挿絵は、海面上昇シミュレータ、ペイント、ChatGPTを使用して描いています。
日本に帰った三木は、休む間もなく、ヒューストンから避難するところとして目星をつけた場所の探索の計画書を作成していた。
(渡辺艦長は丘にあがり、艦長ではなく水上戦術開発指導隊司令になった。ご栄転か。俺はまだこんなことをやっている。俺の次のポストはあるのだろうか。あるとしたら、室長か。それはないよな。室長はキャリアの腰かけ、入れ代わり立ち代わり若い奴が俺の上司になる。)
そんなことを思いながら、渡辺にお祝いのメールを送り、計画書の作業をしていると、職員がやって来て、面会者が来ているから応接室へ行くようにと言われた。
三木の居場所も仕事も秘密であり、今まで面会者などというのは一度もない。そもそも面会の許可が下りること自体が不思議なことだった。
応接室のドアを開けると、耳の尖った女性と室長がいた。
「やっと、会えた。」その女性は甲高い声で言った。
三木は耳の尖った女性を何人か知っているが、どの女性もよく似ていて区別がつかなかった。
「バーキー王国在日大使です。」と室長。なおさら分からない。
「シルビアです。助けていただいた。」
三木は何年か前にバーキー王国で兵に襲われている姉妹を助けたことがあった。その姉だった。
お礼がしたいので、大使館へ来て欲しいということだった。室長は職務だとばかり行けと言う。
三木は気乗りはしないが、明日の昼食会に伺うことにした。
日本は各国に大使館を設けたが、日本に各国の大使館はつくらなかった。表向きは、在日大使に連絡しても通信の不備ですぐに本国に伝わらない、本国にある日本大使館に連絡して伝える方が速いからということであった。
本当は、まだ日本のことを知られたくなかったのだ。限られた者しか入国させなかったのも同じ理由だ。
ところが、この惑星が地球かもしれないということになって、国民の目をそらす必要が生じた。戦争も終わって、新たな話題をつくる必要が生じたのだ。そこで、猫耳、熊耳の人たち、小さき人たち、耳の尖った人たちの登場である。
政府はバーキー王国に働きかけ、大使は耳の尖った女性、職員は猫耳、熊耳の人たち、小さき人たちで構成するよう勝手な要請をした。そして、バーキー王国大使館を設立したのだった。
バーキー王国は宰相が猫耳の人であり、建設復興大臣は小さき人、保険厚生大臣は耳の尖った人、外務大臣も耳の尖った人、治安維持長官は熊耳の人といろいろな種族の人が国の中枢にいる国だから、日本政府の要望に簡単に応ずることができた。
バーキー王国大使館には連日、マスコミが押しかけ、大使だけでなく、猫耳、熊耳の人たち、小さき人たちはまるでアイドルであった。
バーキー王国の大使館が日本にできると、トメリア王国、ジュラス都市国家、サンパル皇国と、次々に大使館ができた。安定していないナガアとスリム、そして東方の大陸の4か国はまだであるが、やってくるのは時間の問題である。
政府は、西方大陸の北部を領土にと主張していたアメリカに協力することにした。以前は、どうぞご勝手にと無視していたので、いくら広大な土地を得ても森林だらけでどうしようもなかった。日本の援助なしに開拓などできないのだ。
アメリカの西方大陸の北部の開拓に協力することになったのは、西方大陸東岸地区の集落や油田を守るためであった。日本にとって重要な食料とエネルギーの供給地なのだ。
アメリカに守ってもらうべき敵はもういない。国内のアメリカ軍の基地は必要ないのだ。行き場がないから抱えていただけで、西方大陸の北部へ移動してもらえれば、願ったり叶ったりである。
マスコミの関心事は、耳の尖った人たち、猫耳、熊耳の人たち、小さき人たちの動向だけでなく、この惑星の正体にもあった。新惑星科学賞を受賞した高瀬教授が連日テレビに映り、反地球論を展開していた。政府のほかに目をそらす策は成功していたと言える。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
三木はバーキー王国大使館の門を通過すると、門番に呼び止められた。訪問の理由を言うと、周知していたのだろう、すぐに案内人がやってきた。懐かしい、熊耳だ。熊耳の案内人に連れられて、玄関まで行く間に熊耳や猫耳の人たちと出会った。きもちのいい会釈をしてくれる。彼ら、彼女らがアイドルのように人気があるのが理解できた。
