召喚師が危機契約に挑む話   作:暇人のアキ

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急転

 明くる日。エクラたち一行は、日持ちのしない生鮮食品や嗜好品を買うために朝市に出ていた。

 そしてその中に、昨日までいなかった者が1人。赤髪をポニーテールに束ね、白と金の鎧に身を包んだ彼女。

 

「──露店とは、戦場よ! いかに良い立地を陣取り、お客さんの傾向をリサーチし、限られたスペースをどう生かすか! そして、買う側は数多ある店舗から優良店を見極め、店との関係性を築き、どれだけ良い物を買えるか! 分かるわね!」

「はい、わかります!」

「ではいくわよ! ここから先は、戦場よー!」

「はい、アンナ隊長! いっきますよ~!」

 

 特務機関の隊長、アンナ。たった半日前にこの世界に来たばかりだというのに、慣れた様子でバザールの商品を吟味している。その目つきは、歴戦の戦士を想起させた。

 

「……買い出しにきただけなんですけど」

「"だけ”とはなによ! いい、エクラ。たとえ少額の買い出しであっても──」

「ああもう、分かりましたよ! アンナ隊長の熱意は分かりました! これより特務機関の召喚師エクラ、戦場に向かう心づもりで買い出しに向かいます!」

「その意気よ!」

 

 目をギラギラさせながら露店に突撃していくアンナを見て、ぺぺがなんとも言えない顔をしている。

 

「……なんというか、凄いパワフルな人だね」

「あはは……戦場なら頼もしいんだけどね。お金のことが絡むと、ああなるんだ」

 

 商家の出でありながら特務機関の隊長を任されるに至った彼女は、戦場においては、それに相応しい実力を発揮してくれる。しかし、根っからの商人気質でもあるため、たびたび特務機関を巻き込んでは金稼ぎに奔走することもある。

 

「ふっふっふ、これがこの異界の商品……。見たことないものばかりでワクワクしちゃうわね!」

「同感です! やっぱり知らないものが沢山あるとワクワクしますよね!」

「……今日は食品をちょっと買ったらすぐ出る予定なんだけどなー」

 

 昨日までの段階で、遺跡探索の準備は終わっており、今日の朝のうちに出発する手はずとなっていた。

 

「ぺぺ、出発の時間なんだけど……」

「飛空城の移動速度を算出したが、予想以上だったよ。つまり、多少予定が後ろ倒しになっても巻き返せるってことさ」

「……ありがとう」

「アルフォンスー! ちょっとこっち来てよー! 面白い形の果物が!」

「ああ、エクラ。今行くよ」

 

 そんな風に、彼らが和やかな時間を過ごしている、その時だった。

 

 けたたましい、音が鳴る。切れ目なく、かん高い、全身の毛が逆立つような音。その音は、一部の場所から聞こえたわけではない。辺り一帯を、いやこの街を、その音が支配していた。

 それは、サイレンだ。天災の発生を知らせるための。

 

「──天災アラート!!?」

「嘘だろ!? 天災が来んのかよ!」

「おい、今はそういう時期じゃないはずだろ!?」

 

 サイレンの音を受けて、一気に周囲がざわめき出す。エクラたちには、これがなにを示しているのか分からない。

 

「な、なんですか、この音!?」

「天災アラートだ。付近の天災発生を予測して警告を出す」

 

 天災。この異界に蔓延る災害。かつて見たあの黒い砂嵐と同じ物が、やってくるというのか。

 ぺぺが携帯端末を取り出して、情報を確認している。

 

「天災はここに発生するの?」

「……いや、発生位置はかなり遠いな。油断はできないけど、ロングスプリングにはまず届かないと思う」

「そうなんですね! よかった~」

 

 天災はこの街にはやってこない。それが分かって、ひとまず一行は安堵した。

 しかし、依然としてペペの顔は険しい。なにかを察したアルフォンスが尋ねる。

 

「……もしかして、遺跡の周辺に天災が発生するのかい?」

「そうだね。それも、過去に例を見ない最大規模の天災だ」

 

 かの遺跡とロングスプリングの間は、天災多発区域だ。しかし、そこを越えれば天災はあまり発生せず、遺跡そのものは比較的安全なはずだった。だが、今回の天災は規模が違った。

 

「普通なら、遺跡から街の近くまで届くようなレベルの天災なんて、まず発生しないんだけどね。まあ、仕方がないよ。天災なんて予測不能の気分屋だ」

「でも、いつかは収まるのよね。なら、急ぐ必要もないわ」

「そうだね」

 

 エクラたちは、天災が収まるまで待つつもりのようだ。当たり前の話だ。そもそも天災を超えることが難しいのに、天災の真っ只中で遺跡探索をするなど、正気の沙汰ではない。

 だがアルフォンスは、ペペに急ぐ理由があると知っている。

 

「……ペペ、君は──」

「お取込み中のところ失礼します」

 

 不意に、声が割り込んでくる。聞き覚えのある声だ。

 思えば、この町に来たばかりの時にも同じような声の掛けられ方をした。

 

 声がした方を見ると、そこにいたのはやせ気味で長身の案山子のような男。危機契約機構のサイだ。

 

「──サイ? まさかこの天災に危機契約機構が動くのかい?」

「いいえ、現状は町に被害が出る見込みもありませんし、我々の出番もないでしょう。用があるのは別の話です」

 

 サイはこの非常時にも関わらず飄々としている。落ち着きすぎて、逆に不気味なくらいだ。

 

