召喚師が危機契約に挑む話   作:暇人のアキ

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危機契約#6 作戦コード『蛮鱗』

『狂風の砂原』
危機等級:8
契約一覧:孤軍奮闘Ⅲ
     少数精鋭Ⅲ
     疲労累積Ⅰ
     体力減衰Ⅰ


危機契約#6
召喚師、テラに降り立つ


 シュナペカペ=サキト=ハトシェプストは走っていた。枯れ木すら生えない荒野の中、砂塵を巻き上げながらただ足を動かす。

 

 彼女の背後には、黒き源石(オリジニウム)を巻き上げる巨大な砂嵐。テラにおいて最も普遍的で最も理不尽な脅威、〝天災〟がすぐそばまで迫っていた。

 

 しかし、彼女が逃げていたのは天災からではない。

 

「ハァ……ハァ……まったく、しつこいやつらだね……。いいかげんに、してくれないかな」

 

 砂嵐の中には、人影が紛れていた。マントを身にまとい、仮面で顔を隠す荒野の傭兵たち。天災を利用して獲物を狙う傭兵たちが、彼女を付け狙っていた。

 

 天災と傭兵を背に、彼女は走る。すでに乗ってきた車両は破壊された。普段は気にならない背中のハンマーがやけに重い。今すぐに投げ出して身軽になりたいところだが、武器を失えば追いつかれた時に抵抗する手段がない。

 

 傭兵の1人が弓を構え、矢をつがえる。高速で発射された矢を、彼女は音だけを頼りに避ける。

 

「くっ!」

 

 彼女の体力はもう限界だった。かわした勢いを殺しきれず、そのまま倒れこんでしまう。砂塵が目に染みる。土の味がする。なんとか振り向いた時には、すでに逃げられるような距離ではなかった。

 

「……宝の地図はどこにある?」

「さて。なんの話をしているのか、さっぱり分からないよ」

「そうか。ならば共に来てもらおう」

 

 最低限の確認は済ませたとばかりに、会話は打ち切られる。相手の数は十人ほど。半分は弓とアーツで狙いを定め、もう半分が彼女へ近づいていく。仮に先頭を叩き潰せたとしても、背後からの遠距離攻撃は防げない。

 

「(どうする? イチかバチか戦うか? こいつらを倒したとしても、戦ってる間に天災に襲われる……どうすれば……)」

 

 この盤面は明確な〝詰み〟だ。今の彼女に敵を倒すほどの戦力はなく、逃げ出すほどの体力もない。天災の迫る荒野に助けなど来るはずもなく、現状こちらを殺す気のない相手から無理に逃げ出す理由もないように思えてくる。ゆえに詰み。

 

 ──盤面の外から、〝異物〟がやってこない限り。

 

「──エルサンダー!」

 

 その声がしたのは空からだった。直後、空気を切り裂く雷撃が天より降り注ぐ。雷というには小さなものだったが、彼女に迫る傭兵たちを感電させるには十分だった。続けて2発目の雷撃が後方部隊を襲う。

 

 ここまでくればもう分かる。誰かが電気を操るアーツを使ったのだ。そしてその誰かが自分を助けようとしていることも。

 

 アーツの発射元を見ようと空を見上げると、その視線を巨大な生物が遮った。駄獣のような、跳獣のような生物だ。どことなくクランタに似ているような気もする。だが、その生物には羽獣のような翼が生え、空を駆けていた。同様の生物が全部で3体飛んでおり、そのうちの1体が高度を下げている。

 

 羽付き駄獣が降りてくると、その上に人が乗っているのが見えた。その騎手はどこか無機質で、まるで精巧な人形のようにも見えた。

 

「乗って!」

 

 降りてきた駄獣の騎手は喋ろうとせず、代わりに上から声が聞こえてきた。先ほど聞こえたのとは別の声だ。どこか不気味で怪しげな援軍だが、しかし彼女に乗らない手はなかった。すぐに駄獣にまたがり、騎手にしがみついた。

