ベル・クラネルは夢を継ぐ   作:お米大好き

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リメイク作です。


旅立ちの鼓動

 

 朝霧が薄くたなびく森の中。鳥たちのさえずりすら控えめに、世界はまだ眠っているようだった。

 

 しんとした空気のなか、ベル・クラネルは一人、背の高い木々に囲まれた小道に立っていた。手には使い慣れた旅装束、腰には祖父のおさがりの手斧。そして胸の奥には、小さな決意の火がともっている。

 

(……いよいよだ)

 

 心の中でそう呟き、ベルは一歩を踏み出した。

 

 柔らかな土を踏む足音が、静かな森に微かに響く。振り返れば、そこには祖父と過ごした小さな家。笑い声と、夢物語に満ちた日々。だが、もう戻ることはないだろう。

 

 ──あの日、祖父が語った言葉。

 

『いいか、ベル。男に生まれたからには、ハーレムを目指さねばならん! 英雄とは──美女に囲まれてなんぼじゃッ!!』

 

 子ども心に何かがおかしいとは思いつつも、その言葉に笑って頷いていたあの頃。今でも耳にこびりついて離れない。

 

「……行ってきます」

 

 ぽつりと呟いた言葉が、冷えた空気に吸い込まれていく。けれど、その声は確かに、未来へと踏み出す少年の背を押していた。

 

 ──()()()()、英雄のように。

 

 ──誰よりも美しく、誰よりも強く、そして……どこか哀しげに笑っていた、あの2人のように。

 

 その背中に、いつか届くと信じて。

 

 ベル・クラネルは歩き出す。英雄譚の始まりに、誰も気づかぬままに。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

「ごめんなさぁぁぁぁーいッ!!」

 

 ダンジョンの壁に、情けない叫びが反響した。

 

ここは上層階──5階層。

 

 モンスターの咆哮と僕の悲鳴が交互に響き渡るこの状況、どう見ても異常だ。

 

 ほんと、何がどうしてこうなった。

 

 全力で逃げながら、僕はちらりと後ろを振り返る。

 

「ブモォォォ……ッ!」

 

 追ってきているのはミノタウロス。無駄にデカくて、筋肉ゴリゴリで、そして怒ってる。めちゃくちゃ怒ってる。『お前だけは許さん』っと流す血涙が語っている。

 

(……仕方ないじゃないか)

 

 頭の中で言い訳が止まらない。発端はついさっきの出来事だった

 

 

 ダンジョンを進んでいたら、どこか不自然な足音と悲鳴が聞こえてその先で、一人の女性冒険者がミノタウロスに追い詰められていた。

 

 長い金髪、透き通る白い肌、細身の体に合った軽装。エルフらしい凛とした雰囲気。そして……すごく僕の好み(タイプ)だった。

 

 それが助けた理由? かと聞かれればそれは違う。違うけど……考えるより先に、体が勝手に動いてた。

 

 

(なにも考えずに斧を投げつけるんじゃなかったッ!!)

 

 腰に差していた、おじいちゃんの形見の小型斧(ハンドアックス)。反射的に投げたそれが、ミノタウロスの尻に──ズブリと突き刺さった。深く。すごく深く。

 

 そりゃ、怒る。

 

(それにしても、なんで5階層にミノタウロスがいるの!?)

 

 本来なら中層に出るモンスターのはずだ。迷い牛? 誰かが連れてきた? 分らない、けどそれよりも気になるのが。

 

「なんで斧が刺さったのぉぉ!?」

 

 ただの薪割り用の斧だよ? 普通なら弾かれるか砕けるはず。でも、あれは確かに刺さった。ミノタウロスの叫びには、はっきり“痛い”って感情がこもってた。

 

(おじいちゃんの言ってたこと、本当だったのかな!?)

 

 『この斧は岩も割れる』ってドヤ顔で言ってたのを思い出す。薪だけじゃ飽き足らず、樹木にまで切って試してたっけ。今思えば正気じゃない。

 

 でも──そんな斧が今、尻に刺さってる。

 

 

 

「…って、あれ…?」

 

 

 ──逃げ場はない。

 

 曲がり角の先は行き止まり。目の前に壁、後ろからは地響きのような足音と重い息。ミノタウロスが迫ってくる。

 

(戦うしか……)

 

 恐怖で足がすくむ。でも、それでも。

 

「……一撃だけ、避けられればいい」

 

 見て避けるなんて無理だ。反応なんかできるわけがない。だから──予測に賭ける。運に賭ける。考えるよりも先に動くしかない。

 

「うおおおおおッ!!」

 

 地を蹴って滑り込むようにミノタウロスの股下をくぐる。

 背中すれすれに通る太い腕。肘が空を裂いて、かすかに髪が揺れた。あと数ミリズレてたら──死んでた。

 

その先、振り向きざま、僕は斧を掴む。

 

「返してもらうよ……!」

 

 渾身の力で引っ張る。が、抜けない。

 

「なんでぇええええっ!?」

 

 斧はびくともしない。焦る僕の視線の先で、ミノタウロスがこちらを振り向いた。殺意しかない目。──もう、間に合わない。

 

 その瞬間。

 

「ブモォ───?」

 

 

 ミノタウロスの体が、音もなく崩れ落ちた。まるで何かに断たれたように、真っ二つに。

 

 呆然としている僕の前に、ひとつの影がすっと現れる。

 

「……大丈夫?」

 

 差し出された手。反射的に掴んで、立ち上がる。

 

「は、はい……ありがとうございます…?」

 

 顔を上げて、僕は言葉を失った。

 

 そこに立っていたのは、美しい金髪の女性。透き通るような白い肌に、露出高めの軽装。まるで神話から抜け出したような美しさ。目のやり場に困る……けど見る。これが男の性だ。

 

「怪我はない?」

 

「は、はい!」

 

「そう。よかった」

 

 微かに、けれど優しく笑った彼女の顔に、心臓がドキドキと暴れ出す。

 

「あ、ありがとうございま──」

 

 言いかけたところで、嫌な音がした。

 

 ベチャッ。

 

「ん……?」

 

 足元が……ぬるぬるする。

 

 ミノタウロスの血だった。跳ねた血が、美人さんの真っ白な服に──べちゃっ、と。

 

「「……ぁ」」

 

 

(やばい)

 

 沈黙が痛い。なんか視線が痛い。全身から冷や汗が出てくる。

 

「ごめんなさぁぁぁぁいッ!!」

 

 反射で叫んで、そのまま全力で逃げ出した。美人さんの反応を見る余裕なんてない。むしろ二度と顔を合わせられる気がしない。

 

(クリーニング代なんて言われたら終わりだよぉぉぉ……!)

 

 涙目で拠点(ホーム)へ帰ったその夜。

 

 

 

 

「──て、感じの出来事があったんです!神様!!」

 

「ぬぁにををやっているんだ君はぁぁぁあッ!!?」

 

 ヘスティア様の怒声が、オラリオの夜に響き渡った。

 

 

 

 






ダンまちって確か死後は魂を浄化されて生まれ変わるから幽霊とかはいないんでしたっけ?

ここのベル君は10点中
その他 : 3
アルゴノゥト : 3
ゼウス : 4
で構成されてます。

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