川本と日野は指令室に戻った。川本に日野が尋ねる。
「どういうことです、スパン帝国とは?」
「先ほどの男はネント少尉と名乗りました。皇太子の護衛でロマスク帝国にいたそうですが、ロマスク帝国と二ホンが国の奪還に動いているのに、何もしないのはおかしいと皇太子に参加するように命じられたそうです。で、3台のオート3輪に10人ほどの兵を連れてやってきたわけです。」
「そうですか。分かりました。ところで、お願いですが、ロマスク帝国と先ほどのスパン帝国の兵を、最前線で戦わせたいのですが、通訳を頼みます。」
「いいですよ。ロマスク帝国とスパン帝国を盾にするのですね。」と川本が言うと、
日野がムッとして、「自衛隊は人を盾なんかに絶対しません。」と言った。
川本が困った顔をしているのを見て、強く言い過ぎたと思った日野は、最前線で戦わせる意図を説明した。
「我々は、遠くの敵を倒すことはできるが、目の前に迫ってきた敵に対しては弱いものです。それに対してロマスク帝国の兵たちはゲリラ戦を戦っているだけあって、目の前に迫ってきた敵に対しては我々よりはるかに強い。この世界の戦争は、遠くで攻撃しあう現代戦ではなく、敵味方入り混じって戦う接触戦です。今は、我々の土俵で遠方の敵を倒しているが、弾丸や弾薬が無限にあるわけではない。小さな紛争ではなく、総力戦の戦争です。数えきれないほどの人数で突進してきたら、少人数の我々の負けは目に見えてます。いずれ接触戦の可能性もあります。そのときは、ロマスク帝国の兵たちが頼りになる。そのための最前線で、ロマスク帝国に1人の犠牲者もでないように考えています。」
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ナナヨン戦車、機動戦闘車、装甲戦闘車に続いて、コガタトラック、オート3輪、自走砲が森林を抜けていく。かなり遅れて、輸送防護車が通り抜けた。
リベルテ国の基地が戦車砲の射程距離になったところで停止し、戦闘に向けて配置展開した。
基地に城壁などはなく、軽トラを並べて防御のバリケードを築いていた。
ロマスク帝国とスパン帝国のオート3輪を横一列に並べ、自動小銃をもった兵たちをオート3輪に隠れるように配置する。その指揮はアコリ少尉とネント少尉、敵が400mに近づくまでは攻撃しない、逃げる者は攻撃しない、突進してくるものだけを攻撃する。自走砲は使用しない。
日野は念のため、装甲戦闘車を1台、オート3輪が横一列に並んでいる100m先のかなり離れた場所に配置し、100mを越えてきたものだけを射撃するよう指示していた。
海からの護衛艦いずもの砲撃を合図に、護衛艦まやの砲撃、ナナヨン戦車の砲撃が始まる。
オート3輪が並んでいるところはロマスク帝国の兵で、二ホンではないとみたのか、軽トラのバリケードの隙間から多くの兵が突進してくる。
どんなに多くの兵が出てきても400m以内になるまで撃つなと徹底している。攻撃がないものだから、次々と兵が出てくる。戦車や機動戦闘車のある方向へはいかない。オート3輪を目指してやってくる。
400mを越えた兵が現れた。
ダダダダダ。オート3輪の陰から自動小銃の攻撃。
ダダダダダ。突進してくる兵たちが倒れる。
ダダダダダ。突進していた兵たちが反対方向へ逃げる。
ダダダダダ。100mを越えて近づくものは1人もいない。
ロマスク帝国とスパン帝国連合軍の圧倒的勝利。
ナナヨン戦車、機動戦闘車、装甲戦闘車がバリケードの軽トラを押しのけ、基地内に侵攻していく。
軽トラのバリケードで守り切れると思っていたイータ大尉は、それが破られると、基地を捨てる決心をして、退却命令を出した。
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戦い終えて、ロマスク帝国のアコリ少尉は考えていた。
(今までは、リベルテ国を正面から迎え撃って勝ったことがなかった。ゲリラ戦で相手の侵攻を遅らせることが精いっぱい。なのに、どういうことだ。今までより圧倒的に多くの敵兵を撃退したのだ。武器の性能、それもあるかもしれないが、それだけではない。二ホンが指示した通りにしたこと、それがすべてだ。作戦が、指揮がいかに大事か、よく分かった。)
スパン帝国のネント少尉がやってきて、「ロマスクの兵、強いですね。」とにこやかに声をかけてきた。「ええ、まあ。」とお茶を濁したが、アコリの心境は複雑であった。
複雑なのは日本の自衛隊員であった。
奪還したこの地はサラエという街で、漁業、農業、工業、商業と産業が盛んな土地であった。その街の住民に歓迎されないのだ。自衛隊員に敵意に満ちた冷たい視線が飛んでくる。喜んでいるのは、スパン帝国の兵だけ。
しかし、これからが問題なのは日本ではなくスパン帝国である。サラエの街が、日本はリベルテ国と戦うために通過する街に過ぎないが、スパン帝国は治めていく街であるからだ。
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リベルテ国で追われる身になった三木は、街に潜んでいた。一番危険なところが、最も安全な場所であると、三木はスラム街に潜んでいたのである。
スラム、都市の一角に形成される貧困者が集中して暮らす地域。水道、電気などの基本的なインフラが整備されておらず、不衛生な環境の地域。この首都、カンナにもそんな地域があったのだ。兵や警察がやってきたら、住民たちが寄ってたかって身ぐるみをはがす。殺すことなんか何とも思っていない。そんなところに、追手は来ない。
三木が最初にこの地域に足を踏み入れた時、ならず者たちが寄って来て、「その黒いリュックを置いていけ。そうすれば、殺さない。」と脅された。プシュ、プシュ、プシュ。三木は黙って消音銃を放つ。3人ほど倒すと、他の者は逃げて行った。それ以後、誰にも絡まれなかったが、寝首を掻かれないように気を付ける必要があった。飯屋で支払う時、店主も客も三木の財布に目が輝いたからである。
何人かの男や女が言い寄ってきた。金が目当てであることは察しがついたが、(こんなところにこそ秘密やお宝が落ちている。)と思い、情報を得るために、用心して適当に付き合った。
「ボンジュール」と声をかけられた三木は、相手の顔を見る。あたりを気にしてビクビクしている気の弱そうな男であった。フランス語が達者ではないが、だいたい相手の言ってることは分かる。会わせたい人がいるのでついてこいということであった。
三木は黒いリュックを背負ってその男について行く。あるドアの前で男が、何か合言葉のようなことを言うとドアが開いた。地下室への入り口であった。
案内の男は懐中電灯であたりを照らす。入り口の番人は銃を持っている。三木は胸を触り自分の銃を確認すると腹を括った。地下へ降りる階段の足元を照らしながら案内人は進んで行き、部屋のドアを変則的なリズムでノックする。
「入れ。」中から声がする。
部屋の中は石油ランプで明るい。
「ボンジュール、二ホン人の三木。」と中央の男が前に出てきて、手を差し出す。
(二ホン人の三木?何で?)と思いながらも、相手の手を握り、握手する。
周りには武装兵が何人もいる。