 

「……やつら、何者だ? それにあの生物は……?」

 

 来るはずのない援軍の襲来に、傭兵たちは混乱していた。その間に彼女の乗った駄獣は再び高度を上げていく。

 

「ソードペガサス、ついてきて!」

 

 高度を上げると、他の2匹の駄獣の上に乗っている人物も見えてくる。彼女を除けば全部で5人の人間がおり、それぞれの駄獣に2人ずつ乗っていた。3人の駄獣の騎手は、三つ子のように同じ顔と容姿をしている。人形のように無機質な顔も相まって、かなり不気味だ。

 

 一方、その後ろに乗る2人はまた違う意味で異質だ。1人は青い髪の好青年で、金色の甲冑を着ている。もう一人はフードを目深にかぶっていて、男か女かもわからない。いずれもここら辺では見ない格好だ。

 

「君たちは、いったい──」

 

 謎の援軍の正体を確認しようとすると、下から音が聞こえる。矢が発射された音だ。とっさに体を捻ると、矢が肩を掠める。それなりの距離があるにも関わらず、正確な射撃だ。その矢を皮切りに、次々と矢やアーツが飛んでくる。駄獣は大きく旋回しながらそれを避ける。

 

「くっ!」

「ブルーマージ、グリーンマージ、頼んだ!」

 

 フードを被った人が、なにかアーツユニットのような物を掲げる。それが光ったかと思うと、次の瞬間には人影が2つ現れていた。その人影は人形のように無機質で、駄獣の騎手と瓜二つだった。

 

「……まさか、アーツで生み出したのか? なんて精巧な……」

 

 彼女の知っている中にも人形を操るアーツは存在する。リターニアの巨像がそうだし、サルゴンの一部の一族に伝わるカラクリもそうだろう。しかし、あんなにも人間に近い人形は見たことがない。

 

 2体の人形は重力に従って落下し、地面に激突する寸前でアーツの風をおこして軟着地。唖然とする傭兵たちに、無情にも雷撃を叩き込む。その間に駄獣は速度を上げ、戦場を抜ける。あまりの速度に振り落とされそうになるが、必死にしがみついた。

 

 しばらく飛行し、傭兵たちの影すら見えなくなってから、ようやく速度が落ちた。フードの人が一息つく。……あれだけの速度で飛んだのに、なぜフードが脱げていないのだろうか? 

 

「……なんとかまけたかな?」

「ふぅ、助かったよ。まさか、こんな荒野のど真ん中に助けが来るとはね。君たちとハラヘトに感謝を」

「いや、なんてことないよ。困ったときはお互い様だからね」

 

 フードの人の表情はイマイチ分かりづらいが、かろうじて笑ったのが分かった。彼らが何者なのかは分からないが、ひとまず天災と傭兵から無事に逃げおおせたことを喜ぼう。そう思った彼女だったが、しかしあることに気づく。逃れたはずの天災が、再び目の前にあることに。

 

「──ん? いや、ちょっと待ってくれたまえ! どうして君たちは元の位置に戻ろうとしているんだ!?」

「ああ、大丈夫。あの仮面の人たちは避けて行くから」

「そうじゃない! 君たちは天災に突っ込むつもりかと聞いてるんだ!」

 

 この駄獣は来た道を引き返してるわけじゃないし、ルート的に傭兵を避けるつもりなのは本当だろう。だが天災は避けきれない。

 

「天災? ああ、あの砂嵐か。あの中に拠点があるんだよ」

「天災の中に拠点だって? そんなバカなことが──」

「突っこむよ! 落ちないようにね!」

 

 このフードはいったいどういうつもりなのだろうか? 見たところ、源石防護処置を施しているわけではなさそうだし、このままだと鉱石病(オリパシー)に感染してしまう。彼女の源石防護装置は傭兵に襲われた際に壊れてしまったし、最悪の場合急性症状を引き起こすかもしれない。

 

