砂漠の足場の悪さをものともせず、シャロンは猛スピードで戦場を駆ける。その体は一本の槍となり、その足取りは妖精のように軽やかだ。いまだ混乱覚めやまぬ中、その動きについていける者は少ない。シャロンは1人で敵陣に突っ込み、その手の槍でもって、敵を攪乱していた。
だが中にはそんなシャロンを後方から狙う者がいる。アダクリスの呪術師たちだ。そんな術師はアルフォンスが魔術によって牽制する。普段は剣を使って戦う彼だが、魔術も不得意ではない。前線で暴れるシャロンを、後ろから冷静にサポートしていた。
戦線を押し上げるのはエクラの召喚した人形たちだ。シャロンがかき乱した戦場を、歩兵が一歩ずつ切り開いていく。重装兵が敵の攻撃を受け止め、飛空兵が撃ちもらした敵を遊撃する。エクラは戦場を俯瞰して全体の指揮をとりながら、遺跡への道を着々と作っていた。
彼らの後方を支えるのがアンナだ。彼女は後ろから放たれる矢やアーツの雨を、たった一人で弾いていた。彼女の持つ斧の暴威は、なにであっても寄せ付けない。エクラたちがただ前だけを見て進軍できるようにするのが、隊長たる彼女の役目だった。
「こ、こいつら……つえぇ!」
「立て直せ! 数で押してけば勝てない相手じゃねえはずだ!」
だが敵もただの寄せ集めではない。この天災多発地域で生き延びてきた猛者たちである。やがて戦線は立て直される。手始めに、突出するシャロンへの攻勢が強まっていく。
「シャロン! いったん引いて! ブルーペガサスとボウペガサスは撤退の援護を!」
ペガサスが空から制圧する間に、シャロンはエクラたちの下へと引き返していく。
だがその判断は一手遅かった。ティアカウの勇士は、上空からの狙撃や術をものともせず、シャロンを執拗に狙い続ける。振るわれる大剣はシャロンに当たりこそしないものの、簡単に躱せるほど易くもない。
このままではシャロンは撤退しきれない。ここはアンナを救援に出すべきか──などと考えたエクラの前を、だれかが駆けていった。それはこれまで陣形の中心にいたペペだった。
「ペペ! 君は下がって──」
止めようとしたエクラを黙らせるように、ペペは跳躍する。身の丈ほどもある巨大な槌を振りかぶり、着地と同時に盛大に振り下ろした。時の激震がティアカウ勇士を襲い、たったの一撃でノックアウトした。
「私だって、城の中でただ待っているお姫様じゃないつもりさ」
ただ守られるだけは嫌だと、そんな内心を表すかのような不満げな顔で、ペペはエクラの方を振り向いた。
エクラはペペのことを護衛対象と見ていたが、その認識はペペの一撃によって粉砕された。
「……分かった。シャロンと共に、前衛として敵を蹴散らしてくれ!」
ペペはその言葉に満足げにほほ笑むと、敵陣に向き直る。大槌を持ち上げ、熱砂と天災雲へと高らかに宣言した。
「──槌を振り上げ、雷光と砂嵐と共に、貪欲な来訪者どもに罰を与えよう!」
ペペが編成に加わり、戦線を押し上げる速度はさらに加速していく。それから間もなく、エクラたちは遺跡の前へとたどり着いた。
「やつめ、扉を壊していったな……! なんて乱暴な……!」
乱雑に破壊された遺跡の扉を見て、ペペが眉を顰める。メイソンとヤムはすでに遺跡の中だ。戦闘が始まってから、まだ大した時間も経っていない。まだ間に合うはずだ。
問題は、いまだ後ろにひしめく傭兵たち。彼らをどう対処するか。
「──エクラ! アーマーとペガサスを2体ずつ、私に預けてもらえる?」
「え!? アンナ隊長、まさか──」
「いい、エクラ。あの手の商人は常に次善の手を打っておくものよ。彼らの乗ってきた乗り物以外にも、逃走手段を確保しているかもしれない。あなたもそれを危惧して、多少強引に敵を突破したんでしょう?」
「それは……」
「だから、ここは私に任せて、やつを追いなさい! 大丈夫よ、私はあなたたちの隊長なんだから」
背後には、数十人の傭兵たち。彼らはすでに陣形を組みなおし、今にも攻撃を始めようとしている。迷っている暇はない。
「……ブルーペガサス、ボウペガサス、アクスアーマー、ランスアーマー、アンナ隊長に従ってくれ」
エクラは4体の人形の指揮権をアンナに移すと、すぐに遺跡へと足を向ける。
「隊長、任せます!」
「ご武運を!」
「すぐ戻ってきますからね!」
「任されたわ!」
アンナを置いて、一行は走り出した。魔術の明かりで暗がりを照らし、遺跡の中へと突き進む。
そんな中、ペペがポツリとこぼした。
「──なあ、本当に1人で大丈夫なのかい? あそこは守りに適した地形とはいえ、多勢に無勢だ。それに、相手は歴戦の傭兵だよ?」
敵はおおよそ数十人、一方のあんな隊長の手勢は人形が数体のみ。奇襲からの一点突破ならともかく、正面から殴り合うなら頼りない人数差だ。
だが、エクラたちはそれでも彼女一人に任せることを選んだ。
「──特務機関『ヴァイス・ブレイブ』にいるのは曲者ぞろいだ。伝説の召喚師に伝承の英雄たち、各国の王子と王女。彼女は、そんなチームの隊長に任ぜられる人だ。心配なんていらないさ」
特務機関の隊長。その重責を担う彼女が、誰よりも背後を任せるに足る人物であるということを、彼らは知っている。
アンナは、傭兵の軍勢を前にして、不敵に笑った。それは、商人として店前に立っているときと、なんら変わらぬ笑みだった。
「さーて、かきいれ時ね! サービスしちゃうわ!」
感染者
活性化源石を吸引するなどして、鉱石病に罹患した人間のこと。体から源石が生え、肉体が源石に置き換わっていき、やがて死に至る。死亡すると身体が活性化源石の粉塵に変わり、次の感染者を生み出す。現在、根本的な治療法は存在しない。その危険性から、感染者は隔離されていることが多い。
コミュニティの隔絶、社会的地位の低い者が成りやすい、危険性は本物、と差別要素のハッピーセットだし、実際各国で感染者差別が横行している。
本作の舞台であるサルゴンでは、比較的感染者差別が少ない方。