時空を超えて   作:ぴょんぴょん店長

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8話

 「トメリア王国と名乗る野盗集団のボスはヨーデン3世で・・・」とはじまる下野外交官の報告書の概要は次のとおりである。

 ヨーデン3世の住まいはカバンナ川のほとり、カバンナ。(首都)

 いろいろな人種がいるが人種差別はない。

 貴族制度があり、貴族と平民の差別はある。 

 亜人は家畜とみなされる。(奴隷制度)

 火薬の発明、印刷技術の発達(言語は英語、当然文字あり)、羅針盤の発明で勢力拡大。

 武力勢力は海と陸(海軍、陸軍)

 そして、終わりに「この勢力との交流は慎重にすべきである。」と所見を綴っていた。

 

 その報告書を読んだ三木は、下野外交官を呼んで、尋ねた。

 「連れ去られた熊耳や猫耳の人たちはどんな扱いなんだ?」

 「熊耳の人たちは農夫や調理人、猫耳の人たちは召使やメイド、当然報酬は支払われません。奴隷です。」

 「背の低い人たちは?」

 「あまり、利用されていません。時々、修理工に。それから、希少価値の森の妖精が高額で取引されているようです。」

 「森の妖精?」

 「はい、そう言っていました。美男美女の性奴隷です。だから、奴隷について具体的に触れませんでした。」

 

 (この外交官は・・・、私とは違う人間だな。)三木はそう思った。

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

 護衛艦いずもが帰還してから3日後、通信衛星を兼ねた気象衛星が打ち上げられた。この衛星は惑星の赤道上空を惑星の自転周期と同じ周期でまわる、いわゆる静止衛星で、この惑星が地球と同じ自転周期、同じ大きさ、同じ重力加速度であることが判明したために、打ち上げが可能になった。宇宙航空研究開発機構(JAXA)によると、通信衛星と気象衛星の2つ打ち上げるよりも両方を兼ねた方が経済的で効果的ということであった。

 どうせ兼ねるなら偵察衛星も兼ねたらと冗談めいた意見も出たが、装備を追加するだけの問題ではなく、周回軌道が全く違うから無理なのだ。軍隊や軍事基地の位置、動きなど、広範囲の捜索と精密な偵察を行うためには、高度400km程度の低軌道を周回する必要がある。

 惑星の反対側との通信衛星と軍事衛星とくに偵察衛星については検討中とのことだった。

 

 佐川たち陸自の警護隊は、長期の休暇をもらい、それぞれの生活地へ散っていった。渡辺艦長たち護衛艦いずもの乗組員は、艦が点検修理のためドッグ入りしたので、しばらく陸上生活をすることになった。

 

 人手不足の外務省、下野外交官は今や唯一外交経験のあるトップ外交官であり、休む間もなく、新大陸の港に設置される公事館の準備に翻弄されていた。公事館という名前は、大使館でもおかしいし、領事館でもないし、貿易など公的な事務手続きをするところという意味で名付けられた。

 

 人手不足は外務省だけではなかった。内調、内閣情報調査室もまた、ウクライナやロシアなどに調査員を置き去りにして、人がいなかったのである。自称三木も、休む間もなく。トメリア王国への潜入を画策していた。

 

 日本が異世界に転移したことを公表した政府は、文部科学省に異世界の調査の発案や実施、専門家の意見調整などをする異世界事情調査室、略称異調を設置した。生物学、地質学、医学、生理化学、地球物理学改め惑星物理学などの専門家の初会合で、次の事柄が明らかになった。 

 

 惑星の大きさ、質量、重力加速度、自転周期は地球と同じ。

 公転周期は不明。

 地震直後、月と星座の異変があったが、衛星としての月が存在する。

 地球に多数存在していた人工衛星は皆無。

 スマホのインターネット遅滞は低軌道上の人工衛星不在のため。

 天球上の星座は転移前と同じ。 

 日本列島の東側の海底に日本海溝、東・南海トラフは存在しない。

 日本列島近海の魚介類は地球と同じ。ただし、暖かい海の魚になっている。

 使節団・警護隊・乗組員に未知の病原菌による発病事例はない。

 猫耳の人、熊耳の人、小さき人の遺伝子解析は資料不足。

 

 それらの事柄からいろいろな議論がメディアに取り上げられた。

 

 宇宙形成理論によると、我々の知っている元素は宇宙の組成の5パーセント程度、残り95パーセントは未だその正体がわかっていないのが現状。それに、太陽系に占めるすべての惑星、小惑星も外縁惑星もすべて含めてその質量は、太陽系全体の1パーセントにも満たない。宇宙全体においても、惑星の占める量は微々たるもので、宇宙形成理論では惑星の効果は無視されている。

 

 ところが、それに異論を主張する学者がいた。量子重力理論を研究している高瀬 国大准教授である。

 微視的な世界、素粒子の世界では反物質(antimatter)の存在は常識、巨視的な世界、宇宙の世界でも反惑星(antiplanet)の存在を認めるべきだという主張である。

 電子に対して陽電子(電子の反物質)、その存在を認めることによって素粒子の世界が理解できるように、反惑星の存在を認めることによって宇宙を理解することができるという考えである。

 

 そして、まさにこの転移の事実が、その存在の証明、日本国は反地球に転移したというのである。しばらくして、西の海の海底に大陸斜面が見つかり、西の大陸が北アメリカ大陸の東岸と類似していることが分かると、高瀬は、この転移説を強く主張するようになった。

 

 ともかく、惑星(プラネット)の語源はプラネテスで、さまよう者という意味である。古代の人が他の星とは違う動きをする惑い星をそう名付けたというのが定説である。そして、転移説もさまよい、日本もさまよっている。

 

       第1章 (完)




第2章 新たな展開へ
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