時空を超えて   作:ぴょんぴょん店長

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第4章 10

 オート3輪について行った輸送防護車がカーペの街に入り、ロマスク帝国の陸軍基地で止まる。陸軍基地の入り口にはアコリ少尉が待っていて、彼がオート3輪に乗り込むと、基地内に入っていった。続いて輸送防護車も基地内に入ってオート3輪についていく。

 オート3輪が停止したところで、輸送防護車も停止し、川本外交官と事務官、そして警護の隊員3人が降りる。残りの隊員は輸送防護車で待機。

 

 アコリ少尉に案内されて、川本たち5人の日本人が建物の中に入り、誰もいない応接室のような部屋に通される。しばらく、待っていると、「お待たせしました。サランと申します。」と軍服を着た男が入ってきた。フランス語である。座っていた川本たちが立つと、「どうぞ、そのまま。」と座るように促して、サラン中佐は向かい合うように座った。

 

 「話は少尉から聞いております。防衛大臣に連絡しまして、外交官がこちらに来るように手配しています。申し訳ないですが、外交官が来て会議の準備ができるまで、もうしばらくお待ちください。」

 サラン中佐はそう言って、警護の隊員たちの装備を眺めながら、「二ホンという国だそうですが、どこにあるのですか。」と尋ねた。言っていることを理解できるのは川本だけである。

 

 「西側にある海のずっと向こうにある島国です。」と川本が答える。

 「あの海の向こう?陸があるのですか?」そう言って、やはり、隊員たちの装備を気にしている。

 サランはアコリから戦闘車両でリベルテ国の軍を壊滅させたことを聞いていたのだ。

 「私どもは今、リベルテ国と戦っています。ご存じで?」

 「はい、存じております。」そう川本が答えたとき、アコリが入ってきて、サランに耳打ち。

 「失礼。」と言ってサランとアコリが出て行った。

 

 しばらくすると、アコリ少尉がやってきて、「準備ができました。」と川本を案内する。

 警護の隊員も立とうとする。「ここでお待ちください。案内できるのはお二人だけです。」と、隊員の付随を制した。

 川本が「大丈夫です、待っててください。」と言って、隊員たちを座らせると、アコリについて行った。

 

 部屋に入ると、サラン中佐とヨルベ外交官は立って待っていた。そして、サラン中佐が川本と事務官に席に着くよう促し、自分も座った。互いのあいさつの後、ヨルベが口を開く。

 「わざわざ、我が国へやってきたわけは?」

 「はい、先ほどリベルテ国と戦っていると伺いましたが、我が国もリベルテ国と戦っていましてね。」

 サランとヨルベが怪訝な顔をする。

 

 「我が国の領土も一時占領されたのですよ。すぐに、追っ払いましたが。そこで、共に戦えたらと思いまして。多分聞いていると思いますが、この国に侵攻してきたリベルテ国の軍を叩いて、国境まで押し返しているはずです。」

 

 「侵攻してきたリベルテ国の軍を叩いてくださったことは聞いています。でも、どうして我が国のために。」とサラン。

 

 「あなたの国のためだけではないですよ。我が国のためでもあるのです。我が国の武器も提供します。共に戦って欲しいのです。」

 サランはアコリの話を聞いた時から、ロマスク帝国だけではリベルテ国の攻撃が防げないが、二ホンがいれば勝てると思っていた。

 

 「共に戦うとして、その見返りは?」とヨルベ。

 (見返り?何をばかなことを。)とサランは思ったが、呆れてヨルベの顔を見るだけだった。

 

 「見返りですか。スパン帝国の皇太子が亡命していますよね。」と川本。

 ヨルベもサランも(どうしてそんなことを。)と思った。

 「スパン帝国からリベルテ国を追い出して、そっくり皇太子にお返ししますよ。」

 途方もないことを自信たっぷりに話す川本にヨルベもサランも何も言えない。

 

 「皇太子にお伝えください。今はリベルテ国の領地だから遠慮なく一角の地域を確保し、港湾と空港の整備を行い、リベルテ国への攻撃の拠点としていますと。」

 2人はただ唖然とするばかりだった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・

 

