時空を超えて   作:ぴょんぴょん店長

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最終章 8 

 三木は辞職願を提出、簡単に受理される。ややこしいのはその後の退職金などの手続き。三木の辞職願を受け取った室長は次のポストが決まっており、頭の中はそのことでいっぱい、理由を尋ねようともしない。

 三木は一身上の都合という便利な言葉で押し切るつもりでいたから、尋ねたとしても無駄だが。

 

 (簡単に辞めることができた。まあ、入るのが難しくて辞めるのが簡単なのが公の組織、入るのが簡単で辞めるのが難しいのがやくざの組織ってことだ。

 国防省での武器の返却のときは、まいったよ。 こんなものを持ち出して、規則違反ですよと絞られた。

 

 それはともかく、送った映像に箱が映っているわけだから、いずれそれがないことに気付く。さあ、どうしたものか。日本からトンズラか。)

 

 三木は、武器など備品は全て返却したが、ガムテープで巻いた箱は、自分の黒いリュックに入れたままであった。

 危険な仕事であったが、今まで無事だったのは、少しでも身に降りかかる危険を感じたらすぐに逃げることによって生き延びてきたと自負していた。今回も、政府が反地球論にこだわる必要がなくなればいいわけで、それまで逃げ延びればと、日本を去る決心をしていた。

 

 (USBメモリとDVDはそのうち送りつければいい。返却を忘れていたと書き添えて。それで、窃盗にはならない。まあ、何かの罰は受けるだろうが。)

 

 ・・・・・・・・・・・・・

 

 「父さん。どうして辞めるんですか。」

 トメリア国日本大使館から日本とつながった国際電話で自宅の父親と話しているのは下野大使であった。

 実は下野の父親は下野総理大臣である。三木はそれを知っていたが、職務とは関係ないことと意にも解さなかった。

 「戦争も終わり、支持率も高くなっているのに、どうして?」

 下野総理大臣は内閣総辞職の訳を息子に電話で説明する。

 

 「我が国にとって戦争は国土の防衛と国民の安全のためにする選択肢の1つにすぎず、それ以外の動機で自衛隊を動かすべきではない。戦争を始めた内閣が戦後に退陣を強いられるという前例をつくれば、利権とか勢力圏の拡大とかそのような不純な動機で戦争を始める者が現れることがおさえられる。」

 

 「憲法で侵略戦争はできないはずでは?」

 

 「憲法は都合のいいように解釈される。国権としての戦争を認めたんだ。それに、簡単に他国を従わせる武力を日本はもっている。今まで押さえつけられた自衛隊にも、利権に目がくらむ政治家にも、優位な武力を行使し覇権国家になるべきだという人もいる。

 だからこそ、総辞職なのだ。日本は近隣諸国と共に歩む平和国家なのだよ。」

 

 今まで、外交の1手段としての戦争を否定する論調が一定の勢力を保っていたが、全くいなくなり、否定はしないが慎重な姿勢を崩さない勢力までも影が薄くなった。保守系の論壇では、日本が指導的立場になり世界を主導するという「新しい秩序」という言葉が頻繁に唱えられるようになっていた。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・

 

 不足しているレアメタルを採掘するために、気温が50℃~60℃の赤道地域を越え、オーストラリア大陸を開拓するというのだから、政府は完全にこの惑星が地球だと信じている。地球だと都合の悪いことがあるから、反地球論に乗っかっているだけだ。

 ともかく、レアメタルの確保は重要な課題であり、三木が提案した潜水艦による赤道地域越えが実施された。効率の悪い方法であるが、時間と労力さえかければ、オーストラリア大陸に空港がつくれる。

 それと並行して、気温が50℃~60℃の地域を安全に航行できる船舶、とくに貨物船の造船をすすめていた。

 

