コリーの家まで来た。前に高床式の倉庫がある。
それをさして、「あれはあなたの家の?」と尋ねた。
コリーは「そうだ。」と答えて、玄関をあけた。
上り口の横に、槍と薙刀が飾ってある。
コリーが槍をもっていたのは、森の中で見たが、薙刀はこの世界で初めて見た。
案内されたのは応接室のようだ。床は板張り。
椅子に座って待っていると、コリーが入ってきて、向かい合うように座った。
そして、「主人がお世話になります。」と言いながら、
紅茶を2つ、テーブルに置いた女性。猫耳。
覗いていた子供、2人。どちらも、猫耳。
覗いているのをしかられたのか、戸が閉まった後は戸が開くことはなかった。
紅茶をすすめる熊耳のコリー。
「うまい。」思わず声が出た。コリーが笑っている。
「これはどこの?」馬鹿なことを聞いてしまった。
「どこのって、ここ以外にない。」また、笑われた。
飾ってある槍と薙刀のことを尋ねた。それは、この家の職業を示しているという。
農家は鍬や鎌、漁師は網や釣り竿、猟師は弓や罠、そのようなものを玄関にかざり、
訪問者に分かるようにしているそうだ。
そのようにしている理由は、貨幣がなく店もない、すべて物々交換。
必要なものがあれば、たずねて分けてもらうしかない。交換するしかない。
だから、その家に何があるか、何ができるかがわかる方が便利ということだそうだ。
(悪い奴なんていないんだ。自分の生業を秘密にする必要もない。
私は本名までも秘密にしているが・・・。)三木は苦笑した。
コリーは毎月一定量の小麦を、あの門の家からもらっていて、
それが家の前の倉庫に保存されているという。
「どうぞ」と言って差し出されたのは、パンとミルク。
思えば、もう昼時を過ぎているのに。朝から何も食べていなかった。
フランスパンのようなハード系、「ミルクにつけて食べるといいですよ。」と言って、
コリーが食べて見せた。
うまい。声にはださなかったが、ミルクが新鮮で甘い。
「牛は、北のはずれの牛舎に100頭、200頭かな。放牧している数を入れると、
500頭、いや5000頭。勝手に生まれたり死んだりしているからわからない。」
そう、コリーは説明した。
(わからないのはこっちだ。)三木はそう思った。
(電気もガスもない。牛の数を数える必要もない。
不便かもしれないが、食料も充分、何の不自由もない。
豊かな生活とは、こんな生活をいうのかも。
でもなぜ、日本という国の傘下に下ろうとするのだろうか。
大なり小なり植民地のように搾取されるのはわかっているはずなのに。)
(ううん、わからないことは聞けか。)
「ところで、何を企てているのですか?」
「・・・・・・・・」
「どうして日本の国にしてほしいと思うのですか?」
「・・・・・・・・」
と、その時、玄関が開く音がして、
「みなさん、そろいました。」という声がした。
・・・・・・・・・
日本の使節団はまだ到着していない。草刈り機も そのまま。盗む人もいない。
コリーは使いの者と一緒に長の家へ、三木は集落を散策。
ほとんどの家の前か横に、倉庫がある。
しばらく歩いて、小川をみつけた。川岸のところどころが古い石垣でできている。
(水路?自然の川ではない、人工的なものだ。)
川底は小石か岩、水量が豊富なのによく見える。魚もたくさん泳いでいる。
小川に沿って歩いていると、眼下に麦畑が広がる。
広い!見渡す限り麦畑。
そしてずっと遠方に、この小川の本流であるような川の土手がみえる。
(土手?そんなばかな!どうなってるんだ、この土地は。)
三木は麦畑を眺めながら、猫耳のハリーの家で見た写真を思い出していた。
壁に飾ってある2枚の写真、前近代的な集落に不釣り合いな写真、しかも、入っている飾りケースは見たこともないプラスティック、そう合成樹脂なのだ。