 そのころ、リベルテ国にいる三木は、今日も酒場で働きながら、情報を探っていた。

 (戦争特需か。景気は良さそうだ。この酒場も客が多い。東のプロリ帝国もリベルテ国による再開発が行われ、多くの労働力と資金が集まっているそうだ。単に占領による搾取だけの豊かさではなさそうだ。

 だが、戦争特需で経済が潤うのは第3国、戦争をしていない国だけ。破壊するものと破壊されるものの生産は、消費するものと消費されるものの生産と同じではない。前者は経済が疲弊し、後者は経済が発展する。そんなことを誰かが言った。この国の戦後は大変だぞ。

 

 以前から感じていたことだが、この国の人々は政府の選民思想に毒されているみたい。どの顔も浅黒く、同じ混血人種のようにしか見えないのに。

 

 性的少数者、退廃芸術者、障害者、宗教者などを迫害するのは政府だけでない。国民全体が民族共同体の血を汚す種的変質者であるとして断種しようとさえしている。生きるに値しない命などあろうはずもないのに。

 

 そんな国民に、政府が反社会的人物と認定した者をかくまうものなど誰一人いないだろう。こんな中で、政府に反逆する工作など不可能だ。

 

 でも、奇妙なことに占領した地域では、人々の支持をえるような融和策をとっている。以前の国よりも民に優しいのだ。弾圧するのは自国民ではなく他国民のはずなのに、このいびつさは何なんだろう。

 内に厳しく、外にいい顔か。あは、我が職場だ。)

 

 そんなことを考えながら、大きなテーブルに陣取ってビールを飲んでる兵たちを眺めていると、彼らが「あっ、ニコル少尉殿」と立ち上がって敬礼した。ニコルは何人かの兵を連れている。

 

 (マズい。拘束される。)咄嗟にそう思った三木は、すぐに従業員用控室に飛び込み、黒いリュックをもって、勝手口から外へ出た。

 

 (やはり、囲まれている。)逃げ場を探していると、「いたぞ」と叫んでこちらにやってくる兵がいる。その兵に向けて、ブシュ。続いてやって来た兵に向けて、ブシュ。三木は、兵の集まる前に、倒した兵を踏み越えて逃走した。

 

 (もう、アパートに帰ることも、職場に戻ることもできない。そのうち手配書も出るだろう。人混みに身を隠し、帝国兵、警官はもちろん、一般人さえからも見つからないように気をつけねば。

 宿が問題。段ボールハウスか。浮浪者、取り締まりが厳しいのだろう、あまり見かけないからなあ。)

 三木はそう思いながら用心深く街を彷徨った。

 

 三木は日本との連絡が取れるようになった時点で、本格的な戦争が始まることを知っていた。そして、それは我が身が危うくなることであり、警戒に警戒を重ねていた。ニコルが兵をつれているだけで身の危険を感じたのは、前々から拘束されることを予測していたからである。

 三木が危険な仕事から身を守ってこられたのは、この危険を感じると早めに退避することであった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・

 

 西方大陸東岸地区の集落は相変わらず電気もガスもない生活で、石油燃料で動く農具や道具が作業を楽にしただけで、ゆったりした時間が流れていた。

 奴隷が解放されたトメリア王国では、街や村が舗装された道路でつながり、人や物が大量に動くようになった。ビルの立ち並ぶ街があちこちにできて、国全体が活気を帯びていた。

 亜人と共存する理想的な国家と下野大使が評価したバーキー王国は、耳の尖った人たちの住むジャングルもそのまま保護され、近代化と自然環境の保全とがバランスのとれた形で発展していた。

 ジュラス都市国家とサンパル皇国は戦いが終わったばかりで、自国だけでなく占領していた地域の問題もあり、課題が山済みであった。

 

 日本は、突然の異変の混乱から冷静にこの惑星を見つめるようになったものの、まだまだ分からないことばかりだった。この惑星の全容を知るために、偵察衛星を打ち上げる計画であったのだが、リベルテ国との戦争により、その地域との通信が優先され、通信衛星に変更された。

 この惑星の暦で498年、突然の異変から3年が過ぎていた。

 

                第4章 (完)

 

 

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