「昨夜、リグス工業のメイソン氏が天災多発地域に向かって出発したとの情報が入りました」

「なに? なぜ今……? いや、だとしても天災警報が鳴っている。すぐに引き返してくるはずだろう」

「それが、その兆候もないのですよ」

 

 テラの住人であれば、天災の恐ろしさなど痛いほど知っている。異界の住人であるエクラたちならまだしも、この世界の人間が天災に突っ込んでいくなどという無謀な真似をするはずがない。

 

「まさか、遺跡を狙って……?」

「あれ、けどリグス工業の人たちって、遺跡の正確な位置が分かるの? 分からないからしつこくペペを狙ってたんだよね?」

「うん、そのはずだよ。なら、どうして天災から引き返してこないんだ……?」

 

 ありえない話だが、考えてしまう。もし万が一、メイソンが遺跡の位置を把握していたら? 天災を突破するための手段を持っていたとしたら? 彼らは、ぺぺよりも先に遺跡に辿り着いてしまうかもしれない。

 そんな想像が頭から離れないぺぺに対して、サイが更に続ける。

 

「そしてもう一点。ペペ殿から依頼されていた調査の件ですが──」

「調査?」

「……ああ、その話か。少し気になったことがあってね。サイ、それに関してはあとでメールでも──」

「そちらの、エクラ殿と親しくしている傭兵のヤム、彼はメイソン氏とレッドラベル契約を結んでいました」

 

 ぺぺの言葉を遮って、サイが告げる。それは、エクラが動揺するのに充分な言葉だった。

 

「……じゃあつまり、あの時ペペを襲っていたのは──」

「彼でしょうね」

「そんな、バカな……」

 

 この1週間、エクラとシャロンはヤムと子どもたちの下に足繁く通っていた。彼は意外と面倒みがよく、到底悪人には思えなかった。そんなヤムが、あの日ぺぺを襲っていた集団の1人だったとは、エクラには信じられなかった。

 

「ペペ。どうしてヤムを調査したの?」

「……最初に会ったとき、私を見た反応が気になってね。もしかしたらと思ったんだ」

 

 アンナの疑問に、ぺぺが答えた。ヤムが初めて彼女を見た時、確かに様子がおかしかったことを、エクラは思い出していた。

 

「レッドラベルは、トランスポーターにとって不倶戴天の敵。その契約を結んだ者、提示した者、全てを一網打尽にするため情報が欲しい。そこで、常設契約を出す運びとなりました。内容は、傭兵ヤムの捕縛もしくは討伐」

「そんな……」

 

 危機契約。より多くの人々から天災を救うための仕組み。その内容には、天災を食い物にする者の討伐も含まれる。

 

「現状は一部の物にのみ公開した秘密の契約となりますが、彼と親交のあるあなたには伝えておこうと思います。私としては、ぜひあなたにこの契約を結んでもらいたい。期間は問いませんので、この天災が収まったころにでも」

 

 危機契約は、基本的に天災と共にやってくる。そのため常に期間限定の契約だ。だが、今回の様に対象が人間である場合、その契約は常設化される。依頼は危機契約機構が選んだ者に開示され、いつでも契約を履行することが可能だ。

 そしてそれはすなわち、ヤムは今後危機契約機構に狙われる立場となるということだ。

 

「それでは、私は天災への備えをせねばなりませんので、これにて」

 

 エクラたちがまだ事態を飲み込みきれていないうちに、サイは自分の役割は終わりだと言わんばかりにお辞儀をする。

 

「エクラ殿、危機契約機構は、実力あるものの登録をお持ちしております。我々と契約を結ぶ気になりましたら、ぜひご連絡を」

 

 それだけ言うと、ヤムは人混みの中へ消えていった。エクラたちは衝撃的な情報に気を取られており、ヤムを止めることはできなかった。

 

「あいつ……好き勝手言って……」

 

 唐突に現れては、唐突に去る。天災よりもよほど読めない男だった。

 初見の情報の奔流に、一行の頭は混乱状態だ。そんな中、比較的冷静なアンナがエクラに聞く。

 

「エクラ、どうする気?」

「……アルフォンス」

 

 自分は落ち着いていない。それをエクラは理解している。ゆえに、信頼の置ける半身に尋ねた。

 

「……サイが本当のことを言ってるかも分からない。まずは事実確認からだ。ヤムを探しに行こう」

「……そうだね」

 

 アルフォンスの方針で、一先ずはその場の全員が納得した。

 一行は、急いで感染者隔離区域に向かうのであった。




サイからの常設危機契約
『狂風の砂原』
 主なき荒野を砂嵐が蹂躙し、異国の商人や傭兵たちが財宝を我が物にしようと躍起になっている。
 今こそ、その思い上がりを粛清する時だ。

危機等級:8
契約一覧:共同戦術:奇襲
     敵が「レッドラベル」根絶者のみとなる
     共同戦術:晴天
     砂嵐が止む
     増幅:火力III
     全ての敵の攻撃力+80%
     指令:少数精鋭Ⅲ
     編成可能数が最大5人に
     指令:背水の陣
     防衛ラインの最大耐久値が1に
     制限:火力減衰I
     全ての味方の攻撃力-20%





アンナ
 FEシリーズのほぼすべての作品に登場する隠しキャラであり、ヒミツの店の店主。ただし、シリーズごとに同姓同名の別人である。かつてはミステリアスなお姉さんだったが、いつの間にかカネにがめつくなった。
 FEHにおいては特務機関の隊長として登場。商家の出であり、定期的に金策に奔走する。

能力測定
【物理強度】 標準
【戦場機動】 優秀
【生理的耐性】 標準
【戦術立案】 優秀
【戦闘技術】 優秀
【魔術適性】 普通
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