建物の中に入ると出迎えてくれたのは、耳の尖った女性、大使の妹カルビアであった。背が高くなっていて、大使と区別がつかなくて戸惑った。
バーキー王国大使館にはいわゆるバーキー人は1人もいない。門番だけが日本人の警備員で、あとはすべて猫耳、熊耳、尖った耳の人たちと小さき人たちだけである。大使をはじめその人たちみんながバーキー王国の人という意味では、バーキー人とも言えるが。
昼食会とは名ばかりで、三木を接待するだけの会であった。三木の両側に猫耳の酌など食事の世話をするだけの女性、向かい合って大使とその妹、食事をするのは3人だけである。
「どうして、私の居場所が分かったのですか。」三木は疑問を尋ねた。
「母に尋ねると、トメリア王国の下野日本大使なら分かるかもしれないと。だから、下野大使に聞きました。」と大使。
「下野大使に尋ねても、所属ぐらいしか。」
「所属が分かれば、日本政府の人に聞けばいい。私はそのために、在日大使になりました。」
「大使になると言ったって、そんなに簡単には。」
「日本から大使館設立の話があった時に、父にお願いしたのです。父は、国王が王子の時、匿っていましたから、国王にお願いして、国王から外務大臣に話がいって。」
「そうですか。でも、政府の人も私のことを知っている人は少ないはず。」
「外務省の人は知りませんでした。外務大臣が官房長官なら分かるかもしてないと言って、紹介してくれました。」
(まいったな、外務大臣から官房長官までいってるのかよ。)三木は、大使シルビアと妹カルビアの顔をしみじみと眺めた。
三木にとっては、2人の姉妹もその母も助けたのは職務の1環、覚えてはいるがそれほど印象に残ることではなかった。しかし、助けられた側はそうではなかった。会って礼をするために大使として日本に来ていたのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・
軍事衛星からの情報は驚くべきものだった。この惑星の赤道付近は全く分からない。厚い雲で覆われていたのである。以前の地球であれば激しい上昇気流によって雲が生じるが、全体が雲で覆われることはなく、雲が移動して地形が衛星から分かる。この惑星は赤道付近全体が雲で覆われていたのである。
それ以外の地域は、80m海面が上昇した地球の海岸線と同じであった。ただ、氷の全くない南極大陸は上昇したのかあまり変わらなかった。
陸地は緑の大地であった。草原か森林かジャングルか、とにかく植物で覆われていたのである。岩肌が見えるのは、極地方の一部か、高山の山頂付近か、できて間もない火山島だけであった。氷はどこにもない。
この情報をうけて、マスコミの報道が過熱した。いろいろな意見が出たが、主流は高瀬教授の反地球論であった。
大気の流れも調べられた。以前の地球であれば、地形や季節によって変化するが、大雑把に言えば、赤道の上昇気流が上空で高緯度に移動して緯度30度付近で下降するハドレー循環、30度付近の下降気流が地上を高緯度に移動して緯度60度付近で上昇するフェレル循環、そして極循環の3つの循環であった。
ところが、この惑星は赤道付近の激しい上昇気流が上空で高緯度に移動して極で下降するたった1つだけの大循環であった。自転による渦によって中緯度地域に上昇気流が生じて、至る所に積乱雲が生じていたが。
海底にロケットの発射台と思われるものが見つかってから、海底も詳しく調べられた。ニューヨークの海面に突き出るはずの摩天楼のビルも 瓦礫となって沈んでいた。海底の様子は秘密にされて、まだマスコミに嗅ぎつけられてなかった。
偵察衛星を打ち上げて、スペースデブリがたくさんあることも分かったが、このことも秘密にされた。
偵察衛星の写真の中にも、秘密にされたものがいくつかある。エジプトはカイロなどほとんど海底に沈んでいて、砂漠もなかったが、ギザのピラミッドが緑色の苔に覆われて映っていた。それだけでなく、樹木に覆われて判別し難いが、確かに万里の長城も映っていた。そのほか、高所にある建造物がいくつも大木の陰に映っていたのである。紛れもなくここは地球なのだ。