飾られていた写真は熊耳の男、もう1枚は猫耳の女、古いが確かに写真だった。
(この集落は、おかしい。)思わずそう呟いて、三木は長の家に引き返した。
・・・・・・・・・・
三木が長の家の前へ戻ると、使節団が到着していた。
「どうでした、政府は何と?」三木が上原に尋ねる。
「自治保護地区、日本の国にはしない。食料確保が大事、安全保障はする。」
そう上原は答えた。三木の予想通りであった。
門からコリーが出てきて、「みなさん、そろっています。使節の方、どうぞ。」
佐川もついていこうとしたが、またさえぎられた。
「警護は必要ありません。こちら側もひとりもいません。」
佐川も負けていない。「あんたがいるじゃあないか。」
「私は武器を持っていません。それに、5集落の第一代表です。」
三木が間に入って、佐川をおさえた。
「あなたはどうします?」と言われたので、「私は遠慮する。」と答えた。
(交渉の結果は分かっているし、まして交渉は自分の仕事ではない。
何よりも今の疑問を会談でぶつけては、まずい。)と思ったからである。
佐川は、いい年こいて何をふてくされているのか、ぶすっとしている。
三木は佐川に声をかけた。
「わからないんだが、何で奴ら、日本の国にしてほしがるんだろう。」
ぶすっとしたまま、佐川が答えた。
「あんた、言ってただろう、国のない民は悲劇だって。」
「それは、以前の地球で、守ってくれるものがないから。ここは、敵もいないし、平和だし。」
「それおかしいよ。だったら、なぜ、我々は森で仮面の奴らに囲まれたんだ。」
「・・・・・ありがとう、わかった。奴らが何を隠しているか。」
三木は雲が晴れたような気分になった。
まだ、違和感はあるが、ずっと気になっていた1つのことが理解できた。
佐川はキョトンとしている。
しばらく沈黙が続いたが、今度は佐川が話しかけてきた。
「どうして、日本と通信ができるようになったんだ。通信衛星でも打ち上げたのか。」
「まさか、いずれ打ち上げると思うけど。」
「なら、電波がとどかないのでは。」
「だから、日本では至る所に中継局があるだろう。
電波の中継局には受信と送信ができるアンテナがある。
それを何というか知らないけど、それを船に積んで海上に中継局をつくったんだ。
海だから障害物も何もない、この世界、電波妨害もない。
そのために、何隻自衛艦をつかったかは知らないけど。」
「お前、海上自衛隊を動かしたのか。」
「ばかな、動かしたのは総理だよ。」
(その総理を動かしたのは、この男だ。一体、何者なのだ。)
使節団が出てきた。
「どうでした?」三木が上原に声をかける。
「上々、要求通り。でも、文字もないとは。口約束というわけにはいかないから、
調印、いや契約書でもつくってきて、
詰め腹、でないか、拇印でも押してもらう。明日、もう一度ここで。
とにかく、今日は船に帰るぞ。」
そう言って、皆を促し、歩き始めた。
三木は「ちょっと、佐川さん。」と佐川を止め、
「私はまだ残ります。面倒ですが、帰った後、ヘリを回すように艦長に。
夕方までには森をぬけます。」と言って、リュックを見せ、
「警護はいりません。」と笑った。
草刈り機を持ち帰ろうとしていた若い自衛官に、
「あっ、それ、こちらに。」と言って、三木は草刈り機を受け取った。
・・・・・・・・・・
使節団を見送ってしばらくすると、長の家の門から、猫耳の人たちが出てきた。
三木はその様子を観察する。
1人、2人、3人。
4人目に出てきた人、・・・・、髪に隠れて耳の形が分からない。
小人?とにかく、背が低い。しかも、髭が長い。
出てきた人たちが三木の視界から消えたころ、熊耳のコリーが出てきた。
「ちょっと、話がある。」三木がコリーに声をかけた。
謎が1つ解ける、三木はコリーに何を?