召喚師が危機契約に挑む話   作:暇人のアキ

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行動開始

 天災。村を滅ぼし、都市を破壊し、国すら亡ぼす、その暴威。源石の混じる砂嵐の中を、一台の車が進んでいた。

 対天災用装甲車。クルビアが誇る技術の結集であり、天災雲の下でも進めるように開発された車だ。

 

「まったく、随分と時間がかかったものだ」

 

 車内では、十数人の傭兵とその雇い主がたむろしていた。その種族はアダクリス、フェリーン、レプロバなど、多種多様だ。そしてその雇い主—―メイソンは、すでに1日以上も車に揺られてイライラしてきたところだった。

 

「カシラ、ほんとにこんな天災の中で作業するんですかい? 治まるのを待ってからでも……」

「うるさい! そんな悠長なことを言って、やつらに先を越されたらどうする!? 第一、こんなに出発が遅れたのはあのバカのせいだ!」

 

 メイソンは部下を怒鳴りつけた後、端に座る男を睨む。そこにいるのはヤムだ。ヤムはメイソンからの険しい視線を完全に無視して、興味なさげに窓の外を眺めていた。

 

「……チッ、あいつでなければ、すぐにでもたたき出して駄獣のエサにしておる所だというのに……」

 

 荒野にてペペを襲った際、本来であればヤムのアーツにて遺跡の位置情報を入手するはずだった。だが、謎の勢力の邪魔によりそれはかなわなかった。それは、メイソンの中ではヤムのミスということになっていた。

 とはいえ、ヤムはメイソンの抱えている傭兵の中で一番の実力者だ。ゆえに、雇い主という立場であってもあまり強くは言えなかった。

 

「カシラ! 見えました! 地図によると、あれが例の遺跡です!」

「おお! ついにか!」

 

 運転手の声をうけてメイソンが前方を見ると、確かに古めかしい遺跡が経っていた。その遺跡は一見ボロボロに見えるが、この激しい天災の中であってもまったく崩れる様子がない。砂嵐の中で、まるで何者かを待っているかのように悠然と立ち構えている

 

「歴法の王の遺産があるという遺跡はここだな!」

 

 メイソンは、辛抱たまらんといった様子で興奮をあらわにする。歴訪の王と言えば、かつて初めてサルゴンを統一した絶対的な王だ。このサルゴン、いやこの世界に知らぬ者はいないほどの人物が残した遺産。一体どれほどのものか。メイソンの期待は膨れ上がっていた。

 遺跡の目前にたどり着き、車が停止する。

 

「パラソルマシンを起動しろ!」

 

 メイソンの号令で、運転手が車両を操作する。すると、車両を中心に見えない力が嵐を押しのけ、球状に展開した。あたりは相変わらず黒い砂嵐が吹きすさんでいるが、その中にぽっかりと、砂嵐のない空間が広がっていた。

 

「うおー、すっげえな。これがクルビア製の最新製品の力か」

「グズグズするな! 鉱石病なんぞに罹患したらかなわんからな!」

「へーい」

 

 パラソルマシンの影響で遺跡周辺から天災の影響はなくなった。だが、それも長く続くわけではない。エネルギーが尽きれば、パラソルマシンはその効力を失う。ゆえに、メイソンたちは急いで遺跡に向かう必要があった。

 ぞろぞろと車から出ると、荷台から作業用の機械を取り出していく。

 

 その最後尾にいたヤムは、外に出た途端に上を向き、そのままぼーっと空を見上げている。

 

「──ヤム、なにをしている?」

 

 メイソンは若干のいら立ちをにじませた声で言う。彼は全体の護衛役のため、作業をしないこと自体は問題ではない。だが、こうもやる気のない行動ばかりとられると、全体の士気にかかわる。

 そんな思惑のメイソンに対し、ヤムはようやく反応を返した。

 

「……なにかが浮かんでる?」

「気のせいだろう。第一、この砂嵐の中でなにが見えるというんだ?」

「少しずつ、降りてくる。あれは……城?」

 

 パラソルマシンが作った球体の外は、未だに砂嵐が吹いている。そんな中で、なにかが見えるはずもない。ましてや“城が浮かんでいる”などと、まったく意味の分からないことを言うヤムに、メイソンもだんだん苛立ちを募らせていく。

 そしてヤムもまた募らせていた。──敵襲を確信するほどの、警戒心を。

 

「おい、ヤム。いい加減にしろ。今はそんな世迷言言っている場合じゃ──」

「カ、カシラ! あれ見てください!!」

 

 ヤムの視線の先、そのちょうど真下をアダクリスの傭兵が指さす。

 そこにあったのは、砂漠のど真ん中にポツリと浮かぶ扉だった。

 

「扉……?」

 

 つい先ほどまで、あんな位置に扉はなかったはず。であるならばあれはなにか。考えるよりも前に、扉が開いた。

 

