「エクラさん!」
感染者隔離区域において、ミアロが病院代わりにしている建物へ向かった。近づくと、慌てた様子のミアロが飛び出してきた。
「ミアロ先生。どうしたんですか、そんなに慌てて」
「それが……」
「エクラ!」
ミアロのすぐ後ろから、数人の子どもたちも出てくる。エクラが遊んでいた子どもたちだ。
子どもたちはミアロを追い抜き、衝突するような勢いでエクラにぶつかる。シャロンが支えたのでふき飛びはしなかったが、とんでもない勢いだ。
エクラにぶつかった子どもの1人が、せきを切ったように話し始める。
「エクラ、ヤム兄ちゃんが、ヤム兄ちゃんが死んじゃうよ!」
「ねえ、また、みんな居なくなるの? 次は、次は……」
「ジィラが、もういなくって、それで、ヤム兄ちゃんもいなくなって、俺、もう何したらいいのか分かんなくて……!!」
子どもたちは、不安げな様子で話し始める。それぞれがそれぞれの話をしているため、エクラにはなんの話かさっぱりであった。
ミアロと一緒に、一通り子どもたちを宥める。ある程度落ち着くと、ミアロが事情を話しだした。
「実は昨日、ヤムさんがお仕事に出かけて行ったんです」
「昨日って、自分たちが帰った後に?」
「はい、急に呼び出されたとかで。その時は、私も挨拶だけをして見送りました。ただ、アラートを聞いてさすがに帰ってくるだろうと連絡したのですが、一向に返事がなく。恐らくまだ都市の外にいるのかと」
ミアロが語った内容は、サイからの情報とおおよそ符合するものだった。
「……これで、裏は取れたってことで良いのかしら」
「……そうですね」
間違いなく、ヤムはリグス工業と関わりがある。違うと言うには、状況証拠が揃いすぎている。
だが、それにしてはおかしな話だ。この子どもたちの狼狽えようはなんだろう。〝ヤムが天災の真っ只中に突っ込もうとしている〟という情報を、彼らが知っているとは思えない。ミアロはそれなりに落ち着いているし、少しすればすぐに連絡が取れる、くらいには思っていそうだ。
「それだけ、ですか? それだけなら、子どもたちのこの様子は……」
「彼らは天災で家族を失った子たちですので。あのアラートに強いトラウマを覚えてる子も少なくなく……ジィラさんの件もありますし、みんな不安がっているのです」
「ジィラってヤムの妹でしたよね? なにかあったんですか?」
「その……ジィラさんは数日前にお亡くなりになられました。大体、エクラさんがいらした2日前に」
ヤムと出会う2日前。それを聞いたエクラは、あの日の光景を思い出す。頭の中で、なにかがつながったような気がした。
「ヤムさんにずっと口止めをされていましたので、子どもたちが知ったのも今日でして。私も、ヤムさんの心の整理がつくまではと思っていたのですが、まさかこんなタイミングで子どもたちに知られることになるとは」
少しばかりの後悔を滲ませた顔で、ミアロはそう零した。彼にとっては他人に過ぎないというのに、律儀なものだ。
一通りミアロの話が終わると、おずおずと、1人の男の子が前に出てきた。あの日、エクラにボールをぶつけたあの子だ。彼は、目の端に涙を浮かべて、不安と恐怖が入り乱れた顔をしている。
「お、俺……言っちゃったんだ。最近は、いっつも騒がしいジィラがいなくて清々するって。俺、あいつが、死んだなんて知らなくって……だから、ヤム兄ちゃん、怒って俺のこと、置いてっちゃったのかな……?」
「……」
「嫌だよ……父ちゃんも、母ちゃんも、あいつも、みんな俺のこと置いてっちゃったのに、ヤム兄ちゃんにまで追いてかれたくないよぉ!」
目の端に溜まった涙が、話している内にせきを切ったように溢れ出る。恐怖、不安、そして後悔。彼のそんな表情を見た瞬間、エクラの腹は決まった。
「──アルフォンス」
「僕も気持ちは同じさ」
「シャロン、アンナ隊長」
「はい、私もついていきます!」
「もちろん、私もね」
「……ぺぺ、ごめん。少し用ができた。遺跡の調査には遅れないから──」
「まったく、水くさいな。私がそんな薄情者に見えるのかい? ──もちろん、私もついていくさ」
「……ありがとう」
頼もしい仲間たちの言葉に、エクラは思わず顔をほころばせる。
エクラはしゃがみ込んで子どもたちと視線を合わせると、その頭をやや乱雑になでた。
子どもたちを安心させるように、不安なんてないような笑顔で、エクラは笑う。
「大丈夫。ヤム兄ちゃんはどこにも行かないよ。自分が絶対に連れて帰るから」
「……探して、くれるの?」
「うん。今から探して、ここまで連れて来る。そしたら、ちゃんと〝ごめんなさい〟しような」
「……うん」
「よし!」
なにか意を決したような雰囲気のエクラたちに、ミアロも違和感に気付いたようだ。それを聞くべきか、迷った末に口を開く。
「エクラさん……いえ、今は何も聞きません。でも、後で絶対話してくださいね。だから──」
「はい。絶対生きて帰って、アイツの口から、全部聞かせますよ」
「……お気をつけて」
ミアロと子どもたちに見送られて、一行は向かう。
天災の、さらに向こうへと。
子どもたちからの緊急危機契約
『狂風の砂原』
主なき荒野を砂嵐が蹂躙し、異国の商人や傭兵たちが財宝を我が物にしようと躍起になっている。
今こそ、子どもたちの涙を拭うときだ。
危機等級:18
契約一覧:強敵:紅血契約Ⅲ
「レッドラベル」根絶者及び「レッドラベル」浸透兵の最大HP+60%、攻撃力+40%、攻撃速度+80、さらにブロック時に攻撃力が2.0倍になる
強敵:孤高鬣犬Ⅲ
最後に現れる「レッドラベル」根絶者の最大HP+150%、攻撃力+100%、攻撃速度+100、出現時に戦術ホログラムを召喚し、ホログラム存在中は物理・術回避+80%、待機しなくなる
増幅:火力II
全ての敵の攻撃力+40%
指令:少数精鋭Ⅲ
編成可能数が最大5人に
指令:背水の陣
防衛ラインの最大耐久値が1に
環境:砂嵐激化
「砂嵐」により受けるダメージが20%上昇
環境:砂嵐耐性
「砂嵐」で敵の移動速度が減少しなくなる
強敵:???
???が追加で出現する