三木はコリーの家で、コリーと向かい合って椅子に座っていた。
「敵がいるんですね。とても敵わない敵が。」
「・・・・・・どうしてそれを。」
「他国の属国を望む理由は、それ以外にないと思いいたりましてね。
ビッグベアとあなたたちが呼んだ熊もどきを、我々がやっつけたのを見たあなたは、
我々を味方につければ、その敵に勝てると・・・違いますか。」
「・・・・・・」
「もう隠さないで、本当のことを、その敵のことを教えて下さいよ。」
コリーの話によると、その敵が現れるまでは平和そのものであった。集落ごとに長が1人だけ、武力長なる役割もなかった。もめ事が起こることもあったが、すべて長が処理していたという。
南にある森のさらに南側に同じ種族の集落が3つあったが、その敵のために壊滅。逃げ込んできた人たちの情報によると、殺されるか、連れ去られるかのどちらか。敵は南西の方向からやってきて、言葉は通じないという。
戦わないとすべて奪われる。だから、武力兵を組織したとのこと。
この集落へも敵の攻撃があったが、森のおかげで何とか守ることができた。でも、多くの武力兵の犠牲があったし、次は守り切れないだろうという。
「そんなときに、我々が森の中へ入ってきたというわけですか。」
「そう、あんなに大きな音がバリバリと聞こえたんだから、森を警戒するさ。
でも人数が少なかったから、敵ではないかもと感じていた。
そして、言葉が通じたときは驚いた。」
(驚いたのはこっちもだ。)三木はそう思ったが、黙っていた。
そして、もう一つの疑問をたずねた。
「この家はあなた方が建てたのですか。」
「そうですよ。どうしてそんなことを。」
「いえ、あまりにもしっかりしたつくりなので。」
「ああ、私たちと言っても、私ではないですよ。背の低い種族の人に立ててもらったんですよ。」
「髭の長い人ですか。」
「そうです、家だけでなく、家具も農具も武器もその人たちが・・・、私たちより上手ですから。」
(モノづくりのプロ集団があるわけか、そちらで聞かないと無理か。)
「その人たちの耳はどんなかたちですか。」
「えっ、耳。あまり気にしないから。それに見えないし。
そう、子供はあなたと同じ形です。でも、変なことを聞くものですね。」
「変なことが気になるのですよ。それに。もう1つ。ずっと北のほうに大きな川がありますね。その川の岸はみんなで盛り土をしたのですか。」
「ああ、あれ、自然にできるのでは。」
(自然堤防ができるのは川が蛇行している場合、あれは、人工的な堤防だ。)
そう思ったが、言っても無駄。次の質問をした。
「最後に、近くに流れている小川、川岸が石垣になっているところ、
あれも背の低い人たちがつくったわけですか。」
「いいえ、誰も作っていません。昔からありました。」
「そうですか、いろいろ、ありがとうございました。
お礼に外にある草を刈る機械をお譲りしますよ。使い方は明日にでも説明します。油がなくなれば、使えなくなりますが、交流が始まれば手に入れることもできるでしょう。」
「油?何ですか、それ。」
「燃える水といった方が分かりやすいですか。燃える液体です。」
「種を絞って、取った汁。料理に使っている?」
「はは、それも油ですね。ではなく、地面から湧き出る燃える水。」
「ああ、知っています。黒い水。」
「えっ!あるんですか。」
南の森をぬけ、草原を西に進むと、砂漠との境目に黒い水の池があるという、日本にとってとても重要な情報であった。
コリーがそれを知っていたのは、森を抜けたところの草原で兎狩りをしていたからで、絶滅した集落へも立ち寄っていたという。
帰り際に、「ところであなたは何者ですか?」とコリーが言ったので、
「はい、日本人ですよ。」と答えた。
・・・・・・・・・・・・・
三木は森をぬけ、待機していたヘリに乗り、護衛艦いずもにもどった。
そして、渡辺艦長に頼んでいた港にできそうな場所について尋ねた。
一時的につくるなら、河口が短期間にできていいが、洪水のこともあるので、少し離れた場所に、目星をつけているとのことであった。
ただ、調査した隊員の言では、河口付近の砂が少なすぎるとのこと。大きな川の河口なのに、まるで中流みたいと首をかしげていたという。
三木は集落で聞いた侵略者のことを話し、明日、哨戒ヘリかドローンで南西の方向を探ってみて欲しいと頼んだ。
そのあと、佐川の船室へ行き、佐川と別れた後の一部始終を話した。集落への侵略者の件は予想していたのか、あまり反応はなかったが、草刈り機を譲ったことは異常に反応した。
「なんてことをしたんだ。あれは陸自の備品だ。」
「わかっていたさ。でも、大事な交渉だ。」
「始末書を書くのは私なんだぞ。まあ、いい。お前、何者なんだ。」
(何者かって、また、聞かれたよ。)
「内調のものだって、言ったじゃないか。」
「防衛省の防衛参事官か?」
「そんなに偉いもんじゃあないよ。ははん、へんな勘違いをしているな。背広を着ているけど、内局の背広組ではないよ。内調違い。内閣情報調査室の内調だよ。」
「内閣情報調査室?なんだ、それ。」
「政府の政策決定のための調査をするところ、それ以上は言えない。」
「スパイか。」
「いやな言葉だな、私の一番嫌いな言葉だ。」
「007のスパイか。」
「古いな。そんなカッコいいものじゃない。」
佐川は勝手に納得したのか、それ以上は追及してこなかった。
・・・・・・・・・
三木は船室のベッドで思いめぐらせていた。
(無駄なことをまだやってる。もう傍聴漏洩の危険などないはずなのに、暗号通信とは。1度決めたことは、なかなか変えられないのがお役所か。
河口に砂が少ないって言ってたな。港の工事、大丈夫かな。
そう言えば、砂浜のない海岸、どういうことだろう。
3つの集落を壊滅した侵略者、殺すか連れ去るって言ってたな。連れ去る?奴隷?
そう言えば、長が日本に奴隷がいるかと聞いていた。奴隷か・・・・。)
三木は眠りについた。
また、謎が深まる