 駄獣が速度を上げ、砂嵐へと突撃する。なんの対策もなしに天災に突入するなど、到底正気じゃない。まさか天災の危険性を知らないわけでもあるまいし。

 

 しかし、ここまで来て降りるわけにもいかない。口を押え、なるべく砂塵を吸い込まないようにする。源石混じりの砂嵐の中、なんとか目を開ける。すると、そこには奇妙な光景があった。

 

「(──あれは、扉? いや、門か?)」

 

 荒れ狂う砂嵐の中、ただポツリと門が浮いている。地面にも接さず、壁にも寄りかからず、だというのに砂嵐にあおられず、その空間に固定されてるかのように門が浮かんでいた。

 

 フードの人が門に近づき、さきほどのアーツユニットらしき物を近づけると、門はひとりでに開いた。フードの人の乗る駄獣が門の中に入り、他の2匹も続く。

 

「──ようこそ、飛空城へ」

 

 その門の先は当然変わらぬ荒野と砂嵐が広がっている。そう思っていた彼女が見たのは、石畳と青空、そして威風堂々とたたずむ巨大な建築物だった。ここは、どう見ても城だ。それも、数千人が収容できる規模の。こんな荒野のど真ん中に、城? 

 

 ふと後ろを見ると、門の外は未だに砂嵐だった。どうやらこの門の前後で空間がねじれているようだ。

 

「これは──幻術、ではなさそうだね。空間がゆがんだ? いや、そもそもこれは“アーツ”なのか?」

 

 その門は、何の変哲もない門に見える。空間を操るなどというお伽噺のようなアーツを使うのなら、それなりのアーツユニットが必要なはずだが、この門にはそういった機構はみられない。それに、この城も不自然だ。現代建築であるなら、いたるところにアーツユニットがあり、源石回路が埋め込まれているはずだが、それがない。この城には、源石の影響が感じられないのだ。アーツでないとするならば──

 

 門が閉じる音がし、思考の海から浮かび上がる。見上げると、さきほどの青髪の青年とフードの人がこちらを見ていた。

 

「とにかく助かったよ。私は……ぺぺだ。君たちの名前を聞いても良いかな?」

 

 ぺぺは人好きのする笑みを浮かべて名前を聞く。それに対してフードの人が言葉を返そうとするが、青髪の青年が手で制した。彼は思案げな表情で話し始める。

 

「──その前にいくつか、君に問いたい。〝アスク王国〟という国に聞き覚えは?」

「聞いたこともない国だな」

「〝エンブラ〟〝ニフル〟〝ムスペル〟……いや、〝異界〟〝召喚師〟といった言葉に聞き覚えは?」

「……ない」

「……やっぱりか」

 

 聞いたこともない単語の羅列。真剣な顔でそれを尋ねる青年を見て、ぺぺはある結論を得た。荒唐無稽でありながら、しかしそうとしか考えられない結論だ。

 

「ここは“どこ”かな?」

「サルゴンのロングスプリング南の荒野……いや、それともこういった方がいいのかな。ここは“テラ”だ」

 

 彼らは、この世界の人間ではない。そう確信して、ぺぺは問う。

 

「君たちは……何者だい?」

 

 曖昧な質問だが、しかし求めているものは明確だった。フードの人が口を開く。

 

「自分はエクラ。こっちはアルフォンス。こことは違う世界から来た、異界の人間だ」

 

 




ファイアーエムブレムヒーローズ
 30年以上の歴史を誇るSRPG『ファイアーエムブレム』シリーズのスマホゲーム。略称はFEH。オールスターものであり、これまでの全てのシリーズの登場キャラクターが英雄として参戦する。英雄を召喚する力を持った主人公が、英雄たちの力を借りてアスク王国に迫る危機を打ち破るというストーリー。

 なお、本作においてはFEHオリジナルキャラクターしか出さない予定なので、原作の二次創作を期待した方には申し訳ないが、FE原作キャラは名前くらいしか出てきません。
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