時空を超えて   作:ぴょんぴょん店長

9 / 56
 本作品はフィクションであり、実在する人名、国名、団体名、組織名などが登場するが、それらとは全く関係なく、中傷も賞讃も意図しません。

 挿絵は、海面上昇シミュレータ、ペイント、ChatGPTを使用して描いています。


時空を超えて 第2章 1

 新大陸の保護地区の名称を「熊猫小人地区」にするという案もあったが、あまりにも失礼だということで却下された。結局、新大陸を「西方大陸」と呼ぶことにし、「西方大陸東岸地区」と名付け、5つの集落とその周辺、港、工事中の空港全体を含むことにした。

 そして、「小人」という呼び方が相手をさげすむニュアンスなので、「小さき人」と正式には呼ぶように決めた。どう呼んでも変わらないのだが、差別用語に神経質な放送メディアとお役所の提案であった。

 

 その地区の港に建てられた公事館に下野外交官がいた。館長は退官前の参事官で、落成式の時だけやってきて、あとは来ることがなかった。退官後は親の地盤を継いで選挙に出ると噂されている。

 この公事館で働いているのは、下野外交官のほか女性事務職員2名だけである。

 

 港湾地帯には発電所が設けられ、一帯の電力を賄うことができるが、集落の要望により規模を小さくしている。というのは、当初の計画では、集落へも電気を通すつもりであったが、彼らは電気はいらないというのである。それだけではない。小麦、大豆、とうもろこし、さとうきび、牛乳、魚介類。有り余るほどあるから、余る分はすべて日本に放出するというのだ。売るのではない。タダでわたすというのだ。

彼らに言わすと貨幣をもらっても、ただの紙切れ。何よりも恐れているのは、貨幣の流通による慣習の崩壊である。便利さを手に入れることで、失うものが大きいことを彼らは知っているのである。

 

 輸入商品はタダ。輸送料と人件費などが商品の価格に加算されるが、それでも圧倒的に安い。これでは日本の農業などは太刀打ちできない。で、関税をかけてバランスをとる。

 2国間の関税交渉は互いに売買をするのだから、損得が絡み難しい。しかし、日本のものはいらない、欲しいものはタダであげるというのだから、いくら関税をかけても摩擦は起こらない。関税がそっくり国の収入になる。

 

 彼らは言った。「守ってくれればそれでいい。不便でも不幸ではない。」

 侵略さえされなければ、豊かに暮らしていけるのである。

 

 食料の輸入に関して、交渉で日本の圧倒的有利な条件を獲得したと誤解され、省内の下野の評価は一層高くなった。そんな下野外交官の提案を無視するわけにもいかず、「西方大陸東岸地区集落保護法」が国会に提出可決され、集落への自由な出入りが禁止された。

 下野の評判は集落内でもよかった。無理は言わない、要求は受け入れてくれる。成果を求めようとしない自然体が、集落の人たちに慕われる要因であった。そして、毎日のように集落からパン、牛乳、いろいろな肉、いろいろな魚、いろいろな果物などが届いていた。

 

 ・・・・・・・・・・

 

 異世界事情調査室の中川調査官は、公事館で紅茶を飲みながら、下野外交官と話していた。

 「それで、案内がいるというわけですね。わかりました。連絡してみます。」

 そう言って、下野は部屋を出た。

 しばらくして、戻ってくると、「今、使いを走らせていますから。」と言って、

 「どうです。ここの紅茶、おいしいでしょう。」と言った。

 そして、「調査団は何人ですか。」と尋ねた。

 「私を含めて5人です。みなさん、石油会社の人たちです。

 そうそう、陸上自衛隊のトラックを借りていますから、隊員の運転手が1人加わります。」

 「みなさんはどちらに?」

 「トラックで待機しています。大勢でこちらに押しかけるのは迷惑だろうと思いまして。」

 「あいさつにまいります。案内してください。」

 

  トラックの荷台には薄茶色の作業着を着た人たちが乗っていた。

 「私は外務省の下野です。」と荷台の外から声をかけたとき、1人顔を伏せた男がいた。

 それに気付いた下野が、「あなたは・・・」と言いかけたとき、その男が荷台から飛び降り、下野の手を引っ張って少し離れたところへ連れていった。

 そして、「内緒にしてほしい。単なる知人ということに。」と小声で囁いた。

 下野は社員の中に三木がいることに気が付いたのだ。

 

