が支払いを拒否し始めた。そして、ナガア王国の残党の扇動によって、武力蜂起したのだった。
その反乱はサンパル皇国の陸軍によって鎮圧されたが、元スリム王国へも飛び火した。
そんなとき、二ホンが攻めてきたのだ。自分たちが作ったジュラス都市国家とサンパル皇国を結ぶ道路を使って。
陸軍の兵力のほとんどを東の占領地域の反乱の対策に当てていたため、西からガントに侵攻してきた二ホンに対し手の打ちようがなかった。
首都ガントの街を鉄の大砲車(74式戦車、愛称ナナヨン戦車)2台と鉄の荷車(トラック)2台、鉄の箱車(輸送防護車)1台が進む。街の人たちが見物するだけで何の抵抗もなく、皇国の城アセス城に105mm戦車砲の射程距離まで近づいた。そして停車。
城から衛兵が多数、3連発の銃剣を構えて突進、攻撃してきた。
ダダダダダ。ダダダダダ。
7.62mm機関銃が火を噴く。
「これから、どうします?」と輸送防護車のチャコ総領。
「日本の外交官が来るまで、ここで待機。海路でやってきます。」と相原一尉。
「降伏の要求ですか?」
「いえいえ、宣戦布告を撤廃して、友好的な関係を結べればそれでいいと考えているようです。」
「それまでに、サンパル皇国から交渉があった場合は?」
「待ってもらいます。私に交渉する資格はない。それを伝えてもらうために、あなたがいる。」
アセス城では、攻撃を命じた衛兵が全滅。アロル皇帝は青くなって、アレルテ軍務大臣に、「何とかならんのか。」と怒りをぶつけていた。
「何ともなりません。ドドル陸軍大将もマルト司令もナガア地方の治安維持に出向いており、陸軍は誰もいません。」
「海軍がおるではないか。」
「海軍?陸では、どうにもなりません。ドドル陸軍大将に伝令を出しておりますが、兵を連れて戻ってくるのがいつになりますやら。」
「それまで、籠城か。この城は堅固だから、破られることはないだろう。近づいたら砲もあるし、砲兵はいるのだろうな。」
「はい、少し残っています。」
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輸送防護車とトラック1台が港へ向かう。港の沖合に停泊している護衛艦たかなみに、相原が連絡を入れる。たかなみからボートが出てきて、港に入ってくる。桟橋に降り立った外交官を見て、「やっぱり、大使でしたか。」と相原。
「ポルトガル語が喋れる外交官は私だけですから。」と下野大使。
「城は閉ざされています。とりあえず、港湾事務所へ。」と相原。
トラックから水陸機動団の隊員が警護に降りてくる。
輸送防護車から降りたチャコ総領は下野と握手をして、「私はどうしましょう?」と尋ねた。
「一緒にいきましょう。その方が話がはやい。」と下野。
港湾事務所にはアイン海軍大将とトマス提督がいた。
「宣戦布告の撤回を働きかけてくれませんか。友好的な国交を希望しています。」と下野。
驚いたのは、アインとトマス。降伏を要求してくると思っていた。2人とも、占領されても仕方がないほどの戦力差であることを感じていたのだ。
「友好的な国交?陛下が聞き入れてくれるかどうか。東方に遠征している陸軍の帰りを待っている。」とアイン。
「聞き入れてくれなければ、国が滅びますよ。」とチャコ。
「聞き入れてもらわないと。やってみてください。」とトマス。
結局。アインとトマスは城に入り、アロル皇帝を説得することになった。
交渉の場が持てる場合は、トマスが連絡にくるようになっていた。
下野大使らは輸送防護車のなかで、ナナヨン戦車と共に待っていた。いつまで経っても、連絡がない。
説得はできなかった。陸軍が戻ってくれば、追い払うことができる。そう思っていたのだ。
「ダメだったようですね。どうします。強行しますか。」と相原。
「引き上げるわけにはいけないし、困ったな。」と下野。
「行きます。」と言って相原は輸送防護車から出ると、隊員に指示。ナナヨン戦車を先頭に動き出す。
しばらく進むと、ドン,ドン。城から砲撃をうける。でも当たらない。
ドカーン。ナナヨン戦車の105mm戦車砲の砲撃で城壁が崩れる。
ドカーン。ドカーン。ドカーン。城の砲台が破壊される。
城からの砲撃がなくなると、ナナヨン戦車に続いてトラック、輸送防護車が進行し、城内に入る。
トラックから防弾チョッキを着た水陸機動団や陸自の隊員たちが降り、城内の制圧にかかる。
すでに衛兵は全滅していたから、すぐに制圧できた。その手際よさに驚くチャコ総領に輸送防護車で待っているようにいった下野大使は、ゆっくりと腰を上げた。
輸送防護車から下野大使が降りてくると、相原一尉とアイン海軍大将がやってきて、アロル皇帝とトール宰相を拘束している部屋へ案内する。
部屋の入り口近くでトマス提督がアレルテ軍務大臣に一生懸命説明している。下野はそれを横目で見ながら、相原とアインの後から部屋に入っていく。
部屋にはアロル皇帝とトール宰相が椅子に座らされて、水陸機動団の隊員が銃を突き付けている。
下野は2人の拘束を解くように言った。相原が目配せで合図をすると、銃を突き付けていた隊員がその場を離れ、入り口に立った。
「お初にお目にかかります、皇帝陛下。日本の全権大使下野と申します。」下野が流暢なポルトガル語で言った。アロル皇帝は黙っている。
「お前、陛下をこのような目にあわせて、ただではすまぬぞ。」とトール宰相。
アイン海軍大将が苦笑して、「状況を理解してください。」と言った。