「レッドペガサス、ゴー!」

 

 扉の奥から声がしたと思えば、中から高速で飛行するなにかが飛び出してくる。それは翼の生えた駄獣であり、それにまたがる騎手であった。騎手とその動物は、まるで人形のような生気のない顔色をしている。

 駄獣が傭兵たちに向かって突っ込むと、騎手がアーツの炎をぶっ放した。

 

「うわっ!?」

「なんだ、こいつ……!?」

 

 騎手は人間以外を狙っているようで、炎が作業機械やアーツユニットを飲み込んでいく。

 

「なんだ!? なにが起きている!?」

 

 周りが混乱しているのをいいことに、騎手は飛び回りながら機械類を焼き尽くしている。そんな騎手の後ろを、まるで瞬間移動のような速度で移動してきたヤムがとった。ヤムはいつの間にか、その手に大きな剣を握っており、駄獣と騎手を一刀でまとめて両断した。

 2つに分かれた騎手と駄獣から、血液が飛び出ることはなかった。その肉体はすぐに崩壊し、砂粒となって消えていった。

 

「まさか、本当に遺跡にいるとはね……。最短で遺跡に向かって正解だったよ」

「むしろ、ここにいて良かったね。こんな天気の中を探し回らずにすんだから」

 

 騎手が暴れている間に、扉からは複数の人が出てきていた。もちろん、エクラたちだ。エクラたちはそれぞれの武器を抜いており、すでに戦闘準備は万全だ。

 駄獣を倒して扉を見たヤムと、集団からヤムを探していたエクラの視線が、交差する。

 

「ヤム!」

「エクラ……」

 

 思わず叫んだエクラに対して、ヤムは絞り出すような声を出す。その心の内は分からないが、来てほしくなかったことだけは確かだろう。

 

「あれは、パーディシャーの娘! バカな! いったいどんなアーツを使ったというのだ!?」

 

 一行の中にペペを見つけたメイソンが叫ぶ。ぺぺにろくな移動手段がないことは確認済みだった。謎の協力者が移動手段を手配したとしても、この天災の中でクルビア製の最新車両に追いつくことなどできはしない。そんな常識的な予想を覆されたメイソンは驚愕した。いったい、どんな手段があればこんな速度で天災を縦断できるのか。あの妙な扉を見るに、空間に作用するアーツでも使ったのだろうか。

 

「この遺跡荒らしども! こそこそと人の成果を盗み見た挙げ句、横からかっさらおうだなんて! もう逃げられるなんて思わないことだね!」

 

 自分の数年にわたる研究成果を奪おうとした盗人どもに、ペペが吠える。その顔には、確かな怒りが浮かんでいた。

 

「ヤム! 迎えに来た! 子どもたちが待ってる! 一緒に帰るぞ!」

「……」

 

 エクラが、ヤムをこちらに引き込もうと叫ぶ。だが、その言葉はヤムには届いていないようだ。

 

「くっ……貴様ら! 私は遺跡の中で宝を回収してくる! 貴様らはそれまで入口を守れ!」

「了解!」

「ヤム! お前は一緒に来い!」

「……了解」

 

 メイソンはいくつかの作業用機械を手に取ると、いそいそと遺跡へ向かう。ヤムもまた、それに追従した。

 それ以外の傭兵たちは、未だに奇襲の混乱から抜けきっておらず、メイソンの呼びかけでようやく動き出したくらいだ。車から予備のアーツユニットを出したりとバタバタしている。

 

「アルフォンス。君たちの中では誰が指揮を執るんだい? 私はそれに従おう」

「主にエクラかアンナ隊長だけど、こういう時は……」

 

 今のうちに攻めようと指揮を求めるペペに、アルフォンスはその視線を指揮官の方へと向ける。視線を向けられたのはエクラだ。アンナが前衛に立つような小規模な戦闘では、エクラに指揮を任せることが通例だった。

 

「──この混乱の内に敵陣を突破する! シャロンは先鋒、アルフォンスは魔法にて支援、アンナ隊長は殿をお願いします!」

 

 エクラは叫びながら、新たな人形を召喚する。重装兵、歩兵、飛空兵がそれぞれ2体ずつだ。それぞれが武器を構え、戦場へと足を踏み入れる。

 

「特務機関、行動開始だ!」

 

 召喚師の危機契約が、始まる。




危機契約
 アークナイツにおいて定期的に開催されている高難易度イベント。通称、定期試験。過去17回開催されており、あの手この手でプレイヤーを苦しめた。
 様々な契約を結ぶごとに難かしくなり、自分のできるギリギリの難易度を見極めて挑戦をするのが醍醐味。

 ストーリーにおいては、危機契約機構という組織として存在しており、天災に関連する危険な仕事を、充分な実力を持った者に斡旋する。スローガンは「出身不問、種族不問、善悪不問」「全ては、より多くの命を救うために」
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