しばらくして、レアル大佐がイータ大尉を連れて、部屋に戻ってきた。イータはバーダンを見て反射的に敬礼をした。かつて、イータはバーダンの陸軍時代の部下だったのだ。
「バーダン大佐、どうしてここに。」
「大佐ではない。」笑いながらそう言うと、声を落として、「実は・・・」と本心を喋り始めた。
「レアルもこちらへ。今、反政府集団を仕切っているが、プロリの連中とも協力して、政府を倒そうと思っている。ちょうどいい具合に、二ホンが攻めてきた。」
さらに声を落として、「二ホンを利用すれば、政府を倒せる。」そう言うと、レアルが三木を見た。
「レアル、心配ない。彼は難しいフランス語は分からない。で、2人に協力して欲しいのだ。」
「我々で、政府を倒せますか。」とイータ。
「倒すのは我々ではない。二ホンに倒してもらうのだ。」
(二ホンを利用ですか。いいですよ。二ホンもあなたたちを利用しているのですから。)そう思った三木はフランス語が分からない振りをした。
・・・・・・・・・・・・・・
マドラの港湾に残っていたリベルテの兵を一掃した日野たち二ホンとロマスクとスパンの連合軍は、マドラの治安維持のため、ロマスクとスパンの兵をすべて残し、二ホンだけで侵攻していくことになった。
納得がいかないのは、アコリ少尉であった。スパンのネント少尉と一緒に川本に抗議。
「ここで終わりとは、どういうことです。」
「ここで終わりではありません。ここの治安維持も大切です。」
「そういうことでなく、我々が侵攻できない理由を。」
足手まとい、それが理由だがそんなことが言えるわけがない。
「日野さんがどう思っているか分かりませんが、多分、スパン帝国の奪還が目的だったから、それが達成されたら、そこをきちんと治めることが大事と思っているのでは。それに、皇太子も戻ってくるそうだし。」
ネントは頷いて、アコリを説得している。アコリもそれ以上追求しなかった。
待っていたスパン南基地からのコガタトラックが2台到着したので、 日野たちはマドラの街を出た。トラックには食料と武器と砲弾や弾薬が積まれていた。スパン南基地から送られた地図には、進行する経路と注意書きが書き込まれていた。特に、自動小銃5000丁の用途が日野には意味不明であった。
実は、三木の要請でリベルテの反政府集団とプロリの反乱軍に渡す武器が、空輸でスパン南基地に届いていたのである。
日野は地図の注意書きを見る。
(真っ直ぐ海岸に沿って東へ進む。カンナ川に行き当たるとトイヤの街が見えてくるが、川岸を上流の方へ南進。トイヤの港から出たり川を進んでいる戦闘艇は敵ではない。ん?どういうことだ?
何、なに?5000丁の自動小銃はリベルテの反政府軍などと合流したら彼らに渡せ?
5000も兵がいるということか。)
三木は護衛艦いずもの渡辺艦長と日本とは頻繁に連絡をとっていたが、日野には連絡を入れていなかった。渡辺がスパン南基地に連絡をとり、日野に渡す地図に戦闘艇のことなどを書き添えたのだ。
ナナヨン戦車、装甲戦闘車、機動戦闘車、コガタと呼ばれるトラックが4台、輸送防護車が列をなして道なき道を東へ進む。道がなくても草原で走行には問題ない。日野は行き過ぎる景色を見ながら、三木と同じことを思っていた。
(どこまで行っても見えるのは草原、そして森。街どころか村もない。サラエからマドラまでもそうだった。少しの村はあったが。2つの街と少しの村、これだけで国家だった?訳が分からない。)
途中で昼食を取り、更に東へ進むと、大きな川の岸に着いた。向こう岸の方に建物が立ち並んでいる大きな街が見える。北の方が河口で海が見える。とにかく、何もないのだから見通しがいい。海のはるか沖に船が見える。日本の護衛艦である。
河口にたくさんの戦闘艇が現れて上流の方へ航行している。日野は最初にこの川を訪れたとき。その戦闘艇を見ており、それが敵のものであることを知っていた。だから、地図の注意書きがなければ、きっと攻撃していたはずだ。日本の護衛艦も戦闘艇を攻撃しない。
(あの艇が敵ではない?味方?・・・三木さんか?只者ではない、恐ろしい人だ。)
海の方から輸送ヘリがやってきて、日野の近くの草原に着陸した。ヘリから隊員が降りてきて、あたりを見渡し、輸送防護車の方へ走っていく。輸送防護車から川本が降りてきて、隊員と一緒に日野のところへやってくる。
「ヘリからの警告の録音をかがでするそうなので、行ってきます。では、また。」と言って、川本は隊員と一緒にヘリの方へ歩いて行った。川本が乗ったヘリは海の方へ飛び立った。
(この期に及んで、まだ警告をする?丁寧な国だ、日本は。)日野はそう思った。
今度は、ナナヨン戦車、装甲戦闘車、機動戦闘車、コガタトラック、輸送防護車が川に沿って上流へ進行していく。川を上流へと航行する戦闘艇が左手に見える。
・・・・・・・・・・・・
トイヤ港湾の海軍基地では、バーダンはイータ大尉を説得。イータは、バーダンの元部下であったこともあり、簡単にバーダンの説得に従った。そしてメイキ中尉に陸軍基地に生き残っている兵を集めてくるように指示した。イータは陸軍基地が攻撃されたことをバーダンから聞いていた。
レアル大佐はゲイン少佐と共に港にいる戦闘艇隊の説得をし、マイト中尉を指揮官として再編成をした。
膨れ上がった反政府集団は、もときた道をカンナに向かって進行し、戦闘艇隊はカンナ川をカンナに向かって上って行った。
トイヤ港湾の海軍基地に残った三木は、護衛艦いずもの渡辺艦長と通信していた。
「ついに、リベルテの首都カンナの攻撃ですね。で、どうするのですか。」と三木。
「鬼畜二ホンが効きましたね。三木さんの指摘の通り、民間の住宅の一部を爆撃することになりました。 」と渡辺。
三木は、「鬼畜二ホンに正義の鉄槌を」というスローガンと共に、カンナの軍事基地や施設はトスリン宮殿の中にあり、外にあるのは空港だけだと報告していた。そして、かつての日本が米英に抱いたように、市民は二ホンに強い敵意を抱いていると。
「当然ですよね。」と三木。
「哨戒ヘリで、市民に逃げるように警告してから、市民を殺さないように攻撃しろという命令です。」
「何と面倒なことを。さっさと駆除すればいいのに。」と三木。
「害獣駆除ではないのですから。」と渡辺は笑った。
護衛艦かがから哨戒ヘリが飛び立って、カンナ川の東側、カンナの街の最北の場所で警告。
「こちらは二ホン。今から2時間後に一帯を攻撃する。この警告が聞こえる範囲は、瓦礫になる。直ちに立ち去れ。さもないと命の保証はしない。繰り返す。・・・」川本外交官のフランス語である。