 赤道地域を越えるための中継地点となったスリム王国は、日本のスリム港湾基地を中心に急速に近代化がすすんでいた。スリム王国はサンパル皇国に占領されたものの、王国の一族は隠れて生き延びており、王国の再建が可能であった。国王と王妃は処刑されたが、一族が皇太子をつれて逃げていた。皇太子が王位を継いで、王国は日本の意向により立憲君主国になった。スリム王国は首都カルパと2つの町の国である。

 

 隣のナガアは国王の一族はすべて処刑されていて、解放後は日本領事館の主導で大統領が統治する共和国になっていた。ナガア共和国の治安が安定すると、日本領事館は日本大使館になり自衛隊は引き払っていた。ナガア共和国は首都パルセと2つの村の国である。

 

 サンパル皇国はアロル皇帝が日本から帰国し、そのまま帝位を継いでいたが、皇帝は政治に参加できずに、政治の実権はトール宰相を中心とする皇国政府と皇国議会にあった。サンジー教は国教ではなくなり、教皇の制度も廃止されたが、国民のほとんどがサンジー教の信者で、教会も存続し活発に活動していた。

 

 ジュラス都市国家はチャコ総領の独裁で、豊かな海の資源と他国との交易で急激に成長した軍事国家になっていた。ただ、日本の圧力でその軍事力を他国に向けることはできなかった。

 

 日本が南方4か国と呼んだスリム王国、ナガア共和国、サンパル皇国、ジュラス都市国家は、街や村の数も少なく、人口も少ない。低緯度地方にあり、近くのジャングルが開拓の邪魔をしていた。

 これらの国は、日本がオーストラリア大陸に空港をつくるための通過地点となり、スリム港湾基地のあるスリム王国だけでなく、多くの日本人が立ち寄るようになっていた。

 

 ・・・・・・・・・・・

 

 惑星歴499年12月、日本の暦では2月、非常に寒い時期である。

 

 三木は西方大陸東岸地区に来ていた。この地区は多くの日本人が働いていて、航路、空路とも日本との便が多く、保護される身分がなくなっても、簡単に渡航することができる。しかし、保護区の集落へ入ることはできない。身分もないから密入しかないのである。

 

 南方の3つの集落は、警備兵が監視しているとはいえ、目を盗んで侵入することができる。カメラマンが入り込んで集落の様子が報道されることが、何度かあった。

 でも、森の北側の集落は難しい。港湾からの道路は厳重な検閲があるし、森の中はビッグベアなどの猛獣がいて通過が厳しい。だから、北側の集落は許可されたもの以外に入り込んだ日本人はいない。

 

 三木は買い込んだサバイバルナイフと大量の爆竹をリュックに入れて、北側の集落に向かって危険な森の中に入った。何度か通ったはずだが、森の様子が変わっていて分からない。方位磁石を頼りに進む以外にない。熊は音を立てれば逃げるが、ビッグベアは寄ってくる。もう、武器は持っていない。

 できるだけ、音をたてないように進む。毒蛇も要注意だが、この季節、まだ活動していないはずだ。嚙まれれば、治療する場所もない。

 

 (ん?雪?雪が降ってきた。)

 

 三木は、この世界に移転してから初めて雪が降るのを見た。暖かくて、雪など降らなかったのだ。

 実は、植物が惑星を覆って酸素を放出し、大気中の二酸化炭素濃度が減少して、気温が年々低下していた。高い山の山頂は白くなっていた。

 

 三木は、ビッグベアなどの猛獣に会わないように慎重に森を進んだ。幸い、相手が逃げる小動物だけで、襲ってくる猛獣と会うこともなく森を抜けた。

 

 森を抜けるとすぐに集落の入り口である。初めての雪に大人も子供もはしゃいでいる。大地に触れるとすぐに溶けて積もることはないが、空に向かって口を開けている人もいる。

 

 三木に気付いた人たちが寄ってくる。

 「何の用だ!」数人の熊耳の男たち、三木を警戒している。

 「コリーに会いたい。日本人が来たと伝えてくれ。」

 

 三木が身を寄せるためにこの集落を選んだのは、日本人が侵入することが難しいからだけではない。どうしても確かめたいことがあったからだ。




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