 中川調査官は怪訝な顔をしている。 

 

 「無理ですよ。コリーもきますよ。」

 「えっ、コリーも。コリーには知らぬふりをするように言い含めて欲しい。石油会社の社員ということになってる。まずいんだ、頼む。」

 三木は手を合わせ祈るようなしぐさをした。

 「しょうがないですね。こちらへくる前に、言っておきましょう。」と言って、

 トラックのところに引き返し挨拶をして、公事館に戻っていった。

 

 ・・・・・・・・・・

 

 三木はトラックに積んである青い箱を指さして、中川に言った。

 「目的地についたら、あれを降ろすのを手伝うように皆に言ってください。」

 「それは職務命令ですか。」

 (職務命令?馬鹿か、この若造。)とムカッときたが、相手は若くても調査団長、官僚様である。

 「いえ、違います。お願いです。」と頭をかきながら答えた。 

 

 しばらくして、下野が3人の男たちを連れてやってきた。

 その男たちを見て、中川も社員たちも驚いた。熊耳の人たちを初めて見たのである。

 しかも1人は槍、もう1人は薙刀をもっている。

 「案内人は1人のはず。」と中川がいうと、

 「案内は私がします。この2人は護衛です。」とコリー。

 熊耳の男が日本語を喋ったのに、また中川も社員も驚いた。

 

 「護衛と言っても・・・・」

 (確かに鍛えられた体ではあるが、持っている武器が前時代的すぎて)と思いながら、

 「護衛は必要ありません。」と中川は難色を示した。

 すると下野が、「集落1番の槍の使い手と薙刀の達人です。善意を無にしてはいけません。」とたしなめた。 

 結局、コリーは運転の助手席に、護衛の2人は荷台に乗って出発することになった。

 

 港から森に向かって、真っ直ぐに舗装された2車線の道が続いている。その道は、森の中も真っ直ぐに抜けて、空港の工事現場まで続いている。

 調査団のトラックが空港の工事現場まで来たとき、コリーはトラックを止めるよう運転手に言い、止まると助手席から降りてあたりを見渡した。

 そして助手席に戻り、「こちらの方向に真っ直ぐ。」と運転者に言った。

 

 三木は(民間の空港ではないな、これはどう見ても航空自衛隊の基地だ。)と思いながら、止まったトラックの荷台から空港の工事現場をみていた。

 

 トラックは舗装された道路から外れ、草原の中を走り始めた。

 三木はところどころの盛り土に木片が立てられているのを眺め、

(ここが戦場だったんだ。敵兵の埋葬とは、佐川も粋なことをやるもんだ。)と思った。

 実は、敵兵を埋葬したのは佐川ではなく、コリーたち集落の武力兵であった。しかも、敵も仏となれば弔うという心持で埋葬したのではない。仲間の集落がいくつも絶滅したのである。埋葬しなければ、鷹や鷲などの猛禽類が集まってきて、兎などの猟場が荒らされるからである。

 

 草原の道なき道を走り続けたトラックは目的地についた。黒い水の池、燃える液体の湧き出る地である。

 青い箱は重く、トラックの後ろに降ろすのに四苦八苦。コリーたち武力兵はなぜか気味悪がって近づかない。中川は指示するだけ。

 結局、運転手の自衛官まで手伝わすことになった。

 

 ・・・・・・・・・・

 

 中川はあたりをいろいろ撮影し、社員たちは黒い水を容器に採取する。

 コリーたち武力兵は、手際よさに感心しながらそれを眺めている。

 三木は青い箱から、2本のタイヤ、マフラーなどミニバイクの部品を取り出し、組み立て始めた。

 

 撮影を終えた中川はひとりの社員に尋ねた。

 「どうですか?」

 「原油です。間違いありません。しかも良質の」と答えた。

 そして、社員たちは地雷探知機のようなもので、地面を調べ始めた。




三木の冒険はじまる
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。